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完璧じゃないことが希望、台湾デジタル大臣 オードリー・タン氏 すべてを語る #IVS2020

オードリー・タン氏

AudreyTang

ITスタートアップ&投資家らが一堂に集あつまるカンファレンス&ネットワーキングイベント「IVS(Infinity Ventures Summit)2020 ONLINE」で、台湾のデジタル大臣 唐鳳=オードリー・タン(Audrey Tang)氏の講演が行われた。

同氏は、新型コロナウイルス感染症対策におけるアプリを活用した施策で世界で話題となり、東京都が公開するオープンソースの「新型コロナウイルス感染症対策サイト」に自ら協力するなど注目を浴びた。同氏の徹底した透明性追求を筆頭としたスタンスは、確実に台湾の政治を変え、本質的なイノベーションを起こしている。

唐鳳(オードリー・タン=Audrey Tang)

世界中から注目を集めた台湾 唐鳳(オードリー・タン)氏は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響でマスク不足に対処するため、各販売店のマスク在庫数をリアルタイムで把握できるアプリを開発し、インターネットでの予約販売を可能としました。アプリで事前に本人登録を行い、コンビニエンスストアなどでマスクを受け取ることができるため、台湾の国民に平等にマスクを配布することを可能とし、世界中から注目されております。また、2020年3月には東京都が公開している「新型コロナウイルス感染症対策サイト」のソースコードを、オードリー・タン大臣が自らソフト開発支援のオンラインプラットフォーム「GitHub」で翻訳を修正し、日本から熱い視線が注がれています。

■ モデレーター(IVS田中章氏):

「あらゆるシステムをハックし実践するとして多くの雑誌などで特集が組まれています。最も知られているのは、新型コロナウィルス感染症拡大の影響によるマスク不足に対処するため、各販売店のマスク在庫数をリアルタイムで把握し予約購入できるアプリを、極めて短時間で開発し展開したことだと思います。今回は、その内訳にはじまり、オードリー・タン氏のルーツに迫っていきたいと思います。

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「このアプリは、実は私は一切手を加えていません。この要求を実現できる複数のアプリをリストアップして組み合わせコーディネートすることでマスクの流通を整えたという形です。

実際は、コラボレーションツール「GitHub」に数百人の開発者が関与して作られたものです。なぜオープンソースでこういったことができるかというと台湾はオープンデータが整備されているからです。

台湾政府は、オープンAPIポリシーとして、リアルタイムに政府のデータを取得できる環境を整備しています。今回のアプリでは、マスクの在庫をリアルタイムに取得できるようになっており、それを国民健康保険のデータと組み合わせて、大人は3枚・子どもは2枚とマスクを購入できるようにしています。

↓セッションで紹介された台湾のマスク在庫をリアルタイムで把握・予約購入できるアプリの画面

マスクの在庫は30秒ごとにトラッキングできるようになっており、マスクを不正に取得することは不可能といえます。こうした取り組みは、政府がそのそも信頼されていないと実現できないといえるでしょう」。

■ モデレーター(IVS田中章氏):

「2014年、学生が台湾の議会を長い期間占拠することがありました。実はこの中に、オードリーさんがいたんですね。日本では考えられないようなことですが、いったいどのようなエピソードがあったか聞いてみましょう」。

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「この写真は、ちょうど私が立っている場所を写していますね。この時、非暴力的にプロテストをするということをやっていたのですが、私は占拠している間もインターネット通信が使えるようブロードバンド回線を敷設したんです。

3週間ほどこの中にいたわけですが、きちんとそれぞれの人の権利を尊重しつつ、インターネット経由で映像を配信するということをやりました。

ここは議会なのですが、これまで、どういった内容が批准されているのか、どういったステークホルダーがいるのか市民には見えない状態でした。その抗議として、この議会に20のNGOがここを3週間占拠して、ライブ映像のストリーミングを行い議論するなど透明性を高める機会を作っていったんです

会場の周辺では学生がバンド演奏やったり、教授が占拠している場所まできて講義をやったり、医療や人権など3つの団体が支援をしていました。学生達は、ゴミ袋を持ち、会場内が綺麗にするなど平和的な雰囲気で行われました。

2014年3月に選挙があったのですが、全ての市長がこの運動を支持する形となり、一連の流れが政治の様子を変える結果となりました。その後、あらゆる大臣が、リバースメンターという2人の若者をメンターにつけないと行けないというルールがあり、若さが故に私が選ばれる結果となりました」。

■ 参加者からの質問

「こうした取り組みはができる学生が生まれるというのは、そもそも教育の中身が違うということなのでしょうか?」

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「私が中学生になると、服従では無く自己主張していくというカリキュラムになりました。政治も、先に予算を決めるようなことをせず、市民を意見を聞いて柔軟に薦めていく形です。政治のプロセスにもオンラインで参画できるようになっています。

例えば、飲食店でプラスチックのストローを使ってはいけないという法律がありますが、もともとは16歳の学生が考えたことです。シビックスクールの授業で、社会的運動をやるとしたら何をやりますか?というテーマでワークショップをやったときにこのアイディアが生まれたのです。

政治への参加は18歳からとか20歳とかいうやりかたよりも、学生の段階から関与するという形はいいと思います。

市民サイドが仕様をつくる。どういったスペックが必要なのかを作成し、市民を信用して必要なものを提供していくというのが政府の考え方になっています。

外交に関しても同じようなことがありまして、台湾は世界各国を助けますという宣言としていまして、政府の予算とかではなく、市民がやりたいこと決めてスペックを決め、政府をそれを助けるという仕組みです。

どうやって評価するかというと、誰が発言して、誰の努力によって実現したのかが誰からでも見えるようにしています。ITシステムの共創開発プラットフォーム「GitHub」なども政府が用意するけれど、中の活動は市民が行っていく形になっている。この建て付けはどのようなケースにも対応できるというわけなんです」。

■ モデレーター(IVS田中章氏):

「これこそが政府のあるべき姿のように思います。日本ではなぜか、政府が決めたことを、国民市民が対応していくという流れになっていますけどね」。

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「大切なのが、インターネットアクセスの不均衡やデジタルデバイドを無くすことです。一定の速度を持つインターネットアクセスは人権だと考えているんです。

例えば5Gが、貧富の差が激しいようなところであったり離島などへも差が無いように均等に敷設していくことを大切に考えているわけです。

どういったところが5Gでなければいけないのか、判断するための実際にその現場にいって理解し持ち帰ることが大切。日本の官僚は、中央で働いていても中央に送られることがある、それはいい制度だと思っています。人にとって何が大切かということを見定める必要があるわけです。

ブロードバンドがあって、使いこなせてない人もいる。なので、それを使えるようなレクチャーの取り組みも行っています。これにより、台湾では固定料金で、誰でもインターネットに接続できるようになっています。YouTubeで何かをやりたいと思ったとき、子どもでもはじめることができる環境にしています」。

■ モデレーター(IVS田中章氏):

「民主主義がシステムだとすると、それをどうやってハックしていくのでしょうか?」

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「民主義そのものはテクノロジーだと思います。私は15歳の時に中学を退学しました。その時にWWWが生まれ、誰でも情報にアクセスできるようになった。民主主義もイノベーションであり、拡張することができると考えています。

民主主義は、スタートした欧米のものと考えることもできますが、誰でも拡張することができるわけです。例えば、台湾では誰かの声を吸い上げるという素晴らしいイノベーションがあってどんどん取り入れていくということをやっています。

また実際、こうしたイノベーションをどんどん政策に取り入れていくために、ハッカソンも開催しております。

ファイナルピッチは大統領の建物の中で20チームが挑むのですが、ここに至るまでは国民投票が行われる。審査方法には特定のノウハウと仕組みがあり、投票者ははじめに与えられたポイントを振り分けていく形となっており、投票者個人がそれぞれ何を大切にしているのかスコアでだされる仕組みです。

台湾はいろいろな言語がいりみだれたりするのだけど、このような投票システムを使うことで誰もが参画できるようにしています。それ故に、優勝者は相当な栄誉であり、実際に政策に取り入れることになるわけです」。

■ 参加者からの質問

「システムを変えるために、どのようにチーム/関係性を構築する必要があります?」

■ オードリー・タン(Audrey Tang):

「私が閣僚になるために3つの条件をだしました。

1.自発的な協業
2.徹底的な透明性
3.空間からの自由

まず、私が言及すること全てを公開文書にすることを条件しました、すべての私の発言を誰もが見える状態にしています。

次いで「3.空間からの自由」は、どこにいて仕事をしてもいいということ。先ほど申し上げたような、先住民が働いているとこりゃ、離島に足を運んだりすることが重要。これは私と一緒に働く人にも与えています。イノベーションをもたらす人はどこにいて働いてもいい、

イノベーションを生まないようなことを排除し、リスクを減らし、無駄な時間をなくし、徹底的に情報公開をしていけば、いろいろな人が参加できる政治にすることができる。現在、これでどんな党でもこのような透明性確立の取り組みがでてきています」。


オードリー・タン(Audrey Tang)氏より日本のみなさんへ

「2014年前の台湾では、徹底的な透明性が可能だと全く思えず、みんな未来に希望を持てなかった。
10代の若者も政治に関わることがクールだというイメージはなかった

2014年の議会占拠という境として当たり前が変わった。
あらゆるところに裂け目があり、そこから光が入ってきた差していった

完璧じゃないことが望みだし、希望だし
あらたな挑戦をすることで、そこに新たな光が差すことがあるんだ」

(オードリー・タン(Audrey Tang))

(了)

【関連URL】
・[記事] IVS

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