セカンドライフが終わったって誰が言った

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 セカンドライフがくるの、こないの、と議論されたころから、わたしの主張は一貫して同じだった。それは「これだけ騒がれるということは、現在はバブルだということ。バブルは必ず弾ける。しかし弾けたあとでセカンドライフの真価がうまれてくるだろう」というものだ。
 その真価とは、「リアルの世界を真似ることではなく、バーチャルの世界ならではの価値をリアルの世界に持ち出すことだ」と私は考えている。その真価が現実になるまで、少なくとも2、3年はかかるのかも知れないと思っていたが、アウトドア製品のECサイト「ナチュラム」が、セカンドライフの中で人気のファッションアイテムをリアルな製品として売り出すべく準備を進めている。
 セカンドライフの中で人気となったゲームが実際のゲームソフトとしてリアル社会で発売された例は過去にもあったが、ゲームソフトのようなデジタル製品ではなく、いわゆる工業製品がセカンドライフ発で製品化されるのは、日本で初めてではなかろうか。ひょっとすると世界初?
 未来学者アルビン・トフラーは著書「第三の波」の中で、消費者が生産者にもなるという「プロシューマー」の台頭を予言したが、プロシューマーはセカンドライフの中から生まれてくるのかもしれない。

 わたしが尊敬する情報社会学の権威、多摩大学の公文俊平氏は、著書『情報社会学序説』(NTT出版)の中で、産業化の成熟局面として「人びとは各種の情報通信機器を購入して使用するようになる一方、コミュニケーションが可能なロボットやソフトウエア・エージェントと共生するようになる。
さらには個人もしくは小集団用の工作機械を使って、さまざまな機器類を自分で製造して使用する。また、それらが生み出すさまざまなサービスを自分で消費す
るだけでなく互いに交換したりもするようになると思われる」と予測している

 これを受けてわたしは、拙著「爆発するソーシャルメディア」の中で次のように述べた。

個人用の工作機械をだれもが持つというのはちょっとイメージしづらいのだが、仮想空間の中で自分で作り上げた機械のデザインを、業者が工作機械を使ってそっくりそのまま作ってくれるというサービスは、それほど遠くない将来において実現するのではないだろうか

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 それが、まさに実現しようとしているわけだ。ナチュラムの中島成浩さんによると、同社はアウトドア製品のECサイトと連携する形でアウトドア愛好家向けのブログホスティングも行っている。月間2500万PV、約6500人のブロガーがアウトドア関連の記事を中心に情報発信するコミュニティになっている。そのブログサービス上から日本語で簡単にセカンドライフに登録、移動できるようになっている。

 同社がセカンドライフにを設立したのは2007年12月。サーフィン、ウインドサーフィン、ハングライディング、キャンプなどのアウトドア活動を楽しめる島だ。ナチュラムはもともと釣具が主要商品だったこともあり、今年1月には、凝ったフィッシングゲームを島の目玉としてスタートさせた。ルアーやさおを何種類か用意、川や湖などツリの場所によって最適のルアーやさおを選ぶことで、釣れる確率が変動するようになっている。釣れた魚は、大きさなどでポイントが異なり、ポイントを集めるとリンデルドルと変換が可能だ。

 セカンドライフでは1つの島の運用には1台のサーバーが必要で、1つの島にユーザーが40人以上集まると演算処理速度が低下してしまう。同社によると、フィッシングのサービスイン以降、大変な人気で、開始2週間後に島をもう1つ開設することを決定。今でも1日に1000人以上が利用するセカンドライフ内の人気スポットになっているという。

 中島さんは「決してパブリシティ効果を狙ってのセカンドライフ進出ではなかった」と言う。確かに今年1月には、セカンドライフブームのバブルは既に弾けていた。たとえ人気スポットになったとしても、マスメディアに大きく取り上げられることはない。「実際のビジネスにどうつながるかを考えた上での進出でした」と中島さんは言う。

 同社はメーカーではない。釣具などの大手ブランドを中心に販売する小売業である。しかし小売業者間の価格競争が激しく、利益率は少ない。「以前から独自開発商品を持ちたかった」と中島さんは語る。しかし独自ブランドを展開できるほどブランド力はない。そこで新しい形で自社製品を作る必要があった。

 そこで目をつけたのが、セカンドライフ内のユーザーのクリエイティビティだった。セカンドライフは最初のブームが終わり、セナンドライフ内をただ見て回るだけのユーザーの大半は去っていた。残ったのは、自分で物を作るクリエイターがほとんど。物を作るのが楽しい、というユーザーだ。といってもエンジニアである必要はない。建造物や家具などの物体を1から作るのには、それなりのスキルが必要なのだが、衣類の製作は意外に簡単だという。衣類には型紙が存在し、その型紙に好きなデザインを貼り付けるだけだからだそうだ。特に日本人ユーザーの間では、一般的なユーザーが自らデザインした衣類を売買し合い、コスプレやファッションを楽しむということがアクティビティの中心になっているようだ。

 ナチュラムは、同社の島の中にショッピングモールを作り、ファッション関連の10店舗を開設。セカンドライフ内で人気の10人のファッションデザイナーに無料で入居してもらい、衣服を販売してもらっている。ファッションデザイナーといっても全員素人。現実社会の中で実際にファッションデザイナーとして仕事をしているわけではない。男性は2人ほど。残りは全員女性という。

 ナチュラムは、セカンドライフ内で売れ筋の人気商品の中から現実社会の中でも売れそうな製品を選び、現在、2人のデザイナーの衣類の商品化を進めている。

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 中島さんは「1つは、女性用のシースルーの迷彩服のジャケットなんです。迷彩服をシースルーにするアイデアって、ちょっと思いつかないじゃないですか」と語る。小ロットでも製造してくれるメーカーからは、製造可能という回答を得ており、あとは何着作り、幾らで販売するか、などの詳細をナチュラム側で決めるだけ。「恐らく50着から100着になると思います」と中島氏。8月くらいには、ナチュラムのサイトで販売を開始したいという。Snapshot_012

 「目指すはウェブ2.0的製造業」と中島さんは言う。3ヶ月単位でショッピングセンターの店子に交代してもらい、次から次へとユーザーに自分がデザインした衣類を販売してもらう。「その中の売れ筋商品を、次々に現実社会で製品化するつもり。メガヒットは狙っていない。ロングテール商品でいいんです。こうした形で契約クリエーターを数百人ほど抱えることができれば1つの事業として成立するようになるのではないか、と考えています」と言う。

 クリエイティブなユーザーだけが残ったセカンドライフ内で、フィッシングゲームで集客し、アウトドア好きのコミュニティーを形成。その場で、クリエイター同士での衣類の製作、売買を促進し、人気の商品を現実社会でも商品化する。少数多品種をうまくハンドリングできるプロセスさえ確立できれば、確かに新しいタイプの製造業の確立となるかもしれない。アルビン・トフラーや公文俊平氏が予測した未来が、始まろうとしているのだろうか。

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Editor In Chief at TechWave.jp
1990年代初頭からソフトからハードまで50以上のスタートアップ立ち上げを国内外で経験。平行して雑誌ライターとして疾走。シリコンバレーでガレージベンチャーに参画後は、国内でネットエイジを筆頭にスタートアップに多数関与。ブログやSNSの国内啓蒙、ソニーの社内イノベーション事業など関与。通信キャリアのニュースポータルの立ち上げ期の編集デスクとして数億PV事業に育てた後、TechWaveにジョイン。世界最大のグローバルIT系メディアであるスペインの「Softonic」の元日本編集長
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