どの分野においてもデジタル化の波がもう十分すぎるほどに到来している昨今、なかでも変化の激しい広告宣伝の世界において現在各企業の広告宣伝担当者はどのようなことを考えているのでしょうか。すでにイノベーションを起こした成功事例を持っている企業だけでなく、まさに取り組み真っ最中の企業の方にも自社の現状やこれからへの展望をお伺いする特集です。
第3回目は150人ほどの大規模チームを率い、営業支援からショールーム運営までを取りまとめるNEC CRM本部長兼コーポレートマーケティング本部主席主幹中山啓二氏にお話を伺います。CRM施策に10年以上取り組み、自分たちを「お客様との接点の全てを取りまとめる部署」と称する中山氏が現在力を入れている施策とは一体どのようなものなのでしょうか。
—150名ほどのチームと聞くと、非常に大きな組織という印象を持ちますがどのように機能があるのでしょうか。
「もともとは宣伝部、カスタマーリレーション推進本部、CS推進部などと分かれていた2~3の部署が統合され、2009年に今の体制になりました。CRM本部は、マーケティング部門としてお客様との様々な接点を通してエンゲージメントを強化し、ブランド向上と営業活動への貢献を目指すという大きく2つのミッションを持っています。広告宣伝を始め、コーポレートサイトの運営、イベント、展示会、ショールーム、ユーザー会の運営、フィールドマーケティング、それらを支援する各種データ管理等の9つのグループに分かれており、その全てのグループが横断的に連携してIMC(Integrated Marketing Communication)を実践しています。また、コンテンツ制作等を中心に、グループ会社であるNECマネジメントパートナーと協業して内製化しており、その人数も含まれています。」
—2001年から改革に取り組んでいると伺いましたが、この間のBtoBのマーケティングとはどのようなものでしたか。
「インターネットなどへのアクセスがますます容易になり、顧客のタッチポイントが多様化したことで情報収集能力も大きく向上し、個々のデジタルリテラシーが高まっています。また、昨今はビジネスに関わるステークホルダーも多くなり、意思決定プロセス(BtoB顧客の)が複雑化しているため、これらに対応するコミュニケーションが必要となってきます。その手段のひとつとしてデジタルマーケティングを活用し見込み客をプロファイリングすることが重要と考えました。例えば、提案型営業が求められる今日、お客様の問題解決のための提案力と互いに共創していくお付き合いが必要となってきています。営業担当者によってメッセージのブレが出てしまわないよう、メッセージに一貫性を持たせてタッチポイントをトータル化していくのも私たちの仕事のひとつですね。」
—その中ではじめに取り組まれたこととは何でしょう。
「まず、メルマガで情報発信し関係性を強化し、NECファンを増やすことを2001年からスタートしました。その後メルマガ会員をベースに無料会員サービスサイト「WISDOM」を2004年から立ち上げ、現在の会員登録者数は81万人にのぼります。最初はNECという企業色はなるべく薄くしてビジネスのヒントとして使って頂けるニュートラルなメディアとして運営していました。いかにしてお客様のタッチポイントになるか?定期的に覗いてもらえるようになるか?ということを考え、初期の段階では仕事のプレゼンに使えるイラスト集や用語集などを充実させ人気を得ていた時期もあるんですよ。」
—イラスト集!確かに自分の仕事の領域に関するメディアにプレゼン制作用の素材まであるとつい使ってしまいそうです。
「「WISDOM」も内製なので社員を編集長に立てて運営しています。最初の編集長は試行錯誤の連続だったと思いますが、NECが訴求したい情報よりもとにかく会員であるビジネスパーソンに意義あるコンテンツ、情報は何か…?ということをまず優先に考えた結果が“プレゼン資料用イラスト集”でした。最初は文化祭のようなノリだったのかもしれません。
その後、この「WISDOM」を核にプロダクト部門と連携し、eセミナー等によりWebからの獲得リード数の拡大を目指した活動を展開あい、2009年からはテレマーケティングの枠組みを導入し営業活動への貢献にシフトし、KPIもリード数から営業引継ぎ数に変わってきています。
今はさらに、日経電子版や産経BIZなどのペイドメディアを活用し、DMPでオウンドメディアである「WISDOM」を通して生まれた見込み客とのコミュニケーションを醸成しながらニーズを顕在化にも取り組んでいます。営業と一緒に戦略を立て、ターゲティングの精度をどこまで上げていけるのか、デジタルマーケティングが有効な業種、商材の見極めなどを行っています。しかし一番重要なのはマーケティングと営業がどこまで距離を縮めて一体化できるか…だと思います。」
—営業部門との連携はスムーズだったんでしょうか。
「いや、マインドを変えるのは大変で、社内のMA(マーケティングオートメーション)の理解度も様々で、MAとは何か?何が出来るのか?を理解してもらうことから始め、成功事例をとにかく説明して回りました。そして成果が出てくると「俺のチームでもやりたい」と話が広がっていきましたね。デジタルの時代でも最後は人間同士のコミュニケーションです。我々もそこを大切にしているので、マーケティングを押し付けるのではなく、理解して体感してもらうという地道な活動を重視しました。理解して腹落ちしてもらえれば、そこから関係は一気により強固なものになります。また、担当役員が自ら改革を推進したことも大きかったですね。」
—では、最後に今その改革の中で一番力を入れている施策を教えてください。
「AIをこのCRMの仕組みの中にどれだけ組み込めるか、という研究に注力しています。既に分析等で導入していますがより高度なAIの活用を自社のAI研究所と一緒に検討しています。今年度は実験段階ですが来年は本格始動する予定です。AIは私たちNECの売り物でもありますから、まずは自社で成果を上げるべく取り組んでいます。もう一つ力を入れているのは、ABM(アカウントベースドマーケティング)の推進です。更にMAを強化し営業スタイル改革を推進し、製品・ソリューションの比較検討-決定-購入-導入で完結するのではなく、そこから更に新しいニーズを発見しビジネスを生み出す顧客体験の連鎖=「インフィニティループ」を確立していきたですね。」
—ありがとうございました!
中山氏が統括するチームの規模に驚いたものの、お話を伺っていく中で「一般的には分断してしまいがちな部署同士をチームにしていった」という結果であるということに非常に強い納得感を覚えました。実際に、営業部門の架け橋になるような活動から、有識者を集めて未来を考えるNEC未来創造会議の活動まで幅広いジャンルの施策が全て「ブランド向上と営業活動への貢献」というシンプルなミッションにつながっています。これから企業のチーム編成含めて改革を進めていこうという企業にとっては一つの大きな目標になりそうです。