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サービスや製品を広く知らしめるのが宣伝だとしたら、広報は企業と社会を結びつける諸活動の総称と言えるだろう。スタートアップであろうと大企業であろうと広報の活動如何で、社会との中長期的な関係構築の傾向が大きく変わってくるものだ。
企業関係者によるブログやソーシャルメディアが台頭したこともあり、広報そのものの重要性の認識は拡大傾向にある。新しい事業や新規創業の会社で広報を始めたという人やPRエージェンシーも増加しつつある。
しかし、一方で「キラキラ広報」という言葉がささやかれるようになっていることも事実。人当たりがよく、いつも着飾って元気、食事会や飲み会にも良く参加し、まるで友達のように業界を闊歩し記事掲載の機会を狙う広報担当者といった存在を疑問視する声だ。
サイバーエージェント社員は「キラキラ」か?
キラキラといえばサイバーエージェント社員のことを指すような風潮もあるが、少なくとも同社広報の顔役である上村嗣美 氏にはそんな印象はない。きめ細やかな対応、メディア側の意欲に対し誠実につきあってくれる人間性、いつも助けられているし、メディア側の人間としてそういった誠意に応じたいと考えさせられる。
そんな上村さんの著書「サイバーエージェント 広報の仕事術」が2016年3月に出版された。1999年にベンチャー企業サイバーエージェントに新卒で入社し、その後広報担当者として社員30名から3000名への成長、上場から経済危機まであらゆる経験をしてきたことの集大成といってもいい内容だ。
冒頭で述べたような「キラキラ広報」は、積極的にメディアや業界人と交流し、情報を広めるための素地を形成しているのだと思う。気持ちよく人と接することは大切だし、ネットワークは重要だが、この書籍の名フレーズ「広報は企業と経営者の代弁者」という上村 氏の広報像はちょっと違う。
業績悪化やトラブルなどで釈明やお詫び会見をする際、当然ながら広報担当者にも厳しい質問が出たり、ソーシャルメディアなどで批判されることも出てくる。それに対し上村氏は「そのようなときに、いちいち心が折れていたら広報の仕事は到底務まりません」と明言する。そしてネガティブな人とも真摯に対話をする、そんな度胸も兼ね備えている。
おそらく「キラキラ広報」と揶揄されるような方は、そうはいかないのではないだろうか。「記事が掲載される本数やPV」を最優先に考えている以上、マイナス方向への対処は不得手になっているように思う。プラスもあり、マイナスもある、それをひっくるめて「企業と社会の関係を構築する」という概念が広報には必要だ。
愛と客観性、社内営業から働く姿の創造へ
本書の中に印象深いフレーズがもう一つある、攻めの企画を展開するサイバーエージェント広報について「このような広報戦略は社長の藤田を中心に、経営陣をうまく巻き込むことができたからこそ、実現できたことです」。
広報は、社内から浮上した案件を伝えるだけの役目に見えることもあるし、実際そういった広報活動に終始している組織も多いと思うが、上村氏は社内取材や社内営業として情報収集を欠かさず、かつ自ら企画を立案し、ニュースとなるような情報を作り出している。まさに「モノいう広報」である。
ただ、積極性と客観性は、なかなか相まみれないものだ。攻めれば攻めるほど、強引さが浮き彫りになり、力関係に貪欲になり過ぎる。主観に支配された末「あの媒体で記事を書いてもらったんで、おたくもどうですか?」といったことを平気でいう広報だって多く実在する。
だからこそ上村氏は、広報には「愛と客観性」が必要と主張する。会社や商品を愛するからこそ、社員を愛し、メディア側など外の人とも誠実に接する。そして主観に溺れないよう常に客観的に時流を読み、社内のトレンドや働き方までをも視野に入れ、一体感を念頭に活動する。そんな広報は、PVと拡散ばかりが重視され過ぎる現代に、計り知れない貢献をするのではないだろうか。
メディア側と作り手型、双方に立つようになって20年以上。広報の方とのつきあいは常に密で重要なポジションを占めていました。TechWaveみたいな弱小メディアやぼく個人レベルは、ひどい扱いを受けることが結構多い(何年も大手媒体で特集記事を書いてきても、(新任部長が)俺は聞いたことないと取材拒否とか)のだが、個人としての注力するところ、仕掛けたいことを十分理解し、対話をしてくれる広報は一握りだと思う。付き合いも長くなるので、上村さんを筆頭とするそういった広報の人はつねに共感できる存在になっているし、メディアというか産業の成長を後押しするきっかけを創出してくれると思う。