新版「若者よ、アジアのウミガメとなれ」加藤順彦 氏の叫びを聞け【@maskin】

Asia, News, World加藤順彦

人口減少期に入った日本。人口x給与から算出されるGDPの数字は確実に減っていく。それは “がんばればどうにかなる” というレベルの話ではない。実業家・加藤順彦 氏は「現状5社が食えていた業界が、3社しか食えなくなる」とリアリティ溢れる言葉で語る。

内容を新たに出版された「若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録」の中の言葉だ。この講演は2011年4月にTechWave上に掲載されたコラム「「若者よ、アジアのウミガメとなれ」【加藤順彦ポール】」が基になっており、のべ100回を超える講演の末内容をアップデートして新たな書籍として出版された (無料のおためし版も公開中)。

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加藤氏はこう警鐘を鳴らす。「ものすごく優秀な人が集まっていても、衰退産業にいたら、どんどん衰退していきます」。それは国レベルでも同じことがいえる。さらに高齢化が進み社会全体が “普通” という名の同調圧力に屈するようになると、知ったかぶりが増え動かなくなる。さらには訳知り顔で批評し始める人が増えさらにおかしなことになる。社会の原動力である企業のエコシステムに自由度がなくなり、新たな産業や雇用の担い手である新たな起業家がつぶされるようなことが起きる。それはまさに現在の日本。自由さや理由のない時代の熱狂を忘れ、お山の大将の周りに群れている “今の日本” を体現する言葉のように思える。

「アジアというメガトレンドにのるべく、日本を出るべき」と加藤氏は言う。「海外で起業して成功した日本人を一人あげてください」と問われたとき、市場最大のIPOを仕掛けた中国のジャック・マー氏のような人物を思い浮かべることができるだろうか? もしそうでないのなら「 若者よ、アジアのウミガメとなれ」を片手に、シンガポール行のチケットを購入しにいった方がいいかもしれない。ただ、実は加藤氏も同じ質問をされた2004年に誰も思い浮かべられなかったという。だからこそ今、自分がそういった人物になれるように、日本の外から刺激を与えられるようになりたいとアジアで奮闘しているのである。

環境が人を作る

加藤氏は、学生時代に起業を経験し、25歳で広告代理店を創業。2008年に事業を売却後、シンガポールに移住している。学生起業の際は、大手企業の突然のルール変更に倒産に追い込まれ、自身で立ち上げた会社「日広」ではライブドア・ショック等を発端としたITスタートアップに対する逆風に耐えきれなく売却せざるを得ない状況となっている。個人投資家として国内で30社以上に投資をし8社が上場。シンガポール移住後は、20数社に投資をし一部では経営に参画するなど「アジアを駆けるウミガメ」の一人として意欲的な活動を続けている。

最近の日本で目立つスタートアップ起業家像といえば、子供の頃から勉学に励み目標意識が高く、比較的に裕福で高学歴といった生まれつきエリートといったタイプが典型的だが、加藤氏はそういう意味からすると異色だ。平凡な学生時代。もちろん大学は商学部なので商売に関心が無いわけはないが、アグレッシブなタイプではなかったそうだ。ところが真田哲弥氏(現Klab CEO)に出会い「かっこいい!」と男惚れしたことがきっかけとなり、リョーマやSYNといった学生企業・団体という異常づくしのコミュニティを存分に楽しみ、現在の加藤氏らしいスタンダード観を得ていったという。彼は「異常ともいえる環境が育ててくれた」と当時を振り返る。

加藤氏は、自ら模索しながら事業を育て社会の洗礼を真正面から受け続け生き抜いた生粋の事業家だが、すべてを自分たちが作り上げていったとは思っていないのだ。シンガポールに出たことについても「会社を失ったことが、大きな理由であり、きっかけ」と本書で説明する。なぜなら、単独ではメガトレンドを生み出すことはできないし、会社を簡単に捨てることもでできないからだ。もし、加藤氏がもっと年老いていても今のような活動はできないだろう。今、加藤氏がシンガポールにいるのは、東南アジアというメガトレンドがそこに横たわっているからで、その成長の尻馬に乗ることができたからだという。

大局を見据え成長の尻馬に乗れ

特にスタートアップなど新規事業を仕掛ける上でメガトレンドをつかまえる「大局観」を持つことは大切だと加藤氏はいう。この5−6年で急成長したスマートフォンのソーシャルゲーム戦争は、まさにこの大局観をいち早くキャッチできた企業が生き残っている。逆に、昔からのブランドを抱えた企業にはこうしたスピーディーな波に乗ることは難しく 、変化に対応できず衰退してくケースも多い。こうしたメガトレンドを逃さないためには高い意識を持つことはもちろん、今抱えているものを捨てるという挑戦も不可欠なのだ。実際、ガラケー事業を展開していたKlabがスマホにシフトして急成長した事例があり、本書の中でも紹介されている。

「日本国内で成長してから海外へ」とか「海外はリスクがあるから」と尻込みしている人もいると思うが、残念ながらメガトレンドそのものは別の場所にあるのは間違いない。また、これまでの日本は外資企業の脅威にさらされにくかったものの、既得権益を持った一部の組織が優遇される状況。大企業が突然のルールチェンジをしたり、一方的な工作で、多くの関連企業が破綻に追い込まれても泣き寝入りとなる極めて閉鎖的な環境にあった。少しずつ変容しているとは思うが、東南アジアで今後25年ほど続くであろうメガトレンドと乖離がありすぎるしスピードが違い過ぎるのだ。日本でもスタートアップシーンがあるが、世界の潮流から完全に取り残された状態にあるといっていいだろう。技術や経験の話ではない、意識とスピードの違いだ。だからこそメガトレンドの中に見を置くことが大切である、というのが本書の主張だ。

もちろん日本国外に旅立ったすべての人が成功するわけではない。それはあたかもウミガメのように、生き残った一部の者だけが帰ってきて、海外から富や希望を持ち込んでくることになる。目に見えない水平線のように感じるかもしれないが、今やネットとスマホの時代。橋をかけなくても人と繋がれる時代だ。この新たな時の流れ、爆発的に成長し変化する時代の流れに乗り損ねてほしくないと心から思う。

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【関連URL】
・若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録 | Amazon.co.jp
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4777118568/
・『若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録』 書きました。宜しくお願いします。
http://katou.jp/?eid=557
・「若者よ、アジアのウミガメとなれ」【加藤順彦ポール】 @techwavejp
http://techwave.jp/archives/51648514.html

蛇足:僕はこう思ったッス
maskin-bit-2016加藤さんは僕にとってのヒーローだ。感度高く快活でいつもまっすぐ前を向いて歩き続けている。とにかくスピードが早いから、時代の流れが止まって見えているんじゃないかと思うほどだ。とはいえ人の縁や人間の心のちからを信じておられるように感じることも常々。本書の名シーン「ベトナム・ホーチミンの朝に若者が早朝爆走を繰り広げる」ところがあるのだが、そのページを開くとなんとも新鮮が気持ちになる。この興奮、時代の熱狂みたいなものは、今の日本にはまったくない。けれども、こうした意味不明な熱意というのは人間として常に持ち続けなくてはならないのだろうと思う。さて、ところで、 僕がシリコンバレーに足繁く通い、最後1998年からの2〜3年間のスタートアップ期は現在の世界市場を予見させる出来事が多々あった。まず、当時の中国から渡米している人たちのアグレッシブさに驚いてた。大学などの教育機関で誰も解けない問題があったとして、必ず正解を導き出すのが中国人という話をしばしば聞いた。ある日、ある中国人の家に届け物があってその場にいってみたら、そこは安価なホテルだった。しかも1ルームに10人以上の人が寝泊まりしていた。どうやら家族や親戚まで応援にきているとのこと。今ではそうではないと思うのだが、2000年前後はそこまでウミガメ達を家族親戚全員で応援する気概があったようだ。また、関与していたスタートアップが資金調達に成功し、いよいよ開発を加速するぞと採用をかけて集まったのは、まずインド人チーム、CTOは韓国人だった。サポート部隊にロシア人やアメリカ人が入ったが。当時、ベイエリア(サンフランシスコからシリコンバレー南端の一帯)は10年もすればオリエンタルの街になると言われていたが、まさにその通りの状況になった。
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Editor In Chief at TechWave.jp
1990年代初頭から国内外のソフトからハードまで50以上のスタートアップ立ち上げを経験。平行して雑誌ライターとして疾走。シリコンバレーでガレージベンチャーに参画後は、ネットエイジを筆頭にスタートアップに多数関与。ブログやSNSの国内啓蒙、ソニーの社内イノベーション事業など関与。直近では通信キャリアのニュースポータルの立ち上げ期の編集デスクとして数億PV事業に育てた後、TechWaveにジョイン。世界最大のIT系メディアであるスペインの「Softonic」に参加後、2016年からTechWave第三章として新興メディアの開発を再スタート。国内最大規模のスタートアップ&B2Bイベント「アプリ博」のオーガナイザー。
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Posted by maskin


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