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VRがIT業界で初めて話題になったのは25年以上前のこと。ご存知アップルがQuickTime VRをリリースし (日本では森高千里がVRコンテンツをリリースしていた)、360度撮影カメラなども注目を浴びていたし、ウェアラブルもブームにあった。当時シリコンバレーに足繁く通っていた筆者は、巨大なコンテンツの次世代像に激しく魅了されていた。それからVRML(Virtual Reality Modeling Language)というウェブブラウザで閲覧するための拡張現実モデリング言語なども登場したが、ハードウェアが時代の経過についていけないという状況によって話題はすたれていったように認識している。
一方でシリコンバレーにVR的な興奮として蔓延していたのは1990年初頭にジョン・D・カーマック(John D. Carmack II)氏が世に送った一人称視点3Dシューティングゲーム(FPS)「Wolfenstein 3D」だった。たかがゲームだ。しかし、当時、ベイエリア(シリコンバレー全域)の人々はゲームどうこうというより、その没入感にハマっていたのである。
筆者が渡米して起業プロジェクトに参加する1998年にもカーマックの続編の「DOOM」「Quake」が社内で大流行(全員じゃないけど)していた。オフィスに自作PCを持ち込み、何人かで対戦したのをよく覚えている。あれはスポーツだった。いかにPCの画面の中の世界に没入できるかを競いあっていたと記憶している。確実に言及できるのは、現在の北米発のVRの流れはこのFPSの潮流が介在しているということだ。何もこのような話は、なにもカーマック氏がVRグラスメーカーのオキュラスのCTOに就任しているからという話ではない。
そのような観点からも日本におけるいわゆる仮想的なバーチャルと、ベイエリアでブームとなっていたFPSを起点とする没入起点のVRとではまったく別の文化なのだ。このような話は、日本で殆どきいたことがなかったが昨今話題となっている新清士(しん・きよし)の著作「VRビジネスの衝撃―「仮想世界」が巨大マネーを生む」には、しっかりその流れをキャッチアップした上で、2012年頃から注目されたVRグラス(ヘッドセット)とその前後にある動きを瞬間的に切り取って網羅的に記述されている。
「仮想現実」は誤訳
「VRビジネスの衝撃―「仮想世界」が巨大マネーを生む」の最大の価値は、VRというこもの着地点をしっかり定義したところにある。冒頭の章に出てくる “「仮想現実」は誤訳” という見出しが全てを語っている。日本でいえば仮想現実とは「ありもしない空想のもの」とか「愛玩キャラクター」とか、現実とは切り離した別の世界のことを指している。よくよく考えて見てみれば、日本発のVRコンテンツの多くはキャラクターベースかゲームが主体を締めているように見えるし、これから続々と登場するだろうと考えられる。
ただ、VRグラスを使用した際の没入感は、例えばビルの屋上に立てば身の危険を感じるほど。これをゲームなどに応用することの可能性は十分にあると考えられ、もしかすると日本ローカルの文化がVRの世界の先をゆく可能性もあるだろう。
VRはブームで終わるのか?
VRは、北米などではカーマックがオキュラスVRに参加した2012年頃から、日本ではオキュラスVRがFacebookに買収され多数のメーカーがVRグラスをリリースした2015年から急激に話題になった。10年後にはテレビやパソコンの売上規模とほぼ同じ最大約12兆円もの巨大なビジネスとなるという予測すらある。確かに北米を中心に多くのコンテンツプロバイダーがVR作品を公開し、世界中でVR遊園地がオープン、2016年秋にはPlayStation VRも発売となるが、結局はコンソールゲーム機と同じ領域に踏みとどまってしまうのではないだろうか?そんな疑問もある。
「VRビジネスの衝撃」の中では、没入感こそが浸透する鍵になると説明している。確かにこの没入感は圧倒的なもので、映画会社がテーマパークで収益化を計ったのだから、これをどう料理すかによって大きなチャンスとなり得る。もう一つの確信として著者の新氏は「VRを作り出す環境が第一次ブームから20年ほど経ち低コスト化に成功し、普及価格帯にすることが可能になったことです」と説明している。これは、この記事の冒頭で述べた通り、VRはハード依存であるため、高機能化と低価格化が同時にくるのだとしたら十分な可能性があると考えられる。
その先、一体どうなるのだろうか? 是非、本書を一読の上、みなさん自身で考えて頂きたい。
目次:VRビジネスの衝撃―「仮想世界」が巨大マネーを生む
序 章 VRビジネスの大潮流――熱狂はなぜ産まれたのか?
第1章 VRの現在――映画とゲームをつなぐものは何か?
第2章 ハイエンドVRの夜明け――オキュラスはなぜ生まれたのか?
第3章 日本のVRビジネス――独自のビジネスモデルは生まれるのか?
第4章 VRからAR・MRの時代へ――これから登場するビジネスとは?
著者・新清士(しん・きよし)
本書より。1970年生まれ。ジャーナリスト。Tokyo VR Startups取締役。よむネコ代表。デジタルハリウッド大学大学院准教授、立命館大学映像学部非常勤講師を務める。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒業後、ゲーム会社を経てIT・ゲームジャーナリストに転身。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の創設者・名誉理事。過去にコンピュータエンタテインメント協会理事、日本デジタルゲーム学会理事などの公職を務める。現在はVR開発コミュニティの運営に関わるなど、VRを中心に取材活動を続けている。
【関連URL】
・新 清士-VRビジネスの衝撃―「仮想世界」が巨大マネーを生む (NHK出版新書 486) | Amazon
http://www.amazon.co.jp/dp/B01FBYKC0C
「VRビジネスの衝撃」で示されたキーワードは、「ソーシャルVR」と「プラットフォーム」に収束されてゆく。
「ソーシャルVR」はオキュラスVRがFacebook買収後に宣言していることだが、この没入感の先にある他者との濃密な関係構築を狙っているということだろうか(Quake対戦的な?)。単純に今のコンソールゲーム機が追っている領域に乗るのは間違いないだろうし、それは実現できるだろうが12兆の規模にはならない。
もう一つの「プラットフォーム」については、はっきりいってわからない。VRからAR、そしてそれらを複合したMRへと進化するという絵を描いているようだ。VRグラスが普通の眼鏡になり、Google Glassのようにコントローラの役目を果たす没入デバイスになるのというのだろうか? そうだとしたらコンテンツはどうなるのだろうか?
没入と現実、一見相反するもの同士が融合するポイントが発掘され、市場に定着するのだとしたらこの流れは大きく成長することになるように思う。それは一体何?報道?ソーシャルメディア、それともマイノリティレポートの世界? いずれにせよハードとソフトの進化がスパイラルを形成する瞬間は見逃がせない。