「モバイルで世界的グレートカンパニーを目指す」 ソフトバンクと組んだインド財閥御曹司の野望【湯川】

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「SNSの覇者はFacebookで決まり。既に勝負はついている。でもFacebookはインドでは2億人ぐらいのユーザーしか獲得できないだろう。われわれは残りの10億人をいただく。実はそれこそが、非常に巨大なマーケットなんだ」「5年後にこの会社は失敗して消滅しているかもしれないし、反対にインド最大の会社になっているかもしれない。うまくいけば10年後には世界でもグレートカンパニーと呼ばれるようになっている可能性もある。いや冗談ではなく、本当にそう思うんだ」ー。

kavinbm 部屋に入るなり早口の英語でまくし立ててきた。Kavin Bharti Mittal氏。24歳。インドのBharti財閥の御曹司だ。

 重要な数字はすべて頭の中に入っているようで、携帯電話の普及率、各種ネットサービスの利用者数などの統計が次々と飛び出した。

 Bharti財閥は自転車の部品メーカーとして1976年に創業。その後、機械の輸入事業に着手、スズキのジェネレーターの輸入で大成功を収めた。1980年代後半には電気通信事業に参入、インドの電話会社最大手AirtelはBharti傘下だ。Airtelはインドのほかバングラデシュ、スリランカ、それに17のアフリカ諸国で電話事業を運営している。

 Bharti財閥は昨年10月にソフトバンクと50-50のジョイントベンチャーBhart SoftBank Holdings(BSB)を設立している。

「ソフトバンクとは去年の1月ごろから協議を始めた。Bartiはこれまで伝統的な事業を中心にやってきた。インターネット事業はわれわれにとって伝統的事業以外の最初のビジネス。なので豊富な経験を持つソフトバンクと組むメリットは大きい。一からネット事業を立ち上げようとしている競合に比べ、一気に4,5年先に進むことができたようなものだ」。Kavin氏は、ソフトバンクとの合弁事業の意義をそう語った。


 Bhart SoftBank Holdings(BSB)は、インドの首都ニューデリーの郊外の真新しいオフィスタワーの中にあった。大きな受付スペースには人影はまばらで、雰囲気は東京のオフィスビルというよりシリコンバレーのそれに近いかもしれない。

 BSBのCEOは、日本のソフトバンクから出向している大蘿(たいら)淳司氏が務める。Bharti財閥御曹司のKavin氏は新製品開発と戦略が担当だ。同氏はロンドンのインペリアル・カレッジ・ロンドン在学中にiPhoneアプリのメーカーを自ら起業した経験を持つ。同氏が友人と開発した「Movies now」はiPadのAppStoreで11位にランクインしたこともあるという。

 BSBが作成したインフォグラフィックスによると、インドには1億1200万人のインターネットユーザーが存在する。パソコンだけでネットにアクセスしている人が4000万人、携帯電話だけでアクセスしている人が1200万人。パソコン、ケータイの両方でアクセスしている人が6000万人だ。日本から見ればそれだけでもかなりの数だが、いまだにネットにアクセスしていない人が11億人もいる。ネット企業にとって巨大な市場が手付かずのままになっているわけだ。「われわれはこの層を狙う。この層が受け入れるようなすごいサービスを作ることができれば、莫大なビジネスになる」。

 では具体的にソフトバンクと組んでどのようなサービスを提供しようというのだろうか。「インドではITが社会のどんな問題を解決できるのか、という視点で考えることが大事。僕の中ではITの解決可能な領域は7つか8つは存在する。その中でまず3つの領域にフォーカスすることに決めた」とKavin氏は言う。

 昨年10月の発表によると、BSBは持株会社となり、傘下の事業会社がソーシャルメディア、ゲーム、eコマースの3つの領域に乗り出すことになるという。

ソーシャルメディア

 ソーシャルメディアはどのようなものを開発してくるのだろうか。Facebookの対抗馬を作ろうということなのだろうか。その問いに対する答えが冒頭の「SNSの覇者はFacebookで決まり」というコメントだ。

 Kavin氏によると、インドのFacebookのアクティブユーザー数は4200万人。そのほとんどがデリー、モンバイ、バンガロール、チェンナイといった都市圏に在住しているだという。

 「都市圏でのFacebookやGoogle+といったSNSの普及率は95%。一方で地方ではほとんどSNSは利用されていない」とKavin氏は言う。95%とはものすごい数字だ。母数が何なのかは分からないが、恐らくパソコンでインターネットを利用しているユーザーの95%がSNSを利用しているということなのだと思う。それだけソーシャルメディアはインドの国民性にマッチしているのだろうか。インド通の日本人からも「インド人はおしゃべりが大好き。ソーシャルメディアに向いている」という意見を聞いたことがある。

 それなのにどうして地方での利用率が低いのだろうか。

 インドでは、パソコンを利用しているのは都市部に住むホワイトカラーが中心。地方のユーザーのネット利用は、携帯電話が中心のようだ。

 「(携帯電話で)ネットにつながったユーザーはまずFacebookやGoogle+を利用しようとするんだけど、ちょっと使っては、すぐやめてしまう。なぜならサイトのデザインがPC的だから。PCに慣れているユーザーなら問題ないかもしれないが、ネット利用が初めてというユーザーにとっては、Facebookを携帯電話で利用するには機能が多過ぎるし複雑過ぎるのだと思う。インド人向けにサービスを作るのなら当然のことながら先進国のものとは異なる形でデザインされるべきだ。真似するのではなく、一から作らなければならないと思う」とKavin氏は言う。

 ソーシャルメディアの領域に関するプロダクトの具体的な話はしてもらえなかったが、こうした話からシンプルなデザインのコミュニケーションツールを打ち出してくるのかもしれない。イメージ的にはLINEのようなものなのだろうか。(関連記事:日本発のスマホアプリ「LINE」が2000万ダウンロード達成 Facebookの次を狙えるか【湯川】

コマース

 「2011年はeコマースの年だった」ー。広告系テクノロジー関連の見本市ad:tech New Delhiで基調講演を行ったメディア大手The Times of IndiaのNew MediaディレクターSatyan Gajwani氏は昨年のインドのネット業界を総括してそう語った。

 Flipkart、SnapDealなどといったインドのeコマースサイトが、中間層の拡大とネットユーザーの増加を背景に業績を急拡大させたからだ。これらのサイトはいずれも欧米で先行するeコマースサイトを単純に真似たものだった。

 今年1月にBharti SoftBankのサイトに掲載された「インドのインターネット景観」と題された文章は、これらのeコマースサイトの急成長をたたえながらも「モバイルという次の波に乗れるのだろうか」と疑問を呈している。

 このBSBの文章は「急成長するインドのモバイル人口の多くは、人生で一度もパソコンを見たこともないという人たち。そういうユーザーにとってPCサイトのモバイル版を提供するだけではいけない」としている。

 ではどのようなコマースのサービスを狙っているのだろうか。

 これも詳しくは教えてもらえなかったが、キーワードは「消費者と小売店舗の組織化」のようだ。Kavin氏は言う。

 「オンラインではなくオフラインのコマースの市場規模は、6500億ドル。巨大市場だ。小売店舗の95%は組織化されていない。これらの店舗をモバイルを通じてオンラインで組織化し、消費者に結びつけるにはどうすればいいか。インドに合った方法でこれができれば、大きく成長するのは間違いない」。

 携帯電話を通じて近くの店舗から配達してもらう仕組みだろうか。これはインドの市場を理解せずには想像もできない。

ソーシャルゲーム

「インド人は娯楽が大好きなのだと思う。でもテレビのない家庭も多い。そういう人たちにとっての娯楽はラジオが中心だ。そこに携帯電話が急速に普及し始めた。6億人といわれる携帯電話ユーザーの半分でもソーシャルゲームを始めれば、どうなるだろう。潜在市場は巨大だ」とKavin氏は言う。

 これもまた具体的な事業計画は教えてもらえなかった。ただ「インドの問題は、多様性にある。北部と南部では嗜好がまったく違うので、1つのゲームがインド全土に一気に普及するというのは難しいかもしれない。まあいろいろな方法を試してみたい。もし成功すれば、この領域は2,3年で急成長すると思う」とKavin氏は語る。

 恐らくは何らかのソーシャルゲームのプラットフォームを構築するのだろう。その上に乗るコンテンツに関しては日本を始めとする各国のコンテンツプロバイダーの協力に期待しているようだ。

 ソフトバンクの全面バックアップを受け、財閥の御曹司はソーシャル、コマース、ゲームの3つの領域でどのように世界に打って出るのだろうか

蛇足:オレはこう思う

 インド、それからアフリカを含む新興国の未来は、Kavin氏のような若きリーダーが引っ張っていくことになるのだろうと思う。

 シリコンバレーでの長年の取材経験を含め、これまで数多くの若きリーダーを取材してきたが、久しぶりに器の大きい若者に会った気がした。

 「御曹司」と呼ばれる人たちにありがちな、世間知らずで打たれ弱いイメージは彼にはない。父親の下で厳しく教育されたのだろう。周りの人たちも彼のことを「ハングリー精神に溢れている」「今後彼は父親の会社を大きく変えていくリーダーになると思う」と高く評価していた。

 インタビューのあと、「君はアジアのビル・ゲイツになるかもね」と告げたら、彼は「サンキュー」と少しはにかんだあと、「どうせならスティーブ・ジョブズって言ってほしかった」とつぶやいた(笑)。まだまだ青年らしい純真さも残っているようだ。

【お知らせ】インド関連のセミナーで講演します。テーマは「インドがシリコンバレーを超えると確信した根拠」

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