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参加型ニュースサイト「newsing(ニューシング)」、リアル店舗向けケータイサイト構築サービス「katy(ケイティ)」などといったサービスを手がけてきたマイネット・ジャパンが、ソーシャルゲーム事業に乗り出した。同社が手がけたファンタジー系カードバトルゲーム「ファルキューレの紋章」も滑り出しは好調だし、ソーシャルゲーム専門のブログメディア「Social Game Report」の運営も手がけている。
札幌で開催された国内最大級のインターネット関連カンファレンスのInfinity Venture Summit(IVS)で久しぶりに会った同社の上原仁社長は「遅ればせながら」と照れ笑いしながらも「日本のソーシャルゲーム産業を健全に真っ直ぐに世界へ出していきたい」と毅然とした態度で豊富を語ってくれた。
上原氏はなにがきっかけとなってソーシャルゲームに軸足を移したんだろう。
「前回のIVSです。ソーシャルゲームに関するパネルがあって、そこに登壇していた田中泰生さん(芸者東京エンターテイメント)の言葉がきっかけでした。彼は『インターネットビジネスやる人が、情報経済の人とお金が流れているソーシャルゲームという領域に踏み込まない理由が分からない』と語ったんです。そのとき本当にそうだな、と思ったんです」。
そこから上原氏の自問が始まった。上原さんは、別にソーシャルゲームに偏見があったわけではなかった。友人のネット企業の経営者たちが次々とソーシャルゲーム事業に参入する中で、「それも1つの道。でも僕はリアル店舗のプラットフォーム事業に専念する」と決めていた。選択と集中ー。上原氏は、リアル店舗のプラットフォームにリソースを集中することに決めたわけだ。
3年間の「集中」で、リアル店舗の実態に詳しくなった。坪単価で幾らの売上が必要になるのか、などといったリアル店舗経営者が持つような実務情報も身に着けていった。
しかし本当にそれだけでよかったのだろうか。
もともと上原氏はインターネットの「画面の向こうに人がいる。その人とつながれる」というところに魅了されてネットのビジネスで生きていこうと決めたのだという。「なのになぜソーシャルゲームを避けてきたんだろう」。自分でもソーシャルゲームをプレーしてみた。まったく違和感がなかった。
「これ、ウェブコミュニティやん、と思ったんです」。特にカードバトルゲームはウェブコミュニティそのものだったという。
ウェブコミュニティには言ってみれば共産主義的コミュニティ、資本主義的コミュニティの2つがある。参加者の間に階級は存在せず、だれもがフラットに交流するタイプのコミュニティが共産主義的コミュニティで、「2ちゃんねる」や「はてな」のコミュニティがその代表例だ。
それに対してソーシャルゲームのコミュニティは、資本主義的コミュニティ。富と名声の蓄積が可能で、社会と同じようなピラミッド構造がが、そこにはあった。「人の欲が見えるんです。より認められたい、お金もほしい。リアル社会で起こっているのと同じことがソーシャルゲームの中で起こっていたんです。ちょっとえぐいけどいいじゃない、人間だもの。画面の向こうに人がいて、普通の社会がそこにあったんです」。
以前は共産主義的なコミュニティ、フラットなコミュニティがネットのよさの1つだと考えていたが、「フラットさは絶対必須なものじゃないないなと気づいたんです」。ネットが社会に浸透していき多くの人が参加するようになれば、人は現実社会と同じようなものを作ろうとする。富と名声も欲しくなる。それはある意味、当たり前のこと。そう思うようになった。
本質はウェブコミュニティなのだから、もともとウェブコミュニティ開発のために集めたエンジニア、ディレクターをそのままゲーム開発要員に当てた。まったく問題なかった。彼らは、ウェブコミュニティを設計する感覚で、ゲームを開発していった。ゲームローンチ後にユーザーと対話しながら改良を続けていくという手法も、ウェブコミュニティ運営方法とまったく同じだった。ニュースをベースにしたウェブコミュニティ「newsing」、リアル店舗を巻き込んだウェブサービス「katy」を運営してきた同社スタッフにとって、ソーシャルゲーム運営は何ら特別なものではなかったという。
実際にゲームをローンチしてみると、やはりそこにコミュニティが形成され、コミュニケーションが発生した。ソーシャルゲームでは、共通の世界観、価値観を明確にデザインできるというメリットがある。「共通の価値観を持っている人同士だと、コミュニケーションが心地いいじゃないですか。ソーシャルゲームだと同じゴールを目指すという共通の価値観をデザインできるので、その場でのコミュニケーションが心地いいんです」。マイネットが開発したゲームの中では、「いい風ですね」というのがあいさつの言葉。「いい風ですね」という言葉を交わすだけで、心が通じるのだという。
「現実社会は価値観がバラバラ、どんどん多様化していっている。言語で意味は通じても心が通じていないことが多くなってきています。現実社会では同じ価値観の人と出会う機会はどんどん減っているのではないでしょうか」。そんな中、ソーシャルゲームは、心が通い合うコミュニティになりえる。心が通い合うコミュニティの存在こそが、ソーシャルゲームが作り出す大きな価値の1つになっているわけだ。
こうしたプラスの価値を持つソーシャルゲームなのだが、負の側面もある。ギャンブル性が強く社会的弱者から搾取しているという批判があるが、それはソーシャルゲームが持つ負の側面だろう。コンプガチャ問題は、まさにそうしたソーシャルゲームの負の側面に対する批判だった。
上原氏は、コンプガチャ問題が表面化したことが業界にとって非常にいい結果になったという。「大きな騒動になったおかげで、行き過ぎたものが調整された。儲けすぎる手法が遮断され自浄作用が働いたのは、すごくよかったと思う。これで業界としてもより本質にフォーカスしていくんだと思います。儲け過ぎではない、提供する価値に沿ったお金、ソーシャルゲームの価値通りのお金をいただきながら、長く使っていただけるサービス。それをみんなで作っていけるんだろうなと思っています」。「コンプガチャ問題のおかげで、ウェブコミュニティのコミュニケーションが正当な進化を続けられると思います」。
ソーシャルゲームを健全に、真っ直ぐに、世界へー。マイネット・ジャパンは全力で進み始めた。
めちゃくちゃ正しいと思う。その理由は、ソーシャルゲームは日本が世界に誇る産業になる#IVS【湯川】に書いた通り。
大事なのは上原さんの言う通り「提供する価値通りの代金をもらって、長く愛されるサービスを作ること」だと思う。
それができればソーシャルゲームはプラスの価値を社会に提供できるのだと思う。
Social Game Reportも英語で発信していくのだとか。すばらしい。TechWaveでもリソースがあればやりたかった。
健全に、真っ直ぐに、世界へ。
ぜひ頑張っていただきたい。