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O2O(オー・ツー・オー)というキーワードが流行っている。「Online to Offline」というフレーズを短縮したもので、オンラインつまりネットやスマートフォンから、オフラインつまりリアルの店舗に送客する技術や仕組み、サイト、アプリなどを総称してO2Oと呼ばれることが多い。
ではO2Oで成功しているところがあるかというと、だれもがすぐに思い浮かぶような成功例はまだない。そんな中、確実に成功を収めているのが株式会社ROIの各サービスだ。何が成功の秘訣なのか。それを解明するのには、各サービスを詳しく説明するより、同社代表取締役の恵島良太郎氏の経歴を見たほうがいい。同氏は自分自身の仕事の領域をインターネット関連と限定することなく、オフラインのオンラインを行ったり来たりすることでオン・オフの両方のビジネスで成功している。
同氏は1999年に大学を卒業後、POSシステムを開発している会社で2年半にわたってプログラマーとして勤務。社会人としてのキャリアは、IT業界から始まった。
その後、学生時代に仲間と海の家の経営に携わった経験を活かして、流通業界向けのコンサルティングファームへ転職。飲食店チェーンのコンサルティングを手がけるようになった。仕事の内容は、いわゆる店舗のスーパーバイザーで、幾つもの店舗を担当し、1店舗ずつ実際に訪問し店長と一緒に問題点を解決していく仕事だ。この仕事を通じて経営改善のコツをつかんだ。
飲食店の経営に自信を持った恵島氏は、コンサルファームを辞めて都内で自ら居酒屋の経営に乗り出した。狙い通り繁盛店にはなったのだが、ただ忙しいばかりで一定以上の成功を望めなかった。そこでよりスケールする仕事を求めて、2004年に再びITの世界に戻ることを決める。それが現在の会社、株式会社ROIだ。
その場でのクーポン表示不要、時間帯によって50%off
株式会社ROIの代表的サービスの1つ「ぐるリザ」は飲食料金が割引されるクーポンを取り扱うサイトだが、他のクーポンサービスとの最大の違いは、店頭でクーポンを表示する必要がなく割り引かれた料金があとから銀行に入金される仕組みになっているところ。接待やデートなどのように、人前でクーポンを出しづらい場面でも利用できるのがメリットだ。
ぐるリザは、次のような手順で利用できる。まずクーポンを利用するには、利用客側が「ぐるリザ」のサイト上で行きたいレストランと日時を選択し、IDを取得。その後電話かネットをつかって「ぐるリザ」経由でレストランに予約を入れる。予約した当日になればレストランに出向き、食事。その際に、料金をその場で満額支払う。帰宅後に「ぐるリザ」のサイト上で申請し、実際にその日時に申請通りの来客が飲食店側で確認されれば、利用客にポイントが付与される。そのポイントを交換すれば現金が指定の口座に振り込まれる。そんな仕組みだ。
インターネット上のコミュニティやグループのオフ会、セミナーの懇親会などの幹事役の人が利用するケースが多く、昨年の忘年会シーズンには最高で月額約70万円を稼ぎ出した人もいるという。おもしろいところでは、銀座のクラブのホステスの間でも利用客が増えているという。クラブの客と、クラブの外で食事するときなどに利用されているようだ。
株式会社ROIに食事代の10%が入る仕組みになっており、専属の営業マンを抱えることなく口コミだけでサービス開始から1年経たずに2000店舗までに広がったという。
恵島氏がこのサービスを考え出すのに当たり、自ら店舗経営の経験が大きく活かされているという。飲食店が最もリーチしたい人は、宴会などの幹事。一人にリーチするだけで多くの利用客を連れてきてくれるからだ。なので、その場でクーポンを表示する必要がないことなど、幹事役の人が利用したくなるようなサービスのあり方にこだわった。
「ぐるリザ」のクーポンは、来店時間によって割引率が変わる。客の少ない早い時間や遅い時間に来店すれば、割引率が50%を超える場合も少なくない。これも客の少ない時間帯にクーポン客を呼びたいという店舗側のニーズに応えたものだ。
データから見えてきた次のヒットの兆し
株式会社ROIのもう1つの主力サービス「ファンくる」も、恵島氏のリアルの店舗での経験が活かされている。飲食店のスーパーバイザー時代に100店舗ほどの経営を監督していたのだが、事前調査もなく1店舗ずつ訪問していても非常に効率が悪い。そこで店舗の覆面調査のサービスを利用していたのだが、これが結構な高額。しかも出てくる意見は、覆面調査専門家の一人の意見でしかない。多様化する消費者ニーズを捉えきれているのかという疑問があった。
よりコストパフォーマンスよく覆面調査を実施し、しかも飲食店の利用客を増やす効果もあるのが、覆面調査を切り口にした飲食店と消費者のマッチングサイト「ファンくる」だ。
覆面調査に協力する代わりに食事代の50%のキャッシュバックを受けることができるという仕組みで、サイトには既に50万人が登録しており、毎月1万人のペースで登録者数が増えているという。
利用客は、まずサイト上で自分の属性を登録し、行きたい飲食店を選択しておく。事前に「以前にこの店を利用したことがありますか?」「忘年会シーズンに幹事をする予定がありますか?」などといった質問に答えておかなければならない。
ただ全員が好きなときに好きな飲食店に行けるわけではなく、飲食店側の要望にあった属性の人の中から選ばれる仕組みになっている。また「このメニューを必ず食べること」「クーポン券を使わないこと」などといった規則もある。
選ばれた利用客は、指定された期間の間にその飲食店に出向いて食事をし、その後アンケートに回答。回答は「ファンくる」の担当者が目視チェックし、問題がなければ利用客の口座に現金が振り込まれる仕組み。
飲食店側にとっては、「30代の女性」というように自分の店のターゲット層の客がどのように感じているのかが、分かるというメリットがある。
また店舗の課題発見に加えて新規客を獲得という副次的効果もある。人は、自分の知らない店に友人を連れていかないもの。なのでまずは一度でも利用してもらいたい、と多くの飲食店は考えている。「ファンくる」の場合、登録の際に来店経験の有無を聞いているので、新規客だけを選んで覆面調査に送り込むことも可能なわけだ。
飲食店にとっての覆面調査の利用料金は、飲食料金の70%。それを株式会社ROIに支払い、50%は利用客にキャッシュバックされ、20%は株式会社ROIの取り分になる。
覆面調査に来た利用客が支払った飲食料金の30%が飲食店の取り分になるのだが、一般的に飲食店の食材原価は30%といわれている。つまり飲食店にとっては実質コストゼロ円で覆面レポートが手に入るわけだ。
こうした飲食店側の事情を知り尽くしたサービスだからこそ、後発ながら覆面調査レポート事業では業界ナンバーワンのシェアになっているのだという。
株式会社ROIでは飲食店だけではなく、美容室やエステなどの店舗の覆面調査も始めている。また飲料メーカーなどの依頼を受けてコンビニエンスストアでの飲料の新製品のアンケートにも「ファンくる」が利用され始めた。飲料サンプルを無料配布するよりも、リピーターになりやすいようなターゲット層に対してのみ新製品を試してもらえるというメリットがあるのだという。リサーチを兼ねた体験型プロモーションと見ることもできるわけだ。
「ファンくる」はコミュニティサイトなどにOEM提供し株式会社ROIはレシートのチェックなどの煩雑なバックエンドの事務作業を担当しており、こうしたOEM提供を通じた会員数を合わせると「ファンくる」会員は280万人にもなるという。
さてこうした覆面調査、アンケート調査の回答を目視していると、世の中の動きが見えてくる。回答データは分かりやすいようにベンチマークとなるよう有名店などのデータと比較できるように数値化されている。恵島氏によると、その数値データが突出して優れた業種が時おり現れるのだという。
5年前に急速に数値が高くなったのがホットヨガの店舗。しばらくするとホットヨガのブームがやってきた。世の中のブームが起こる前にアンケートの点数が上がったわけだ。「ブームになる前に実際に店舗を開業すれば成功するんじゃないだろうか」。そう思った恵島氏は注意深くデータを見続けたのだという。次に点数が上がり出したのが加圧トレーニングだった。「このときは加圧トレーニングの店舗をフランチャイズで出したいと思ったんだすが、フランチャイズ制がなかったので諦めるしかなかった」(恵島氏)のだという。
そしてその次に点数が上がり出したのがストレッチの店。プロのスポーツ選手のストレッチ体操を指導するトレーナーが作り出したプログラムに沿って客のストレッチを指導するお店で、店舗にいるトレーナーは一人ひとりが本部での200時間の研修を受け合格した人ばかり。本格的なストレッチ体操の店だ。このストレッチ体操の店のアンケート点数が突出し始めた。「これは、これから流行するに違いない」。そう考えた恵島氏は、ストレッチのチェーン店の社長にかけあい、フランチャイズを出させてもらうことにした。
それが2012年5月に麻布十番にオープンしたDrストレッチ麻布十番店だ。
もともとはプログラマーだった恵島氏が、飲食店というリアルな店舗の世界に移り、その中での課題を解決するために「ぐるリザ」「ファンくる」といったネットサービスを始めた。そしてその中で、次のリアル店舗のビジネスチャンスを見つけて、ストレッチの店をオープンした。オンラインからオフラインへ移り、そこから再びオンラインのサービスを手がけ、さらにまたオフラインのビジネスを手がけるようになったわけだ。
「一番の成功の理由は、現場をしっかり知っているということだと思います。現場にある課題を解決する手段としてインターネットを使う。現場で自分がほしいと思ったサービスを作るので、リアルな店舗に営業に行っても足蹴にされることなく興味を持って話を聞いてくれるし、使ってもらって喜ばれるんだと思います」と恵島氏は語る。
オープンしたばかりのストレッチの店に行くと、恵島氏か株式会社ROIのCTO(最高技術責任者)が受付に座って接客している姿に出会う。「お店にいると、予約がダブルブッキングされたり、バイトの子がドタキャンしたりとかいう問題が次々と起こるんです。僕からすればそれがすごく面白いんです。それを解決する方法を見つけることができれば、新しいビジネスチャンスになる。なので受付をしながら何が起きるのかを見ているんです」と恵島氏は言う。
オフラインから再びオンラインのビジネスチャンスをうかがっているわけだ。
恵島氏は今アジアを飛び回っている。オフショア開発の会社を現地に設立するためだ。「登記、人材採用、住宅、車の手配などで、苦労が続きます。でもこうした苦労を解決できるビジネスができるかもしれないので壁に当たるとワクワクするんです」
壁に当たるとワクワクするって、すごいなあ。ここまでくればもう無敵。成功するしかない心のあり方だと思う。
IT業界には「自分はIT業界の人間」と自分自身の活動の領域を限定している人が多いけど、インターネット関連の技術ってもはや特別なものではないし、IT業界というものももはや存在しなくなるんじゃないかなあ。どの業界にとってもITやネットの知識は当たり前になるだろうから。
だからもしITの仕事に行き詰まったら、従来型の業種に転職するのもいいかもしれない。あなたのITスキルを求めている業界って、山のようにあるだろうから。