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スマートフォンベースの多様なコミュニケーションを広く浸透させたLINEは2017年6月15日、次の5年に向けた新たなビジョンとして3つのキーワードを公開しました。「Connected」(LINEのインフラ化)、「Videolized」(動画フォーカス)、「AI」(AIフォーカス)。これらはそれぞれこれからのLINEを象徴する軸足として大きな意味を成すものになると思われますが、クラウドAIプラットフォーム「Clova」はインフラ面をもカバーする特別な意味を持つプロジェクトになっています。
実際「Clova」はLINE株式会社 取締役 CSMO 舛田淳 氏の直属の部隊で、LINEの各事業とはほとんどやりとりをせず新たな価値の創造に注力」しています。単なるリモコンで機能を実行するスピーカーではなく愛があり話しかけたくなる存在。TechWaveでは、2017年8月23日、Clova対応のAIスピーカー「wave」の先行体験版が予約者に向け限定出荷される前に、LINE 取締役 CSMO 舛田淳 氏に「Clova」の本当に姿について話を伺いました。
Clovaはなぜ生まれたか
LINE 舛田 氏:
「マスキンさんと会うと、不思議な気持ちになるんです(笑)
TechWave 増田:
「ちょ(笑)・・・・。
以前、直接お話をお伺いしたのがちょうど1年前になりますね(「ニューヨーク LINE 舛田氏独占インタビュー、東証&NYSE上場「志という旗を世界のど真ん中に立てていく」。あっという間に一年が経過しました。
LINE 舛田 氏:
「あっという間に過ぎ去りましたね」。
TechWave 増田:
「この1年で、AIプラットフォーム「Clova」の発表(「[詳説 Clova] LINEが狙う「お茶の間」、世界HOME覇権争いにスマートポータルで挑む」)やClova対応のAIスピーカーの発売(「LINEがAIスピーカー参入、先行販売は夏 価格は1万円」)など、これまでLINEが目指してきたものと変わったなと感じます。
今までのLINEは、初めてベッキーさんを起用し2011年11月に放映したCMのイメージ(LINEのCM放映がはじまりました)そのもので、安心して人と人がつながりコミュニケーションできるという世界だと思うんです。
それから5年、「Clova」というプラットフォームが登場したことで、LINEが進んでいる方向というのはスマートフォンを通じた人と人の関係性を深めるというところから、Clova対応デバイスによって人とデバイス、デバイスとデバイスをつなぐことが可能になります。それをつなぐ手段としてAIにフォーカスしていくということではないかということを強く感じるんです。
AIそのものはトレンドワードとしていろいろ語られますが、現時点で自律的に動くようなものはできるはずもありません。一方で人と人、人とモノ、モノとモノをつなぐためにソフトウェアやプラットフォームが必要だし、IoT型(インターネット接続)のハードウェアも必要になる、それを見越しての「Clova」フォーカスということでしたら、すごく楽しみだし、どういうストーリーでつなげていくのか知りたいと思うんです。
そう考えれば「Clova」こそがまさに「スマートポータル」の中核を成す存在になり得るだろうし、「コミュニケーションファースト」をうたうLINEとしての今の時代ならではの原点回帰ともいえるようにも思えるんです」。
LINE 舛田 氏:
「LINEプロジェクトの大元は、我々はスマホネイティブの会社です、人と人とのつながりをホットラインのようにしていきましょう、という発想で立ち上がりました。そのままずっと事業をやり続けてきました。その、人と人とのつながりの延長線上の中で、人とコンテンツ、サービスや企業がつながってもいいよねということをやってきました。実は、これ自体に関して言うと、我々の中でも拡大をしていったということなんです。
じゃあ、拡大をしていく中で、私たちはどこへ向かうんだっけ、と整理をしたのが「Closing The Distance」というミッションなんですね。実は、このミッションを作り上げていく過程の中に、今手がけているAIの動きも含まれていたんです。
この「Closing The Distance」と言っていたのは “距離を最適化させましょう” という意味なんです。心地よい距離に近づけていきましょう。つなげることがゴールではなく、心地よい距離感にあるべきだと思ったわけです。この距離感というのは、決して人と人だけではなくて、人とモノ、人とAIなども包含しています。なおかつ、これは決してスマートフォンに特化するべきものではない。ですから、「Closing The Distance」というミッションができた瞬間、スマートフォンネイティブの会社から「さらに次に進もう」という意思を決めていたんです。
「最適な」というのがキモでして、ただ繋げるだけだったらいくらでもできる、この「最適な距離」というのは実はパーソナライズやレコメンデーションといった “個人化”であり、さまざまなデータを学習した上でその人その人にあった心地よい距離感を、人と人の距離・人とモノの距離・人とコンテンツ・人と企業それぞれにおいて最適にしていくんだと思いを込めて固めていったミッションなんです。実は、長い時間をかけて「Closing The Distance」を固めるまでに至っているんですよね。
そして今、この「Closing The Distance」というミッションに沿って、LINEメッセンジャー、そしてスマートポータルの事業を推進し、さらにその次のプロジェクトとしてAIプラットフォームの「Clova」がこの延長線上に登場したというわけなんです。本来であれば順番にやっていこうとしていたんですね。ただ、スマートポータルに“完成” というものは存在しないので、今は平行して進行しているということなんです。
ただ、新たなミッションが生まれても変わらないことがあります。現実的に、LINE社としては社内でいろいろなことをやってます、AIをやろうが何をしようが、何が起ころうが、デバイスの流れがあろうが、競合がいようが、我々は「コミュニケーション」というものを最重要視するんです。これをやらんがために存在しているんです。「コミュニケーションファースト」が「Closing the Distance」を叶えるものなるんです。
ですからそれらを実現するために、全てのものをLINEで繋げることが必要でしょうし、動画というものにも対応していかないといけないでしょうし、そしてAIというものにも対応しないといけないんだというのが2017年8月22日のLINE Conference 2017で出澤が話した内容の構造です」。
舛田 氏が語るClovaの世界
TechWave 増田:
「AIはほどよい距離感をつくるものなのか、会話を生み出すきっかけを生み出す装置なのか。実際、コミュニケーションファーストという大きな文脈の中で、AIはどのように使われていくのでしょうか?」。
LINE 舛田 氏:
「2つの側面があります。まずは最適化するためのエンジンということですね。個人に最適な距離を与えるのがAIだと思いますし。AIがニューラルネットワークやディープラーニングだとしたら、そういった使われ方が実現できないといけない。
あと、もう一つは“会話”というインターフェイスが、このAIという時代において大事であろうと考えています。私たちは、ずっと会話だけをやり続けてきた会社ですので、ここも私たちにとってはコミュニケーションなんですね。相手がAIであろうが何であろうが、会話というものをインターフェイスにもつのであれば、私たちがやるべき。こうしたことも「コミュニケーションファースト」の概念に含まれているんです」。
LINE 舛田 氏:
「今巷で言われているスマートスピーカー大戦争は、まだ第一歩目なんですよね。半歩も踏んでないかもしれないんです。これをただのリモコンで終わらせるのか、いわゆるアシスタントのようなパートナーのような存在になるのかは、これからどうなっていくかに依るんだと思います。実はただのリモコンであれば、そんなに難しいことはないんですね。
音声で何かが動く、モーションで何かが動く、タッチで動く、画像認識で動く、何でもいいですけど、やっぱり本質的にインプットとアウトプットのところに関して、どういう風に設計をしていくか、学習をさせて精度をあげていくか、これも大事です。もう一つはどういうスキル、LINEでいうとエクステンション(拡張機能)みたいなサービスが紐付いてくるのか、これも大事。デバイスの性能も大事。しかし、ただのリモコンでいいのであれば、ここまでしてもあまり使われないんじゃないと思っています。
私たちが大切だと思うのではやはりコミュニケーションであったり、その根底にある “話しかけたくなる” という要素なんです。ちなみに、社内ではそれを「愛」を読んでいるのですが、愛着とか、愛情とか、思いとか、こういったものがどこまでクラウドAIプラットフォームだけでなく、そこに紐付くデバイスに持たせることができるのか非常に大事であろうと思っています」。
TechWave 増田:
「この1〜2年、AIや音声認識サービスを開発される企業への取材を重ねる中で、データ量の増加および技術の高度化によって認識の精度が飛躍的に向上していることがわかりました。その一方で、その認識した会話中の言葉からどんなコンテクスト(文脈)として解釈し、その上で何を提供するのか、まさに対話の部分が最も難しく、一朝一夕で解決できるところではないという意見を多く頂きました。
LINEがコミュニケーションファーストを貫き、“会話”だけをやり続けた末にAIプラットフォームに参入するということの最大の強みがここにあるのではないかと思います」。
LINE 舛田 氏:
「まさに、その通りですね。認識は学習させていけば結果として精度は上がっていく、スキルも“キラースキル”をどうみつけるかという課題はありますが、いろいろな形で向上していくでしょう。あとは、これをどう結びつけていくのか次第で、多分インターフェイスはコミュニケーションだと思っています。音声だとするならば会話になり、これをどう人と話しているのと同じにできるかどうかというのチャレンジですが、意味をどうくみ取ってくれるかとか、話を続けたくなるか、とか、話しかけたくなるか、話しかけられたくなるかとかが非常に大事なポイントになると思っています。
たとえば、一つのAI家電があった場合、この機器の中でしか最適化が不能ですね。今、やらなければいけないのは、ある種の連続性、日常生活の連続性の中でずっとクラウドAIが寄り添っていく。寄り添うことによって様々なものがで最適化ができるようになっていく。
やはり、今ここにあるものはすごく情報量もありますし、普段一緒にいるんですが、取れるデータがすくないんですね。データが分断されていますし、そもそもアカウントですら分断されている、ここそつないでいくことがより最適なパートナーを作り上げていくために必要であろう。なのでクラウドAIプラットフォームとして「Clova」が必要になるわけです。
「Clova」のポイントはサーチとコミュニケーション。私はこの十数年サーチとコミュニケーションしかやってませんので、我々の会社自身がそれをやり遂げるDNAを持っている。今回、大いなるチャレンジであると思っていますが、長いコンテキストの中でいえば我々はやるべきところにきているんだなと考えています」。
TechWave 増田:
「連続性の話がありましたが、LINE IDなどアカウントの扱い方も変わってくるということなのでしょうか?」
LINE 舛田 氏:
「LINE IDは変えるつもりはありませんが、デバイスを設定するための“ClovaアカウントID”というもの自体はマルチデバイス対応であるべきだと思っています。そういう意味では今までのLINEにおけるアカウントの考え方とは少し異なっています。
TechWave 増田:
「Clova自体にアカウントを設定していくということですか?」。
LINE 舛田 氏:
「そうですね、Clova Insideのデバイスを使うために、「Clovaアプリ」というものを使う必要があります。このClovaアプリには別途アカウントが必要になり、LINEで認証される仕組みです。ここで、LINEで蓄積された情報はClovaで学習されていく仕組みです」。
TechWave 増田:
「例えばClova Insideデバイスを家族みんなでつかう場合、家族それぞれが音声などで認識されたりするのでしょうか?」。
LINE 舛田 氏:
「声紋認証は当然考えていますが、どこまで重要かなと思っています。声紋認証のみならず顔認証なども実装をしますし、誰がどういう風に行動しているのかを認識することもできるでしょう。ただ、今、考えている流れとしては、ホームデバイスがあるとして本当にファミリーが共用するのか、結果、一台ずつ個別使用するのか、どうなるか見ているところです。部屋に一台なのか、リビングに一台なのかによって大きく違っていますし、そもそも声紋認識として顔認識をして、ID認証としてという多数のプロセスがかかってきた場合、カジュアルなUXではなくなってしまう可能性もあるので、どういう風に簡単にデバイスUIからサポートを受けられるのかというのが大事であろうと思っています。
家族で使えるようにする設計というのは、当然していこうと思っているのですが、家族で使えるモノと個人で使えるモノはきっと両方成長していくのだろう思っています。実際、Clova Insideのデバイスは、現時点でスピーカーだけでも複数モデルが発表されていますが、個人向けニーズに対応したモデルも計画しています」。
【関連URL】
・LINE 舛田淳 氏が語るClovaの世界(2/2)、クラウドAIスピーカーWAVE出荷直前
http://techwave.jp/archives/interview-mr-masuda-about-clova-02.html
・TechWaveが追ったLINE
http://techwave.jp/tag/line
・LINEがAIスピーカー参入、先行販売は夏 価格は1万円
http://techwave.jp/archives/introducing-ai-smart-speaker-wave-from-line.html
・[詳説 Clova] LINEが狙う「お茶の間」、世界HOME覇権争いにスマートポータルで挑む @maskin
http://techwave.jp/archives/line-clova-25548.html