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12月15日に東京・秋葉原で開催された「電子書籍サミット2011」(主催:日経エレクトロニクス)を聴講した。
まず、ソニーとシャープの立ち位置が面白い。ソニーとシャープは電子書籍端末を12月10日に発売したばかり。実は「たまたま同じ発売日」(ソニー株式会社 AVペリフェラルマーケティング部 統括部長 磯村英男氏)だったという。ソニーは『Reader』を家電量販店で販売、“リアル書店”の紀伊国屋書店でも限定販売して“本好き”から支持を得たという。逆にシャープは直販で“顧客と直接つながる”ことを差別化戦略として位置付ける。電子書籍端末もソニー『Reader』は電子ペーパー、シャープ『GALAPAGOS』は液晶。『Reader』が“紙書籍のコアユーザー”向けならば、『GALAPAGOS』は“従来の紙雑誌に加え、多種多様な機能を求めるユーザー”にフォーカスを当てている印象がある。
ソニーは「Readerが拓く国内電子書籍事業」と題してソニーマーケティング株式会社 メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部 統括部長の磯村英男氏が講演。『Reader』の差別化ポイントは「電子ペーパーの読みやすさ+光学式タッチスクリーンの直感的操作性+端末を持つ喜びを感じさせ、手に馴染む質感」とした。また書籍との新たな出会いとして『Reader Store』の「本棚」機能でユーザが選んだテーマアイコンを使ったリコメンド機能を紹介していた。
シャープは「電子書籍ソリューションと新サービス“GALAPAGOS”について」と題しネットワークサービス事業推進本部 ネットワークサービス推進センター副所長の中村宏之氏が講演、“次世代XMDF”で新聞・雑誌の複雑な段組に対応、電子新聞・電子雑誌の定期配信サービスも始めているとのことだ。XMDF規格自体も他フォーマットへの対応で多用途化を図りつつ、紙媒体と電子媒体のワンソース・マルチユースシステムを打ち出した。
現状を例えるならばソニーは“デジタル文庫”で、シャープは“新聞・雑誌お届け装置”だろうか。
フリージャーナリストの本田雅一氏が唱える“エコシステム”、すなわち「読者とコンテンツを紐付け、読者の投資を守り、顧客視点で出版を見直すことで、これからの読者を守り、より多くの読者を獲得することで著者や出版元に利益が還元される」ことは簡単に実現できそうに思えるが、一番難しそうだ。「顧客視点で出版を見直す」以前に不正コピー対策や課金に対する各社の考え、DRM(著作権保護のためにデータのコピーや移動に一定の制限をかける事)によって“当面の権利保護”を行わないと書籍の電子化そのものに難色を示すケースが多いと聞く。さりとて、現状のままでは書籍市場縮小の波に飲み込まれてしまうであろう。
本田氏以外にも電子出版界で次世代の読書体験として提唱される「読書のソーシャル化」(SNSなどによる読書体験の共有や著者・読者双方のつながり等)は、近い将来はポピュラーになるであろう。既にSNSが多く利用されている下地があるので、共有体験の一環として書籍(および雑誌や新聞)の読書体験が入り込むのはむしろ自然な流れである。技術的にもそう遠くない将来に実現するはずだ。
『米国iPad利用実態調査』で興味深かったのは、電子書籍端末やタブレット端末の利用で紙媒体の購読数が減っていないという調査結果だ。「紙の本を読んでいた購読者8割がiPadで電子書籍を購読」というライフスタイルからは読書体験の多様化を感じる。ちなみに男性はiPadで電子新聞・電子雑誌を買う事が女性よりも多く、女性は男性よりもiPadを電子書籍とコミュニケーション用途に使う傾向にあるという。
iPadで電子雑誌を発売した結果、20代〜30代の新規読者が多く獲得できたという結果も出ている。これは「紙を知らないまま育ってしまった」世代がiPad上で新たに電子雑誌と出会えたケースである。
「ハイブリッド出版・ハイブリッド書店」路線に出たのが大日本印刷。「リアル+電子」がプラスサムになるような手法を目指したという。読者の手に届く前の書籍制作における「ワンストップ・マルチユース」は既定路線、「honto」では「本棚サービス」においてリアル書店(bk1)/オンライン書店(bk1)/電子書店(honto)どこで本を買っても購入情報を一元管理できるようにしたことは“エコシステム”への端緒と言えるであろう。もちろん「ハイブリッド書店」は今後も拡張される予定で、手始めにNTTドコモと「トゥ・ディファクト」という合弁会社を立ち上げ、NTTドコモの読書端末にも対応するとのこと。将来はKDDIや他端末にも増やし、データベースも一本化、大掛かりなシステム構築を来年(2011年)達成をめざすという。このシステムが他社のエコシステムと“相互乗り入れ”できれば読者としては嬉しい限りだが、まずはDNPグループ内における「知の循環」がうまくいくことを祈りたい。
最後のパネル・ディスカッションにおいてもエコシステム構築の難しさが語られた。現実的にはコンセンサスを取る途中だという。しかし、このままでは「日本のガラケーで何でもできるのになぜ読書端末がいるの?」という声がある日本と「20年後は電子書籍が常識になるだろう」という中国の差は、将来さらに広がってしまいそうな印象も受けた。
「現在の日本は来年の決算を埋めるのが精一杯で、20年後に投資する気概も余裕も体力もない」(作家・福井晴敏氏)という悲しい現実を抱える日本、それでも各プレーヤーができることを地道に続けていくしかない。
第二次ベビーブーム最盛期、12月24日生まれ。
埼玉県立某国際高校、某都内私立大学を卒業。
印刷会社のDTPオペレータを経て電子書籍販売会社へ移籍。主に電子書籍の内部制作・外注管理を担当する。
2009年、突然何を思ったか湘南ベルマーレの「スポーツマスコミ塾」に半年間通って原稿の書き方・企画の立て方・取材のしかた等をひととおり学ぶ。
現在はKindleやiPadをネタに盛り上がる電子書籍界隈に一言二言三言モノ申したく修行中。