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ブランドマネージャーとデジタルメディア運営者がフラットに出会える「場」をつくりたい、INCLUSIVE 藤田誠氏

INCLUSIVE藤田誠氏

INCLUSIVE藤田誠氏

デジタル時代の新たな“メディア”像を追求するイベント、「パブリッシャーサミット(Publisher Summit)」が2020年1月28日・29日に大阪で開催されます。
2回目を迎える当イベントの狙いとは何か? メディアのデジタル化の立役者であり、デジタルメディア事業化支援のプロ集団 INCLUSIVE社の代表取締役社長 藤田誠氏にじっくり話を聞きました。


メディアのデジタル化の波

TechWave:

広告主とメディアブランドを中心に、メディアを使った課題解決などさまざまなテーマを議論できる「Publisher Summit」が来年も開催されます。

INCLUSIVEさんはこのイベントの仕掛け人として注目されています。初めに、メディア成長の専門家として30数メディアを運営するINCLUSIVEのこれまでの歩みとその取り組みについてお聞かせください。

INCLUSIVE 藤田社長:

私たちは出版社のデジタル化に注力し、今や13年目を迎えることができました。小学館や集英社、光文社など十数社と取引させていただき、現在はテレビ局のデジタルメディア開発にも着手しています。

当初はメディア営業の業務委託からスタートし、その後、サイトの解析・分析、ウェブコンテンツのライティングや編集、編成さらにはM&A戦略まで手がけるようになっています。そのメディアブランドがどこにいきたいかを一緒に考え伴走するのが私たちの仕事となっています。

TechWave:

INCLUSIVEさんは大手の出版社のみならず地域の話題を取り上げるローカルメディアにも注目されています。前回の「Publisher Summit」でも主要テーマになっていました。地域経済はどこも楽観視できない状況にありながら、ここまで熱量が高まる理由はどこにあるのでしょうか?

INCLUSIVE 藤田社長:

盛り上がっていますよね。メディア全体の話で言うと、テレビや新聞、ラジオ、フリーペーパーなどの旧来メディアがデジタル化という新しい流れに乗り遅れているということが起こっているんです。完成されたビジネスモデルだった故に、新しいことに挑戦できていないということですね。

デジタル化によって、趣味嗜好はもとより欲しいコンテンツさえもがより細分化されていて、型どおりのコンテンツや媒体がそのニーズに合致しなくなっている。ページの制約とか時間の制約とかがある中で、ユーザーは自分に合致した様々な情報を求めるようになった。

そこで、地元フリーペーパーといった紙メディアに取って代わる位置づけの“ローカルメディア”が、ブログとも個人の発信とも違う“少しだけ公”な情報を投稿することでデジタル時代のメディアニーズをうまくつかみつつあるのではないかと考えています。

誰をターゲットにするかが大切

TechWave:

この数年間で、ユーザー(読者)の行動から、メディア側の作り方からマネタイズまであらゆるものが変容したように感じています。

INCLUSIVE 藤田社長:

そもそも、そのメディアが広域を対象としているのか、それとも専門に特化したものなのかによって、メディアの作り方はずいぶんと変わると思うんですね。ですから、一つの型が全てに通用するわけではありません。

それともう一つ“質”の問題があります。INCLUSIVEではメディア・コンテンツの質を重要視しているのですが、旧来のメディア住人の中では“賢げなもの、費用がかかるものが質が高い”という思い込みから、型にハマったコンテンツを一方的に押しつけてしまう傾向がありました。
そのメディアは誰を相手にするか?その人の日常に寄り添ったコンテンツを作らないといけない。対象によってその質は違わなくてはならないんです。
つまり、一般大衆にとって高尚なコンテンツはむしろ質が低いと言わざるを得ません。メディアがフォーカスしているテーマが高尚か、俗なものかで質を問われるのは全くナンセンスだと思うんです。

ターゲットに対して寄り添えるコンテンツが“質が高い”。それを実現するには、ターゲットにとってこの場面で何が必要なのかを見極めたり、あるいは仮説を立てた上でコンテンツを出してみる必要があるんですね。それで思ったように当たらなければ改善するし、期待した以上に急成長したらなぜそうなったのかを検証して、さらに出現率を高めていく。それがINCLUSIVEのやっていることなんです。

ですから、私たちが取り扱っているメディアはめちゃくちゃ幅が広いんです。例えば女性誌なら「anan」「JJ」といった素敵な東京の女性を対象にしたものもあれば、「アサヒ芸能」とか「週刊実話」といった週刊誌もあるし「ニューズウィーク」や地方のローカルメディアまでも、どれも分け隔て無く、ターゲットを見定め、その人達の満足度を高めようと努力しています。

ポータル/SNSをメディア流通として捉える

TechWave:

かつては紙の媒体なら出版部数の多い雑誌、デジタルならポータルにまず出せばいい。だから作り手もおよそのユーザー層さえ描ければそれ以上のことを考える必要はないとさえ考えられる傾向もありました。しかし、今は、コンテンツをどこにどうだせばいいのか見えにくくなってきたように思います。

INCLUSIVE 藤田社長:

実は今も形こそ違えど、情報が集まる場所を活用する流れはまだあると考えているんです。例えば「ヤフー」や「Google」「Facebook」などを私たちの社内では メディア流通 と読んでいまして、メーカーと流通の関係と同じことが“”メディアの世界でも当てはまると思うんです。

ですから、その流通の中にいる自分たちのコンテンツを好きだと思ってくれる人向けの商品作りをしないといけない。流通は確かに分散化しているところはあるので、それぞれの流通に適した1)“流通対策記事”を意識しつつ、2) 自分たちのメディアブランドらしさを出し、3) 収益も上げられる、そんな三方を意識しながらメディア運営とその支援を行っているのが私たちの現状です。

持続的に継続できるメディア・ブランドを追求せよ

TechWave:

制作面では、いわゆる古くからあるコンテンツ作りのこだわりが通用しなくなってきているようにも感じます。求められるスキルセットが大きく変わり、メディアの運営体制も変容しているのでしょうか?

INCLUSIVE 藤田社長:

イノベーションを起こすのに必要なスキルセットとしてBTC(ビジネス。テクノロジー・クリエイティブ)というキーワードがありますが、メディア側の人は、クリエイティブには一日の長があるもののテクノロジーは門外漢、かつビジネスという認識でメディアを運営していないという現実があります。

しかし、それを意識してもらえば、誰かが足りない部分を補うことができる。それをやるのがINCLUSIVEの仕事だと思っています。

発信すべき情報を持続可能な状態で続けるためにはやっぱり資金が必要ですよね。それを無理なく継続的に確保する体制を整えることがメディアとして継続して発信していくこと、つまり信頼とか権威、安心感につながると思うんです。金儲けに偏るわけではなく、メディアブランドにとって大切にしたい部分を守りながらバランスを維持するのが大切だと思っています。

 「一次発信をする人達はやっぱりえらい」

TechWave:

メディアおよび関連するサービスや事業が増え、オウンドメディアや独立系メディアも多数登場しています。この状況に対し、INCLUSIVEおよび「Publisher Summit」はどういった思いで取り組んでいるのでしょうか?

INCLUSIVE 藤田社長:

デジタルでメディアをやっている人を盛り上げたい。そう思うんです。もともと私はメディア好きで、学生時代から出版社でアルバイトとしていました。その後、広告代理店に入社し広告事業を理解することはできたものの、メディアやサービスの経験を積みたいと思い「shockwave.com」というITベンチャーに就職したんです。

そこでは営業担当として新進気鋭のクリエイターのコンテンツやゲーム内に広告を表示させたり、いわゆるテレビ番組のスポンサーのような広告商材の開発を行っていたんです。社長やプロデューサーが発掘してくるコンテンツに対し「ここに広告はつくか?」という課題の解決にコミットし、その広告費がクリエイターさんにも分配される仕組みに意気を感じ楽しく仕事をしていました。
その後、ライブドアで2年活動したのち起業。その時原点に立ち返って、一次発信をする人達はやっぱり素晴らしいなと思ったんです。ただ、IT業界のスピード感とテクノロジーの進み具合に旧来型のマスメディアの人達は、デジタルについていけなくなるんじゃないか。誰かが支援しなくちゃいけないと思い立ったというわけなんです。

本来は大手広告代理点がやるべき仕事かもしれませんが、そういったことをやっているところがなくINCLUSIVEを起業したんです。

メディアと広告主、事業会社の課題を解決する場

TechWave:

INCLUSIVEさんは、広告企画の立案や営業のみならず、制作や編纂、事業企画にまで関わりメディアの成長プロセスに伴走しています。ここまでメディアと深くかかわると、広告販売だけが目的ではなくさまざまな取り組みができそうですね。

INCLUSIVE 藤田社長:

媒体社と広告主、そして広告代理点周辺のビジネスモデルは大きく変容してきました。バナー広告は予約型だったものは運用側に変わり、純広告やタイアップ広告が激減するなどその変化は著しいです。

状況の変化に合わせて自らも変えていかなければいけないわけですが、実はデジタル化はまだまだ紙のような“メディアと広告主”の関係がはっきり見えているわけではないんです。むしろ、ちゃんとメディアに広告が入っているかどうかわからない、ネットは見えなくて怖いというブラックボックスのように感じる人もいるほど。説明すれば理解を示してくれるものの、それができていない。

だから編集者、編集長とブランドの責任者が営業の場ではないところでフランクに話したら面白いんじゃ無いか。デジタルメディアよくわからない、デジタルメディアは顔が見えない、といった不安を払拭してもらい、双方ががリラックスして対話することができる場をつくりたい。それが「Publisher Summit」のベースラインになっています。

Publisher Summit 2020の見所

TechWave:

来年1月に開催される「Publisher Summit 2020」はどう進化されるのでしょうか?

INCLUSIVE 藤田社長:

今や広告主側もオウンドメディアやソーシャルメディアを運用するのが当たり前の時代で、メディアに広告を掲載するだけでは留まらない状況になりました。というよりも、むしろ、広告以外の部分の方が大きいと思うんです。コンテンツとコミュニケーションがテーマになる。そんな広いイメージを持っています。

そういったメディア運営をする際に、代理店や制作会社にお願いするコンテンツもあると思うのだけど、そこで課題感などがあったり、これでいいのか?という疑問が生じたときに、それで生計を立てているプロのメディア企業のコンテンツの作り方や改善の仕方というのは役に立つと思うんです。

ですから、今回の「Publisher Summit 2020」では、出版社やテレビ局などのパブリッシャーの人になるべく発表者側として関与してもらい、それぞれのメディアの編集者がコンテンツや商品の取り組みを勝ちパターンなどを交えて話してもらいたいと思っています。

媒体社同士が刺激し合える場所は、もちろん広告主さんにとっても意味がある内容だと思いますし、モノを作りどうユーザーと関係構築するかを濃密に語り合う場にしたいと思うんです。それで最終的にビジネスにつながればイベントとしては成功といえるかもしれません。ただ、大事なのはユーザーに届けることですから、“タイアップと純広告を買ってください”の見本市にはならないようにしたいね。

メディアにはさまざまな可能性があります。ユーザー(読者)がついた媒体は流通にもなると思うんです。広告を掲示するだけの場ではない。月に数百万の女性が閲覧するメディアは、広告以外の取り組みを行える可能性が充分にあると思うんです。実際に、メディアコマースとして、デジタルメディアがECをやっているところは増えてきましたし、その辺のアイディアを交換できる唯一の場となるかもしれません。

3年前はまだメディアにおけるデジタル化の流れは混とんとしたものでしたが、メディアをやりたい人とデジタルでどうにか成功したいという人が落ち着いて取り込めるフェーズにはいったと思います。特に地方メディアの低迷とデジタル化における見えない収益化といった課題が深刻になっているのも見逃せません。広告主や事業会社がアイディアを持ち寄り、課題を解決し、ビジネス的なインパクトを残せる場にできればと思います。

【関連URL】
・[公式] Publisher Summit

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