税理士のためのクラウドサービス『A-SaaS(エーサース)』を提供する、アカウンティング・サース・ジャパン株式会社、代表取締役社長 CEO 佐野 徹朗 氏にインタビューをいたしました。アカウンティング・サース・ジャパン株式会社は、税理士のためのクラウド税務システムを開発・提供している企業です。
A-SaaSを通して実現しようとしている世界を教えてください
税理士のクラウド化を通して、その先の中小企業に価値を提供していきたいです。
従来税理士業界は、高額の専用機を用いての作業が主でした。オフコンと言われた専用機が、70年代、80年代に導入されており、2016年の現在までずっと主流です。
どの業界もパーソナルコンピューターができたり、インストールされるソフトウェアが出てきて、専用機は駆逐されてきたのですが、税理士業界はずっと残ってきました。
専用機というのは、5年ほどで入れ替える必要があり、コストがとても高くなってしまうため、税理士事務所経営には大きな負担となっています。
アカウンティング・サース・ジャパンは2009年に創業いたしました。創業者は税理士業界に長くおり、業界に最新のテクノロジーが活かされていないのはなぜなのか、と疑問をもっていました。IT技術を活用すれば税理士業務がもっと効率化されて、顧問先と言われる中小企業に価値を提供できるのでは、と考えて事業ができました。
A-SaaSのターゲット顧客を教えてください
アカウンティング・サース・ジャパンは、税理士事務所が使うためのシステムを提供しており、B to Bのモデルで、B to Cではありません。なので、営業やマーケティングは税理士に向けて行っており、商談は税理士の方と行っています。
税理士はビジネスマンではなく、プロフェッショナルなので、独特のビジネス慣習があります。一方、ITビジネスをドライブさせていくには、別の知識も求められます。それらをクリアするために、日本全国の多くの税理士と関係がある、業界大手で数十年の経験を持つベテランや、ベンチャー企業経営に強みを持つプロフェッショナルが経営に携わっています。
freeeやマネーフォワードなどの会計サービスとの違いはありますか
税理士事務所のクラウド化を推進しておりますが、会計の市場を説明すると、中小企業会計は年間400億円の市場規模で、税理士向けシステムは年間1000億円の市場規模です。クラウド会計ソフトのfreeeやマネーフォワードは中小企業会計に入ります。税理士向けシステムは、中小企業会計市場の2.5倍なのです。
『A-SaaS』は業界唯一のクラウドシステムで、従来からの専用機を作っているメーカーが競合になります。『A-SaaS』はすでに全国2,100以上の税理士事務所、125,000以上の顧問先企業様にお使いいただいており、日々クラウドの利便性を感じていただいています。
創業した2009年当時は、クラウドの説明からしなければなりませんでしたが、現在、概念は伝わってきていると感じています。専用機を利用している高齢の先生方は「次世代の方が使うでしょう」と仰っていて、ご自身の事務所での導入には消極的です。ただ、2010年の頃は「クラウドはセキュリティがダメだ」などと言われましたが、現在はそのようなことは全く言われません。
税理士事務所は全国に約30,000事務所あり、記帳代行業務などもやっています。彼らの税理士業務での売り上げはトータルで年間約1兆円ですが、個々の税理士事務所を見てみると、大半は街場の税理士(29,000件)で、職員が3〜4名、事務所の平均的な年間売上は約3,745万円です。そんな税理士事務所向けにサービスを提供しているのが、TKC、日本デジタル研究所(JDL)、ミロク情報サービス(MJS)といった上場大手3社で、市場の8割を占めている寡占状態になっています。
大手3社による寡占市場が続くことで起きる問題はありますか
既存のシステム耐用年数は5年で、毎回切り替えなければなりません。過去のものは使えなくなるので、例えばシステム投資に1,000万円かかると、毎年200万円のシステムコストがかかってきます。
当社は最適な価格で提供したいと考えています。当社の製品を使うと、5年間で3分の1になるのです。彼らは専用機を作ることで、利益率を非常に高くしています。税理士業務システムを新しいテクノロジーで変革していきたいと思っています。
3社のシステムが古くなった時ではなく、私たちの提供する新しいテクノロジーを価値のあるものと認めてもらい、その価値にお金をお支払いいただきたいと思っています。
また、税理士や顧問先事業者への提供価値を高めるために、シナジーのある企業との提携の話も進めています。freeeとアカウント連携を行い、会計データを『A-SaaS』へ取り込んだり、かっこ株式会社とも組んで会計データを解析いたします。
今後は、FinTechの分野に進んでいくことで、データを活用した与信サービスの提供も進めていきたいと思います。
FinTech企業となぜ提携を進めているのでしょうか
多くの中小企業は資金繰りに悩んでおり、短期一ヶ月の資金を無担保で借りたいというニーズがあります。当社は、短期資金ニーズに担保をつける手助けがしたいのです。現状は、事業に対する与信がタイムリーに入りません。なので、与信がつけづらい。しかし、『A-SaaS』と連携すると財務データなどを見ることができ、分析することができます。
金融機関の方にとって情報は、この企業のどういうところに強みがあるのかを判断する重要な材料になります。この仕組みを実現し、金融機関とダイレクトにやり取りができるよう、多くの金融機関と交渉しています。他にもさまざまなサービスとも連携を進めております。Moneytreeの技術を用いた銀行口座連携や、経費精算でのBearTailとの連携などが進行中です。
ユーザーが増えるに従い、財務のデータが溜まってきます。しかし、そもそも間違った情報が溜まっている場合、どんなに正しく分析しても出てくる結果は間違っているわけです。正しいデータにする方法は金融機関も悩んでいるのです。
銀行口座を通したりすると、架空取引を装うことができることもあるでしょう。しかし、税理士を通じて税務申告用のデータを使うと、確実に正しいものが出せるのです。
日本全国には中小企業が約300万社ありますが、会計処理には2つパターンがあります。
1.自分たちで入力するパターン(弥生会計などのソフトを使う)
2.全部税理士に入力を丸投げしている
この内、6割が2の丸投げ状態ではないでしょうか。
市場として見た時に、弥生会計、freeeなどは、1の市場を取りに行っています。『A-SaaS』は、2の税理士に依頼しているクラウド記帳代行市場で唯一の存在です。
税理士の先生方が価値を提供したい相手は、中小企業でしょう。そこに、『A-SaaS』がテクノロジーとして価値を提供し、存在意義を高めていきたいと思います。
A-SaaSの今後の事業展開はどうお考えですか
直近2〜3年は海外はないかな、と。まずは日本国内の市場をとっていきます。
創業者は、税理士業界で40年以上働いてきました。義憤、正義感から会社をおこしました。そのDNAは現在も引き継がれており、自分は世の中にどんなインパクトをおこしたいのか、と考えている社員が多くいます。日本経済に直結する、成長に貢献する事業をやっているという自負があります。
アカウンティング・サース・ジャパン社の社員はどんな方が多いでしょうか
たとえばB to Cのゲームをやっていた者が入社してきます。「これって何の意味があるのか」とやっている事業に疑問を持つ時があったようです。当社は世の中のビジネスの基盤となるもので、非生産を取り除いていきたいのです。わかりやすくインパクトを出したいと。
また、製薬企業でMRをしていた者もおります。もっと個々の社員の仕事が会社や社会にインパクトを与えていると感じられる環境で、幅広い仕事がしたい、と思ったようです。自分の力で世の中を変えているという感覚を持ちながら仕事がしたい、そういう者が多いように思います。
大企業にいると、自分がやったことの貢献度が分かりにくい部分もあります。当社の場合だと出る結果自体が、世の中のインフラに繋がっていますし、小さい組織でもあるので、やったことの貢献度が分かりやすい面もあります。
やはり会計のバックグラウンドを持っている者は多く、公認会計士資格を持っている者は5名います。公認会計士資格を持っていても、プロダクト開発、エンジニア、マーケティングをやっています。サービス作りに会計のプロフェッショナルが携わっています。このサービスを広める価値は、自分たちの体感としてわかることなので、「物事を変えていきたい」と強い気持ちを持っています。
アカウンティング・サース・ジャパン社では組織運営上で気をつけていることはありますか
拠点がいくつかありますが、コミュニケーションは非常に重要だと思っています。チャットツールのチャットワークを使っていて、リアルタイムで情報共有できる仕組みをとっています。2016年4月現在、従業員は55名いますが、各部署で何が起きているのか、常に情報共有をしており、一体感の醸成には気をつけています。
当社の社員はノルマをこなしたら、自分の役割以外でも、周りの仲間を励ますような者が多いです。また、エンジニアでも朝は9時に来ています。リモートワークって生産性が高いように見えますが、長い目で見ると生産性が下がっているように思います。会社への帰属意識も低くなっていくでしょう。当社も試行錯誤を繰り返した結果、今のかたちにたどり着きました。
佐野様が社長として気をつけていることはありますか
会計、ファイナンスだったりの理論は分かりますが、(米国公認会計士として会計監査に従事し、オックスフォード大学経営学修士およびロンドン・ビジネススクール金融学修士取得。ボストン・コンサルティング・グループにて経営戦略立案や組織再編等のコンサルティングを経験)実際に会社経営をすると理論だけで動くものばかりではありません。
アクションをとって、みんなと一緒に動いたり、最終的に商談をまとめたりしなければなりません。例えば、開発の皆さんに期限が厳しいけど、頑張ってやってもらわなければならないこともあるでしょう。そんな時はハートで話さなければなりません。
A+B=Cとは決してなりません。一緒に汗をかかないとだめで、コミュニケーションのしかたであったり、熱意や態度だったり、自分自身が責任をとって、本当の意味で覚悟をもって望む必要があります。
組織づくりでも重要視しているのは、同じ釜のメシを食べて一体感をもってやっていくことです。自分の人生で本当に一緒にいたいと思ってもらえるような友人になれるか。そこはとても気を配っています。
アカウンティング・サース・ジャパン社ではどんな方を求めていますか
全てのポジションを全力投球で募集中です。特にエンジニア採用には力を入れています。自社サービスを作るテクノロジーカンパニーということで、技術から生まれる新しい価値に共感してくれる方はぜひ来ていただきたいです。
エンジニアとして自分がどんな世の中にしていきたいのかについて、ビジョンを持っている方に来ていただきたいです。
僕自身がものを作っていない分、エンジニアの方に思考パターンや働きやすい環境について聞くようにしているのですが、プログラミングをしていく中で徐々に思考を掘り下げ、コードを研ぎ澄ませていくような感覚です。なので、組織としても割り込まないように環境づくりは心がけています。
また、学習支援として技術書購入費用を補助しており、会社の本棚に入れてよく、社内のセミナールームなどで勉強会も行っています。業務外でJava、Scalaの勉強会なども行っています。
会計業界も中小企業会計向けの「PC会計パッケージソフト」「クラウド会計ソフト」と、税理士業務向けの「非クラウド」「クラウド」と分けられていることが分かった。(マネーフォワードや、freeeは中小企業会計向けのクラウド会計ソフト領域。)
税理士というフィルターが通ることで、中小企業の与信管理まで事業が広がっていくのはとても楽しみだ。与信だけでなく、ビッグデータを活用して人材領域などにも活用を考えているとのこと。また印象的だったのは、佐野氏が組織運営を行う際に大切にしていることとして、熱意やハート、という言葉だった。明晰な頭脳と人情も併せ持つ佐野氏は、今後もどんな事業を展開していくのだろうか。