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社会現象とまで言わしめた「妖怪ウォッチ」のヒットには何が隠されているのでしょうか。レベルファイブ 代表取締役/CEO 日野晃博 氏は「クロスメディア施策により、IP(=intellectual property:知的財産)を世の中にアピールしていく」と語ります。
クロスメディア施策とは何か? 今も進化し続けているこの戦略の現在について、元ブシロード副社長 黒川文雄氏が展開する「黒川塾」の5周年記念イベント「クロスメディア戦略進化論2017」で紐解かれます。
日野氏は福岡の開発会社でメインプログラマー・ディレクターを経て1998年10月にレベルファイブを設立しました。レベルファイブではこの20年間で、ドラゴンクエスト8の開発、世界累計出荷1550万本を記録した「レイトン教授」シリーズを筆頭に、「妖怪ウォッチ」といった大きなタイトルを手がけ続けてきました。過去に発売したゲームタイトル46本の平均売上本数は98万5000本。社員数は現時点で300名弱ですが、ゲーム誌のメーカーランキングで4位、売上トップ10に3タイトルがランクインしています。
日野氏は「大きなタイトルにかからわせて貰いました。貴重な体験を20年の間やらせてもらいました。厳しいと思える状況が続いている中、ヒットが続いている運もあると思うのですが、規模が小さいにもかかわらずこの数字をアベレージで出せる力がある会社がレベルファイブ」と話します。
レベルファイブの特徴は「幅広いユーザーに向けたあたたかみのある作品づくり」に徹している点。日野氏いわく「子供向けの作品を作ろうと思って仕事を進めているわけではないんですが・・・」とするも、結果的にそういった作品に仕上がっていくのようです。また、年に1本の新シリーズを立ち上げるというモットーがあるといいます。
「稲妻、妖怪・・・ジャンルはこだわらず、常に新しいIPをやろうとしています。イメージが一点に集中してしまうと、ドラクエをやっている時は “ドラクエの会社” になってしまうんです。いろいろなことをやっていて、いろいろなことができる会社として世の中に知らしめたいと思っているんです。その中でも私たちならではのやり方がクロスメディア展開です。イナズマイレブンから展開してきたこのやり方が認められるようになり、現在も進化が続いているんです」(日野氏)
爆発的にヒットした「妖怪ウォッチ」では、ゲームのみならずテレビ番組や雑誌、映画、関連グッズなどの非常に幅広いジャンルで商品サービス展開が行われています。まさにこれが「クロスメディア施策」です。これがヒットさせる要因になっているといいます。「妖怪ウォッチ」が叩き出した数字はまさに社会現象。ゲームソフト950万本、妖怪メダルにおいては4.4億枚という驚愕の数字です。
「ポイントは “全方位クロスメディア” 。ゲームがあり妖怪コインがあり、テレビ番組がありテーマ曲があり、漫画や映画ある、さらにゲームセンターや店舗での展開があり、同時進行で世の中に展開していくことで、IPを世の中にアピールしていこうという考え方です。これをやることで、賑わい感を作り出すことができるんですね。
クロスメディア第一弾と位置づけられているのが「イナズマイレブン」、その次が「ダンボール戦機」、「妖怪ウォッチ」は第三弾です。初めてのクロスメディア作品「イナズマイレブン」については、ゲームとテレビ&映画などの展開で作品を模倣するサッカー少年が日本中にあらわれ、2番めのゲームソフトは160万本売れるというサッカーものにはない大ヒットを生みました。
しかし、イナズマイレブンの時は、おもちゃとの連動が弱かったという反省点がありまして、クロスメディア第二弾の「ダンボール戦機」では、作品に出てくるロボットと同じサイズのプラモデルを実際に販売して売上を伸ばしたりしたんです。
こうした積み重ねを続けたことで、最近ではクロスメディアのアクションが僕ら(レベルファイブ)のイメージになっているんです。僕らはゲームソフトを作る会社なのに、映画やテレビ番組をつくっている。映画をヒットさせるためにゲームをつくる、アニメをつくる、といった各種エンターテインメントがからみついて一つの作品になっていく。これまでの賛同者を得た有利な状況で、あらゆる方向に対して最初からメディア商品展開をしていくことが実現できたというわけなんです」(日野氏)。
「妖怪ウォッチ」の戦略には3つのポイント「テレビアニメ」「映画」「玩具」がありまして、TVアニメではスタッフ選定から、バラエティ番組のようなオムニバスコーナーの構造や番組内にシリーズものを用意するなどのアイディアをつぎ込みました。
よくあるパターンとしては「アニメはアニメ専門の会社にまかせればいい」と丸投げしてしまうケースがありますよね。けれど、レベルファイブはそうではない。自分たちで大部分を作っています。もちろんアニメのセルづくりは専門家にまかせることになるのですが、設定やアートワーク、シナリオは僕の管轄ですべてやっています。
オムニバス方式にしよう、バラエティにしよう、コントのようにサブタイトル出て、いろいろな話がはってくる形、アニメの中にシリーズを作ろう、などなど。TVアニメの構造を丁寧丁寧につくっていってヒットにつながっていったんですね。
野放しに「こういう企画でよろしくお願いしますね」としてしまうことが多いがそうではない。なぜここまでやるかというと、他のメディア(ゲームやまんが、玩具など)との連携ができなくなってないように、すべてが主役になるような構造をつくるということをやっているんです」(日野氏)。
テレビアニメの現場もクロスボーダー、当初はネタも許諾なし
「妖怪ウォッチ」のてテレビアニメでここまでやれたのは、シナリオまで細かく口出しして、アニメのスタッフを含め自分たちの仲間として活動してきたことがあるからだと思うんです。例えば、視聴者が考えた妖怪を登場させようとか、大人にも見てもらえるようなネタを入れようとか。
ただ、仲間意識が強すぎて、悪のりしすぎて苦情がきてしまう。
堂々とパクりますからね。
テレビ番組に登場した「ニャーミネーター」なんかもそうですが、最初のほうは、結構無断でパロディをやっていた。僕も、あー、もういいやいいやと言って全く許諾を取らなかったんです。
ところがこの方法に賛同してくれる人が出てきて、逆に“扱ってください” とアピールされることが多くなっています。例えば「北斗の犬」というのがあったんですね。これは一緒にやりましょうということになっていたり。最近は原作者承諾でやっています。
いわゆるバラエティ番組構造というのが受けて、ただのアニメをつくるのではなく、作品をいろいろなコーナーがあると決めたからこそガンガンこちら主導でやってこられたといってもいいと思います。
映画は無理ゲー
「映画の方もすごいヒットをさせていただいています。第一弾はタイムスリップ、二作目からはより新しいことをしないとけないというと思いからオムニバス方式に。それぞれが別のストーリーですが5本目ですべてがつながる、といった取り組みをやりました。第三弾となる現在公開中の作品ではアニメと実写を融合したさらに新しい作品となりました。
ただ、作っている最中は大丈夫なのかこれ?と思ったんです。最初はCGとかやりたいよねとかいって実験動画つくって「おもしろい!やる!」となったんだけど、今から実写とCGで締め切りに間に合わせるのは無理でした。やれるとしても40分しか作れない。そんな映画は上映できないわけなのですが、そこで逆手にとって実写&CGは40分だけに抑える構成を作っていったんです。ところが、スタッフが頑張ってくれて、ほとんどが実写・CGになって、逆にアニメの時間は少ない作品になりました。
結果的にうまくいった映画です。実は、やるときに僕は悩んでしまったんです。東宝さんから話がきたのは、ゲームが発売されるかどうかという段階で、ヒットするかしないのかわからない状況で “映画にすぐしましょうと”といってくれたんです。結局やることにして、結果はスターウォーズを越える記録。映画をベストなタイミングでやれたのも最初からクロスメディアでやると宣言していたから、すべてをマックスな状況で展開することができたと思っています」(日野氏)。
妖怪コインが最大の効果を発揮させた
「イナズマイレブンやダンボール戦記でできなかった仕掛けを「妖怪ウォッチ」では展開しています。それが「妖怪メダルで、これがもたらす相互連動がクロスメディア戦略に最大の効果を見出しました」(日野氏)。
「妖怪メダルはただの玩具ではなく、買ったらいろいろな使うことができます。ゲームで取り込んだり、ゲームセンターの筐体にも入れられるといった使うことができるメディアがありました。排出先としては、雑誌やアパレル商品なども。Tシャツを買うとメダルがついてくる、雑誌を買うとメダルがついてくる、ゲームの中でほしいものを手に入れるために雑誌やアパレル商品を探す。メダルを通じして、それぞれのメディアが補完したくなるような環境が作れるんです。
また、これにより、消費者の方とのタッチポイントが増えるから流行っている感がでてくるわけです。妖怪メダルの場合は物理的に保管しあっている、これが勝因といえますね。もっと細かいことをいっぱいやっていますが、これが最大の効果といえます。
これ以外にもたくさんのグッズが、作品を作っている最中から作られていた。企画の段階から、たくさんの商品企画が出てきていたんですね。そして今、まさに2017年4月から始まる「スナックワールド」などは、今までのクロスメディア施策でやれてなかったことが、進化して組み込まれています」(日野氏)。
2017年に仕掛ける進化した新たなクロスメディア
「クロスメディア第四弾となる、進化型の作品「スナックワールド」のTVアニメが2017年4月からスタートします。これは妖怪ウォッチ以上のことができる手応えを感じていて、それ以上のIPとして立ち上げていきたいと思っています。
ポイントとなるのは「ジャラ」と呼ばれるファンタジーの世界の武器アイテムです。それがすべて忠実にミニチュアとして再現されるんですね。ランドセルやおしゃれなアイテムとしてカバンにつけるのもよし。実際に作品中にはファッションブランドの概念が入ってきたりします。
ジャラが入っているボックスは「トレジャらボックス」というのですが、中身がわからないような仕組みを導入しています。重さとかでわからなくなるように、重さの差を解消する仕掛けとか。冒険の中での宝箱と同じようにドキドキする仕組みです。
また、ジャラの中にはNFCチップが組み込まれていて、スマホやNew3DSで読み込ませることで、それぞれのアイテムにあったリアクションだったり、クリスタルソードだったらそれを手に入れるクエストがプレイできるとか。
ジャラにはデータを書き込むこともできるので、強くなったデータ等が書き込まれていたりする。物理的にジャラを誰かにあげることも可能ですが、最初に読ませた時と次に読み込ませた時では挙動が違います。いやらしい作りですね。
ジャラのデータはいろいろなところで読めるようになっていて、例えばコンビニでも、大変な大規模な展開が用意されています。ジャラを通じて、これまでできなかった「現実と仮想をつなぐ架け橋」を構築しようとしているんです」(日野氏)
クロスメディア施策はインターネット連携へ
「スナックワールド」の次は、イナズマイレブンの新シリーズと巨大ロボットをモチーフにした「メガトン級ムサシ」を準備しています。イナズマイレブンは6作目で一旦の完結をしていたのですが、新たなシリーズとして7作目に入ります。スナックワールドでやろうとしてきたことを引き継いで新しいことをやっていく、それがイレブンバンドというアイテムです。
「イレブンバンド」は、これを装着することで、少年たちが自分の体調を管理したりデータを収集することができるというもので、作品中はもちろん現実でも発売します。なんと、自分たちの走ったりはねたりすることでそのデータがゲームに反映するというもので、何ができるかというとダイエットができるんですね。ゲームでいいことをするには走りまくるしかない。スナックワールドで始まった現実と仮想世界をつなぐアイディアの進化系です。
「メガトン級ムサシ」は集英社と共同で展開する超ビッグプロジェクトで、久し振りに子どもたちに巨大ロボットをはやらせようというものです。昔巨大ロボットに親しんだ層はともかく、最近の子どもたちは置いてきぼりになってしまうかもしれませんが、全貌がわかったらなるほどと思ってもらえると思います。
この2つには共通した仕掛けがあるんです。今は、動画配信もあるし、スマホでどこからでも見られるし僕らの世代では考えられなかったプロモーションができる。例えば、イナズマイレブンの新作では、月一回のペースでファンのみなさんが投稿してくれたキャラを登場させたり、アニメ放送前の情報を配信しています。配信だけの作品もあります。また、アニメ番組の裏エピソードを放送後に配信する予定です。これはムサシの方でもやります。
こうした細かい施策によりインターネットを使ってユーザーの気持ちをつかみ、より深く作品を好きになってもらうようにしていきたいと思います」(日野氏 了)
【関連URL】
・株式会社レベルファイブ
http://www.level5.co.jp
新たな価値を生む掛け算
日野さんは経営者でありクリエイターである。数字を掲げ逆算してクリエイティブをやっているのかと思っていたのだが、本人曰く「毎回自分たちで驚く事が多い」という。「ヒットはするはずと信じてやっていますが70億とか数字がでると正直驚きを隠せない」という感じ。そんな彼らは現在海外に目を向けていて、このクロスメディア戦略を使い海外でIP展開をしていこうと考えている。よくある現地向けのカルチャライズ等(作品制を海外の地域にあわせて変更する)は行わずチューニングのみで展開するとのこと。アニメ作りの中でゲームクリエイターとアニメクリエイターそれぞれが持つ文化を尊重したままのセッションが価値を産んだように、既存のモノや価値観との掛け算で新たな歴史を作りだしてくれるのではないかと期待しているっす。