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DECOLOGを運営するミツバチワークスの新サービス「タテヨコに動く写真アルバム”slidrop”」、CEOの光山氏をインタビュー【三橋ゆか里】

[読了時間:1分]

DECOLOGをヒットさせたミツバチワークスの新作写真共有アプリ「slidrop」を三橋ゆか里さんが取材してくれました。(本田)

三橋ゆか里
(@yukari77)


 約2年前、初めて”DECOLOG“という女の子のためのモバイル・ブログサービスを紹介しました。かなりの反響があって、その後もDECOLOGをあらゆるメディアで目にしてきました。当時60億だった月間ページビューは65億になり、未だ成長を続けています。とことんユーザの声を取り入れて作り上げられた大好きなサービスのひとつです。

 そんなDECOLOGを運営するミツバチワークスが、新たに”slidrop“(スライドロップ)というサービスをリリースしました。現在iPhoneでダウンロードできるこのアプリは、多くの写真共有サービスに共通する縦のタイムラインだけでなく、横のスライドも取り入れた斬新でユニークなアプリ。ミツバチワークスの代表取締役の光山一樹さんに、アプリを作るに至った背景、つくる過程での物語り、今後などなどたっぷりお話を伺ってきました。

“slidrop”が生まれた背景

 DECOLOGというモバイル・ブログサービスは、どこまでもフィーチャーフォンに最適化して作ってきたもの。いかにフィーチャーフォンで使いやすいかを追求しまくり、その結果としてユーザである女の子がここまで使いこなすサービスになりました。

 その一方で、ここ数年のスマートフォンの台頭は著しく、DECOLOGに関してもユーザーのスマホ利用率が45%、2012年3月はスマホだけで30億ページビューが見込まれるまでに成長。しかしながら、この成長を手放しで喜べないのは、前述の通り、DECOLOGがフィーチャーフォンに根差したサービスだから。

「スマートフォンはフィーチャーフォンの進化の延長線上に生まれたものではないため、まったく異なるハードとして認識する必要があります。フィーチャーフォンではクリックでしたが、スマートフォンではフリックさせるサービスの方が圧倒的に使いやすい。優れたユーザーエクスペリエンスを提供する為には、そのハードに最適な、新たな使い勝手のサービス提供が必要だと考えていました。

また、スマートフォン向けのサービスを企画するにあたっては、東にはTwitterやFacebookといった世界的なプレーヤーがいて、西には中国、ベトナム、インドといった人件費が安く開発力が優れた国々があるため、フィーチャーフォンのように国内向けではなく、世界中の人に使ってもらえるようなものでないと成り立たないのでは?という思いもありました。」

 と話す光山さん。その為、スマホで最大限活用できる、世界中で使える(言語コミュニケーションが少なくて済む)、「写真、アルバムサービスを作る」ということは早いタイミングで決めていたそう。ただ、「それをどんな写真、アルバムサービスにするのか?」というテーマを決めれずにいました。そんなテーマを教えてくれたのは、他ならぬユーザーでした。

 ヒントになったのは、DECOLOGの女の子たちの写真、アルバムの使い方。彼女たちはDECOLOGで、プリクラをはじめとして、同じ場面で撮影した複数の写真を自分のアルバムコーナーに一度にアップロードします。同じ場面で何枚も写真を撮り、厳選した一枚ではなく全部保存しておいたり、全部みんなに見てもらったりする。そんな使い方に気がつき、「他人にストレスを与えることなく、沢山の写真を共有できる」というテーマをスマホ向けのサービスで実現することを決定。光山さんがこのテーマに辿りつくまで1年かかったけれど、「テーマに対する解答(ソリューション)」は、取締役でクリエイティブディレクターの藤井利佳さんから、ほんの一日で出てきたそうです。

テーマに対する解答は「タテとヨコに動けばイイ」

 また写真共有サービス?と思う人は少なくないはず。でも“slidrop”は、既存の写真共有サービスにない、課題解決型のアプリ。Instagramやその他の写真系サービスで写真をアップするとき、何枚か撮った中から代表作や特にお気に入りの一枚をアップする。本当はいろんなシーンがあったけれど、みんなのタイムラインを埋め尽くしてしまうし、どれか選んで投稿するしかない。既存サービスの多くはこのつくりです。

 でも、slidropは複数枚の写真を、横にページングできるスライドにして同時に投稿できる。例えば、子供と公園で遊んだときの写真、かわいい表情を何枚も撮ったけど全部共有するのは気が引ける。そんなときも、「今日は○○公園で遊んだよ」なんてスライドタイトルをつけて、最高12枚の写真をひとつのアルバムとしてアップロードできちゃいます。右のキャプチャにある、スライドタイトルの真下にある□□□が投稿された枚数を表しています。

 ポイントは、ただアップロードできるだけでなく、それを横にスライドして閲覧できること。つまり、slidropにはタテとヨコ2つの動きがあるのです。個人的によくあるのは、コース料理なんかをいただいたとき。前菜、スープ、メイン、デザートという複数枚の写真があるけれど、Instagramではとっておきの一枚を共有するのみ。slidropなら、これをある夜のひとつの物語として共有できる。複数枚の写真が横に並ぶことで、自然と写真に文脈がつくから不思議。例えばこんな感じに。飲み会の写真なんかを、オチつきで見せたいなんてときも、それが表現できちゃいます。

考え抜かれたユーザの使い勝手

 slidropには、タテヨコの2つの動きの他にもいくつかの特徴が。写真を投稿するユーザが、ストレスフリーにサービスを使えるように工夫がされてます。

1.まとめて投稿
 ひとつのスライドに入れられる写真の数はマックス12枚。カメラロールを開いたら、ひとつの画面で、入れたい写真を複数選択できる。1枚ずつ選んで投稿するという作業を繰り返すことなく簡単にアップできます。

2.写真のリサイズや縦長写真への対応
 写真は拡大、縮小もできて、切り取りたくない写真はピンチして全体を見せることもできる。これはDECOLOGの女の子たちが、ブログに頻繁に投稿するプリクラ写真が参考になっているそう。確かにプリクラって縦長。同じ写真でも顔をアップにしたり、目だけにフォーカスするなどして、写真の雰囲気を変えて楽しめます。

3.スライドの写真の並べ替え
 好きな写真を選んで投稿するときに、写真の順番を左右の動きで変更可能。画面上部に表示される写真のサムネイルに指をおくと、写真を動かせる方向に左右の矢印がでる仕組み。言葉を使った説明ではなく、いかにデザインで機能を伝えるかの工夫がされています。

4.個別写真のコメントが生むストーリー
 小さなことのように思えて、実はそれひとつでサービスの印象が大きく変わるような要素があったりします。その良い例が、slidropのコメント機能。スライドの各写真には、個別写真のコメントと、“Like”や“コメント”をするためのアクションボタンが。当初、いい!と思ったらすぐにLikeできるよう、アクションボタンのメニューを写真直下に配置することを考えていたそう。

 ところが、個別の写真にユーザがつけたコメントを写真直下に置くことで、写真を横にスライドしていったときにストーリーのような感覚が生まれることを発見。実際に見てみたい人は、先週末わたしが参加した「ひな祭りプチハッカソン」のスライドをご覧あれ。ウェブでも見られるけれど、アプリをダウンロードするとこの感覚がもっと伝わるはず。まさにスライドショーになるのです。

開発・デザインチームの工夫

 巨大モバイル・ブログサービスDECOLOGを運営する開発チームは現在わずか4人。新たに2名採用した開発者は2人ともslidrop専属で動いているそう。会社で見ると、3分の1の開発リソースがつぎ込まれていることになります。

 メインの開発担当は大石貴広さん。タテとヨコの動きの相性は悪いらしく、スライドしたらデータが消えてしまったり、よく落ちたりなんてことがあったそう。また今回のアプリで何より難しいのは、アプリのつくり上、12枚(ヨコに並ぶマックスの数)×20枚くらい(タテの数)という合計100枚以上の写真を同時に処理する必要があること。メモリをすごく使うため、デバッグをして使っているメモリの量を把握することで、特定の処理を遅延させるなど色々と工夫をしたそう。サーバ側のAPIとiPhoneアプリの改修を両方同時に行っていきました。

 ユーザインタフェース寄りのデザインに関しては、テクニカルディレクターの中島晃さんが担当。例えば、スライドの投稿時に、写真の順序を変えられることをいかに言葉を使わずにデザインで伝えるか。考え抜いた結果、写真に指を置くと左右の矢印を見せることで表現することに。写真系のアプリなどを研究し、ユーザインタフェースのトレンドをリサーチすることで、良いとこ取りをしたり、新たに編み出したりして今のslidropが完成しました。

“slidrop”に今後追加していく機能

 今後追加予定の機能についてクリエイティブディレクターで取締役の藤井利佳さんに伺いました。まずランキングがひとつ。slidropのユーザのことを“slider”(スライダー)と呼び、例えばLikeの合計数が多い人気sliderや、はたまた個別のスライドの人気ランキングなどを取り入れていく予定。DECOLOGはブロガーという人にフォーカスしているサービスなので、個別の記事の人気順などはないけれど、sliderなら写真ごと、ユーザごとなどあらゆるランキングが作れるはず。

 slidropには、DECOLOGのカラーを感じる点がいくつかあります。例えば、自分のslidropにブログのようにタイトルがつけられること。他にも今後、DECOLOGで実装しているマイページのカスタマイズ機能などを追加していく予定。テーマカラーが選べたり、写真の見せ方を1枚ずつからサムネイル表示に変えたり、Like順に並べるなどなど。人には見えない自分だけのページでも、好きにカスタマイズできる。DECOLOGの女の子は、飾ったり可愛くすることを一切面倒に思わないそう。そのまま使っても良いし、自分流にアレンジして使っても良い。

 またプライベートモードで自分だけのアーカイヴ、友達だけに見せるスライドといった設定も用意していく予定。他にも、明るさやコントラストを調整できる機能も近いうち実装するそう。slidropは世界のユーザをターゲットにしているため、ユーザの住む国も入れたいと話す藤井さん。国別ランキングなどでピラミッドの写真ばかり投稿するエジプトのユーザとか、どこどこの国の人気sliderなんてことも発見できて、楽しみの幅が広がるかも。

生まれたての“slidrop”のこれから

 現状TwitterとFacebook連動していて、今後その他のSNSや写真サービスなどとも連動させていく予定。あれ、DECOLOGは?と思ったけれど、これも近いうちに実装されるみたい。今後、ウェブでのリリース、またスマホ対応したウェブサイトでAndroidでも利用できるようになる予定です。

 slidropのビジネスについてはDECOLOGと同じ広告を軸に考えていると話す光山さん。DECOLOGの広告ビジネスは順調で、女の子たちはじゃんじゃんモバイルでお買い物するらしく、広告主にはアパレルが多い。他のサービスの何倍も広告効果があると言われ、すぐに満稿になり何ヶ月待ちという状況が続いているそう。

 slidropはわたしもyukari77で使ってます。さっそくシンガポール旅行をテーマに、オチつきスライドをアップしてみた。コメントがつくと、スライドのどの写真にコメントがついたかが小さなサムネイルで表示されるんだ。よくできてる。ヨコに並べてさくさく見られることで、ストーリーができあがるのが何とも素敵。アプリをダウンロードして何から始めるか迷ったら、NEWのタブで好きなユーザをフォローしてみて。そしてslidropで自分のストーリーを語ってみてくださいな。

 DECOLOGは、結果として女の子が使うようになったため、彼女たちに合わせてサービスをどんどん最適化していった。ユーザである女の子たちが、想像もしなかったタグの使い方やコメントのやり取りの仕方を編み出したそう。slidropは、どんなユーザがどんな風に使うようになるのか、これからが楽しみです。

【スタッフブロガー】三橋ゆか里

肩書きウェブディレクター。ディレクションの他、翻訳やライティングなど、フリーでお仕事してます。2011年1月15日に公開の映画『ソーシャル・ネットワーク』の字幕監修をさせていただきました。ツイッターIDは”yukari77“。
個人で運営している【TechDoll.jp】というサイトで、海外のテクノロジー、ソーシャルメディア、出版、マーケティングなどの情報を発信しています。目指せタイムリーな情報発信!
これまで雑誌のECで→UIデザインのコンサル→ウェブ制作会社などを渡り歩いてきました。そこで得たスキル、人、全部かけがえのない財産。幸せの方程式は、テクノロジー(UI, IA..)×マーケ×クロスカルチャー×書く・編集。いま一番夢に近いとこにいる。

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