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ブランドン ヒル
(@BrandonKHill)
6月の第二週に1週間程日本出張があり、日程的にも都合が良かったので、Startup Dating主催のイベント「ウェブ大手出身CEOのスタートアップ方法」にゲスト審査員として参加させて頂いた。普段よりサンフランシスコ界隈を中心に様々なスタートアップ系のイベント、セミナー、ネットワークパーティー等に出向き、今月の28日には自社で運営する、SF New Tech Japan Nightも開催予定であるが、日本のスタートアップ系イベントに参加するのはこれが始めて。アメリカを出る前に日本から来ているインターン生曰く、”このイベントヤバいっすよ。めっちゃ行きたかったー!” との事。
そして当日参加して感じた事、それは日本とアメリカではスタートアップを取り巻く環境や人々、マーケット等々があまりにも違う。以前より多くのベンチャー系の日本の若者が”いつかはシリコンバレーに行きたいんです”と言うが、日本で働いた事の無い僕としては、イマイチ実感が湧かなかった。こっちに住んでいると、日本と比べて特別何かが違う気がしなかったからだ。ネット回線は遅いし、便利なコンビニも無い。お酒も2amを過ぎると買えなくなる。ネット系有名企業が多いが故の単なる憧れではないかと言う気もしていた。
しかし、今回のイベントを通して、なぜ日本のIT系の方々が世界に出たがっているかが良く分かった。特にサンフランシスコという街に15年近く住み10年以上もこの業界にいると、良い意味で感覚が麻痺していたので、今回のイベント参加を通し日本との大きな差がある事に今更気づかされた。日本とアメリカはそんなに違わないと思っていたが、歴然とした差がある。それはWebやITに関わっている人々ではなく、市場、そして世の中のWeb/IT系ベンチャーに対しての捉え方であるように思われた。
Web/IT系ベンチャーのプレゼンスの違い
一番の大きな違いとして感じた事、それは日本ではWebやIT系ベンチャーのプレゼンスが非常に低い。シリコンバレーやサンフランシスコでは、Web系ベンチャーは花形である。毎週の様に新しい会社が作られ、サービスがリリースされる。その勢いはかなりのものであり、その中にいるだけでエネルギーを感じる。年齢肩書き問わず、Web系ベンチャーに関わっている人々には誇りがあり、目が輝いている。どんなに難しいチャレンジを目の前にしても、それを乗り越えようとするパワーを兼ね備えている。
その一方で、日本では恐らくIT系でも社会的プレゼンスはあまり高く無い気がする。Yahoo!やmixiがそれなりの知名度があったとしても、多くのIT系の会社はまだまだ社会的には認知度が低い。アメリカではWSJやNY TimesがGoogleやFacebookのニュースを書くのは日常茶飯事だし、彼らが政治や経済を大きく動かしている。一方日本ではメジャーなビジネス系メディアがIT系のニュースを取り上げる事も少ないし、テレビ局のディレクターと話をしても、”IT系は正直テレビ的に絵が面白く無いんだよね…”と言われる有様。そして、Webベンチャーに関わっている人たちは日本ではある意味、”アウトロー”な印象さえ受け、彼らがメインストリームであるサンフランシスコとは大きな違いを感じた。
大企業 vs ベンチャーという考え方
今回のイベントの大きなテーマである、”ウェブ大手出身CEOのスタートアップ方法”におけるパネルディスカッション。元ヤフーや、元リクルート等の大手企業から独立し、自分の会社を立ち上げた方々の体験談が中心となっているが、”大企業との違い”, “大企業の良い所・悪い所”等の質問がされていたが、これにも非常に大きな違和感を感じた。そもそもアメリカでは大企業、中小企業のクリアな線引きは無い上、ある意味、”スタートアップ”と言う肩書きがポジティブな響きもある。Googleなども”Startup Work Environment”を強調し、”職場の雰囲気は大企業にはなりませんよー”と謳っている。そもそも、どんな企業といえども最初はベンチャーであり、大企業とベンチャーを分けること自体少々ナンセンスな気もする。”ベンチャー企業”という言葉のイメージアップを図れればより優秀な人材が獲得できるのかもしれない。
起業家の社会的立場の違い
パネルディスカッションでの話の中で一番の衝撃だったのが、”大企業を辞めて自分で会社を始めた事により何が一番変わりましたか”との質問に対しての、株式会社VASILYの金山裕樹君の答え、”正直モテなくなりました。親からも心配されるし。” この答えはかなり衝撃的。こちらで起業家と言えばスターだし、Web系スタートアップの社長となれば誰もが憧れる存在。親や親戚からも大変喜ばれ、卒業校からは表彰されたりもする。些細な事のように思えるが、会社を興そうと思う人たちへの大きな励みになる。実際に会社をやっている起業家にとっては、どんなに辛くても、最悪女にはモテる。といった最後の切り札にもなるので、あきらめないで続けて行こうと思える。また、一攫千金を狙った成功モデルがアメリカにはたくさんあるので、今がダメでも、いつかは、という夢を持ち続けられる。日本にはまだまだデッカく稼ぐ成功ロールモデルが少ないのかもしれない。
お金儲けに対する考え方
僕が審査員として参加させて頂いたベンチャー10社によるDemoのプレゼンタイムの最後に総評を聞かれたので、”お金儲けの考え方と仕組みが説明できていない”と大変生意気なコメントをさせて頂いたが、こちらのイベントでは必ず説明している部分が欠如していたので、大変違和感を感じた。恐らく日本ではお金に関する話を極力避け、場合によっては”お金儲け=悪”の構図も出来ているからなのかもしれない。しかしながら、Webサービスを展開して行く上で、お金儲けの仕組みをあらかじめ考えていないのは致命的。プレゼン後に少し話した方は、”お金儲けはこれから考えます”と言っていたが、やっぱりお金が儲かる所に優秀な人材は集まるし、社会からも注目される。社会貢献の為にも優秀な起業家がたくさんお金を儲けるのは義務のような気がするのだが。
イベント自体の内容
日本でネットベンチャー系のイベントに参加するのは始めてだったが、イベントの内容自体も細かい点で少し違和感を感じた。まず、パネルディスカッション中にゲストパネリストがビールやアルコールを飲みながら話している所。アメリカではイベントが始まるネットワークタイムに少々お酒を嗜む事はあっても、壇上で堂々と飲む事は考えられない。観客から見ると不真面目に見えるからだ。関係者にその事を尋ねると、“日本人はお酒を飲まないとしゃべらないから” との回答。また、会場でのお食事タイムがパネルとDemoの間にしてしまったが故に、オーディエンスの集中力が散乱してしまったように思われる。結果的にDemoプレゼン中に食べに行ったり、自分のデモが終わったらさっさと会場後方で名刺交換を始めたりしていたのも気になった。プレゼンしている人たちに最低限のリスペクトをするべきだと思う。また、予定している10社が終わった後でも飛び入りでプレゼンしていた方がいたが、アメリカであれをすると確実にセキュリティーのお兄ちゃんにしょっぴかれるのでご注意。あとは、イベント全体が”ネットオタクの達の内輪ウケ”感が否めなかったのが残念。今後は他の業界の人や、ビジネスメディアの方々に来て頂ければもっと風穴を空けられるかもしれない。
学生という肩書き
イベント自体とはあまり関係ないが、日本では”学生”という特別な肩書きがあるらしい。学生だから… という説明を良く聞いた。学生だから出来る事が少なかったり、周りの人から真剣に話を聞いてもらえなかったり、学生起業家が特別扱いされたり。ちなみにアメリカだと、学生だろうが特別扱いされる事は無いし、会社登記をしていなくても自分で事業を始めようと思った瞬間からその人は、Entrepreneurになる。お金をもらっていなくても音楽を演奏すればMusicianと呼ばれるのと同じように。社会人だっていつでも学校に戻れるし、学生でも仕事をしていない人の方が少ない。日本社会でも今後学生の特別扱いが少なくなればと思う。
学生起業家がつぶやいた一言
イベント数日後Webサービスを展開するベンチャーを運営する起業家に会った。まだ大学3年生であったが、かなり面白いプランとサービス展開を予定している。将来がかなり期待される。僕なりに出来る限りのアドバイスを与えた後、”学校を卒業したらどうする予定?”との質問に対し彼は一言、”このまま、のらりくらりやって行きますよ。”とつぶやいた。これには少々キレてしまった。恐らく本人は無意識のうちに、現在やっている事を続ける事は周りから “のらりくらり” やっていると思われると感じているのだろう。僕から見れば彼がやっている、”起業家” と言う職業は内容が何であれ、決して “のらりくらり” では無い。むしろどんな職業よりもタフで崇高であり、周りからどんな風に見られようとも誇りを持ってほしいと感じた。やはり彼の一言にも日本とアメリカにおける起業家の立場の違いや、社会的認識に差があるのが残念に思えた。
今回の貴重な経験をさせて頂いたStartup Datingの池田さんには大変感謝すると共に、今後日本のWeb/ITベンチャーの方々のプレゼンスをアップする事に多少なりとも協力できる事があれば幸いだと感じ、出来る事から少しずつ進めて行ければと思う。
北海道札幌市で生まれ育った日米ハーフ。アイディアとクリエイティビティ、パッションをもって、2004年に米国・アジア間ビジネスの架け橋となる会社・btraxを米サンフランシスコに設立。
会社のウェブサイト:http://www.btrax.com/
ブログ:http://blog.btrax.com/
ブランドンさんが感じているような日米間のIT業界に関する認識の違いに関しては、僕自身もかなり以前から感じていた。
もちろん日本のIT関係者の目指しているところが小さくまとまり過ぎているとか、そういうことが理由ではない。IT関係者は日本も米国も同じ。「おれたちが世界を変えていくんだ」という熱い思いに突き動かされている。
違いの源泉の1つはマスメディアなのではないかと思う。ブランドンさんが指摘しているように米大手メディアはスタートアップの記事を大きく取り上げる。実際に大きな産業になっているからだし、世の中の未来はスタートアップが進む方向にあると多くの人が理解しているからだ。経営者や政治家など社会で力を持つ人たちの平均年齢が日本のそれより10歳以上も若いこともその理由だろう。日米財界人会議などの会合を過去に何度か取材した経験があるが、日米の日米の財平均的界人の平均的年齢差はまるで親子ぐらいあった。
一方で日本のマスメディアはIT業界の動向を詳しく追わない。なぜなら1つには彼らのオーディエンスがそのことに興味がないから。新聞の読者は高齢化が進み、テレビの視聴者は高齢者や小学生など時間に余裕のある人が中心になりつつあるようにみえる。
またメディア企業の高齢化も進んでいる。1年半前まで在籍したメディア企業の平均年齢は40代半ばだった。40代前半の社員は「若手」と呼ばれていた。記者は慣れ親しんだ方法で取材を続け、IT系の新しい事象にうとい人もよく見かけた。2年ほど前に、米大手マスコミがITベンチャーの記事を大きく取り上げることを話したら、同僚の記者は驚いていた。経済畑出身の記者に「グリーってなんですか」と聞かれたのがたった2年半前、別の記者に「パワーポイントって何?」って聞かれたのがたった3年前の出来事だ。
こういう感じなので「大手からITベンチャーに移籍すると親から心配される」状況はまだしばらく続くと思う。
少しでも多くの人がテクノロジー業界に関心を持ち、少しでも多くの人がテクノロジー業界に関係してもらいたい。テクノロジー業界に誇りを持って、業界以外の人にも堂々と胸を張れるようになってもらいたい。そう思ってTechWaveを立ち上げた。インターネット業界、テクノロジー業界が花形産業にならない先進国に将来はないからだ。
もう10年以上前のこと。シリコンバレーあたりを行き来していた時のころだ。日本人は大企業の出向した人かイベントにくた人くらいしか見かけなかった時代。
色々な場所を移動しながら、日本の雑誌の記事を大量に量産していたのだが、シリコンバレーに滞在中に書いた記事の評価がいつも(自分の平均より)高かったのを覚えている。このことは、この環境に創造性というパワーがあり、自分はその影響を受けているのだ、という印象を持っていたが、それにも増して、日本人における「アメリカ引力」の強烈な強さを実感していた。確かにベイエリア(サンフランシスコからシリコンバレーの一帯)は、テクノロジーのイノベーションの源泉ともいえる。しかし、日本にだって同等かそれ以上の技術があったとして、「シリコンバレーでは」の一言が添えられると、一気に華が添えられるのは間違いなかった。それは今、10年前の比ではないほどに強まっている。
ブランドンさんの「”学校を卒業したらどうする予定?”との質問に対し彼は一言、”このまま、のらりくらりやって行きますよ。”とつぶやいた。これには少々キレてしまった。」には共感した。優れた起業家気取りで “シリコンバレーみたいないけてるベンチャーやってるんです、まあ楽勝ですよ”という若年起業家は驚くほど多い。マネタイズとか “ソーシャルメディアは共感” とかかっこいい言葉の使い方はとてもうまいのだけど、ステークホルダーと共に利益を得て着実に成長することを実感として促えていないケースが多い。
一方で、やたらと金に貪欲だったりするのでわけがわからない。「○○やってんだから、これだけ(金を)もらう権利がある」である。結局「アメリカ引力」が国内で「東京引力」となり、「大企業引力」「学閥引力」と到底スタートアップとは関係のない、従属するだけの生き方の中でブランド品を購入するような気持ちで“ベンチャー起業”を標榜しているのではないかと感じている。
今、ブランドンさんの記事にもある「国内IT」の歪んだ地位であるとか、世界における日本ITの存在感の著しい低下を危惧しているが、それでも日本人には優れた資質があり、朴訥(ぼくとつ)に成長しようとする技術者がいて、それらが何らかの契機で世界での存在感を高められると信じてやまない。
僕の歩みにおける次の一歩は、“絵が面白いITイベント”ー「TechWave人xテクノロジー祭@浅草花やしき」だ。個人として設計し実行し枠組みを構築しているが、主役は本当のスタートアップマインドを追求するみんなだ。当然、僕自身もそのうちの一人に入っている。