「モチベーションの理解がゲーミフィケーション理解のコツ」―Gabe Zichermann緊急来日! Gamificationセミナー報告【鈴木まなみ】

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[読了時間:3分]

最近よく聞く言葉「ゲーミフィケーション」。ゲーム(やソーシャルゲーム)と何が違うの? まだ定着仕切れていないこの概念について、その道のエキスパートたちが集まったイベント。TechWaveコミュニティーから鈴木まなみさんに報告してもらいます。(本田)

鈴木まなみ
(@rin2tree)

 アメリカのGamification Summit(ゲーミフィケーションサミット)主催者の一人であるGabe Zichermannが来日。11月25日、株式会社ゆめみ主催の特別イベントに登壇した。
 

Gabe Zichermannのプレゼン

 Gabeは、アメリカで既に2回開催されているゲーミフィケーションサミットの主催者の一人である。過去2回行われたゲーミフィケーションサミットの知見と、世界的なゲーミフィケーションの事例を一番持ち合わせており、その辺を中心に話が進む。

■ゲーミフィケーションの定義

  • ゲームコンセプトとゲームメカニクスを繋いで、ユーザをエンゲージさせるプロセス。
  • ゲームが持つ最高のアイデアを使って、そのコンセプトをゲームを使わないようなところで適用すること。
  • バッジを単に置くことはゲーミフィケーションではない。

■なぜゲーミフィケーションは強力なのか?
①進歩している感覚を生む
 人間は、何かを習得したいという欲望をもっており、それは、以下のような段階を踏む(↓参照)。この段階は直線的ではなくループされており、フィードバックがまたインセンティブになり、このプロセスは何度も何度も繰り返される。このループを繰り返し行っていると自分がだんだんと習得している(成長している、進歩している)という感覚が生まれる。この進歩しているという感覚がインセンティブ(モチベーション)につながる。ゲームはこのステップににており、このプロセスを助けることができる。

p11Desire(欲望)
 ↓
INCENTIVE(インセンティブ)
 ↓
CHALLENGE(チャレンジ)
 ↓
ACHIEVEMENT/REWARD(達成/報酬)
 ↓
FEEDBACK(フィードバック)
 ↓
MASTERY(習得)


②ゲームは快楽を伴う経験(達成)をうみだす
 何かをしようとする「行動」は人を賢くし、達成が伴うと人は快楽を感じる(ドーパミンが分泌される)。快楽を伴う「経験」に対し、脳はさらにその体験をもとめ、行動に変化が生じる。ゲームはこの「人間の行動プロセス」と同じようなパターンを踏み、かつ最初の「行動」を生み出すことができる。また、ゲームをクリアした時、またはあるレベルに到達した時など、いくつかのプロセスを伴って得られる達成感にはポジティブなパワーがある。ポジティブな経験は行動に変化を与える。

 ガートナーグループは、2015年には50%以上の企業がゲーミフィケーションプロセスを採用するようになると発表している。この話は「gamification.jp」でも取り上げられているのでこちらも参照してほしい。
http://gamification.jp/others/2011/04/18/ガートナーのリリース:2015年に50以上の企業がゲー.html

■ゲーミフィケーション事例
 13の事例があげられたが、気になるものだけ紹介する。

  1. Rypple
    従業員評価システム。同じチームで働く人たちが互いに感謝の気持ちを交換しながら、目標への経過をリアルタイムで確認できる。これはFacebook社も採用しているシステムである。
    (http://wired.jp/2011/06/22/facebook社も活用、従業員評価システム『rypple』/)
  2. TARGET
    THE CHECKOUT SPEED。つまらない作業をGameにする。仕事を面白くするという概念。→社員の離職率を下げたり、顧客満足度を上げたりすることが出来た。
  3. Foursquare
    ドッジボールというLBSだけのサービスから、ゲーミフィケーションを入れ「楽しい体験」に主眼をおいた設計に変更し成功を収めている。
    (http://gamification.jp/speculation/2011/03/08/バッジ、ミッション、リレーション.html)
  4. ネクストジャンプ社
    社員にエクササイズをして健康的になって欲しいという目的で、社内にフィットネスを作り、そのプログラムの参加率を上げるために社内にゲーミフィケーションのコンセプトを取り入れた。その結果、それ以前は週2回・50%の参加率だったのが、週2回・80%の参加率に向上した。
    (http://gamification.jp/report/2011/11/08/ゲーミフィケーションサミットny-1日目7-gamifying-the-enterprise.html)
  5. Speed Camera Lottery
    制限速度を守ることによって宝くじに応募出来る権利をもたらすという遊び心を通して、ドライバーに制限速度を守らせるというアイデア。罰金ではなく、守ったことにより報酬を得られるという積極的な物に対して人は反応する。
    (http://gamification.jp/others/2011/09/22/より良い世界のためのゲーミフィケーション~制.html)
  6. ハイブリッドカーのダッシュボード
    エコにドライブすると森が茂る。エコなドライブを促進するため。ユーザーにエコであるというポジティブな感覚を提供する。
  7. JAY-Zの自叙伝をPRしたキャンペーン
    書籍を1ページずつに分けて街中に隠し、探してもらうというもの。早く見つけた人がいつでもライブに行けるインセンティブ。
    (http://d.hatena.ne.jp/y_sequi/20101020/1287575084)
  8. stackoverflow
    利他的というコンセプトが盛り込まれている。心からの行為=利他的な行為に対しては換金出来ないポイント=「カルマポイント」を提供することも重要である。
    http://www.ideaxidea.com/archives/2009/05/how_stack_overflow_works.html
  9. セールスフォース
    どれぐらい販売したかトラッキングして競争する。セールスチームのモチベーションアップ。
  10. Jimmy Choo(ジミー・チュウ)
    靴のメーカー。世界で初めてもらえる、世界中で6人だけが持てることが大切。インセンティブは、レアさやステイタス。

■2つの大切なコンセプト
①ユーザが何を楽しいのか?を理解することが大切
 楽しいと思うポイントは人によって違うので、「BARTLE’S PLAYER TYPE(バートルのプレイヤータイプ)」を使い、ユーザは何を楽しいと思うのか?を理解し、それによってゲームを設計出来る。しかし、ユーザは一つのタイプだけに属しているわけではなく、誰もがすべての要素を持っている。そして、一番当てはまるものがある。

「BARTLE’S PLAYER TYPE」とは、以下の4つに分けられる。

  • ACHIEVERS:高い得点を稼いだり、アイテムがすべて集まるような結果が出ることを好む。誰かが勝つ。
    →例:築地の競り
  • EXPLORERS:探求や研究が好き。冒険そのもの、新しい領域を開拓するようなプロセスを好む。ミッションクリア型のアドベンチャーなど。
    →例:スーパーマリオブラザースの隠れキャラ
  • SOCIALIZER:他のユーザと友好的な関わりを持つことを好む。
    →例:バリーガール(映画) ショッピングはソーシャルアクティビティ
  • KILLER:他のユーザに攻撃的な態度を取ることを好む。他の人を負けさせたい。
    →例:トランクルームのオークション(自分が欲しくなくても他人が欲しいものを阻止する)

p37

※BARTLE’S PLAYER TYPEについて →http://www.nickyee.com/facets/bartle.html

②お客様は何を求めているのか?を理解することが大切
 マーケターは無料や割引を人々が求めていると考え、それを提供しがちだが、そうとは限らないと説明。それらを求めていないわけではないが、特別なステータス、アクセス、パワー(レジに並ばなくてもいいチケット)などを取り込むことでより大きな利益を得ることが出来る。

 例えば、「A:スタバの無料コーヒー/B:レジに並ばなくてもいいチケット」があったらどちらを選ぶか? 経済学者であれば、合理的な選択肢である[A]を選ぶが、感情的には[B]を選ぶのが人間というもの。人間の本質は、感情的なことが経済合理性を上回る。感情は大きな意味を持っているので、人々の感情に訴えるようなデザインはとても重要。

 ゲームは我々の脳を変え、ドーパミンによって身体的な変化も起こす。そこには感情が伴い、自分にとって嬉しいことだと感じる。習得のプロセスや、ドーパミンの出方を学び、ユーザのモチベーション(動機づけ)を理解することで、ゲーミフィケーションの仕組みを理解することが出来る。

パネルディスカッション

 次に、以下5名によるパネルディスカッションが行われた。
 ・イケダハヤト(テックブロガ―)
 ・久保田大海(NHK出版教育文化編集部編集者)
 ・岡村健右(株式会社ループス・コミュニケーションズ ソーシャルゲームコンサルタント、ソーシャルゲームアナリスト)
 ・深田浩嗣(株式会社ゆめみ代表取締役社長、gamification.jp編集長)
 ・Gabe Zichermann

 まずは、ノンキャッシュリワード(金銭を伴わない対価)に関してディスカッションされた。キャッシュリワード(金銭による対価)は短期的には重要だが、長期的なエンゲージを高められない。エンゲージとは長期間に渡る繰り返しである。エンゲージを高めるために、ノンキャッシュのインセンティブをどうつけるのかは、ゲーミフィケーションにおいてとても大切だと久保田氏。

 キャッシュとノンキャッシュリーワードに関しては、久保田さんが先日楽天レシピとクックパッドを例にしたブログが大変参考になる。
・楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?
 http://hiromikubota.tumblr.com/post/12920370524/

 次に、単に数だけを増加させるプロモーション施策に対して、本当の意味での「内発的な動機付け」について語られた。本当の意味で共感を得ている例としては以下2つがあげられた。
・アメリカンエクスプレスの「フレンズ・オブ・ジャパン」(イケダ氏)
 https://www.facebook.com/americanexpressjapan?sk=app_178349795568572
・ニッセンさんの「ハピテラ」(岡村氏)
 http://happy.nissen.co.jp/

 最近よく見られる検定・診断系のアプリはファンが増えやすいが、本当のファンではないとイケダ氏。表面的な数字ではなく、本当の意味での共感やソーシャルポイント(他人から付与されるポイントで自分では稼げないポイント)を考えることの重要性と、その区別の難しさについて語られた。

 また、ゲーミフィケーションを考える上にあたってのキーワードとして、イケダ氏は①UX(ユーザエクスペリエンス)、②ソーシャルマーケティング(社会的な問題を解決するために使われるマーケティング)をあげ、その人の望ましい道への導線を引いてあげるための工夫の仕方が、ゲーミフィケーションデザインと重なる点が多いと考えているとのこと。

 Gabe氏は、UXとゲーミフィケーションの類似性と違いに関し、「似通っている部分はとても多い。しかしUXの人はゲーミフィケーションをツールと考える。我々が考えるのはモチベーションデザインである。その上で、「BARTLE’S PLAYER TYPE」は革新的なアイデアである。ゲーミフィケーションは、どんな人がどんなことに興味があるのか?何に刺さるのか?を考えると語った。

 では、どうやってユーザのことを理解、把握するのか。とにかくユーザへのヒアリングが大切である。Google Analyticsなどのアクセス解析データや、性別・年齢などのデモグラフィックデータに加え、ペルソナ(ターゲットとなる典型的な顧客)に対し、ワールドカフェなどの形式でインタビューをすると、ユーザの気持ちも分かりやすいと岡村氏。

 ゲーミフィケーションを利用して具体的に数字が上がった事例や、どんなKPIを持っているのか?という質問に対し、Gabe氏は、ゲーミフィケーション最大の問題は「すごい効果を期待されること」と指摘。ゲーミフィケーションの正しい使い方は、ユーザーとエンゲージを高めることであり、その指標を5つあげた。それは、

  1. リーセンシー(最後にアクセスされてからの時間)
  2. フリークエンシー(アクセス頻度)
  3. 滞在時間
  4. バイラリティ(このサイトのことを言及するか)
  5. ここに対してどう思うか?と聞いたときになんと回答するか

である。ここにセールス(売り上げ)は入っていない。ユーザーとエンゲージしセールスを上げることもあるが、セールスを直接向上させるものではないと強調した。

 また、ゲーミフィケーションは、従業員活性化などの社内利用の例が多いとの話もあった。事例説明でも「Rypple」の従業員評価システムや、「TARGET」の仕事を面白くするという概念でゲーミフィケーションを取り入れた例などに力が入っていたように思う。

 日本では、ゲーミフィケーションはコンシューマ向けのマーケティング的要素が強く認識されているように感じる。また、ゲーミフィケション特集の事例でゲームを取り上げるなど、違和感があるものも少なくない。その中で、今回のセミナーは本当の意味でのゲーミフィケーションの事例や、エモーショナルなモチベーションデザインの話など、表面的でなく、本質的なゲーミフィケーションの話がされたように感じ、大変勉強になった。

 また、ゲーミフィケーションを活用するにあたっての概念的な考えも含め、こちらにまとめたので参考にしていただきたい。
http://matome.naver.jp/odai/2132232513994910701

蛇足:めんどくさいこと言うよ
 私はいくつかのツール系のWEBサービスの設計をしてきた。その際に重要視していたのは、ユーザにどんな体験をしてもらうか、どう感じてもらうかである。
機能を追加するとすぐに競合他社にマネされる。そして、その機能があるから利用してくれているユーザはすぐに他社サービスにスイッチする。

 しかし、「体験」というのはなかなかマネできない。そして自分たちが提供するサービスの中で「いい体験」をすると、たとえ他社サービスの方が機能が充実していても、なかなか他社サービスにスイッチはしない。

 いい体験はロイヤリティを高め、サービスを利用するモチベーションにもなる。だからこそ、私はサービスを考える上で、誰でもわかるような○×表の機能比較的優位性ではなく、この「体験」を重視していた。今回のゲーミフィケーションセミナーを聞き、自分のそんな考えは、ドーパミンコントロールだったのか?と少し思ったりもした。

著者プロフィール:鈴木まなみ

2000年からITの世界に入り、 地図、乗換と生活に密着した便利系サイトのプロデューサーと、経営企画や新規事業企画などを担当。 今の興味はSOLOMOCO(Social Local Mobile Commerce)、テイストグラフ、ビッグデータ。

位置情報サービスの企画、コンサルします。連絡先はrin2tree[アットマーク]gmail.comまで。

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