サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

個人でアマゾン電子出版→紙展開も可、4980円で紙の本を出版できるサービス「MyISBN」のポテンシャル 【増田 @maskin】


[読了時間: 2分]

 東大阪のスタートアップ企業 デザインエッグは2013年3月25日、在庫レスの紙の書籍販売サービス「MyISBN」の提供を正式に開始した。

 2012年末に構想を発表 (「たった5分でISBN番号付きの書籍を販売開始できる新サービス」)したもので、Amazonの「Amazon プリント・オン・デマンド」(POD)サービスを利用している。

 PODは、注文があったら1冊単位で印刷製本、購入者に発送するというもの (写真は、Amazon PODで作成されたもの。一見すると書店に並んでいると差がない)。手軽だが、紙書籍の流通コード「ISBN」が必要なため、あくまで出版社のためのサービスだったが、「MyISBN」を使えば、個人でも、電子書籍出版またはそれ以上の手軽さで、ISBN付きの紙の書籍をオンデマンド出版することができるようになる。

 よく誤解する声が浮上するのだが、個人向けの製本サービスは少なくとも数十冊単位が一般的で、自分で在庫を持ち販売する仕組み。価格も書店に並ぶクオリティを維持するとなると数万から数十万のものもある。素人向けの自費出版を勧める出版社も多く、この場合、ちゃんと流通コード(ISBN)も振られるが、「出版社から紙の書籍が出ます」という文句で高額な手数料が請求される。

 そんな中、1冊あたり4980円の料金で、在庫リスクゼロでISBN番号を持つ書籍を販売を開始できるサービスは聞いたことがない。しかも、販売ルートはAmazon.co.jp。アフィリエイトプログラムだって適用される。キンドルで電子書籍を個人出版した人は、その紙書籍版を追加することだって可能になるのだ。

書籍マーケティングの実験場


 書籍はどこで出すのが理想なのか。販売チャネルを多数持つ出版社なら、初版で数千冊、場合によっては数万冊を発行してくれるだろう。しかも、最近は出版社の敷居が低くなり、以前のように書ける人が限定的ではなくなっており、ネットで露出がある人なら、販路を持つ人と認識され話がどんどん進む。

 結局、これまでの出版社における、紙の書籍の販売は 量の勝負であり、それをさばく為のレールをいかに敷設するかが、大きな一つの焦点となるわけだ。

 ところが「MyISBN」を利用した出版では、販売する側としては在庫を持つ必要がない。書籍データ登録時に必要な4980円以外は一切料金が発生しない。売れれば10%の印税が入るだけだ。こうなると、紙の出版そのものの発想は異なってくる。

 例えば「MyISBN」を利用して始めて出版されたのは教科書である。(「電波通信法規教本」著・山田 耕嗣)。

 著者の山田 耕嗣氏は、大阪産業大学デザイン工学部で教鞭をふるっており、その講義で使用する教科書なのだという。どうやら、データは無料で提供し、紙が必要な人はコピーするよりも安いMyISBN本を購入してもらうという考えのようだ。

 大量の出版が得意ではないが、こうしたアイディアベースの使用方法が手軽に適用できるのが「MyISBN」の利点と言えるだろう。

 内容としてはAmazonによる審査があるので(これが1か月ほどかかるらしい)、あくまで書籍としての基準を維持したとしても「レストランガイドサービス→紙のクーポンブックを販売」「ゲーム→ヒントブック」「オンラインスクール→教科書」「講演などのスピーカー→講演録」「旅行プランニング→オリジナルガイド本」「自主学習推進サービス→僕の私の成功本」「実験的小説やノンフィクション」などなど、値付けも自由なので会費を含めた値付けにし「有料会員制ネットサービス→一見普通の本だが入会用の特殊コードとなっている本」を出すことも考えらる。ゼロリスク出版として考えるだけでいくらでもアイディアが浮上する。


 デザインエッグ 代表取締役社長 佐田幸宏 氏はMyISBNを「出版業界のインディーズレーベル」と表現するが、むしろ紙の書籍という広大な実験場と考えるといいのかもしれない。販路はAmazon.co.jpで、アフィリエイトの活用はもちろん、ISBNを使用した書籍レビューサイトにも対応できる。アイディア次第で、その可能性は広がりそうだ。

MyISBNの「出版」

 「MyISBN」は、デザインエッグ社が出版社として機能し、各書籍にISBNを付与する仕組み。

 書籍のサイズは以下の5種類で、24ページ以上828ページ未満という制限がある。

・105mm × 148mm(文庫)
・105mm × 175mm
・128mm × 182mm(B6)
・148mm × 210mm(A5)
・182mm × 234mm

 印刷時のコストは、50ページの場合は880円、100ページの場合で1300円程度となっており、大体200ページ以上になると、1ページ10円で計算が可能です。金額は原稿データをアップロードすると確認できる。

 先程も述べた通り、値付けは自由。ただし、印税は販売価格の10%となる。受け取りの方法は、Amazonギフト券 (売上3000円以上)もしくは銀行振込 (売上1万円以上)。

 冒頭の写真のような美麗な表紙は、イラストレーターなどのグラフィック作成ソフトを使用する必要があるが、本文はワードで十分。MyISBNのサイトにはワードでの作成手順が書かれているので、参考にすれば誰でも作成できるだろう。

 MyISBNに登録する原稿データはPDF形式。すでにキンドルなどで電子書籍を出版している人も、データをPDFに変換すれば紙の書籍として販売することができる。なお、Amazonで電子書籍とMyISBNの紙の書籍を販売する際、一つのページに併記することが可能となる (例:講演録 若者よ、アジアのウミガメとなれ [著・加藤順彦])

【関連URL】
・MyISBN
http://myisbn.in/
・たった5分でISBN番号付きの書籍を販売開始できる新サービス「MyISBN」 【増田 @maskin】 #ShootOsaka
http://techwave.jp/archives/51771271.html
・手数料無料、15円から投げ銭できる「Kampa!」 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51758920.html

蛇足:僕はこう思ったッス
MyISBNのポテンシャルはまだ見えない部分もあるが、いちおう文筆家の端くれとして、文庫サイズの本を、出版社交渉やら編集やらの手間なしで世に出すことができるのだとしたら、一度は作成してみたいという気になる。また、企画は自分の思いのままなわけで、一見小説なのにネットサービスと連携してるとか、やったら楽しそうだ。
著者プロフィール:TechWave 編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
変化し続ける高エネルギー生命体。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてのIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ネットエイジ等で複数のスタートアップに関与。関心空間、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップマーケティング・音楽・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」「リーンスタートアップ」執筆中)。@宇都宮ー地方から全国、世界へを体現中。

メール maskin(at)metamix.com | 書籍情報・ 詳しいプロフィールはこちら



モバイルバージョンを終了