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マーケティング手段として当たり前となったオウンドメディアの役割とそのコンテンツの価値をトップランナーはどう考えているのか?そんな興味深いトークセッションがアドテック東京の会場内で2019年11月28日に実施されました。
スピーカーはライオン コミュニケーションデザイン部 部長 小和田みどり氏・キリンホールディングス株式会社 デジタルマーケティング部 平山高敏氏・主婦の友社 OTONA SALONE編集長 婚活コラムニスト 浅見悦子氏。モデレーターはDataTailor株式会社 取締役 原直志 氏による特別セッションの前編をお伝えします。
アドテック東京セッション 〜 改めて問いたい「メディアの役割」と「コンテンツの価値」
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「本日のテーマは“改めて問いたいメディアの役割とコンテンツの価値”ということで、オウンドメディアを運営されているブランド側のみなさんからコンテンツについて、メディアからみたときのブランド側のオウンドメディアでこんなことができるんじゃないか、といった話を伺いつつディスカッションしていきたいと思います。
左からスピーカーの浅見悦子 氏(主婦の友社 OTONA SALONE編集長 婚活コラムニスト)・平山高敏 氏(キリンホールディングス デジタルマーケティング部)・小和田みどり 氏(ライオン株式会社 コミュニケーションデザイン部 部長)。右端がモデレーター 原直志 氏(DataTailor株式会社 取締役)。
“広告主”と“メディア”が膝をつき合わせ新しい価値を生む
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「今回のセッションですが、実は来年1月に開催するパブリッシャーサミットのサブセッションという位置づけです。「パブリッシャーサミット」は、メディアとブランド側の人が2日間大阪に泊まり込んで膝と膝をつき合わせてじっくり議論することで何か新しいものを生み出せればいいなという思いで生まれたイベントです。
今年1月に初めて開催させていただいた時は、ブランドサイド側はオウンドメディアを運営している方、メディアサイドは編集長クラスの方、広告主、メディア、ソリューション提供企業あわせておよそ150名の方が濃密な議論を繰り広げました。
今回、ここアドテック東京の会場で、パブリッシャーサミットの雰囲気を体験してもらうと共に、
アド(広告)か、Techか?コンテンツか、コミュニケーション?といった多様な観点からメディアについて議論していきたいと思います。
まず、お題として「メディアの役割とコンテンツの価値」についてブランド側のライオン小和田さんに、なんでオウンドメディアを運用するか?を伺ってみたいと思います」。
商品とは関係なくても楽しんでもらえるコンテンツ
・ライオン 小和田 氏
「私どもの商品は日用品。みなさんのご家庭には必ず一個くらいはお邪魔させて頂いていると思うのですが、やはりこういう商品はわざわざブランド名で検索して購入するような類いのものではないんですね。
また、最近すごくプレイヤーが増えてきています。歯磨き剤一つとってもお店に行くと本当にたくさんの商品があります。そんな中メーカーが「モノ」だけの発信をしても、消費者は「よさそうだけど、自分に合うかわかんないし・・・」とか「今使っているものにそんなに不満はないし・・・」などという反応で、情報が入らない状況になってきています。
それでも毎日の生活の中で、例えば「今日買ったこの白いワンピースがちょっと黄ばんできたらどうすればいいの?」とか「せっかく買ったふわふわのセーターを洗ってもふわふわのままになってほしい」「インフルエンザが流行っているとき、子供の予防はどうすればいい」といったモノではなくコトをきっかけとした情報は知りたいというニーズはしっかりとあり、信用できる情報を探しているんですね。
そこで、「今」興味が高まり欲しがっているであろう情報を拾って「コト軸」主体の情報を運営していくということで始めたオウンドメディアが「Lidea(リディア)」という生活情報サイトなんです」。
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「ちなみに、Lidea(リディア)以外にIRODORI(イロドリ)というオウンドメディアもやられていると思うんですが、棲み分けはどのようにやられているんでしょうか?」
・ライオン 小和田 氏
「Lidea(リディア)は商品に近しい情報を提供しているのですが、irodori(イロドリ)は商品に紐づかないもっと生活を彩る情報を提供しているたコンテンツです。整理収納や、 “一人暮らしをお花で彩る”といった、ふと読みたくなる情報を出しています。
メディアの役割として生活者のみなさんが興味があることを提供する中、なんでも自社の商品話につながっていってしまう情報ばかりだと「なんだ、宣伝か・・・」という気持ちになりかねません。欲しい情報を検索して訪問してもらうだけでなく、ふと立ち寄ったら面白かった、また時々訪問してみよう、という気持ちになっていただけるような工夫をし、忙しい日々の中楽しんでもらえるようなオウンドメディアとして運営しています」。
・モデレーター DataTailor 原直志 氏:
「運営されているのは何人くらいなんですか?」。
・ライオン 小和田 氏
「やはりこういう情報は鮮度だとか、今、こういうコンテンツが欲しいよねと思ったときに、ビビッと対応してくれるリソースが必要なので、浅見さんの主婦の友社含め社内外のいろんな方々にご協力をいただいています」。
・主婦の友社 浅見 氏
「私が手がけているOTONA SALONEチームがというわけではないのですが、他の何人かでご一緒させていただいています」。
オウンドメディアの役割をどう考えるか?
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「ビジネス的なところを伺いたいのですが、Lidea(リディア)/irodoriのビジネスゴール、このオウンドメディアに持たしている役割やKPIというものがあったら教えてください」。
・ライオン 小和田 氏
「そうですね、来訪頻度や滞在時間ということを重ねていくうちに最終的には当社のブランド、ライオンそのもののファンになっていただくということが目的です。
当社のような日用品は、お店にいったら値段に関心が向いてしまうことが多いのですが、商品をとりまく情報や、今旬の困りごとにすぐに対応する情報を提供したりすることで、値段ではない軸で商品を購入してくれるお客様を増やしていきたいと思っています。そして提供した情報に加え商品やサービスを通じて、みなさんの暮らしがより快適になればと思っています。
また、このオウンドメディアの来訪者を分析することで、マーケティングへの活用も実施しています。
例えば秋において気温が20度を下回ると、Lidea(リディア)の中の「衣替え」の記事検索が増加することがわかり、衣替え時の「黄ばみ、虫食い」といった悩みも抽出しました。そこで、気温が20度を下回りそうなタイミングで、「衣替えとお洗濯」という施策を店頭で行うことで、実際に売り上げに貢献したという実例があります。オウンドメディア運営には、こういった行動を分析するという役割もあります」。
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「ユーザーさんの側で、動向を知っていくためにオウンドメディアを運営されているというですか」。
・ライオン 小和田 氏
「そうですね。そういった面もあります。今、調査では聞かれたら答える、ということが多いような気がします。自分もそうですが毎日洗剤のことを考えて暮らしているわけではないですよね。
なんでこの商品を選んだのかなんて聞かれても覚えていないため、「なんとなく」という答えになって現れています。
ところが、オウンドメディア経由で行動を追っていると、本人が無意識でやっているようなことが見えてきたりしています。あー、こういう行動をしている人はこういうタイプの洗剤を使っている人が多いな。。などということがわかると、コミュニケーションやマーケティングへ活用することが可能になってきます。
・モデレーター DataTailor 原 氏:
「それでは次はキリンの平山さんに、同じくブランド側の立場から「メディアの役割とコンテンツの価値」について話をして頂きましょう」。
・キリン 平山 氏
「私たちはnoteというコンテンツプラットフォームを使っているんですけど、そこでキリンビールの公式アカウントを2019年4月に立ち上げました。オウンドメディアというかSNSの要素も持ち合わせたコミュニケーションを展開しています。
10月にはテストケースとして、キリンのフィロソフィーや人格を露出する企画としてkirin.jp ドメインのサイトで「ストーリー」という1万文字ほどある記事で構成されたオウンドメディアを作り始めました。これは暮しの手帖の編集長と、うちのビールを造ってきた人間が「日本の暮らしとビール」というテーマで展開しています。
このように2軸、コミュニケーション寄りの「note」の公式アカウントと、オウンドメディアでより重厚感のあるコンテンツを展開しています」。
プロダクト愛にこだわるオウンドメディア
・キリン 平山 氏
「私は実はキリンに来たのは1年半前くらいで、それまでは「ことりっぷ」というWebメディアのプロデュースをしていました。キリンにきて一番びっくりしたのは、取材を通して作り手さんに話を聞くと本当に思いを持って作っているということを知ることができたんですね。
先ほどのライオンさんは逆の話になってしまうかもしれませんが、よりプロダクト愛というかこういうことにこだわって作っているよということを素直に言う場があってもいいのかなと思ってnote上のメディアを運営しています。
それで実際にコンテンツを流していくと何が起こるかというと、リファラルしてくれる人が増えるんです。“キリンの考えがいいよね”とか、“キリンのこういう商品好きだからみんな飲んでみてよ”という方がでてきたり、noteで記事を書いてくれたりとか、Twitter上で反応してくれる人いたりとか。
こうした行動を取ってくれる一連の動きはデータになってくるので、こういったユーザーさんにはどういったインサイトがあって、どうコミュニケーションしているかを把握していくことが次の打ち手に繋がってくると思っています」。
オウンドメディアでしかできないこと
・キリン 平山 氏
「note」プラットフォーム上の展開は2つあって、まず一つ目はこのシャトーメルシャンの作り手の8000文字くらいある記事なのですが、これはどういう思いで日本のワインを作ってきたかということを作り手のこだわりという観点で綴った思いのあるコンテンツで、ここでしか知られない、どこのメディアにも出ていないような内容になっています。
もう一つは投稿コンテストの形式を取っています。「note」は書き手さんがたくさんいる場所でもあるので、“社会人一年目の私”・“あの夏に乾杯”といったあまりビール文脈ではないテーマの記事投稿コンテストを実施しました。
なぜ投稿コンテスト形式にしたかというと、まず社会人一年目ってすごく不安になるタイミングで、そこにキリンとしてどうやって接点を持っていこうかと考えたときに、最初はお世話になった方にビールを贈ろうといったキャンペーンを思いつくんですけど、そうではなくてみなさんが不安になっていることを応援したいという思いがあったので、それを端的に出せる場所としてコンテンツプラットフォームの「note」を選び、“社会人一年目の私”という投稿テーマでは社会人何年目かを経験した人が当時を振り返って手紙を書くことで誰かの応援になる、その場をキリンがスポンサーしますよというモデルでした。
結果的に3000件のエッセイの応募がありました。すごいのはそれだけではなく、Twitterで“キリンがこういうことやってるよ”とか“こういう記事書きました”という拡散がすごく生まれていったんです。調査したら1300万リーチを稼いでいました。ただ、この企画、ペイド(一般の情報メディアへの広告掲載など)はゼロなんですよね。
ただ、これって事業に直結するの?という疑問もあると思うんですけど、作ってくれた記事に対して毎週記事を全部読んでピックアップして「ありがとうございました」というお礼の記事を出していったんです。すると投稿してくれた消費者からは“キリンありがとう”と返してくれ、そしたら今度は“キリン飲みました”という投稿をしてくれるといったような関係性が生まれてきました。
このように暮らし側の支援から実はプロダクトにたどり着けるということなんですね。ここまでの反響は予想してなかったんですけど、実際に生まれているんです。彼らはキリンを押してくれてさらには推奨までしてくれる。次としてはこれからどういったアプローチができるか、オウンドメディアはPRの場でもあるのでリレーション構築の場として、例えば新しい商品を出すときに彼らとどのように向かい合っていくのか、そんなことを考えられる拠り所ができたのは「note」プラットフォームでの新しい体験だなと感じています」。
・ライオン 小和田 氏
「これを始めてからキリン愛を実感できているかなと思うのですが、キリン社内としてはどうなのですか?」
・キリン 平山 氏
「そうなんです。実は、この2つ企画、社内でめちゃめちゃ読まれるんですよ。普段はどうしてもKPIなどの数字があってどうやって売り上げるかを真剣に考える中で、やっぱりここが原点だったよねとか、作っている人が前面に出ることで“誇りを取り戻す”という要素があったと思います。
内部からはメディアに対し“ありがとう”という言葉だったり、工場にいる作り手のみなさんがこの記事を読んでくださって“がんばろう”と思ってくださったりしたのが嬉しいですね。このようにオウンドメディアがインナー・ブランディングに繋がっていて、ゆくゆくは採用などにも繋がっていくと思っています。フィロソフィーや人柄採用なんてこととにつながっていったらいいなと思います」。
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