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リアルな店舗のビジネスを飲み込もうとするO2O(オー・ツー・オー、Online to Offline)技術の領域で、注目を集めるのがバーコードスキャン技術だ。スマートフォンのカメラを、店頭の商品につけられたバーコードにかざすだけで商品を認識し、オンラインのECサイトの最安値を探してきたり、周辺のリアル店舗でのその商品の在庫状況、価格なども分かるような仕組みが登場している。韓国では、会社帰りの地下鉄のホームの壁一面にスーパーマーケットで売られているような商品の写真がずらりと並べられ、商品の下のバーコードをスキャンしていくだけで購入手続きが完了し、帰宅直後にスーパーから購入した商品が配達されるという仕組みも誕生している。
O2Oの領域で今のところ先頭を走る米ebayが買収したRedLaserは、スマートフォンのカメラによるバーコードスキャン技術で世界最高峰の技術を持っている。
オートフォーカス機能が搭載されていないカメラででもバーコードを読み取ることができるほか、バーコードなら、QRコード、UPCコード、EAN、UPC-E、EAN-8など、ありとあらゆるコードの読み取りが可能。シャッターを押す必要がなく、カメラを起動してバーコードにかざすだけ。読み取れれば、同じ商品がオンライン上で幾らで販売されているのかを調べてきて、最安値を自動的に表示してくれる。読み取れなければバーコードのついてある数字を手入力できるようにもなっている。
また同じeBay傘下のMilo(マイロ)が持つ近隣のリアルの店舗の在庫情報を価格を表示することも可能だ。(関連記事:O2Oの波② Miloで地元店舗の在庫を確認【湯川】 : TechWave)
本のバーコードをスキャンすれば、近くの図書館で借りることができるのかどうかも分かる。食品のバーコードをスキャンすれば、成分やアレルギー情報なども分かる。
さてこの技術を持つebayと提携して同様のサービスを日本で展開するのが、株式会社コードスタート(本社:東京)だ。コードスタートは今年3月に総額5200万円でウェブ製作大手IMJの完全子会社になっている。コードスタートのウェブサイトによると、コードスタートのiPhoneアプリ「ショッピッ+ 」は、楽天、ヤフー、アマゾン内のすべてのサイトや十数の人気ネットショップの中から最安値を探してくることができるという。リアルな店舗としては、酒類小売大手の株式会社カクヤスと提携し、カクヤスでの価格を調べてその場で注文することが可能という。
さてこのO2Oのシリーズ記事の中の前回の記事「O2Oの波② Miloで地元店舗の在庫を確認」に対して、こうした展開がリアルな店舗にとっていいことなのかどうか結局分からない、というコメントが寄せられた。米国に行って取材してほしいという声もあった。
米国取材するまでもない。答えは簡単だ。価格競争に自信のある店舗にとってはこうした展開は望ましいことだし、自信のない店舗にとっては望ましくないことだ。ECサイトの多くは低価格に自信があるので、こうした展開を望む。「ショッピッ+ 」の国内展開でもまず最初にECサイトが価格を提供している。カクヤスが価格情報の提供を始めたのは、カクヤスが価格競争に自信があるからだろう。自信がない店舗の価格情報はなかなか検索可能な状態にはならないだろう。
ただ消費者にとっては情報が多いほうがいいし、スマートフォンの普及にしたがってこうしたサービスの利用者は増えるだろう。利用者が増えれば、その結果、来店客が増える店と減る店が出てくる。そしてある時点で多くの店舗が、こうしたサービスに名前が乗らなければ今後事業拡大が見込めないことに気づく。形勢が変わるティッピングポイントと呼ばれる時点だ。そのときには多くの店舗が名前を連ね始めるだろう。
一方で、こうしたO2Oが押し進める価格競争がそれほど脅威でもない店舗も存在する。低価格が、店側が提供する一番の価値ではないタイプの店舗だ。コンビニエンスストアなどがそうだ。コンビニエンスストアはその名の通り、すぐ近くにあって欲しいものが手軽に変えるというコンビニエンス(便利さ)が一番の価値だ。また「専門店」と呼ばれるような店舗は、特定分野の専門知識やほかにない品揃えが、その店の一番の価値になっている。駅に近い店舗なども、通学、通勤路にあるという立地が、大きな価値の1つになっている。
コンビニや専門店、駅近くの店舗に来る客は、必ずしも最安値を求めているわけではない。店頭でスマートフォンを取り出してバーコードをスキャンする客はいないだろう。これらの店舗は、O2Oによる価格競争の波が押し寄せようとも大きな変化を受けることもない。
またわたし自身、「ショッピッ+ 」を愛用しているのだが、別にすべての商品をスキャンしているわけではない。それほど値の張らない商品なら目の前の商品を買うことが多い。価格差があってもそのわずかな価格差のために別の店舗にわざわざ行くのが面倒だからだ。
一方で、それなりの価格の商品であれば「ショッピッ+ 」で価格を調べることが多い。最近ではLED電球の値段を調べた。省エネの観点から自宅の電球をすべてLED電球に変えようと思っているのだが、LED電球は寿命が長く経済的だと言われるものの、1個の価格が3000円前後もする。ちょっと慎重になる価格帯だ。そこで家電量販店に行った際にたまたまLED電球を見かけたので、店頭でLED電球のバーコードをスキャンしてみた。そうするとオンラインで購入するより家電量販店のほうが500円以上も安かった。
つまり値段の張る商品を扱う店舗が、O2Oの価格競争の影響を一番受けることになりそうだ。
さてバーコードスキャン技術でもう1つ面白い事例を紹介しよう。
英国のスーパーマーケットチェーン大手Tescoが韓国で展開するスーパーマーケットチェーンのHomeplusは、駅のホームにスーパーで取り扱っている商品の写真を壁一面に並べるキャンペーンを展開した。
欲しい商品のバーコードをスキャンすればショッピングカートシステムに加えられ、その場で注文が完了。家に帰るころには注文した商品が宅配されるという仕組みだ。
電車の待ち時間に買い物を済ますので時間のロスがない。忙しい人にはありがたい仕組みだ。
このキャンペーン期間中には1万280人の消費者がスマートフォンを通じてHomeplusのオンラインストアにアクセスし、キャンペーンの結果オンラインのメンバーが76%、オンラインの売り上げが130%増加したという。
またキャンペーンを通じて一度Homeplusのメンバーになれば、あとはスマートフォンの画面を見ながら注文してくれるようになるようで、このキャンペーン後にはオンラインの売り上げが急増、オンラインスーパーマーケットとしては韓国最大、リアルのスーパーマーケットとしても最大手に手の届くところまで成長したという。
低価格ではなく利便性で勝負しているのでだいじょうぶ、と高をくくっている店舗は気をつけたほうがいい。O2Oが提供できるのは低価格だけではない。Homeplusのように利便性を提供することも可能なのだ。
来年以降は、NFC(近距離通信、日本で言うところのオサイフケータイ機能)を搭載するスマートフォンが増えるので、韓国のスーパーマーケットのような事例はバーコードじゃなくNFCになっていくのだろうな。でも店頭の商品にNFCで読めるようなデータが貼りつけられるようになるにはまだまだ時間がかかりそう。なのでバーコードスキャン技術はしばらくは重宝されると思うよ。