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日垣隆著『手作り弁当を食べてる場合ですよ 格差社会を生き抜く処方箋』(角川oneテーマ21 2010年7月刊)
7月7日の記事で日垣隆著『ダダ漏れ民主主義』を取りあげた。(関連記事:インターネット時代に情報強者をめざすには【浅沼】)
「怖そうな池田氏の上をいく御仁」なんて書いちゃったので、もしかすると日垣氏のカンに触ってしまうかも……、と小心者のボクは心配した。
湯川アニキは「日垣さんは、本当はジェントルマンだから大丈夫ですよ」と言ってくれるのだが、安心はできない。ともかく「ガッキィファイター」は怖いのだ。
その後、日垣氏から何のイチャモンもクレームもない。
いちいち自著の書評なんか読んでないのかもしれないし、読んだとしても歯牙に掛ける気にならなかったとみえる。
よかった……。
で、調子に乗ってもう1冊紹介させてもらおうと思う。
実は、本書『手作り弁当を食べてる場合ですよ』を書店でみかけたとき、あまり内容も吟味せずにレジに向かった。他の著者の本なら、そのまま本棚の未読コーナーに置いてしまうのに、本書はすぐに読みはじめ、50冊以上もある積ん読本をさしおいて、あっという間に読みおわってしまった。
日垣氏の本には「反発しつつもなぜかまた読みたくなるという中毒性がある」と前回の書評に書いたが、僕自身が日垣中毒患者になってしまったらしい。
メインテーマは「格差社会を生き抜く」こと
本書は「日刊ゲンダイ」と「文藝春秋」などに掲載した文章を元に、加筆、再構成したものである。
夕刊紙や雑誌のコラムは、一つひとつが独立した読み物でなければ読んでもらえない。かたや書籍は、ひとつのテーマのもとに統一感のある構成がもとめられる。本書のように短文を集めた書籍は、メインテーマの設定が重要なのはもちろんだが、再構成、加筆修正に心血を注がなければ単なる雑文集になってしまう。
ハイペースで本を出している日垣氏にしてみれば、あまり1冊の本に手をかけたくなかったと思うのだが、今回の編集者はなかなかOKを出してくれなかったようだ。日垣氏はあとがきの編集者への謝辞の中で、「原稿の完成をお待ちいただいただけでなく、折に触れて的確なご助言をいただき、大変な苦労を強いられました。いや、冗談。」と書いている。
最終的に「構成上も各文章単位での独り善がりも避けることができたこと、心から感謝申し上げます」と結び、謝辞のふりをして構成や文章の完成度が上がったことをさりげなく自画自賛していた。
編集者に文句を言っているんだか感謝しているんだかよく分らない謝辞を述べながら、ともかくいい本だぞ、と宣伝を忘れないところが、いかにも日垣氏らしい。
日垣氏が自讃する本書のメインテーマは、「格差社会を生き抜く」ことである。
格差社会なんて、当たり前。なんでもかんでも社会が悪い、政府が悪いと言ってないで、目の前の問題は一つずつ解決していこう。そのためには、たとえば食費節約と時間節約をかねた「手作り弁当」をはじめ、工夫すべきことは山ほどあるよ、という主題だ。
フリーランスの立場から、この時代を生き抜く心構えを伝授
不景気が続いているからといって、グチを言っても何もはじまらない。
これから状況がよくなるか、さらに悪くなるかは分らないが、どちらに転んでも個々人が可処分所得をふやすか、無駄や浪費を減らすくふうをするしかない。同時に、少しでも収入増につなげるために自分のスキルをアップさせることを著者は薦めている。
安定した収入とは無縁のフリーランス稼業を続けてきた日垣氏である。「自慢ではなく、事実としてこの23年間一年の例外もなく年収は増え続けています。自慢か」(引用にあたって漢数字をローマ数字に修正)という実績をあげてきたのだから、自分の歩んできた道そのものがノウハウの塊になっているのだ。
いつもながらの上から目線が癪にさわるが、章タイトルも、66項目の小見出しも興味をそそられてしまう。目次を一部引用しておこう。
第一章 「いい人」を目指したら自滅する
誰もがウツになってしまう時代
「コンプライアンス」主義は本末転倒だ
なぜ痴漢冤罪はよく起きるのか
「あるある大事典」だけが悪かったのか
死亡時に口座を凍結する銀行は野蛮だ
第二章 みなと同じことをやっても価値はない
新入社員の一律初任給は戦時体制の名残だ
ふるさとは遠くにありて滅び行く
キューバの「反米自立」を笑えるのか
首相が阿呆でも国を良くする術はある
第三章 じゃあ、お前がやってみろよ
ネットカフェに感謝申し上げたい
ハッキリ言って国民も大バカ者である
人間には二種類ある! で?
配達証明を濫発する雑誌に未来はあるか
死後に書かれる女たちの手記は辛い
セックス回数の国際比較は疑わしい
第四章 格差社会を生き抜くサバイバル子育て術
きれい事にはウソがある
リスクを正確に把握する
「他人のせい」にする思考回路を断とう
終章 激変時代に読みたい一〇冊の新書
ひとつだけ日垣氏のアドバイスに補足する
日垣氏は銀行のお役所体質が大っきらいで、2006年発刊の『どっからでもかかって来い!』には、銀行関係者とのバトルの様子を銀行の実名つきで明かしていた。
本書第1章の「死亡時に口座を凍結する銀行は野蛮だ」でも、「支店エリアで顧客の死亡をいち早く確認すると、銀行は即座に口座を凍結(封鎖)してしまう」と、銀行を非難している。
一家の大黒柱が突然なくなったとき、遺族は水道代や電気代の自動引き落としができなくなる。お葬式代も引き出せなくなる、との日垣氏の指摘はもっともだ。
ただ、「顧客の死亡をいち早く確認すると」と書いてあると、銀行が死亡者情報をウォッチしているような印象を与えるが、どうもそうではないらしい。
昨年、僕が当事者になったとき「いち早く確認」されなかった、という反例があるのだ。
身内の死を迎えるまで僕も知らなかったのだが、「死亡届」を役所に届出しないと火葬・埋葬許可がもらえない。昨年、義父(妻の父)を亡くしたときは、葬儀屋さんが病院の所在地の役所に代理で提出してくれた。
死亡届けは本籍地の役所に転送されて戸籍から末梢(除籍)されるのだが、葬儀を済ませて義父の住んでいた役所に行ったら、住民票の「除票」という手続きも必要だということがわかった。
縦割りの「お役所仕事」とは、このことか。1回の手続きで済まないようにできているんだなぁ。
その後、年金を停止したあと、お葬式疲れ、手続き疲れでしばらく他の手続きを後回しにしていた。銀行口座に残っている預金の相続手続きはものすごく面倒くさいと聞いていたので、なかなかその気になれなかった。やっと3ヶ月後に妻に付き添って銀行へ行ってみておどろいた。なんと、口座が「生きて」いた!
記帳してみたら、亡くなる前に利用していた介護施設の残費用や、義父の住んでいたマンションの毎月の管理費が、亡くなったあとも引き落とされている。
銀行口座って、すぐに凍結されちゃうんじゃなかったの?
ひょっとすると、個人情報保護法が施行されてから、銀行が死亡者リストを確認できなくなったのかもしれない。
余談だが、義父の口座には、亡くなったあと1回だけ年金が振り込まれていた。社会保険事務所で停止手続きしなければ、その後も振り込まれ続けていたはずだ。
行方不明老人問題を報じるマスコミは、お葬式も出さないで年金をもらっていた家族を責めていたが、お葬式を出したとしても年金を受け取る方法があるなんて指摘していなかった。
お役所の縦割り行政を逆手に取ることも可能なわけで、このあたり日垣氏ならどう突っ込むか聞いてみたいものだ。
終章の書評10編にも注目
「激変時代に読みたい一〇冊の新書」という章タイトルには、そそられる方も多いと思う。
日垣氏は『すぐに稼げる文章術』のなかで、
と太字で書いていた。
自分でハードルを上げるだけあって、それぞれの書評自体が独立した読み物になっているのはもちろんだが、本書の10冊の解説文は「本を買いに走りたくなる」を意識して書いているようだ。
特に矢部正秋著『プロ弁護士の思考術』の推薦文はすごい。
(本文の一部を引用したあと)
ちょっと褒めすぎましたか。いや、まだまだ褒め足りません。
ベストセラー作家の作風を平気でこき下ろす日垣氏が、人が変わったとおもうほどベタ褒めしているのを読むと、ちょっと引いてしまうくらいだ。
でも、きっとそれくらい素晴らしい本なのだろう。
尚、他にどのような新書を“激変時代に読みたい新書”として紹介しているかは、選本自体に著作権を主張されるかもしれないので割愛させていただく。
あとの9冊のタイトル・内容を知りたい方は、直接本書を手にとっていただきたい。
――どう。『手作り弁当を食べてる場合ですよ』を買いに走りたくなった? えっ? ダメ?
手作り弁当を食べてる場合ですよ 格差社会を生き抜く処方箋 (角川oneテーマ21)
著者:日垣 隆
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-07-10)
おすすめ度:
販売元:Amazon.co.jp
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ブック・レビュアー。
1957年北海道生まれ。
日経ビジネスオンライン「超ビジネス書レビュー」に不定期連載中のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
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著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
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