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編集チョのmaskinこと増田真樹です。
新生TechWave誕生に向け、少しずつ進化を続ける毎日です。本日は、VOYAGE GROUPの子会社 ジェネシックス取締役の冨田憲二さんです。以前、TechCrunchDisruptのレポートでご協力いただきました。 「踊る大捜査線 THE MOVIE3 」でTVダブルスクリーン試聴施策をいちはやく展開するなど多様な企画で注目を浴びています。
彼の市場を読み取る目、そしてそれを開発プロセスに落し込む手腕と判断力には定評があると思います。何より何もないところに価値を生み出す感性がすばらしい。ということで、新生TechWaveのメイン寄稿者として今後も活躍して頂きたいと思います。
さて、今回は、すでに「公開されているスライドを補足説明する」という、ちょっと特殊なスタイルでお届けします。先にスライドを確認してから読むのもよし、先に読んでからスライドを確認するのもよし、是非感想などをお寄せ頂けると幸いです。
iPhoneアプリ「トリセツ」にて実践したリーンスタートアップ 【ジェネシックス冨田憲二 】
ジェネシックスでは事業やサービスでの成功はもちろん、持続的に成果を出し続けれられる仕組み作りにも注力しています。そこで、昨年より本格的に取り入れているリーンスタートアップのプロセスの実践例を皆さまにご紹介できればと思います。理論の話は多くても、実践の実例は少ないと思うので、極力生の数字も交えながら解説していきます。
まず、始めにリーンスタートアップの理論に関して主に参考にしている3つの書籍を紹介します。これらの考え方をベースに実践したことについて説明したいと思います。
・リーンスタートアップ|エリック・リース
⇒ リーンスタートアップ理論のベースとなる一冊
・ランニングリーン|アッシュ・マウリャ
⇒ 1.の実践版。リーンキャンバスはサービスデザイン定義書でも活用
・プランB|ジョン・マリンズ他
⇒ プランAは必ず失敗する、というリーンマインドセットに役立つ1冊
というわけで、それでは、本題に入る前に「トリセツ」について説明したいと思います。
「トリセツ for iPhone」はiPhone初心者のための疑問や悩みを解決する取扱い説明書的なアプリです。概要を箇条書きにすると以下の通りです。
・毎日3記事更新
・アプリダウンロード数:500,000ダウンロード
・マンスリーアクティブユーザー:170,000
・デイリーアクティブユーザー:80,000
・記事あたりのPV:10,000~100,000
・紹介アプリのダウンロード実績:100~10,000(紹介するアプリによりバラツキあり)
※基本的にはアプリからの閲覧がメインですが、「トリセツ for iPhone[Web版]」も公開しており検索経由のみで月間約150,000PV
リーンスタートアップって要は何なの?
まず、いきなり要点から入りますが「リーンスタートアップ」とは何なのか?。組織におけるリーンスタートアップの導入のポイントをこんな風に考えました。
実際、「トリセツ」で実践してみて、ツールや形式はもちろん大切ですが、ツールや形式にはとらわれないマインドセットが何よりも重要であると実感しています。全メンバーが意識せずとも自然とリーンな思考性や意思決定、共通言語を使いこなすレベルまでもっていってはじめて、真の意味でのリーンスタートアップが実現します。
次に注目したのは、この学習フィードバックループです。
リーンスタートアップのすべての基本となるのはこの構築(Build)⇒測定(Mearure)⇒学習(Learn)という学習のフィードバックループです。
500 StartupsのDave McClureの有名な言葉、「顧客はあなたのソリューションに興味は無い。興味があるのは、顧客自身の課題だ」という大前提のもと、何よりもはじめに解決したい顧客の課題があり、それに対する仮説からこのフィードバックループはスタートします。
大切なのは、それぞれのステップに科学的なアプローチを取り入れることによって再現性を担保し、いかにその顧客の課題解決に必要の無いムダを省きながら価値あるサービスを高速で改善していけるかがリーンスタートアップの真骨頂となります。
トリセツで注目した課題はガラケーに慣れた日本人の特有の悩み、iPhoneは勝手が違い過ぎて何が分からないかが分からないというものです。
また、この課題への着目したタイミングは昨年の7月半場、丁度その年の9月にiPhone5が発売される見方が強く、同課題に対する解決ニーズが急速に高まることが予想されました。
こういった課題への対処について、書籍「プランB」では「何をするにしろ一から繰り返すな。未知なる課題と仮説に光をあててくれる先例は十分ほどにある」という形で説明されています。大きなムダの省き方です。
このように、いくつかの課題に対する仮説は、すでに検証済みのサービスを徹底的に調査し、成功事例からはその検証済みの仮説の上に立脚し、失敗事例からは反面教師として学び、既存のどのサービスも検証していない「未踏の信念」を見つけ出すのがこのプロセスでのポイントです。これこそがそのサービスをユニークなものとする源泉となります。
トリセツの場合は、先行するサービスと同様なコンテンツでもAppStoreのランキング入りによって大量にユーザーを獲得できるのではないか、という価値仮説を立てました。ベースラインとしてはリリース初月で10万ダウンロードという数値を設定し、これを越えなければこのサービスに価値は無い、という大きな学びを得ることができます。
「未踏の信念」を見つけ出す
「未踏の信念」となりうる仮説には2種類あります。ひとつは先ほどの「このソリューションが本当に顧客の課題を解決できるのか?」という意味での価値仮説。そして、サービスにおいてもう一つ大切なのが「顧客に価値を生み続けて持続的に成長し続けられるか?」という意味での成長仮説です。
成長仮説を設定するにあたって、リーンスタートアップではサービスの持続的成長をもたらすエンジンを3種類に分類しています。
トリセツではターゲットがある程度フォーカスされており、コンテンツとしても毎日更新性のあるものなのでサービスに対する粘着性は高いだろうと考え、成長エンジンを「粘着型」と設定しました。
ジェネシックスでは、プロデューサー、デザイナー、エンジニアと3つのスペシャリストがチームを組んでサービスを構築しています。各メンバーが常に共通認識&言語を持って会話したり立ち戻れるドキュメントとして、プロデューサーがビジネスモデルと未踏の信念をまとめたサービスデザイン定義書(SDD)を作成し、それを受けてデザイナーがターゲットとなる顧客のゴールに関して定義したUXデザイン定義書(UXDD)をオリジナルフォーマットとして運用しています。
こちらは実際にトリセツにて使用している(いた)各ドキュメントになります。
・サービスデザイン定義書(iPhoneのトリセツ)
・UXデザイン定義書(iPhoneのトリセツ)
サービスデザイン定義書においては、ランニングリーンで紹介されている「リーンキャンバス」に前述の成長エンジンやサービスのビジョン(WHY)など独自の要素を加えています。このドキュメントは最初に作って終わりではなく、都度仮説と検証のフィードバックループを回しながら都度最適な形に更新していきます。UXデザインに関してはUXデザインプロセスをブログにて公開しておりますので、興味がある方はこちらをご参照ください。
実際にサービスの構築段階(機能要件の洗い出し)において重要になる概念がMVP(Minimum Valuable Product)です。
ミニマムでバグがあって不完全なもの…という意味ではもちろん無く、最も優先順位の高い課題(仮説)を解決(検証)するための必要最低限の製品をさします。トリセツの場合は繰り返しになりますが「先行するサービスと同様なコンテンツでもAppStoreのランキング入りによって大量にユーザーを獲得できるのではないか」という仮説さえ検証できれば良いので、WordPressで作成したコンテンツ(記事)を最低限読めるだけの機能にとどめました。その結果、3人のメンバーで着手してから2週間もかからず構築が完了しました。
結果として、リリース後、レビューサイト等でうまく露出できたこともあり、AppStoreの上位ランクインを果たしてリリース初月でベースラインとなる10万を突破することができました。
これで最初の計測⇒学習として価値仮説の検証が成功のもと完了し、次の成長エンジンのチューニングフェーズに入ることができました。トリセツで設定した成長エンジンは「粘着型」であり、端的に言うと顧客の「新規獲得 > 離脱」という状況を持続性をもって作り出せるかがチューニングポイントとなります。
成長エンジンのチューニング
このフェーズにおいても、いかにムダを省きながらサービスの改善をしていくかがポイントなります。
リーンスタートアップでは何より「学習」を重視しており、学習が少ない開発の期間は極力短い方が良いと考えます。
そこで小さいバッチサイズで継続的に改善を繰り返しながら短いスパンで効果を検証し、高速でフィードバックループを回していきます。結果として以下のようなバージョンアップを繰り返ししています。
ある程度の規模まで成長してきたトリセツですが、本当にこのままサービスを拡大し続けられるかはシビアに判断しないといけません。
そこで指標となるのが製品/市場フィットのキャズムです。多くのサービスがこのキャズムを越える前に、要はバケツに穴が空いている状態でムダなコストをかけ続けている状態です。そこで指標となるのが定着率の40%という数値です。サービスによって顧客のどのような状態を定着とするかにもよりますが、定着していると判断できる顧客が40%を越えれば、持続的に拡大し続けられる可能性が高いという統計結果がでています。逆にどんなに改善をしても定着率40%を越えなければ何らかのピボット(方向転換)が必要ということになります。
トリセツでもこの海賊指標といわれるファンネル型の顧客フェーズに注目したコホート分析によって40%越えを目指してサービスの改善を続けています。
ここからはまだ我々も道半ばなので、フィードバックループを高速で回しながら、またこういう形でまとまってご報告できる機会を頂けたらご紹介させて頂きます (了)。
スライドはこちら
【関連URL】
・神アプリや小技・裏技紹介-トリセツ for iPhone!質問疑問にお答えしたりメール、バッテリー、写真やカメラのお悩み解決できるアプリ
https://itunes.apple.com/jp/app/chu-xin-zhenotameno-jie-shuo/id554125407?mt=8
・株式会社ジェネシックス | genesix
http://genesix.co.jp/
・Jumvo出展! TechCrunch Disruptで得られた海外カンファレンス出展ノウハウ【ジェネシックス】 : TechWave
http://techwave.jp/archives/51702322.html
今回の記事のベースとなった講演や講演スライドで最も多かったフィードバックが「リーンスタートアップには興味があるが、実践例が少なかったので理解し易かった」というものでした。特にIT業界は流れが早くてバズワードが溢れがちですが、やはり実践してナンボなので、ジェネシックスでは頭で理解して実践によって腹に落としたものを積極的に発信していければと思います。
2006年東京農工大学大学院修士課程卒(ビークルダイナミクス専攻)。卒業後、U社にて協業でのモバイル公式サイトを複数立ち上げ。2008年ECナビ(現VOYAGE GROUP)へ転職し、2010年5月にスマートフォン専門に開発を行う株式会社ジェネシックスを設立。
神泉ではたらくベビースターラーメン:@tommygfx90
ブログ:http://tommygx90.posterous.com/
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