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シェアとは何だろうか?あまりにも多くの要素が含まれる言葉で簡単に定義することはできない。記事をフォロワーに転送すること?家に誰かを泊めること?オフィスの一部を誰かに貸すこと?それともスマートフォン時代の自由できままなカルチャームーブメント?どれも当てはまりそうでしっくりこない。
しかし、本日(2019年2月26日)発売された石山アンジュ氏の新しい本「SHARELIFE(シェアライフ)」を読みながら感じるのは、シェアリングエコノミーは「GIVE」から生まれる「支え合い」そのものではないかということだ。
現実と理想の狭間で
私毎になるが、筆者の家庭は子供を授かるものの、家内は体調を崩しがちで、私は仕事をしながら多くの育児や家事を一人でこなさなければならない状況が十数年も続いた。
一人で仕事をしながら託児所にゼロ歳児を預けるのは非常に困難だった。当時住んでいた東京都内にはそもそも施設がない。無理無理お願いしてもコストが高すぎて継続することは難しかった。それでも資産をすべて手放し、睡眠を2日に一度という頻度にまで落とし文字通り不眠不休のトライをしたものの、当然ながら筆者自身の健康状態に赤信号が点灯する結果となった。どんなに一人で無理をしても乗り越えられない壁がある。そう感じ、仕事を辞め、マンションを引き払い、実家のある栃木県にゼロ歳児を連れ父子生活をスタートさせた(家内は都内で入院)。
地方に移ればいろいろなストレスが消えるのではないか?と思った私は甘かった。情報が無い、知り合いがいない、(ITやメディアの)仕事がない。保育園が何歳から預けられるのかも知らず、全くの部外者として子供二人の生活を続けざるをえなかった。
突破口は、近所のマンションに住む東南アジア出身の夫婦だった。同じ部外者同士、支え合えるのではないかという気持ちが強くあったからだ。声をかけると、同じような問題に直面していたもの同士、さまざまな情報交換や支え合いの関係が始まった。閉塞感は取り払われ生きる希望が生まれた。
それ以降、一方で周辺地域の不法者との関係改善や、子供達の車両通行止めの通学路に侵入してくるドライバーへの対策、すべてにおいて地域住民や家族と共に“対話”を通じて突破口をこじ開けてきた。フレンドリーな関係も敵対的な関係も、時間がかかるかもしれませんが、対話からGIVEが生まれ支え合う関係へと変容することができる。それでも、結局、関係がうまくならないまま、地域から消えていくような人々にも多数遭遇した。人との関係は、対話があってもうまくいかないこともある、しかし、関係性を構築しない限り、次に進展することはないということを身体を持って理解できた。
確かに大都市、特に集合住宅で生活していると隣近所との付き合いが希薄になりがちで、地域という概念を抱くことは難しい面もある。しかし、生活していて何かしら困ったことがあった時、“助けて欲しい”と思ったり、“助けたい・助けてあげたい” と感じたことは誰かしらあるのではないだろうか。これを打破するには自分たちだけの生活空間に閉じこもるのを辞め、対話や関係性構築への勇気と多大な努力が必要になる。前段の地方都市のように地域に属さなくても、組織や趣味嗜好の接点から生まれた人と人との集まりにも同じことがいえる。社会はそのような対話を生みにくい構造になっているのだ。
これを打破するのが内向性の促進剤と思われがちなスマートフォンのサービス、いわゆるインターネット系シェアリングエコノミーサービスにおけるマッチングであるというのは余りに皮肉ではあるが、結果として筆者は、地方に在住したまま育児と看病をしながら、組織を横断的に所属し、働き場所を固定せず、リモートコミュニケーションやブログESNSといったツールの普及に奔走し、辛いながらも自由な立ち位置で活動を続けることができた。これはあくまでツールのことのように思えるが、実は、その先には人がいる。誰かを助けようとしてくれている大勢の人によって私は多くの機会を与えられ支えられ、それに応えようと行き続けている。
シェアライフの危険とその本質
いわゆるネット系シェアリングエコノミーサービスは、その手軽さと圧倒的な規模感により、やもすると既存の生活における価値観そのものをひっくり返すほどの力がある。昨日の新興勢力が、瞬く間に一大勢力として世の権威として君臨する可能性もあるのが今の状況だ。
本書「SHARELIFE(シェアライフ)」の基本的な論点は「都市経済において対話がなくなっており、その損失を補うというのがインターネットベースのシェアリングエコノミーサービスである」という主張だが、そういう文脈から考えるとすこし危険だとも言える。なぜなら、「シェアリングエコノミー系サービスやその文化こそ優れたのもので、個人の自由を担保する」という一方的な思い込みから、それ以外の人の自由や権利を奪うことになるからだ。ましてやプラットフォームともなると結局GAFA問題がそれを示すように個人は搾取されるだけで細かい意見がくみ取られないことも容易に想像できる。実際、なんどもシェアリングエコノミー系サービスやそのカルチャーの押しつけで疎外感を感じる人を見たり、実害を受けるケースを目の当たりにしてきた。筆者自身も被害を受け苦しんだことがある。
しかし、それでも私たちはシェアリングエコノミーという言葉の存在を見過ごすことはできないだろう。今、日本全国、首都圏から地方都市、限界集落までくまなく起こっているのは歴史ある地域経済を前向きにオープンな対話と勇気でより豊かで強いものにしようとする人たちと、インターネットやスマートフォンの普及浸透を軸とした欧米発の新しい経済構造に魅了された人たちが“支え合い”というテーマで広く対峙しようとしているからだ。ここには常に対話と支え合いが求められており、少しずつ境界線を融解しながら個人参加型の経済圏が生まれていく期待があるのだ。
シェアリングエコノミーの潮流は別に新しいものではない。古くから日本にあり、今だって地域経済では“対話”をきっかけてさまざまなシーンでGIVEが生まれ、支え合いが生まれ続けている。対話こそシェアリングエコノミーの入り口であり、GIVEがその本質を組み立てる原動力となるのである。シェアライフは、さまざまな課題解決を乗り越え、より本質的な価値観獲得への長い旅路のようにも思える。ただ、その道を進むは一人ではない。その対話とGIVEの関係を求める世界の人々がそこにはいるのである。
【関連URL】
・[公式] シェアライフ 新しい社会の新しい生き方