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人口約1万7000人ー宮崎県新富町の農家の担い手と、ロボット技術者、シリコンバレーで経営手腕を発揮してきたキーマンが集った会社、それが「AGRIST(アグリスト)」だ。農家の負担を減らすために自動収穫ロボットを開発している。
AGRISTは2021年3月2日、ロボットの量産に向け第三者割当増資によるシリーズAの資金調達を実施した。引き受け先はドーガン・ベータ社、宮崎太陽キャピタル、ENEOSイノベーションパートナーズ、宮銀ベンチャーキャピタル、ジャフコ グループ、インキュベイトファンドの計6社。それぞれ運営する投資事業組合から行われる。
AGRISTは2020年7月に開催されたスタートアップ・ピッチイベント「IVS2020 ONLINE LAUNCH PAD」で総合3位に入賞したのを皮切りに国内複数のコンテスト入賞したりアクセラレーターに採択されている。
現在、AGRISTの農作物収穫ロボットは、国の機関を始め各自治体、JAほか(JAアクセラレータープログラム 第2期採択)などと共同で実証実験を続けている。また今回の資金調達で、ロボットの販路拡大やENEOSと太陽光等の再生可能エネルギーを収穫ロボットの動力源にするといった取り組みが期待する声もある。
農場の隣で収穫ロボットを開発
農家の平均年齢は67才。慢性的な人手不足が深刻化しており、耕作放棄地が増加。食料問題の根幹を担う農業を永続するにはコストダウンや効率化が不可欠だ。
AGRISTの創業メンバーは2017年から農家の担い手(30代から50代)との勉強会を続け、その中で“現場の課題”を解決するのはテクノロジーであると確信、2019年にAGRIST社の誕生に至っている。
AGRISTのゴールはシンプルだ。テクノロジーを活用し、10アールあたりの年間収穫量のうち平均20%を収穫できるロボットを安価に提供すること。ロボットは1台あたり初期導入費150万円+レンタル形式を予定している。
収穫率を上げらるために現在はピーマンときゅうりに絞り、農地の隣に開発チームが常駐する形で開発を進めている。現場でしか見えない課題と向き合い、収穫精度向上に余念が無い状態だ。
ポイントは吊り下げ型と“データ”
AGIRSTの収穫ロボットは、効率化を高めるためにさまざまな技術を投入している。
国際特許(PCT国際特許及び世界各国での特許出願中)を取得中のロボットアームに始まり、それを制御するROS(ロボット・オペレーティング・システム)や人工知能技術(ディープラーニング)などの先端技術だ。エンジニアが生産地に常駐することで、さまざまな課題を直接吸収することが可能となり、テクノロジーを有効に活用することができる体制になっている。
象徴的なのが“吊り下げ型”であるという点だろう。現在、ARISTの収穫ロボットがターゲットにしている屋内(ビニールハウス)農場では、地面をロボットが走行するのが困難だからだ。
こうした「現場主義xテクノロジー」の一連の取り組みは、単なる収穫ロボットの開発のみならず、さまざまな事業への発展への可能性も高めている。例えば、作物の状況を捉えるコンピュータビジョンなどからのデータが蓄積されれば、ゆくゆくは病害虫の早期発見や農作物の生育状況の把握といった事業にも応用できるという発想が生まれてくる。
農家の課題ひいては人類の食料問題を解決するテクノロジーを開発するとあって、グローバル企業を辞めてAGRISTに来るエンジニアも多い。課題が大きければ大きいほど、能力の高いエンジニアが“その課題を自分の技術で解決したい”と応募してくるという。今後、AGRISTは東京にもオフィスを開設し、宮崎県と首都圏でエンジニア採用を進めていく計画だ。
視点は6G時代、データドリブン企業として地方から世界へ
シリコンバレーでの事業経験を持つAGRIST代表取締役社長 齋藤潤一氏の目線は世界に向いている。
「今回の資金調達で収穫ロボットの量産が始まるわけですが、私たちが想定しているのは“ロボット”だけではありません。ロボットが収集した画像を人工知能で解析しビックデータ化し、農産物の収穫率を高めるOS「agriss」の取り組みを開始します。データドリブンの会社として地方から世界に打って出るという体制転換のメッセージを込めることを意識しています。
だからこそジャフコさんやインキュベートファンドさんといったメガVCさんからご出資しただき、人口1万7000人の町からテクノロジーを通じて中国やアフリカの社会課題までをも解決できるということを証明するための第一歩を踏むことができました。そういう意味では非常に重要な資金調達フェーズと言えます」
■ 世界最高品質のロボット
「AGRISTのテクノロジーのコア・コンピタンスは収穫率です。ロボットのカメラから得た作物のデータの中を人工知能で分析してより高い収穫率を出せるかという技術的なチャレンジをしています。
この収穫ロボットの延長線上には5Gの次の6G通信の時代へのビジョンがあります。世界各国にこのロボットを展開することで、世界中の農地データを収集することができるようなるわけです。そうなると私たちのビジネスはロボット開発というよりは、農業データのハブという立ち位置になってくる。
だからこそ、現在はこの収穫率を向上させ、世界最高の品質の収穫ロボットを作ることに集中しています。今回の資金調達によりロボットの量産が始まりますが、JAさんから提供するのは今年は30台、来年(2022年)は200台、次は600台、3000台を目指すといった具合です。
最終的に手がける計画のトマトの市場は世界で55兆円。海外展開を含め、これらはパートナー企業やJICAであるとか国連などと組んで展開していくこととを想定しています。4年後の上場を目標に、まずは事業固めに注力したいと思います」(了)
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