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2012年2月2-3日にシンガポールで開催されたStartupAsia。これに合わせ、シンガポールを初め東南アジアに進出し出した日本のベンチャー企業を中心に取材を行いました。この地域に対する認識・目標など企業としての考えに加え、アジアで生きる個人としての目線も含めて伺っています。全5回。
第一回目は、2011年11月よりシンガポールに家族で移住したSatisfaction Guaranteedの佐藤俊介さん(33歳)。
シンガポール進出の経緯
日本企業のFacebookページとして、(Facebook Japanを除き)最も多くのファンがいることで知られるSatisfaction Guaranteed(以下SG)。だがこれは、誤りである。同ブランドは昨年シンガポールに本籍を置くSATISFACTION GUARANTEED PTE LTD(代表は佐藤氏)の所有となり、シンガポール企業が運営する事業である。
構図としては、シンガポールに設立した法人SATISFACTION GUARANTEED PTE LTDに伊藤忠テクノロジーベンチャーが出資(2011年11月)。その資金を元にSATISFACTION GUARANTEED PTE LTDが、それまでファッションブランドとしてのSGを保有していたエスワンオー社から買い取った形になる。一見複雑に見える組み換えや投資を受けた理由は、SGがFacebookをきっかけにアジアで伸び、この成長性を維持するにはこのままエスワンオー単独では支え切れないほどの事業体になってきたためである。
もはや国内・海外を分けて考える我々の視野から飛び出してしまったSG。佐藤さんの話をまとめると、シンガポールに本格進出した理由は3つある。
- 人材
アジアでビジネスを展開するにあたり、グローバル戦略を取りながらアジアマーケティングを進められる人材は、日本では採用出来ない。シンガポールはアジア地域の採用活動におけるハブ。マーケティング担当の採用活動は既に手がけており、またFacebookページでリクルーティングページを用意したところ、アジア中から毎日のように応募が来ているそうだ。 - 地理的要因。
アジアと言う時、同社はインドまでを射程に入れている(2012年3月にはインドでファッションショーを開催予定)。そうなった際、このエリアの中心であるシンガポールには、他のアジアの都市に比べ位置的な優位点がある。 - 商圏エリア
Facebookページの運用の実績から、ファンのいるところへ出向いた。
Facebookページからリアルへ繋ぐ
2012年2月1日、Facebookページのファン数(Like!の数)が節目となる100万人を超えた。その多くはアジアの人である。一方、現在SGの商品を実店舗で購入出来る場所は日本(オンラインショップはある)のみ。つまり、今のところファンの多くはSGを購入しているわけではない。ここからリアルにどう結びつけるのか。Facebookの運用には絶対的な自信を持つ佐藤さんが、この100万人集まったファンの意味・活かし方について説明してくれた。
ファンにとっては待ちに待った今回の進出ですね?
「『どこで買えるんだ?』というコメントが必ずある。実際に楽しみにしていると思う。ただ、Like!は簡単に出来てしまうのは事実。100万人皆んながそう思っているわけではないにしても、1%でも1万人の人が動くわけですよ。SGなんて元々世の中になかったものが、アジアの人を1万人動員出来る。徐々に価値が出てくるだろう。」
また、物流が普及していないため、東南アジアでECは難しいというのが通説だが、欲しがっているユーザーのために、それを解決させるような新しい展開を考えているという。もちろん、店舗の出店は言うに及ばない。
Facebookの位置づけは?
現在、シンガポールNo.1の目抜き通りオーチャードロードで週末にファッションショーを開催し、さらに街頭スナップ写真をFacebookページに掲載する企画も行なっている。Facebookアプリで投票させて、一位になった人にはSGのバウチャーを進呈するだけでなく、モデルとして採用することも検討している。
「Facebookからどこに移動させるかが重要。今回オーチャードでやるイベントなんかも、イベントって独りでは来ないわけですよ。『ファッションショーやるから来てね、来てくれたらキーホルダー上げるよ』とFacebookページで言えば、興味のあるファンが友達を誘って来てくれる。」
「ソーシャルメディアって、ファンに向けてアプローチしても意味が無い。ファンの友達とかにこそロイヤリティがある。なぜなら、ファッションは特に、自分が着ていなくても人に勧められるものだから、友達から言われることで、そういう人の方が購買率が高くなる可能性があると思っている。なので、イベントとかに積極的に友達を誘い出してほしいな、と。そのポテンシャルであるファンの友達の数をInsightで見ると、今1億4000万人位いる。その人に向けた購買の導線を作ることが、ソーシャルコマースの重要なところです。」
「発信できる場所としてはFacebookがあるので、あとはちゃんとしたネタと企画でユーザーをリアルに引っ張り出す。そうなると、例えば写真撮るじゃないですか?そしたら、俺出てるんだよと言いますよね。アジアの人ほど目立ちたがり屋はいない。そのためには(その場所に)100万人とかいないとダメなんです。5000人しかいなかったら、載ったって嬉しくない。100万人もいるFacebookページに自分が載ったら自慢したがる。だからこそ、僕らのポテンシャルというかファンの数は重要です。」
実際に現場を肌で感じたことによって、ソーシャルメディアの流れや価値が逆によく分かったという。まだ言えないそうだが、今年は新しく大きな展開をリリースしていく計画である。「『そう来たか!』みたいなサプライズは多いですよ。」期待しておいて下さいとのこと。
人生をローカライズさせる
佐藤さんは、2人のお子さんと奥さんの4人でシンガポールに暮らす。家族で移住することは大変では?という私の問いに、ビジネスも含めたメリットを強調した。
「一人でここに来ているのでは全然違った世界だったと思います。見えなかったものがたくさんあると思います。一人で飯食って誰かと飲みに行ってだけでは、本当のローカルは分からない。東京と変わらない生活が出来てしまう。」
「家族でいると、例えば、スーパーに行くじゃないですか。当然学校もあれば、行事もある。他にも、子供がいるとシッターさんとか、日本にない文化に触れることになる。家族といると、人生がローカライズされるんです。家族で移動しないと、ビジネスがローカライズされるだけ。人生をローカライズしないと、本当の意味でそこの文化を感じ取れないですし。」
ファッションブランドは、文化の理解が特に重要なビジネスですよね?
「どんなビジネスでもそうだと思います。文化は、すぐには分からないけど、家族と来ていると分かりやすい。まず女性物が分かるじゃないですか。子どもがいれば、子供向けも分かる。シンガポールでは、どういうアニメが流行っているかとか? 一人暮らしでは知れない。子どもや奥さんがいると、やっぱり入ってくる量が多いですよね。そういう意味では、家族で移住することをお勧めします。」
今後の目標
佐藤さんは、ブランドを一から作り育てることに情熱を注いでいる。
広告代理店は1から10に。でもSGがやろうとしているのは、0から100では?
(元々SGは、広告代理店でもあったエスワンオーから生まれた)
「ブランドってスゴいものです。価値を作り出すこと。これは人間を象徴するビジネスで、やりたいと思っていた。それ(0から100のステップ)ってインターネットを象徴している。インターネットは時間を短縮出来るビジネスだと思っていて、例えばYouTubeは10年経たないうちに動画の市場を作り出したし、破壊して創造するのはインターネットの凄く大きな所。これを活かして、ブランド事業の構築を短縮出来ないか。長い時間を掛けてつくるという常識に挑戦している。」
日本人とmade in Japanに強みは?
「made in Japanは、ブランドビルディングのための一要素でしかない。ブランドは変化をしていかないといけないし、どこかのタイミングでmade in Japanが通用しなくなる時がくるかもしれない。今はまだ有るので、使っている。それは日本人である限り、日本という盾を使わないともったいないですし、日本を捨てる必要はないと思う。」
「でも、それを追い抜いて「SG=品質がいい」にしたいんですよ。それじゃないとブランドは育たない。」
「日本人だからといって評価される時代ではないと思うんですよ。日本人として結果を出さなきゃ、日本人のブランドもない。結果を出して、初めて日本ということがプラスになることはあっても、出てくるだけじゃ意味ない。そういうのは重要かな。だから、これからですよね。」
日本に帰るとしたらいつ?
「アジアでビジネスするために来たので、日本に帰ってビジネスするイメージがないですね。一年後には言うことが変わるかもしれないですけど(笑) 日本に対して貢献はしたいとは思っているけど、大成功すればするほど逆に帰れない。アジアで上場したら、当然日本に戻ることは無理だろうし。日本は最後。」
まずはアジアでナンバーワンを目指して、次に世界をとる?
「そのつもりで生きてます。」
佐藤さんの話を聞いて「不退転の決意」という言葉を思い浮かべました。この言葉、今や口だけの政治家によって安い言葉になってしまったけれど、佐藤さんの覚悟は強い意志を感じさせました。
それを加速させるツールとしてFacebookという武器を手に入れたことは、もちろん本人の努力の結果でもあるけど、この時代の幸福だったかもしれません。ゼロから作り上げたという点であのページはブランドであり、メディアという認識を本人は否定しています。しかし、ブランドがブランドたる所以に情報が密接に関わっている今日、裏返すと「あらゆる企業は、メディア企業である」という小林弘人氏のテーゼは、ここでも有効な説明になっています。
ついでに言うと、あれだけたくさんのブランド店があるのに、街を歩くシンガポール人のファッションセンスなさすぎ。多分それはビジネス優遇の反面、何かと締め付けの多いこの国では、カルチャーの体現化や自己表現として洋服を着こなす自由な空気が足らないから。SGが、この国の普通の人々のファッションに対する意識さえ変えてしまうようなブランドに成長していって欲しいなあ。
写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。
技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。
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iiyamaman[at]gmail.com