顧客と良い関係を築くには、まず「関与度の向上」から始めよ【ad:tech tokyo 2017 ABM vol.21】

ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member インタビュー特集, Marketing

ad:tech tokyo 2017アドバイザリーボードメンバーインタビュー特集
日本を代表するイベント「ad:tech tokyo」が今年も2017年10月17-18日にかけて開催されます。このイベントの総勢40名の業界リーダーで構成されるアドバイザリーボードのインタビューを連載形式で掲載しています(特集一覧はこちら)。

今回は、森永乳業の寺田文明氏が登場です。自社の取り組みで明らかになった、効果的な顧客コミュニケーションの構造や、その中でのテクノロジーの役割について話を聞きました。

森永乳業株式会社 マーケティングコミュニケーション部 部長 寺田 文明氏

—最近の取り組みから見えてきた、マーケティングコミュニケーションにおいて大切なことは何でしょうか?

何より大切なことは、顧客の側からコミュニケーションを考えることです。「情報過多」「商品のコモディティ化」などと言われていますが、これらはすべて「顧客の目線」からそう見えるということです。そうした中で我々は、まず「顧客と良い関係を築く」ことを第一に、コミュニケーションを行っています。良い関係ができてさえいれば、我々のメッセージを聞いてもらえ、理解してもらえ、最終的に商品を選んでもらえるからです。そこに向けて、現在は、まずコミュニケーションシナリオを考え、その中でマスメディア、デジタル、テクノロジーさらには店頭、リアルイベントなど、それぞれの役割を考えて全体をプランニングしています。以前との大きな違いは、各種施策が「顧客と良い関係を築く」という長期的な目的に向けたシナリオで役割を果たすものの一つ、という位置づけになったことです。

ーその考えの中では、デジタル、テクノロジーはどのような役割を担っているのでしょうか?

デジタルの活用・役割については、「オートメーション」とその対極にある「エモーション」、「シングルソース」とその対極にある「増幅」の4象限で考えるようにしています。以前は、オートメーションで増幅するという発想が中心でした。つまり、テクノロジーで効率的に情報を届けるという方向性ですね。確かに一度にたくさんの人に届けるという点では良いのですが、「顧客と良い関係を築く」ためにそれはどうなのかと考えると、良くないことのほうが多い。もちろん、やるべき効率化は進めていますが、行き過ぎるとデメリットが大きくなってしまいます。

現在は、オートメーションと対極にある、感情の込もったエモーショナルなコミュニケーションを増幅する方向でテクノロジーを使うことを重視しています。具体的には、コミュニティサイトやソーシャルメディアの公式アカウントなどを通じたコミュニケーションです。さらに、もう一方の「シングルソース」×「オートメーション化」にも取り組んでいます。テレビなどのマスメディアとデジタル、そして購買データをつなげ、本当に各種施策が購買につながっているかを、シングルソースで見ることができるようになり、「顧客を知る」ことに活用しています。

顧客との関係をつくる上では「知る」「知ってもらう」「交流する」の3つのコミュニケーションが必要です。この内の「知る」部分に先ほどのシングルソースのオートメーションを使い、「知ってもらう」には増幅のオートメーションを使う。そして「交流する」のところに現在はフォーカスして、エモーションを増幅するためにコミュニティサイトを活用することなどに時間をかけています。

ー「交流する」においては、手段はデジタルですが、メッセージ、コンテンツをつくるところは、顧客のエモーションにいかに訴えられるか、人の力が必要ですね。

そうですね。コミュニティサイトのコンテンツは人が考えなければなりません。我々の企業コミュニティサイトでは、外部企業のサービスも使いながら、社内でコンテンツつくりをしていますので、大変手間がかかります。もう一つ、リアルなイベント、これもエモーショナルなコンテンツと非常に相性がいいのです。例えば、何かイベントを行って、その場で公式アカウントをフォローしてくださった人に何かプレゼントするなど、みなさん喜んで参加してくれますし、その後の離脱も少ない。感情を伴ったコミュニケーションでは、リアルなイベントが一番です。ただ、それだと人数が限られてしまいますので、コミュニティサイトなどを使ってそうした感情を増幅しているのです。

ーリアルなイベントは、どちらかというとプロモーションの部門が担うことが多いのですが、コミュニティサイトのコンテンツとして親和性が高いとなると、部門を連携した動きが求められますが、その点どうしているのでしょうか?

実は、そう考えたときに、どの部門で何を担当するのかなど、今まではっきりしていなかったので、最近全体を整理しました。結局、顧客と良い関係をつくるためには、コミュニケーションする前に「プレコミュニケーション」が必要なのです。選挙の直前だけ駅に立つ候補者の声には、心が動かないのと似ています。企業は、常に「誰に・何を・どうやって売るか」と考えてしまうのですが、顧客からすれば、「選択肢も多いし不便がない」状況にあり、もはや情報がうっとうしいとすら感じています。この段階で、商品情報を発信しても反発が生じてしまいます。だから「誰が・自分が聞きたいことを・自然で心地いい形で行ってきてくれるのか」と顧客が感じている段階においては、商品ではなく、顧客自身の健康や体についてなど、関心事を題材にした情報をコミュニティサイトなどに掲出します。その後、関係構築できて好意が生まれ、「聞いてもいいな」という状態になり、商品周辺の話題に関心度が高まって初めて、具体的な商品の話をするといった手順が必要だと思います。

いままで、この「プレコミュニケーション」とその後の「コミュニケーション」の区分があいまいだったので、そこをしっかり分けて、「プレ」の重要性をわれわれだけでなく各部門とも共有するようにしています。

ー最近、企業の動画コンテンツがどれくらいPVがあった、ということが話題になりつつも、同時に「それは売上に結びついているの?」と言われる、という話もよく聞きます。それはプレとその後のコミュニケーションでは役割が違うことがはっきり認識されていないからかもしれないですね。

私はそう感じています。話題になる動画は「面白いことをする会社だな」と顧客に好意を持ってもらい、その後にメッセージを伝える状態にする手段としては有効なので、そこは分けて考えないといけません。また、プレコミュニケーションのもう一つ大きな役割が「関与度」を高めることです。我々の調査で、まず製品やカテゴリーへの関与度を高め、その上で知覚品質を高める話をすることが、コミュニケーションとして最も効果的であることが分かっています。

例えば、ビヒダスヨーグルトについて、関与度が低い段階で「いいビフィズス菌があります」と伝えても全く反応がありません。そうではなく、まず「あなたの健康の問題の多くは大腸の腸内フローラが関係していて、その改善のためにはビフィズス菌が大切ですよ」ということを最初に伝え、「自分の体のことを考えてくれている」というマインドになってから、商品に関するコミュニケーションをする。良い関係を築くためには、この順番が大切です。

ーアドテックに参加してみた感想などお聞かせください。

広告主側がもっとこういう場に参加しなければいけないと思います。それも、ただ漠然と足を運ぶのではなく、何が課題で、何をやりたいのかをしっかり持ったうえで、「何をどのように使っていけばいいのか」と、上位概念から演繹的に考えて評価しながら参加すると、得られることが大きいと思います。さらに、ソリューションを提供している企業の方々と、我々が総合代理店さんとしているような、上位の戦略に関するディスカッションが必要だと思います。これまでどうしても、「我々のソリューションはこんなことができます」と、テクノロジーやツールの話から入ってしまいがちなので、そこは改善が必要ではないでしょうか。公式セッションでも、コミュニケーション上のどの目的・課題にどうテクノロジーを使っていくかにもっとフォーカスできるといいですね。

ー広告主同士で話したいことなどはありますか?

マーケティングコミュニケーションの組織について他社の話を聞いてみたいです。当社の場合、「顧客視点で考える」ために、マスもデジタルもリアルも分けずに統合して見るようにしています。一方で、そこを明確に分けている企業もありますから、どのような考えで、どんな組織になっているのか、詳しく聞いてみたいです。

ひょっとすると、組織上もう一つ上のレイヤーで統合して見ているのかもしれませんが、そうなると、その層のテクノロジーに関するリテラシーの問題も出てくるのでは、と思っています。そうした実務上の現実的な議論をアドテックでできるといいですね。

ーありがとうございました。

寺田 文明
森永乳業株式会社
マーケティングコミュニケーション部 部長

1984年入社。工場で原材料関連業務、85年研究所でLL豆腐、レトルト食品などの研究開発、87年製品開発部で飲料の企画開発に携わる。90年慶応ビジネススクール留学後、92年米国ロスアンゼルスでLL豆腐販売会社、オレゴンで現地企業と豆腐製造の合弁会社立上げ、初期安定化に取組む。99年帰国、秘書室で役員関係業務、営業本部室で営業企画、08年広告部に異動。現在、コミュニケーション活動全般に携わる。16年組織名改称。

【ad:tech tokyo 2017 概要】
日時:2017年10月17日-18日
場所:東京国際フォーラム
参加人数:15,000+
詳しくはこちらから

【関連URL】
・ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member (ABM) Interviews
http://techwave.jp/category/features/adtech-tokyo-2017-advisory-board-member-interviews

中澤 圭介

中澤 圭介

iMedia Chairman / Content Manager at Comexposium Japan
1998年西南学院大学卒業後、広告界の専門誌を発行する出版社に入社。セールスプロモーションの専門誌の編集長として長く携わり、取材・編集を通じて企業のデジタルプロモーションの変遷を追ってきた。最近はオムニチャネル、CRM、ECといった分野を中心に情報収集・発信。2016年1月 コムエクスポジアム・ジャパン株式会社入社、iMedia Chairman就任。
中澤 圭介

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