ユーザー参加型メディアをボランティア論で理解する【鈴木良和】

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ミネソタ大学大学院でユーザー参加型メディアの研究をしている鈴木良和さんから寄稿していただきました。ありがと!

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ミネソタ大学大学院
鈴木良和(ブングマン)

初めまして、ミネソタ大学大学院ジャーナリズム・マスコミュニケーション校で、ユーザー参加型メディアの研究をしている鈴木良和(ブングマン)です。日本の広告業界からアカデミアに身を移し、研究を通じて発見した事を皆さんと共有したいと思い寄稿をさせていただきました。様々なソーシャルメディアを含む「ユーザー参加型メディア」は、まだぼんやりとした、様々な定義が存在するものです。しかし、逆にいえばそれは様々な切り口から理解することが可能でもあります。「ユーザー参加型メディア」を理解するために便利な「考え方」を、数回に分けて紹介していきたいと思います。

(1)この記事における「ユーザー参加型メディア」の定義

さて、本題に入る前に、そもそも「ユーザー参加型メディア」というものを定義しなくてはなりません。(ここで提示する定義は、ヘンリー=ジェキンス、クレイ=シャーキー、ヨカイ=ベンクラー、そしてローレンス=レッシッグの著書に書かれている内容を要約したものです)。まずは「ユーザー参加」ですが、この記事ではソーシャルメディアを前提とした「能動的参加」を指したいと思います。つまり、ユーザー自らが何かを形にしたり、何らかの形で直接貢献することです(例:ネット上のチャリティーへの参加、集合知への貢献、オープソースソフトウェア開発、ウィキペディア記事の作成/編集、など)。また、これらの例から分かるように、「ユーザー参加」の結果はさらに大きなプロジェクトへの貢献でなければなりません。つまり個人ブログの執筆など単体で完結するアクションは含みません。また、その行動は仕事や強制されて行う事ではなく、個人の自由な選択によって行われるアクションを指します。

さて、次は「メディア」ですが、この言葉は一般的に理解されている「情報やデータを管理、配信するためのチャンネルやツール」という風に定義をしたいと思います。インターネットの普及以前は、俗にいうマスメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)に限られていましたが、この記事はソーシャルメディアを前提としているので、媒体という考え方に捕われない、あえてオープンな定義を使用します。

まとめ:「ユーザー参加型メディア」とは、「何らかの大きなプロジェクトを共同的に形成するために、ユーザーが自分の意志で能動的に貢献できるチャンネルやツール」です。概念的定義だけでは分かりにくいかもしれないので、いくつか例を挙げると、前述したネット上のチャリティーへの参加、 集合知への貢献、オープソースソフトウェア開発、ウィキペディア記事の作成/編集のほかに、製品レビューの作成、クラウドソーシング、livlisなどのソーシャル物々交換サービスなども当てはまると筆者は考えます。

(2)「参加」という行為の現実:ロングテールの矛盾


さて、では次にユーザー参加型メディアが今までどう語られてきたのか、そして実際はどうであるのかを考えてみたいと思います。

前者ですが、ヘンリー=ジェキンス、クレイ=シャーキー、ヨカイ=ベンクラー、ローレンス=レッシッグなど、デジタルメディアに関する(一部学術的)著作物を出版している、いわゆる先駆者的著者達の文献を見る限り、だいたい一貫して「ユーザー参加型メディアは革命である」と言った論調が目立ちます。例えばハーバード・ロー・スクール教授で「The Wealth of Networks」著者のヨカイ=ベンクラーはCommons-based Peer Productionという言葉を用いて、ユーザー参加型メディアを、ユーザー同士が市場経済の原理に捕われずに社会のニーズを満たすコンテンツを生産できるボトムアップ的生産システムだ、と記しています。これは「ユーザーが自発的に、そして共同的にコンテンツを作り、社会にある程度の影響力を持つコンテンツを生み出す事が可能になった」、という面でユーザー参加型メディアを画期的と捉えていると言えます。

例えば、ヘンリー=ジェンキンスの著書「Convergence Culture: Where Old and New Media Collide」の中にSurvivor Spoilerというオンラインコミュニティーが紹介されています。このコミュニティーはアメリカの人気リアリティーショー「Survivor」のネタバレに莫大な時間と労力を割くユーザーの集まりで、彼らは公には明らかにされていない番組のロケ地、次期シーズンのキャスト候補の情報などを、衛生写真からストーキングの手段を用いて探索し、そのネタをネット上でバラしています。興味深い事に、「Survivor」のプロデューサーは彼らのネタバレをもとに番組の編集方法などを随時調整していて、ネット上で行われている共同的な生産活動がリアルに確かな影響を及ぼしている事が良くわかります。このように、「ユーザーの能動性」、「ボトムアップの生産」、「社会の役に立つものを作る」というような観点から、日本でもソーシャルメディアやユーザー参加型メディアは注目を浴びています。

一方、上記のような定性的文献や研究ではあまり語られないユーザー参加型メディアのもう一つの一面をあなたはご存知でしょうか?それはユーザー参加の冪乗則分布(power law distribution)という現象です。冪乗則とは統計モデルの一つで、一般的にはクリス=アンダーソンの著書「The Long Tail: Why the Future of Business is Selling Less of More」によって「ロングテール」として知られています。このロングテールという現象は、アンダーソンの著書内ではAmazonを例に、オンライン店舗の在庫管理・物流コストの観点から一部の「ドル箱」商品よりも大多数の「ニッチ商品」から売り上を集積するビジネスモデルを提唱するときに使われたものです(図1参照)。

図1
図1

実はこのロングテールが、ユーザー参加型メディアの「参加」という現象にも当てはまる事が最近の定量的研究で明らかになっているのです。ユーザー参加 の場合のロングテールのグラフはこちらです(図2参照)。

図2
図2

冪乗則のグラフ自体に変化は有りませんが、X軸とY軸の表記が変わるところに注目してください。研究によってコンテキストは異なりますが、総じてX軸は「プロジェクト数」、Y軸は「参加ユーザー数」となります。要するに、ユーザー参加型メディアの場合、ごく少数のプロジェクトに大多数のユーザーが集中し、大多数のプロジェクトはごく少数のユーザーのみでしか支えられていないことになります。

こう考えると、ユーザー参加の場合のロングテールは決して良い現象でない事が分かります。なぜなら、ほとんどのプロジェクトは参加者数が少ないという意味で、サステナビリティー(持続可能性)の観点からいうと瀬戸際に有るからです。メディア学者のアクセル=ブランズも最近の著書で、「一つのウィキペディアのような規模のプロジェクトの影には、何かしらの理由で興味とコミットメントを持った参加者を十分に集められなかったイニシアチブが数多く存在する」(p. 25)と記しています。

まとめ:ソーシャルメディアを含むユーザー参加型メディアは、確かに従来の情報やコンテンツ生産の過程を考えると、ユーザー側から社会的に意味のあるモノを生産できるという「ボトムアップ」的な意味で画期的な変化です。しかし、ユーザー参加型のメディアの大多数はごく少数の参加者でしか構成されておらず、世間的に幅広く認知されているプロジェクト(例:ウィキペディア、Apache、Mozillaプロジェクト、など)を除いては持続可能性に疑問がもたれる、非常にデリケートな状態であると言えます。

(3)では、どう人を動かすのか:ボランティア論という考え方
実はここからが、少なくとも筆者にとっての本題です。どうすればユーザーをもっと参加させられるのか。どうすれば市場経済が生産しないような、しかし社会的に有意義な小規模プロジェクトを大きくサステナブルにできるのか。これらの答えを探し当てるには 、まず「なぜ人は参加するのか」という動機の部分を理解しなければなりません。最初にも書いたように、「ユーザー参加型メディア」は様々な切り口から理解することが可能です。今回は社会心理学から「ボランティア論」を応用して、ユーザーが参加型メディアに参加する動機に付いて考えてみたいと思います。

そもそもなぜ「ボランティア論」なのか。それは、「ユーザー参加型メディア」と「ボランティア」が概念的に似ているからです。Snyder & Omoto (2008, p. 2) によると、ボランティアにはそれを定義する6つの要素があります。
ボランティア活動は…

  • 自由意志によって行われなければならない
  • 目的を持った能動的な、定められたコーズのための活動でなければならない
  • 一定期間のコミットメントでなければならない
  • 行動の動機が報酬の獲得、または懲罰の回避であってはならない
  • 助けを求めている人のための行動でなければならない
  • エージェンシーや団体を仲介している

ぱっと見て分かるように、ユーザー参加型メディアの定義と類似している部分がほとんどですね。この概念的類似性から、「ボランティアに参加する動機もユーザー参加型メディアに参加する動機と類似している」という仮説を立てます。

では、いよいよボランティアに参加する動機の話です。これもまた6つの要素から構成されています。Clary, et al. (1998, p. 1517-1519) によると、

  1. Values = 価値観
  2. Understanding = 新しい知識、体験を得る欲求
  3. Social = 社会的動機
  4. Career = キャリアップ
  5. Protective = 罪悪感、劣等感の回避
  6. Enhancement = 達成感、成功体験

ちなみに、これら6つの要素はそれぞれ単独で作用するのではなく、全てが少しずつ、動機としてボランティアの行為を促します。では、上から一つずつ見ていきましょう。

(1)は、『困っている人が居たら助けるべき』という価値観。 
(2)は、普段の生活では体験できない事、もしくは得られない知識をボランティアを通じて得たい欲求。 
(3)は、知り合い、友達、大切な人がボランティアを大事に思っているから、もしくは既存の人間関係に好印象を与えたい欲求 
(4)は、キャリアップにつながる体験、知識を得たい欲求
(5)は、ボランティアに関わらないことによって生じる罪悪感、または自己嫌悪を回避したい思考 
(6)は、ボランティアをすることによってフィールグッドしたい、自己を満たしたい欲求

つまり、「ボランティア」と「ユーザー参加型メディア」の概念的類似性から、以上6つの要素はユーザー参加型メディアに参加する動機であるとも仮説することができます(ちなみに、筆者の現在の研究はこれを立証することです)。

では、ここまで論理的には問題ないはずので、仮にこれら6つの要素が実際にユーザー参加型メディアに参加する動機であるとしましょう。その場合、「ユーザー参加型ロングーテール」の中に数多く存在するサステナビリティの危ういユーザー参加型メディアを活性化させる(もしくは新しくユーザー参加型メディアを作る)には、以上の6つの動機の要素を直接「訴求ポイント」に設定すれば良いのです:
(1)ターゲットが元々もっている価値観に訴求する
(2)普段では体験できないセンセーションを訴求する 
(3)『みんなやっている』、バンドワゴン的な訴求をする 
(4)これをやると、キャリアアップに繋がる事を訴求する 
(5)参加しないことによる罪悪感をかき立てる
(6)今まで味わった事のない達成感を醸成する
様々な角度からユーザー参加型メディアを活性化ができることが明確になった思います。当然、どれか一つをえらぶ必要はなく、いくつかの動機を組み合わせる事も可能です。

まとめ:「ボランティア」と「ユーザー参加型メディア」は概念的に類似したもので、ボランティアに参加する動機はユーザー参加型メディアに参加する動機と極めて似ていると仮説できます。その場合、ボランティアに参加する6つの動機の要素を「訴求ポイント」に、ユーザー参加型メディアを運営・プロモートしていくことが活性化、そしてサステナビリティの向上につながると考えられます。例えば、ソーシャルメディアを利用したチャリティーなどは(1)価値観、(3)バンドワゴン的感覚と(5)参加しない事への罪悪感と組み合わせた訴求で参加者を募ったり、livlisなどのソーシャル物々交換サービスは(2)普段では体験できない新鮮さと(6)今まで味わった事のない達成感を組み合わせてプロモーションを行ったり……。と言ったように、ユーザー参加型メディアを活性化させるための様々な組み合わせと可能性が生まれます。

今回は「ユーザー参加型メディア」の定義、「参加」という概念の現実とロングテールと矛盾、そしてどうすれば人を動かせるのかという疑問を「ボランティア論」の考え方を応用して考査してみました。先にも記したように、 ユーザー参加型メディアは様々な切り口から理解することができ、ボランティア論はその一つでしか有りません。モノの定義(本質)を見極め、それに似た現象と照らし合わせることにより、今まで気づかなかった観点から物事を見つめる事が出来る事を少しでもご理解いただければ嬉しいです。これからも、ソーシャルメディアやユーザー参加型メディアを理解するための様々な「考え方」を紹介していければと思います。

参考文献
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Benkler, Y. (2006). The Wealth of Networks: How Social Production Transforms Markets and Freedom. New Haven, CT: Yale University Press.
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Bruns, A. (2010). Distributed Creativity: Filesharing and Produsage. In S. Sonvilla-Weiss (Ed.), Mashup Cultures (24-37). Germany: Springer-Verlag/Wien.
Clary, E. G., Snyder, M., Ridge, R. D., Copeland, J. T., Stukas, A. A., Haugen, J. A., & Miene, P. K. (1998). Understanding and assessing the motivations of volunteers: A functional approach. Journal of Personality and Social Psychology, 74, 1516-1530.
Jenkins, H. (2006). Convergence Culture: Where Old and New Media Collide. New York: New York University Press.
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Shirky, C. (2008). Here Comes Everybody: The Power of Organizing Without Organizations. New York, NY: Penguin Press.
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Sun, T., Chen, W., Liu, Z., Wang, Y., Sun, X., Zhang, M., & Lin, C. (2010). Participation Maximization Based on Social Influence in Online Discussion Forums. Microsoft Research. Retrieved from: http://research.microsoft.com/apps/pubs/default.aspx?id=140935

21)著者プロフィール:

鈴木良和(ブングマン)
ミネソタ大学大学院ジャーナリズム・マスコミュニケーション校修士課程2年 24歳

西町インターナショナルスクール、アメリカン・スクール・イン・ジャパンを卒業後、渡米。私立グスタヴァス・アドルファス・カレッジで経済学・心理学学士を取得後、日本に帰国し株式会社アイ・ディ(旧TYO Interactive Design)に入社。アシスタントディレクターとして、アドフェス、The Webby Award、New York Festivalsなどの広告賞受賞作品のプランニング、ディレクションに関わる。現在は、「ユーザー参加型メディアに参加する動機」を研究する傍ら、Seesmicの日本語翻訳スタッフやフリーのバイリンガル声優・ナレーターとして活動中。

Twitter: @bunguman
Facebook: http://www.facebook.com/bunguman
Website: http://www.bunguman.com/jp/

蛇足:オレはこう思う

僕自身、TechWaveを参加型メディアにしたいと思っているし、こんなふうにいろんな人からの寄稿や支援でなんとか成立しているわけなので、非常に面白く読ませてもらいました。めちゃくちゃ面白かった!

そうだよなあ、経済の市場原理という観点でブログメディアが成立するかどうかを考えるべきではなくて、お金とは別の動機で成立するメディアというものをもう少し強く意識して運営していかないとならないんだなと再確認した次第です。鈴木さん、ありがと!

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