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[後編] 改めて問いたい「メディアの役割」と「コンテンツの価値」 ~Publisher Summit 2020 Osaka Presession #adtechtokyo

パブリッシャーサミット アドテック東京 2019

マーケティング手段として当たり前となったオウンドメディアの役割そのコンテンツの価値をトップランナーはどう考えているのか?そんな興味深いトークセッションがアドテック東京の会場内で2019年11月28日に実施されました。今回は後編をお届けします。

スピーカーは左から主婦の友社 OTONA SALONE編集長 婚活コラムニスト 浅見悦子氏・キリンホールディングス株式会社 デジタルマーケティング部 平山高敏氏・ライオン コミュニケーションデザイン部 部長 小和田みどり氏・モデレーターはDataTailor株式会社 取締役 原直志 氏。


前編では、「メディアの役割とコンテンツの価値」という観点で、ブランド側の話を中心に、消費者が抱える課題を解決する支援をしたり、逆に造り手側の思いを伝えることで社内にまで愛が生まれ、かつ商品にも繋がっていくという話で盛り上がりました)。

・主婦の友社 浅見 氏

「こういうことってオウンドメディアじゃないとできないことじゃないですか。私たちのようないわゆるパブリッシャー側では成し得ないことなので、とても魅力があることだと思います」。

・キリン 平山 氏

「ありがとうございます。私ももともとパブリッシャー側にいたので、それぞれの役割をみたときにオウンドというのはもっと主語を持って伝える場であってもいいのではないかなと思いました。

“届ける”という部分はアドテクのさまざまな手法を使って届けることができるじゃないですか。その前の手前の部分として、コンテンツがないといいデータも集まらないよ、というのが僕の持論でもあるんです。じゃあ、オウンドメディアの役割とは何か?やるべきことは、ちゃんとしたコンテンツを届けて、そこに反応してくれた人としっかり手を結ぶということが大事である、というのが僕の見解です」。

会社をどれだけ愛せるか?

「ライオン 小和田さんの事例も、キリン 平山さんの事例も共通して“ファン”と言う言葉がでてきましたが、やはりそこは重視されているのでしょうか?」。

・ライオン 小和田 氏

「そうですね。ミレニアム世代が消費の中心になったときにモノを選ぶ基準が“機能がいい”・“便利だ”だけではなくなる可能性が高くなっています。会社の思想や、こういう視点でモノ作りに取り組んでいるんだというような真面目な姿勢や誠実さ、または環境にいい、といった社会に対する姿勢まで観てくれる人達が増えていると感じます。

さきほどのキリンさんのオウンドメディアの話に出ましたが、ライオンも128年も続いている会社なのですが、社内にむけても“自分たちの会社ってどうだっけ”と改めて再認識させていく必要があると感じています。消費者のモノ選びが変わる中で、社員自らが自分の会社を愛せるか?愛してくれる人をつくれるか?、というのが大事かなと感じます
」。

・キリン 平山 氏

「オウンドメディアの役割って本当にそこじゃないかと原点回帰していますね。あと、キリンのnoteで言うと、ファンに加えて、はじめの記事で“これからの乾杯”を考えるということを言っているんです。僕たち自身も、世のお酒に対する空気感が変わってきている中で、お客様と一緒に考えていきたいなと思ってそういうメッセージを提示しました」。

「実際に、キリンビールサロンというリアルイベントも始めたんです。半年間で5回開催。もともとビールのセミナーを工場でやっていたんですけど、これをもう少し他の取り組みと“線”でつなげる取り組みにして、お客さんと一緒に考える場にしていきましょうという形にしました。

ただ、このイベントはキリンのビールをオススメするものじゃないんです。世に中にこれだけのビールがあるんですよと何十種類ものビールをならべ、“みなさんどれが好きですか?”、ビールはこんなに多様性があっておもしろいんですよということを伝える取り組みです。

私たちはキリンビールを好きになってくれることよりも、ビール自体がつまらないものになってしまうのはリスクだという風に思っているんですね。 じゃあ、ビールを再発見しよう。例えば今人気になっているクラフトビールについて、地方の醸造家さんを呼んでその人とキリンの造り手と対談してもらうとか、そういった文脈でイベントを行っています。

キリンビールサロンはFacebookのコミュニティもあるのですが、毎日「このビールを買いました」とか、キリン以外のビールの話が投稿され、それに対してキリンの作り手が「あー、それいいですよね」と反応するような関係が生まれています。

この取り組みによって何が生まれてくるかというと、“キリンが新しい商品を出しました”というとサロンメンバーはいの一番に買ってくれるんですよ。キリンの製品を買ってくださいといったことを言う場ではないにもかかわらずこういうことって起こるんです。これは誠実な姿勢であるとか、モノ作りや暮らしを豊かにする、乾杯を豊かにしたいといった思いが伝わり、一緒に考えていくことで生まれることだと思います」。

ペイドメディアはどうやって価値を出していくのか?

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「私はパブリッシャー側の事業をやっていたりするんですが、最近怖いと思うのが、ブランドさんのオウンドメディア事業が商品の紹介だけではなく、メディアとしての役割を果たしているという点なんです」。

・主婦の友社 浅見 氏

「そうなんですよね、めっちゃおもしろいじゃないですか!」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「はい、そうなると、マーケティング業界でいうトリプルメディアの中での“ペイドメディア”はどうなるの?という話になるんです。

【マーケティング業界におけるトリプルメディア】
・ペイドメディア(Paid Media)・・・パブリッシャーが運営するメディアにお金を払って情報を掲載する「広告」
・アーンドメディア(Earned Media):評判を得るためのメディア→「ソーシャルメディア」
・オウンドメディア(Owned media)自分で所有するメディア→「自社運用サイト」

ペイドメディアは、出版社さんやテレビ局さんなどがそれに当たるわけですが、これらのメディアってどうやって価値をだしていけるのか?といいう疑問があるんです」。

・主婦の友社 浅見 氏

「なぜ、メーカーでもない私たちがメディアをやるのか?という話ですよね。

私はもともと出版社として紙の媒体編集をやってきており、今はオンラインの媒体「OTONA SALONE(オトナサローネ)」を手がけています。これは40代からの働く女性をメインターゲットにしたサイトです。

メーカー企業が独自にメディアを運営している中で、出版媒体を提供する私たちがメディアをやる役割はなんだろう?と考える中で、私は3つの視点があることに気がついたんです。一人が三役をやっているというようなイメージですね。

【パブリッシャー(媒体社)の3つの視点】

1.翻訳をしている

ブランドさんって思いが強かったり、研究者の方などはマニアックな方もいるので、一般の方には解らないくらい専門的な話になってしまうこともある。そこで媒体をやる側としては、そういった話を一般の人にわかりやすい形に翻訳する役割がある。

2.審査員のようになる

ブランドさんには“いいところを伝えたい”という思いが前面にくると思うのですが、私たちは“いいところ”、それから“ちょっと惜しいところ”をもっと伝えていかなければいけないかなと思う面があります。これは媒体社がやるメディアの中立的な立ち位置になると思います。

例えば家を買うとき。100%納得して購入している人ってほとんどいないと思うんですよ。限られた予算と条件の中で、みなさんは何かを妥協されているんですよね。このように商品一つを購入するにしても、ここは譲れないけど、ここはそうではないなということがあると思うんです。ブランドさんから見てネガティブに思われることも、あえて伝えていくことって実は大事じゃないのかなと思っています。それがパブリッシャー側の審査員としての役割になるということです。

3.トップオタのように一番いいところを言う

アイドルのファンには、群を抜いて熱意をもって行動する“トップオタ”がいますが、私たちはそのトップオタのようにブランドの一番良いところを伝えるという役割があると思います」。

メディアで信頼獲得は可能か?

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「翻訳者という表現がありました。浅見さんは、身体を張ったさまざまな取り組みをされていると思うんですが、そこにはどのようなポリシーがあるのでしょうか」。

・主婦の友社 浅見 氏

「私、婚活をやっていまして。こちらの漫画は、私の活動を漫画にしてもらったコンテンツなのですが、パブリッシャーの役割としては“ホンネ”と“リアル”というものを、匿名ではなく、顔と名前をだしてやることが信頼に繋がるんじゃないかと思っているんです。それは企業さまに対する信頼でもあり、読んでくださる読者さんに対しての信頼でもあると思うんです。

今、世の中は個人の発信力が強くなっているので、こういったメディアをやる側もきちんと誰が言っているのか、書いている人・言っている人に対して“お前は誰やねん?”という浮上する疑問にちゃんと答えていく姿勢を貫いています」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「さっき、キリンの平山さんがおっしゃっていたキリンビールサロンで他社のビールも紹介するという話に通ずるものがあると思うんです。今や消費者が情報を取得する方法ってすごく多岐にわたっていると思うんですが、その中でメディアを介して信用とか信頼性をどうやって持ってもらえるのでしょうか?元々パブリッシャーでブランド側のオウンドメディアも手がける平山さんに両方の側面でご意見をいただければと思います」。

・キリン 平山 氏

「素直であること以外ないと思います。世の中には憧れるようなメディアが沢山あるんですけれど、だんだんその間にSNSやブログといった個人が発信するメディアが沢山出てきたわけじゃないですか。結局、メディアと消費者の距離感が変わってきただけで、それにあわせる形で必然的に伝える内容が変わってきたというだけの話に過ぎないんだと思います。

その距離感の中で、人格や主語をどう出していけば心地よいのか、これはメディアも考えなくてはいけないですし、オウンドメディアも考えなくてはいけない。どちらサイドも、この距離感をはき違えるとうまくいかなくなってしまうわけです。

メディアのコンテンツも増えていますが、信頼性を獲得するには現在のこの距離感に対してどんな人格を宿すのかということに尽きると思うんです」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「浅見さん、距離感という部分で、メディア運営する側として、意識したり、気にしていることはありますか?」。

・主婦の友社 浅見 氏

「私は、媒体社で仕事をしながら、時々メディアを疑ってみてしまう部分があったんです。でも、それはいけないな、とおもったんです。メディアを運営する側としての自らの反省点でもあるんですが、そういったことを無くすためには“本当に私たちがやってますよ”ということを見せていかないと思っているんです。

「主婦の友社」という社名は、読者の方々のお友達として存在するという立ち位置なんです。103年前に創業したときから変わりませんし、私たちも同じ考えで大人の人達が集まれる場所にしたいと思い「OTONA SALONE(オトナサローネ)」という名前を付けています」。

・ライオン 小和田 氏

「メディアそのものというよりも、そこに入っているコンテンツがどうなのか?という点が信頼につながると思います。今コンテンツは、いろんなところから情報を拾ってきても、それなりに見映えよくみえてしまう部分があります。でも、それを“本気でそう思って記事作りをしているか”という部分は、お付き合いすると見えてきますね。

もしそのネタの内容が怪しければ自らが実験してみるとか、自分たちの目できちんと確かめてみた記事だとか、そういう姿勢のメディアは信頼できると感じています」。

・主婦の友社 浅見 氏

「そのコンテンツを出すにあたっての責任みたいなもの、私たちがその内容を証明できますよといえるくらいの責任感を持つことも大事かなと思っています」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「信頼性や責任観と真摯に向き合うかという話になりましたが、そこに意識して取り組まれている方が多いなと感じます。しかしながら、ブランドとパブリッシャー、それぞれがそれぞれのノウハウでメディアを運営しているわけで、これは二項対立になるのか、そうではなくて両方が手を取り合ってやっていけることがあるのではないか?みなさんのご意見をいただければと思います」。

・キリン 平山 氏

「僕ら自身がどういう思いをもって、どういうユーザー体験を提供して、どういったコミュニケーションをしたいかをちゃんとメディアのクリエイティブをやる側に言わないといい成果物は出てこないと思うんですね。

じゃあ丁寧にオーダーをすればいいかというとそうではなくて、まずはこちらがちゃんと語り出すということが大事な気がしています。キリンビール公式noteでやっていることはまさにそれなんですね。これをやることで、パブリッシャーさんであったりソーシャルの広告を展開する時、はじめてクリエイティブに説得力が出てクオリティーが上がってくるんです。

どうしてもKPIや数字を目の前に出させると、そういったプロセスを度外視して「とりあえずバズりそうです」とかいわれてしまうんですが、主語をもって自らコンテンツを発信することで「そうじゃないんです」ということが言えるし伝わりやすくなります。

また、僕ら自身は今、クリエイターさんに対して一番大切なことは営業活動だと思っていて、多くのクリエイターさんと会ったり話をしたり、思いを伝えたり、キリン自体を好きになってもらうための活動をする必要があると思うし、今後もやっていきたいと思います」。

・主婦の友社 浅見 氏

「おっしゃっていることはすごく解ります。思いや愛がないと、読んで面白い原稿って書けないような気がします」。

・ライオン 小和田 氏

「「オウンドメディアが発信したコンテンツを生活者が受け取った時と、同じ内容をパブリッシャーさん伝えた時とは気持ちは変わると思っています。またこれからは一社だけで解決しようということではなくて、いろんな組み合わせが出てくると思うんですね。

実は、キリンさんともコンテンツで連携した事例があります。キリンさんのキャンペーン商品のカレーファウンテンを使ったカレーパーティで、洋服に飛んだカレーのシミをどう落とす?といった連携を行いました。こういったコラボをやるときに、この会社・ブランドと組みたい、このパブリッシャーとやってみたい、と指名される側に私たち自身がなっていかないといけないと思います。

また、ブランド側もこれまで以上にコラボ相手を見極めていかねば!と思っています。なぜなら、情報が多すぎて、ブランド側の気持ちと、パブリッシャーさんまたはコンテンツの気持ちが一緒でないと伝わっていかないからです。なのでパブリッシャーさんも自分たちの愛がどこに向かっているのか、自分たちのオタク度合いはどれ位か、誰にフォーカスしているんだといったことををもっともっと突き詰めていって欲しいと思うんです。

今や“40代の女子向けです”だけじゃ、コラボ相手として食いつきにくい時代です。小さくてもいいので“帽子好きの女子向け”といったところまで突き抜けてもらい、一緒にいろんなことができたらいいなと思っています」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「こういった話って、ついつい見落としてしまいそうなことだと思います」。

・主婦の友社 浅見 氏

「そうですよね。数字とかバズるとかいう話ばかりで、うーん、そこも大切なのはわかるよなぁと思いつつ、ただ、最終的にはブランドさんの商品を通じて誰を幸せにしたいのか、それに尽きると思うんです。幸せになって欲しい人にちゃんと届けることができるパブリッシャーと連携すればと思います。また、オウンドメディアとパブリッシャーのメディアとはやれることが違うと思うので、その出し分けと言うことを一緒にやれればと思いますね」。

・モデレーター DataTailor 原 氏:

「今日は、来年1月に開催するパブリッシャーサミットの雰囲気を体験してもらうという位置づけのセッションとして、メディアとブランド側の人が直接対話することで、“あー、そう思ってたんだ”とか“かゆいところに手が届いてなかったな”・“伝え切れてなかったな”といったことが山ほど出てきたと思うんです。

こういう話って2日間くらい膝をつき合わせてみないと、コンテンツのことや、ブランドが伝えたいこと、媒体社のメディアが伝えたいこと、読者様・生活者が知りたいことことが広まっていかないんじゃないか。そういう思いからパブリッシャーサミット2020を開催したいと思います。サブタイトルは「メディアブランドの遺伝子」。

今や表現方法は、テキストもあれば動画もある、ウェブがすべてではないとも思います。そういったことを踏まえ、今日の話の延長線上にある場として、ブランドが大切にしていることが何だったかを振り返り、それをどう伝えていくか、哲学的な部分を含めて「パブリッシャーサミット2020」で議論や意見交換をしていければと思います」。

(了)

【関連URL】
・[公式] メディアとブランドが一堂に集う招待制イベント「Publisher Summit 2020」が来年1月開催決定

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