「世界で年間1億個のゴミが拾われるプラットフォームに」PIRIKA・小嶌不二夫【本田】

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【Founder’s Story】
気になるサービス、話題のサービス。なぜそのサービスを立ち上げたのか、そこに至る過程や今後の夢について当事者に語ってもらうシリーズ。第一回目は、PIRIKA創業者の小嶌不二夫(こじまふじお)さん。

This article in English: Becoming a platform for picking up 100 million pieces of trash a year worldwide” PIRIKA/Fujio Kojima

pirika PIRIKA(ピリカ)とは「世界中のゴミを拾いつくし、世界をきれいにする」ためのWEBサービス。拾ったゴミをiPhoneやAndroidアプリで撮影・共有することで、ゴミ拾いの輪を広げていく仕組みである。※PIRIKA=きれい、美しいという意味のアイヌ語。

 このコンセプトを聞いて、皆さんはどう思われただろうか? 私は、久しぶりに面白いサービスに出会ったと感じた。美味しい料理を共有するサービスや、チープなフィルター効果で飾り付ける写真共有アプリは多数あれど、わざわざゴミを拾って撮影までさせるとは、一体誰がやるんだ!? でもだからこそ面白い、これぞアートだとも思う。ではなぜ、何のために? 尽きぬ興味を抱きつつ、PIRIKA CEOの小嶌不二夫さんとCTOの綾木良太さんに話を聞いた。

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PIRIKA CEO小嶌不二夫氏(右)とCTO綾木良太氏(Photo:Masahiro Honda)

地球環境と世界を見つめるー起業に至る道

大学院入学からベトナム時代

 小嶌の最も目立つ経歴を取り上げると、京都大学大学院エネルギー科学研究科を中退し起業したことだろう。

 「小学生の頃から環境問題に取り組みたかったが、それは研究職として考えていた。大学4年生の時、色々なジャンルの起業家と出会って、ビジネスの面白さに気が付いた。環境のことはやりたかったので、それをビジネスの世界でやりたいなと。」

 「この研究科を選んだのは、ブランド、潤沢な予算、自由な研究室に優秀な人材が揃い、ギリギリ自分が入れそうなところというのが理由。ほとんど休学し2年半かかって中退したが、最初からビジネスを起こす気で入り、卒業はしないつもりだった。」

 大学院休学中に縁あって飛び込んだベトナム。環境ビジネスのマーケットがシフトしていく新興国を早い段階で経験したかったことと、当時読んだ本には、社長になるには営業が出来ないとダメと書いてあったことが理由という。

 仕事は広告の新規開拓営業。現地のタウンページを見てテレアポをし、英語を話せる担当者に訪問しては商談。これを繰り返す。失敗してもやり直せる、いざとなったら国を変えてもいいという割り切りが功を奏し、2ヶ月目からトップの営業マンに躍り出た。

 営業マンとしての自信以外にもう一つ得られたことは、現地目線に立つことの重要性だと小嶌は語る。

 「日本から見ると、ベトナムは空気が汚れている、何でガンガン木を切るのかと思う。でもそれは向こうに住んでみると当たり前の発想で、もっと豊かな生活がしたい、クーラーの聞いた部屋で寝たい。彼らの現実の生活に乗っ取り、彼らの意志を汲んで上手いことシステムを設計してあげないと、決して環境問題は解決されない。」

帰国後ー最初の起業に失敗

 短期間であったがベトナムで営業経験も身につけ、帰国後に最初の起業準備を始めた小嶌。

 友人と共同生活を始め、アイディアを考えては調べることをズルズルと続ける日々。パートナー同士がお互いに甘えてしまい、何とかなるだろうと本気になり切れなかったことや、ベトナムで経験したにも関わらず、足を動かすことなど実際に仕事をする際の面倒なプロセスを避けていたことが理由だと小嶌は当時を振り返った。起業に対するマインドは成熟していなかった。

2ヶ月半の世界一周、そしてPIRIKAの原型が生まれる

 休学の期限も残りあと1年となった2010年秋、小嶌は2ヶ月半の世界一周旅行へと旅立つ。休学期限が終わったら、就職して親を安心させないといけない。それまでに何かやりたいが、明確なアイディアが見つからないという焦燥感にかられた旅だった。

 「環境問題にこだわっているのは本物かな?という不安を、現場を見ることで確かめたかった。環境への意識はテレビや本によるもので、実際に自分が見たわけではなかったから。現地で実際に肌で感じて、もし違っていたら、自分の人生の大事な時間を掛けるにはもったいないから、それをちゃんと見極めようと。世界一周の時も出来るだけ新興国や自然がきれいな所選んだ。」

 色々な問題にアンテナを張り、メモをつけてはアイディアを練っていたと小嶌は語る。メモをつけると、思いついた瞬間は盛り上がるが、2-3日たつとダメになる。書いては消す、そんなリストが100以上出来たそうだ。だが、私が今の時点から振り返ると、道中で書かれた小嶌のブログには、既にゴミへの意識を強く感じさせる箇所がいくつも見られる。

リオデジャネイロはゴミのポイ捨てが酷い。でも、空き缶だけは落ちていない。空き缶はお金になるからみんな勝手に拾っていく。お金の回るビジネスやシステムを作れば環境は勝手に良くなる。要約するとこんな感じだった。(2010年10月21日)
http://ameblo.jp/kojimafujio/entry-10687854235.html#main

この日、朝食の席でご主人とインドの環境ビジネスの話しをしていて、「廃品回収がいいんじゃないの?」という話になった。確かにデリーの街はゴミに溢れているし、廃品回収なら他の多くの環境ビジネスと違ってあまり元手もいらない。(2010年12月2日)
http://ameblo.jp/kojimafujio/entry-10730876825.html#main

シンガポール人は全員英語がペラペラだと思っていたらカタコトの人も多いし、ゴミひとつ無い街を想像していたら、意外とゴミが落ちてる。(2010年12月4日)
http://ameblo.jp/kojimafujio/entry-10732223316.html#main

 結局、帰国したものの、本当に命を掛けられるものは見つからなかった。

 追い打ちをかけるようにプライベートでも上手くいかないことがあり、さらに焦燥感は強まる。研究室のマットに横たわり、「何をやっているんだ自分は。無職でニート、しかも世界から帰ってきたのに何も見つかっていない、もうダメだと思っていた。」(編注:ニートの定義は難しい。Wikipediaでの記述

 当時一番良さそうだったアイディアを無理矢理パワポに書き起こしてみると、意外に面白い気がしたそうだ。それが後のPIRIKAに繋がる最初のアイディア、 その時は「地球環境改善マップ」と名付けられていた。それを情報系の友達に見せたところ好反応を得て、プログラミングも教わった。2010年12月末のことだった。

 その後開発を進め、ゴミにフォーカスしたのは2011年2月の中頃。それはよりシンプルにした結果で、苦渋の選択だったと言う。「地球環境改善と大きいことを思うのは簡単だけど、現実を見ないといけなかった。大気を見ても日によって変わるし、川は近くに住む人が少ない。ゴミしか現実的に残らなかった。」

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拾ったゴミを写真に撮る小嶌(Open Network Labの前にて)

PIRIKAの今とこれから

IMG_3597 記事執筆時点でPIRIKAの利用は世界27カ国に広がり、1000以上のゴミが拾われている。また、第3回SFNewTechJapanNight準優勝やOpen Network Lab Demo Day最優秀賞受賞を始め、UCバークレーに拠点を置く環境系NGO”The Watershed Project“との提携など確実に評価も高まっている。インタビューは、PIRIKAのコンセプトや今後について及んだ。

―このサービスのポイントはどこか?
 「人が人の行動を見て影響されることが鍵。というのは、(PIRIKAを使うよりも)ゴミを拾うだけのほうが手間が少ない。写真を撮って投稿・共有する手間を加えたのはなぜかというと、それを見た人がまたゴミを拾ったり、影響されてゴミを捨てなくなったりする、そこが一番大事。」

―なぜユーザーはPIRIKAを使ってくれると思うか?
 「可能性を感じて使ってくれると思う。まだユーザー数が少ないので、ある意味変な人しか使っていないかもしれない。」

 インタビュー時点(10月中旬)でのユーザー数は概ね、DL:800強、ユーザー登録:550。1回でもゴミを拾ってくれた人:150、定期的使ってくれる人:30と、まだまだ少ない。

 目標は、「5年後には年間1億個のゴミが拾われるようなプラットフォームにする」とのこと。ちなみに、世界で1年間にタバコは4兆5千億本捨てられているという統計もあるそうだ。

―社会貢献系を目指すのか?
 社会貢献の要素を前面に押し出すことには懐疑的とのこと。「ビジネスモデル(後述)としてクーポンを考えた理由は、その方が友達に薦めやすいから。クーポンがあるからやっていると言えば、変に格好付けなくていい。『面白いから』でやって欲しい。いいことだからやってくれでは、使ってくれない。より多くの人を楽しませる要素を今必死に探しているところ。」

―世界中のゴミを拾ってもらうためには?
 そのためにも海外に出たいと言うが、いま日本でやることの意味の一つとして「ゴミが少ない日本だからからこそ拾いやすい」と説明してくれた。つまり、
 「もし目の前に一面ゴミがあったら拾わないが、一個だったら拾う。ある程度綺麗なのは、最初の段階では大事だと思っている。ベトナムやインド級のゴミにチャレンジするのは早いかもしれない。グループやイベント機能が付けらたら、そういうところに取り組んでいけばいい。」

―ビジネスプランで考えていることは?
 小嶌がこれまでに挙げてくれたビジネスプランは以下の3つ。
・位置情報連動広告
・店の周りを綺麗にすることによるクーポン
・企業ブランディングやCSR活用
 「例えば『マクドナルド ゴミ』で検索すると、家の前に捨てられて困っていたり、怒っていたりする人のブログが大量にヒットする。これはブランド毀損になる。マクドナルドには400万DLを誇る内製アプリからキャンペーンアプリをダウンロードさせるリンクがある。そこで、PIRIKAを使ってマックのゴミを拾うとクーポンや特典が出せないか。向こうのプラットフォームを活かせ、今までにない面白いキャンペーンが打てて、ゴミが集まる様子も見せることが出来る。」

組織・チームについて

 ここで開発担当の綾木も話に加わる。学部時代から情報科学を専攻し、プログラミングコンテストで世界一を獲ったこともある綾木は、現在大阪大学大学院を休学しPIRIKAの開発を担っている。

―小嶌と一緒にやる理由
 「研究職にも通ずるが、基本的に難しい問題を解くのが好き。チャレンジングであったほうが楽しい。そういう意味で、パッと人気が出て終わるようなゲームや、twitter、Facebook連携程度のものはすぐ作れる、そういうことはしたくない。また、既存のネット企業のエンジニアになる気はなくて、技術でやるならゼロからやりたい。基本的には、難しそうな、出口が見えないような、誰もやったことがないようなことをやりたかった。」

 「僕自身そもそもゴミを拾わない。今でもわざと拾わない。俺が拾うようなものを作らないといけない。共通の課題として、ITの力で人はゴミを拾うか?がある。解決できたら、それは凄い。」

 「技術というのは、誰かが浮くと誰かが沈む面があるが、このサービスにはそれがない。みんなハッピーになれる。そういう分かりやすいのが好きで、すごいチャレンジングだし。それが理由。環境問題には興味がなかった。(小嶌は)面白い人だと思うよ。」

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開発中のAndroid版を手に

終わりに

 世界への旅や、その年代特有の焦燥感など、ここには今も昔も変わらない若者の物語がある。

 小嶌は、自身を社会起業家でもITベンチャーの経営者でもなく、環境起業家と名乗っている。素直であり弱さも知っている一方、タフな面や行動力もある。また、それを冷静に見る仲間にも恵まれている。そこが、私が小嶌とそのチームに惹かれた理由だ。

 PIRIKAの魅力を一言で言うと、共有によって人が動きうる可能性を提示していることである。しかもそれが単なるレコメンドやコマースとは異なるところもいい。

 写真家である私の観点から続けると、ゴミを拾うとは、何かを残すことでなく消すことであり、PIRIKAはその代わりに写真でその痕跡を残している。それは「かつてそこにあった(=つまり今はもうない)」という、時間と空間に楔を打つ写真の根源を強烈に想起させる。たとえ被写体が美しいものでなかったとしても。

 PIRIKAを知ってからというもの、ゴミを見つけるのが楽しくなった。しかし、意外にゴミが落ちていないことが多い。落ちていても、拾えそうで、かつ近くにゴミ箱があるという条件の少ないことに気がつく。拾って撮って共有してゴミ箱に捨てて・・・これを世界中の人に使ってもらえるか、彼らの次なる展開が楽しみである。

著者プロフィール:本田正浩(Masahiro Honda)

写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。

技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。

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