ad:tech tokyo2018のアドバイザリーボードメンバーは総勢35名。業界のリーダーであるメンバーのみなさんからのデジタル広告、マーケティング業界への問題提起を事務局が連載形式でインタビューします(特集一覧はこちら)。
今回は2017年のボードメンバーインタビューにもご登場いただいた資生堂ジャパン株式会社メディア統括部長小出 誠氏が登場。前回インタビューから1年経った今の広告業界の課題を伺いました。
— 昨年のアドバイザリーボードメンバーのインタビューでは、デジタル広告取引の適正化、透明性についての問題を業界の全体の課題として捉えていらっしゃるとのお話がありました。1年経った今、業界の課題はなんだとお考えですか。
「語られていない真実、ありませんか?」というのがデジタル業界の問題だと感じています。デジタルマーケティングでは生活者個人のデータがたくさん取れるようになってきました。しかし、全てのデータが取得できるわけではないですよね。PCでの動きはわかるがスマホアプリの計測はできないとか、タグが入れられないサイトがあるだとか、加えて、TVや雑誌やOOHとかのリアルなメディア接触の状況のログデータとか、そういった限界についてきちん語られることが非常に少ないのではないでしょうか。不都合な真実になってしまっているというか。
また、昨年語ったデジタル広告の取引の適正化、ブランドセーフティやアドフラウドの問題もまだまだ対策は業界全体として課題があると感じています。対策に乗り出しているブランド企業も非常に少ない印象です。資生堂ジャパンはちょうど今、アドベリフィケーションのツールを全てのデジタルプロモーションに取り入れるところです。
— 全ての施策にツールを導入とは大きな決断ですね。社内からの反発はありませんでしたか。
いえ、かけたコストが成果を上回ると試算ができているので反対の声は上がりませんでした。ツールで掲出面の精査を行えば、不適切なサイトの掲載を止めることができます。無駄な掲載費の削減になりますよね。将来的には広告会社や媒体側も含めたデジタルマーケティング業界全体でツールの導入をしていくなど、みんなでコストを負担して取り組むということがあっても良いかもしれませんね。
海外ではもっと動きが大きくなっていて、昨年P&Gのデジタル最高責任者Marc Pritchard氏がデジタル業界全体の数字の不透明さや不正についての批判をし、デジタル広告費を大きく減らしましたよね。大きな話題になったのでご存知の方も多いでしょう。それに比べると日本はだいぶ遅れています。日本はどうなっているのか、不都合な真実が放置されているのではないかと、外資系企業の担当者さんなどは本国からかなり問い合わせを受けていると思います。
—それは不都合な真実が放置されている状態ではデジタルには予算を割り振らない、効率が上がらなくてもマス広告の方が好ましいのだという流れになるということでしょうか。逆境とも言える今の状況下でデジタルが活用されるために必要なことは何でしょうか。
デジタルと他のメディアの統合した活用やニュートラルな視点での比較が必要でしょう。私たち自身もまだ道半ばで、課題だと思っています。TVCMとデジタル広告を比較して、伝えたい内容によって的確に選ぶことや、場合によっては統合したリーチを予測してメッセージを発信するなどの取り組みが必要になっています。例えば、デジタル広告はターゲティングを細かくしていくとどんどん単価が高くなってしまいますよね。それでも絞ったターゲットに露出させることが大事なシーンもあれば、そうでない時もある。その使い分けが重要です。
— 広告主側にマスとデジタルを両方熟知した人材が必要だとは今回のインタビュー連載で多くの方がお話ししてくださいました。一方で、メディアやソリューション提供側に必要なことはありますか。
テレビとデジタルの共通指標ですね%ベースのTV視聴率と視聴人数や回数などのデジタル広告露出を実数で比較できないかということに取り組んでいます。日本アドバタイザーズ協会としても1月から呼びかけを始めています。テレビ広告とデジタル広告にはそれぞれに異なる役割があり、化粧品メーカーとして、様々なターゲットに向けた商品情報を適切に発信しています。
しかし、小売店バイヤーの方との商談の際にお話しする広告露出については主にテレビのGRPが中心です。TVとデジタルで共通の指標が整えば、バイヤーにも全体の広告量が伝えやすくなり、お客さまの視点に立った店頭実現に向けて共同で取り組んでいくことができるのではないかと考えています。デジタル広告業界にとっても重要な考え方だと思いますので、応援いただければ幸いです。
(聞き手:事務局 堀)
<プロフィール>
小出 誠
資生堂ジャパン株式会社
メディア統括部長
1984年資生堂入社。大阪での営業を経て1986年商品開発部。1987年から宣伝部宣伝課に在籍し、プリントメディアを中心に媒体買付を担当。その後、経営企画部にて企業理念策定、本社ビル建築、企業内保育所の設置等に、またプロフェッショナル事業部にて事業企画とサロン経営に携わる。2014年4月からコミュニケーション統括部にてデジタルを含む媒体買付、商品PR、オウンドメディア運営を担当。2015年10月より資生堂ジャパン(株)コミュニケーション統括部長。2018年1月より同メディア統括部長。(組織改編に伴う名称変更)
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イベント概要
開催時期: 2018年10月4日(木)、5日(金)
開催場所: 東京国際フォーラム 東京都千代田区丸の内3丁目5−1
公式サイト:http://www.adtech-tokyo.com/ja/