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スタッフライター1号機のmaskinです。書評は、自分で買うか、図書館で借りるというモットーでやっております。時々、出版前の生原稿を拝読させて頂くこともあります。
37シグナルズ(37signals,LLC.)という社名。TechWave読者なら聞いたことがあるのではないでしょうか。十数人のメンバーで、300万人というクライアントを抱える米国のウェブサービス企業です。
彼等は3人のウェブコンサルティング会社として1999年に企業しました。市販のプロジェクト管理ソフトに不満を感じ、自分たちで「BaseCamp」というサービスを開発。評価が高く、たった5年で年間数百万ドルの売上を生むようになったのだといいいます。また、同社はRuby言語のフレームワーク「Ruby on Rails」を開発したことでも知られています。
「小さなチーム、大きな仕事(原題:ReWork)」は、そんな彼等による、仕事やビジネスに対する考え方の転換を主張した本。冒頭には「ビジネスなど始めようなどと考えたこともない人から、すでに会社の経営に成功している人まで、さまざまな人に向けた本だ」と書かれています。そこには「大きなリスクを抱えることなく、成功することは可能」だから、仕事の本質を見なおそうというメッセージが込められています。
私が、この書籍を読みたいと思ったのは原題の「ReWork」が気になったからでした。なぜなら、これまで沢山の企業の中に入り込み、スタートアップビジネスに関与してきましたが、固定観念が壁となり失敗するケースが非常に多かったからです。もしかすると、37signalsは、そういった意識的障壁を打ちやぶっているのではないか?そんな期待がありました。
意識的障壁とはどんなものか。例えば「そのアイディアはいい、けど現実には難しいんじゃないか」というような諦めをうながす発言などです。どの会社でも毎日100回くらいは出てくるんじゃないでしょうか。理由を聞いても“ダメなんだよ的”目線。私的にいえば「その現実ってのは何なのよ?」という話だけど、モゴモゴいってわかんないよ、ということがほとんどでした。あー、そうですか、お疲れさまです。みたいな相槌が上手になる自分が嫌だったです。
この本では、まずそういう発言を平然としてくる彼らを「信じてはいけない」と一蹴します。膨大な時間を費やし「そのアイディアは無謀だ」と説得してくるそういう言い訳じみた人達との決別をうながすところから始まるんです。そして、次から次へと、ビジネスシーンでいかにも語られそうな寓話を持ち出し、真実をえぐり出していく内容に、免疫の無い人は「こんなのありえない、ばかばかしい、これ以上読めない」なんてことになってしまうかもしれません。
しかし、やはりその主張通り実践し成功し続けている人達の意見は強い。「失敗して学ぶより、成功して学ぶほうが価値が高い」など、具体的事例をもとに、私たち読者の常識をひっくり返してくるんです。
冒頭で最も強烈なのが「会社の規模なんて気にしない」という文章。確かにそうなんですよね、ビジネスの世界ではでかけりゃいいという発想がまかり通ってます。ふと周りをみわたせば当然のように「会社をでかくする」という目標設定がゴロゴロ。何をするかは曖昧なのに目標は上場か売却。一斉にやるぞといって、スタートアップ直後に大量の資金で、人員を確保していきおい付けるという発想の企業は、私の知る限り、その体制を3年以上続けられたためしがありませんでした。
大切なのは、小さくても持続的に利益を生むということ。「とにかく期日が最重要、それを守れなければ寝るな」みたいに、わざわざメンバーに毒をふりまくようなことをしたり。決して目標に向かってハードワークで邁進することが目的ではないのです。そんな簡単なことなのに「あれこんなに早く帰るの?」みたいな人っていますよね!一番遅く帰る人は、一番仕事ができない人。これは私の個人的な指標です。自戒を含めてますが、真実だと思います。戸締り責任者とかでなければ。
これまでのビジネス成功本といえば、「ビジョンをもちましょう」→「計画をしっかり立てます」→「毎日実行してレビューを欠かさないようにしましょう」→「あなたもできる!」と読んでいる人を鼓舞させるものが殆どです。1~2時間もあれば読めてしまい、やってもないのにできる気になる、そんな感じがします。
そのせいか、ビジネスの現場には、ビジョンと計画を持っている人が沢山います。しかし、現場を体で感じ、さまざまな経験をしてきた人は実は少ない。なのにマネージャーとか、アカウントエグゼクティブとか管理者的位置付けになってたり。経験はあってもビジョンやら計画が身の丈にあわないケースの多いこと。慣習を前に一人でも利益を生むことができるような発想と実行能力を持ち、目の前の諸問題を柔軟に解決していく人。物事の本質を見極める勇気を持ち合わせることの重要性を本書は教えてくれます。
だから本書は、いわゆる啓蒙型ビジネス書のように、“自分も成功できる”みたいな気分にひたらせてはくれません。一つ一つの項目を実践しないと、自分のものにはできない。本がくしゃくしゃになるまで、何度も咀嚼しないとその本質を見定めることができないのです。
彼らは資格もMBAも、肩書もリスクもいらない。「一つのアイディアと、少しの自信、そして少しの勇気があればいい」といいます。仕事というものを見直し、働き方の概念を転換させれば、もっと効率良くかしこく成功することだってできると。それに「履歴書」は肩書など大層なことばかりで、現実的に確認する術のないジョークであるとさえ言ってのけます。
そこで本書は、大切なものは「人」だということも教えてくれます。有名な人をお金で雇うということではありません。本質を見極め、自分の足で一歩ずつ前に進める資質をもった人を場所に関係なく雇う。距離が離れていたって、数十日に1度しか会えてなくても会社は成立するし、ビジネスは成功する。そのための必要なのは文章能力であり、自社にとって最高の能力を場所に縛られず集めるかということをはっきりと宣言してくれます。
日本のIT業界は特に東京、シリコンバレーといった場所への執着の強さがひどい状態です。あたかも、そこでネットビジネスをやらないと成立しない、みたいなことを平然と言ってきます。場所に依存しない本当のプロは「東京ローカル」「シリコンバレー磁石」と揶揄しそういう発想にクギを差します。日本にも当然、個人の能力を尊重し、ネットを活かし、メールやIM、そして独自のウェブサービスで組織を成立させている企業が存在します(筆者も長年お世話になっています)。彼らはよくIT業界人がいう「大切なことは必ず対面で」みたいな迷信を信用していません。
シリコンバレーには、大きな企業も沢山ありますが、アップルしかり、HPしかり、グーグルしかり、有名な企業は軒並み、小さなトレーラーハウスやガレージを使い、限られた人材があれもこれも兼務しながら優れた製品やサービスを生み成長してきました。小さい会社は、工数を減らすためにシンプルな製品ラインナップでスタートし、無理のないように質を高め収益化を果たします。アップルのシンプルさは、創業当時のシンプルさを未だ彷彿とさせてくれる点で本当に優秀だと思います。
日本も、東京のみならず、地方にも優秀な人材が山ほどいます。あえて地方に人材を調達しにくる会社もあるという話も最近聞くようになりました。こんな狭い国土なわけだから、一極集中に固執することなんてないわけです。むしろ地方でスリムな組織として生まれ、そのまま地方で世界展開をする企業がどんどん出るべきだし、出ないとおかしい。固定観念を打ちやぶることで、「小さなチーム、大きな仕事」を実践できるチャンスはいくらでもあるわけです。今こそこの本を手に取り「新しい仕事の定義」をみんなでやっていこうじゃありませんか。
[公式] 37signals,LLC.
小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)
著者:ジェイソン フリード
販売元:早川書房
発売日:2010-02-25
おすすめ度:
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(増田(maskin)真樹)
1990年より執筆およびネットメディアクリエイターとして活動を開始。
週刊アスキーを初め、日経BP、インプレス、毎日コミュニケーション、ソフトバンク、日経新聞など多数のIT関連雑誌で活躍。
独立系R&D企業のマーケティング部責任者の後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの立ち上げに参画。
ネットエイジでコンテンツディレクターとして複数のスタートアップに関与。ニフティやソニーなどブログ&SNS国内展開に広く関与。
現在、複数のメディア系ベンチャー企業にアドバイザー・開発ディレクターとして関与。大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。
書き手として、また実業家として長年IT業界に関わる希有な存在。
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