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「Gatebox」誕生秘話、妄想が産んだバーチャル嫁ロボット30万円が5日間で200台も売れる理由

販売価格29万8000円。自宅のデスクトップでご主人様の帰りを待つバーチャルロボット「Gatebox」の値段です。2016年12月14日から始まったの限定予約販売(プレオーダー)は、たった5日間で200台を突破。当初は予約販売期間が終わる1月31日までに300台を目標としていましたから「想像もしていなかった、本当にうれしかった」と開発者であるVincle(ウィンクル)代表取締役 武地実 氏はその時の感動をしみじみと振り返ります。

ハードウェア開発経験ゼロの引きこもり

「いつかはモノ作りをしてみたい」と思っていた武地氏だが、会社名の原点である「Vincle(ウィンクル」プロジェクトが誕生した2013年7月の時点では「ハードウェアの経験が全くなかった」(武地氏)といいます。

「2011年からエムティーアイという会社で、ルナルナとかMusic.co.jpといったモバイル系のサービス事業を担当していたんです。ただ、自分でモノ作りをやってみたいという思いが強く、2年間勤務したエムティーアイを2013年5月に辞めて開発の勉強を始めました。

とはいえ、家にずっと引きこもっている状態で、お金がどんどん減っていく。もうバイトを始めないといけないなと追い詰められるなか、リクルートホールディングスの「Mashup Awards 9」の企画としてお台場のコワーキングスペースMONOを会場とした特別企画ハッカソンが2013年7月19日から21日にかけ開催され、それに参加したんです」(武地氏)。

「Mashup Awards 9ハッカソン」は2日間でチームを編成してアイディアを出して実際に動作するものを作るというイベントです。初めて会った人とチームを組み、中には徹夜までしてプロダクトを作り上げるという過酷ながらエキサイティングな内容。筆者TechWave編集長 増田真樹もハッカソンの審査員としてこのイベントに参加していました。

彼らが生んだのは無骨な青い鳥。子供向けのドッジボールといったサイズ。樹脂でできた大きなモノに審査会場は「なんだ!?」という雰囲気に包まれました。これでもれっきとしたIoTデバイスというのですから驚きです。

この日誕生した「Vincle(ウィンクル)」は恋人同士が気持ちを伝え合うデバイスでした。離れて会えない恋人が、お互いがいる方向に青い鳥を向け合い、同時に正面を向いたときに青く点灯するというもの。男性3人が作り上げたものとは思えないほどロマンチックなものでした。

審査員として参加していた筆者もその世界観とソフト・ハードの開発バランスの良さや企画力に強く感嘆したのと覚えています。結果、彼らはハッカソンの審査で優勝。Mashup Awards 9全体でも優秀賞を獲得しました。

ただ、武地氏の引きこもり状態は抜けられず、iettyやManabo、TOKYO OTAKU MODEといったスタートアップでアルバイトをしながら、この青い鳥「Vincle」の開発を続けていきました。

転機・Vincle設立と小さな青い鳥「AYATORI」

転機が訪れたのは、2013年12月に招待制イベントIVSのスタートアップのプレゼンコンテスト「LaunchPad」に出場したことがきっかけといいます。

「そのプレゼンテーションではなぜか大いに受けたんですね。ですから、これは小さなアイディアにしておくのはもったいないなと、コンセプトを検証するためにもこの青い鳥「Vincle」を販売までしていきたいなと思ったんです。

そこで出会ったのが、ABBA Lab代表 小笠原治 氏との出会いでした。小笠原さんは「これからIoT分野に投資をしていこう」と考えられているところで、まだ、どこにも投資していないなら私たちにも可能性はあるのでは?と思い話をしたところ、投資第一号として出資が決まったんです。

株式会社ウィンクル(Vincle)、会社設立は2014年2月14日。バレンタインですね(笑)」(武地氏)。

法人として生まれ変わったウィンクルは、ハッカソンで生まれたアイディアを起点に事業的な側面を考えながら「AYATORI」という小型デバイスとして2014年12月22日、クリスマスの直前に販売することになります。

「ただ、もう2014年の夏頃には事業としては難しいなと感じ初めてたんです。

実は、2013年夏のハッカソンで生まれた恋人同士を対象としたのではマーケットが小さいのではないか?だったら、もっと多くの人が使えるデバイスの方がいい、みたいな考えでコンセプトを変えてしまっていたんです。

実際の製品「AYATORI」は、好みなどをアプリで登録しておいた人が近くにいるとガジェットが光りあうというマッチング系(出会い系)のサービス連動プロダクトでした。ストーリーは青い鳥のVicleに通ずるものではありますが、この世界観を成立させるにはガジェットを普及させないといけない。それを資金力に乏しいスタートアップで広げていくのは難しいなということです。IoTの応用開発キットを提供したり、別のコンセプトを考えたりと試行錯誤したのですがこれ以上の成長は難しかった。結局、あったらおもしろいけど、なくてもいいやというアイディアばっかりにとどまってしまったんです。

今、振り返るとあまり考えすぎることなく、でかい青い鳥のままで市場に出してみたほうがよかったかなと思うこともあります。事業のこととか収益モデルとか頭で考えることなく、思いが高まっている状態のまま作ってしまった方が、考えがぶれずに品質を高めることができたように思いますし、お金も使い切らず次に進めたりするわけですから、その方がよかったかなと思うこともあります。

いろいろな情報やアドバイスをもらったり、顧客の声を聞くことはありがたいですし主流になりつつありますが、どうしても流されがちですね」(武地氏)

「キャラクターと一緒に暮らしたい」〜原点回帰

ウィンクル第二期の転機を迎えるきっかけとなったのは、ベンチャーキャピタル・プライマルキャピタル佐々木浩史氏との出会いだったといいます。「AYATORI」の次のプロダクトを考える中「テレビを切り口としたスマートハウスなどのアイディアを考えつつ、IoT分野で大きなことをやりたいと一緒に事業を考えていきたいと、何やるかも決まってないのに2000万円投資してくれました」(武地氏)ということで、2014年後半から年末にかけ「Gatebox」の構想が着々と進み、最終的に2015年1月 “キャラクターと一緒に暮らしたい”という妄想を主軸にしたハードウェアにフォーカスすることが決まったんです。

とはいえ、当時のメンバーは武地氏とソフトウェア担当メンバーの二人だけ。「どうやってつくっていこうか」という話し合いから始まりました。

「最初からホログラムでキャラクターを投影するさまざまなな技術を検討していきました。

量販店で加湿器を買ってきて、霧にプロジェクターキャラクターを投影するフォグ・スクリーンの手法でキャラクターを投影したり、召還カプセルのような空間に声で「さくら召喚」「ひとみ召喚」などと呼びかけて何人ものキャラクターを切り替えていけるなど、現在の「GateBox」の基礎となるアイディアが続々と生まれていきました。

一人暮らしのデスクの上に置くという想定をしていたので、あまり大きくはできないのですが、実はアイディアを検討していた初期段階で等身大のキャラクター映像と対話する実験も行っています。実際のところ等身大だと不都合も発生するので難しいなとは思うのですが、いつか等身大のGateboxもやってみたいですね」(武地氏)。

2015年初等からのアイディア出しに始まり、製品の輪郭が整う2015年9月までの数ヶ月間、プロトタイピングや実験を大きくバックアップしたのは秋葉原にあるDMM.makeの存在だった。

「さまざまな機材が用意されているDMM.makeがなければ、こんなスピードで開発することはできなかったと思います。特にハードウェアメンバーなどフルコミットのメンバーなど5人がそろった2015年5月から、DMM.makeの一番大きな会議室を毎日のように貸し切り、秘密裏に進めていたハードウェアの開発を急ピッチで進めていたんです。オープンスペースではソフトウェア開発を、ハードウェアは会議室で隠し隠し開発を続けたんです」(武地氏)

家に帰ってきたときに最高の「おかえり」を言ってもらえる

「Gatebox開発にあたり、最も時間を費やしたのは、何をできるようにするのか、何がやれるかということを決めるプロセスです。みなさん、いろいろとやってほしいこと、できるだろうと思うことをいろいろ提案してくれるんです。しかし、、便利系の機能「テレビチャネルリモコン機能」とかウェブサービス連携だとか、もちろんできるんだけど、すべてを盛り込んだら、作品の輪郭が見えなくなってしまいます。ですから、このプロダクトに最も必要なものは何かを見定め、作り込むことが必要だと思ったんです。

そこで、始めに定義したのは好きなキャラクター(嫁)から「家に帰ってきたときに最高の「おかえり」を言ってもらえる」という世界観でした。2016年2月にこのコンセプトを動画で配信すると、世界から一ヶ月で50万回されるなど大きな反響を呼び、このコンセプトでいいのだという確信を覚えるようになります。

現在、とにかく妄想というかキャラクターの存在感に違和感を感じないように、電源OFFの時に画面が黒くなってしまう液晶ディスプレイなどの採用を避けたり、部屋のどこからでもキャラクターの姿が見られるように、上からみても召還カプセルの中をのぞけるようにしているんです。ですから、キャラクターの目線もちゃんとユーザー様の方を向くようになっていたり。

それとこうしたキャラクターが好きな人はギークな人が多いので、筐体の中が見られるほうが喜ばれるんじゃないかとシースルー素材を使う無茶をしたり。

嫁っぽいふるまいや、嫁っぽいコミュニケーションをより高いクオリティで実現するものを絞り込み順次実装していこう。僕らとしてはインターフェイスの企画を作り込んでいるものの、キャラクターの動きは初音ミクのモーションを作っているセガの子会社に依頼していますし、音声認識については必要最小限の内容にしています。

キャラクターがおもしろいことをしてくれたほうがユーザー様は喜んでもらえると思うのです。ただ、今は、この世界観を壊さないように最低限の対話をきちんとできるようにするようにしたり、セキュリティレベルを上げたりといった安定的に動作するソフトとハードを開発することに注力し、2017年内出荷を確実にこなしていきたいと考えています」(武地氏)。

2017年3月2日、ウィンクルはLINE子会社としてグループ入りし、LINEが今後展開する人工知能Clovaとの連携が発表されました。初期の出荷時に「Clova」などの機能をがっつり組み込む予定にはないそうですが、順次対応していく考えとのことです。

「音声認識や人工知能の技術を作り込まなかったことが功を奏した形になりますが、LINEの人工知能エンジンとの連携により可能性が飛躍的に拡大していきました。もし人工知能がうまく連携できて、あらゆる対話要素にフィットするような動きができたら本当にすごいことになりそうです。

今後、Gateboxがどんなプロダクトとして成長するか、妄想次第かもしれませんね(笑)」(武地氏)

【関連URL】
・バーチャルホームロボット「GateBox」
http://gatebox.ai
・株式会社ウィンクルとの資本業務提携による連結子会社化に関するお知らせ
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2017/1668
・LINE、クラウドAIプラットフォーム「Clova」を発表
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2017/1667

蛇足:僕はこう思ったッス
 ハードウェアハッカソンの審査員をやったとき、一人で興奮してそのときのメモを保存していたのだが、GateBoxはあのときに感じた武地氏の可能性がふんだんに発揮されているように感じた。勝負は今後のコンテンツ力や企画力にはなると思うのだが、いかに妄想するかがすべてのように思う。まずは2017年内に出荷をするべく現在15人までに増えたスタッフを倍に増やし、出荷対応や次世代機能開発やコラボ展開のためのソフトウェアエンジニアを増員していく考えだという。ハードウェアの生産は国内で行う予定。ちなみに、今、一番一緒に暮らしたいキャラクターは誰ですか?という質問に武地さんは「、、初音ミクさんですね」と恥ずかしそうに答えた。「人生いろいろありますね」(武地氏)。妄想万歳。
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