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米映像配信サービス大手のbrightcoveのCEO、Jeremy Allaire(ジェレミー・アレアー)氏が来日、お話させていただく機会を得た。米国の映像関連のIT業界の動きを長年にわたり見てきた人だけに面白い意見をうかがうことができた。同氏によると、IT業界の主戦場がPCからモバイルの領域に移行したことで、米国のIT業界は10年振りに波乱の時代を迎えているという。そして来年には、争いがテレビの領域にも拡大するという。
10年ぶりの混乱期
同氏は言う。「パーソナルコンピューティングの歴史の中で、今は20年ぶりの大波乱の時代に突入したのだと思う。OS戦争とかブラウザー戦争とかいろいろあったが、ここ10年ほどは争いの少ない比較的平安な時代だったのではないか。でも今は業界がモバイルという新しい領域に入ったおかげで、より複雑で分断された状況にある。デジタルメディア企業やデジタルマーケターは、この複雑で分断された状況に対応しなければならないようになっている」
具体的にどのように分断されているだろうか。同氏によると、PCウェブ、ネイティブアプリ環境、HTML5、AdobeのFlash mobileなどといったプラットフォームが併存するのが今日の現実だという。そんな中でメディア企業やマーケターがより多くのユーザーにリーチしたいのであれば、できるだけ多くのプラットフォーム向けにコンテンツを用意しなければならない。特にネイティブアプリ環境としては、少なくともAppleのAppStore向けと、GoogleのAndroid Market向けに同じアプリを出さなければならないという。場合によってはMicrosoftやそのほかのアプリ環境向けにも開発が必要かもしれない。
アプリ市場はいずれウェブに同化する?
しかしいずれすべてのコンテンツはオープンなHTML5で作成されるようになるのでは。いずれすべてウェブに同化するのではないのか。同氏に聞いてみた。
「物事はそう単純ではない。優れた技術が常に勝つわけではない」と同氏は主張する。「AppleはAppStoreで新しいマーケティングプラットホーム、コンテンツ配信プラットホーム、利益創出プラットホームを作り出した。だからブラウザーでアプリと同じ機能を持たせることが技術的に可能かどうかという問題ではなく、AppStoreのような利益を生み出す仕組みを作れるかどうかが重要なんだ。AppStoreはその仕組みを作り出した。なのでコンテンツ提供者はAppStore向けにコンテンツを提供し続けるだろうし、利益を得たいのであればできるだけ多くのプラットホーム向けにコンテンツを提供するしかない」。
すべてがウェブに同化するのではない、アプリ市場というコンテンツの提供方法が残るという主張だ。それは技術的な問題ではなく、ビジネス的な問題が背景にあるから。オープンなウェブではコンテンツに課金できないが、アプリとしてコンテンツを出せば課金が可能。違法コピーの問題も回避できる。なのでコンテンツで収益をあげたいというコンテンツ提供者はウェブにコンテンツを出すのではなく、アプリとしてコンテンツを出し続けるというわけだ。
HTML5がデファクトになったときFlashの運命は
では「HTML5がデファクトスタンダードになるわけではないのか」と聞くと同氏は、「スタンダードになる」と言う。「ビデオはますます多用され、あらゆるサイトにビデオが使われることになるだろう。広く使われるようになればなるほど、人々はオープンなスタンダードを求めるようになる。Adobe対Appleといった政治的な話しではなく、技術の方向としてオープンなスタンダードに向かうしかない。なので2、3年後にはHTML5が主流になるのは間違いない」。
Adobeもそう考えているのだろうか?「動画に関してはそう考えていると思う。ただFlashの可能性は動画だけではない。インタラクティブな機能がFlashの持ち味の一つだし、今後もそういった機能を強化しHTML5よりさらに進化したFlashの世界を維持し続けるのだと思う。またAdobeのflashの作成ツールは非常にパワフルで、多くの技術者に支持されている。HTML5に関してはまだそのようなツールはまだ存在しない。Adobeはそうしたツールを作っていくんじゃないだろうか」と同氏は言う。単純な動画配信の技術としてではなく、多機能なインタラクティブ技術としてFlashは生き残る可能性があるし、AdobeはHTML5の高機能な作成ツールを開発していくだろう、ということだ。
AppleのiOSは、Mac対Windowsの関係に陥らない
AppleはMacのときと同じ過ちを起こそうとしている、という主張を耳にすることが多い。15年以上も前、Windowsという、どのパソコンメーカーでも搭載可能なオープンなプラットフォームの前に、Macというクローズドなプラットフォームは徐々にシェアを失う結果になった。今、AppleのiOSというクローズドなプラットフォームもまた、GoogleのAndroidという、どのモバイル機器メーカーでも搭載可能なプラットフォームの前にいずれシェアを失う運命にある、という主張だ。
しかしアレアー氏は、iOS対Androidの関係が必ずしもMac対Windowsの二の舞になるとは限らないという。
同氏は言う。「iOSとAndroidの関係をMacとWindowsの再来だと考える人が多くいることは知っている。オープンなプラットホームの強さは理解できるし、Android搭載機で大ヒットとなるケースも出てくるだろう。しかしAppleはこのところ人々の予測をはるかに上回る結果を出し続けている。Appleが今後もこの勢いを持続する可能氏は十分にある」。
今日のAppleのイノベーションの速度には目を見張るものがある。このイノベーションのペースを維持する限り、いくらオープンなAndroidといえども追いつき追い越すことは容易ではない、という考えだ。
まもなく始まるテレビ領域での争い
またアレアー氏は「モバイルによってもたらされたプラットフォームの分断は今後12ヶ月から24ヶ月の間にテレビの領域を巻き込んでいくことになる。オープンなウェブ環境と複数のネイティブなアプリプラットフォームというモバイルと同じ状況がテレビの世界にも持ち込まれるだろう。今モバイルで見ているようなビデオを、1年後にテレビでも見るようになるだろう」と言う。
これは日本人にとって直感的に分かりづらい話だ。米国ではPCウェブやモバイルの領域でも、テレビ番組や映画などが有料で見られるようになってきている。なので同様のことがテレビという領域でも起こるという話は理解しやすいのだろう。しかし日本では権利関係の問題から、PCウェブやモバイルの領域で自由自在に好きなテレビ番組などの動画が見れる状況にない。なので、iPadでテレビ番組を見るような感じでテレビが変わっていく、といわれても実感としてはつかみづらい。
ただモバイルのビデオ視聴環境がテレビでも体験できるようになるということは、AppleとGoogleの競合関係がそのままテレビの領域に入っていくということではなかろうか。アレアー氏はGoogleTVやAppleTVをどう見ているのだろうか。
「GoogleTVは非常に魅力的なやり方だと思う。モバイル機器上でAndroidが持つオープンなアーキテクチャーをテレビの領域にまで伸ばしたものだ。AppleTVに関してはスティーブ・ジョブズは『まだ趣味のレベル』と言っているが、iPhone、iPad同様のアーキテクチャーを、テレビの領域にまで拡大するのは間違いないだろう。クラウドベースのiTunesからテレビにコンテンツをダウンロードするようになるのだと思う。そしてiPhoneやiPadがテレビのリモコンのような入力デバイスになるのだろう。多分年内、それか来年にはAppleはそうした製品を出してくると思う」。
早ければ年内、遅くとも来年には、テレビの領域でAppleとGoogleが火花を散らす、という分析だ。興味深い。
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