- Japan Expo今日から – フランスに日本アニメファンが定着しているわけ - 2013-07-04
今日からフランスでジャパン・エキスポがスタートします。今や22万人を超える来場者数を誇る海外きっての日本カルチャーイベントとなった同イベント。約500の出展ブースのうち、日本から直接参加するものは2割弱。8割以上は日本のコンテンツや製品を扱う海外企業や日本カルチャーを愛する団体などによるものです。この中で日本の版元も注目するフィギュア制作会社TSUME-Art社のブースもあります。
TSUME社は日本の漫画・アニメのフィギュアを製造・販売を専門としていて、ルクセンブルクの郊外にアトリエ・倉庫を構える小さな会社です。2010年創業から、その品質と芸術性の高さからヨーロッパのフィギュア市場で急成長を遂げ、イタリアのフィギュア大会itakonでフィギュア・オブザ・イヤーを受賞、2012年JAPAN Expoではフランスで人気の漫画家、筒井哲也氏の「予告犯」プロモーションブースで登場人物4人の等身大フィギュアを展示して話題になるなど注目されています。
初めてTSUME-Artのことを聞いた時は「日本のマンガフィギュアを何故ルクセンブルクで??」と、全く理解ができず、そこには『欧米人に日本より良いフィギュアが作れるはずはない』との思い込みがあったようです。ところが、実物のフィギュアを何体も見せてもらい考えが変わりました。
日本国内で流通するフィギュアはプラスチック製のものがほとんどですが、同社はレジンを使い限定数を生産、精巧な像に手作業で着色し仕上げています。作品のムーブメントや表情なども、原作イメージと版元からの指示を土台にTSUME社が決めていきます。2次元のマンガ・アニメのイメージが3次元のフィギュアにもそのまま表現できるようCGを駆使してデザインし、版元の度重なるデザインチェックの末、作品仕様が決まるそうです。
その結果生み出されたフィギュアは、忠実に原作のキャラクターを表現しながらも、ヨーロッパの好みやデザインが反映されたオリジナルなものに仕上がっています。製品の価格は主に250~400ユーロ(約42500~52000円)とかなり高価。それでもTSUME作品はファンを獲得し順調に売り上げを伸ばしています。
先月、ルクセンブルクの同社を訪ね1年ぶりの再会を果たしました。TSUME-Artを創業したのは、フランス人のシリル・マルショワ氏。がっちりした体にタトゥーがあり、強面の印象ですが、実はとても優しく繊細なアーチストです。フランスでフィギュアを作り始め、会社を興そうとした時に、ルクセンブルク人のパートナー、ITコンサルタントのリュック・デリベイロ氏と出会い、フランスより起業しやすいからという理由でルクセンブルクに移住し会社を始めたそうです。
そこに、フランスの出版社で日本のマンガを扱っていたセバスチャン・アゴゲ氏がPRとマーケティング担当者として加わり、現在の快進撃が始まったのです。ジャパン・エキスポやフィギュア展などでサンプルを展示しては、オンラインショップで注文を取る受注生産システムで、価格競争や在庫リスクを回避してきました。
「日本のマンガやアニメのキャラクターが持つ独特な個性、雰囲気、背景のジオラマなど全てに気を配り、作品であるフィギュアが完成された「和」を醸し出すように取り組んでいます。」とセバスチャンさん。ジャパン・エキスポ展示用のガラスケースに入ったフィギュアを見せてもらいましたが、もはや「玩具」というより「アート」の貫録。そういうと、シリルさん一同、満面の笑みでした。
デザイン作業をするスタッフの部屋には、原作のマンガ、デザインスケッチボードなどに囲まれ、2人のデザイナーがCGでデザインの検証と調整を行っています。ヨーロッパの古典彫刻のような、動きのあるドラマチックなムーブメントが印象的でした。絵付けの現場も見せてもらいました。
「発色は日本の顔料だけど、ドイツ製のブラシの方が長持ちするから。」と日本製の絵の具をドイツ製のエアブラシに入れて作業しています。シリルさんはこの絵付け作業について、「中国の工場に委託してた頃は満足いく結果を出すためには生産管理のため何度も中国出張しなくちゃいけなかったから、ヨーロッパに戻すことにしたんだ。将来的には日本人のペインターを雇いたいと思ってる。日本的感性を理解して表現できるのは彼らだからね。どうやってリクルーティングするか、ビザはどうするか調べないと。」と、次のプランが飛び出しました。
日本の「クール・ジャパン」政策で日本文化を海外に広めようとプロモーション活動が行われていますが、その効果に対する評価はなかなか定まらず。一方、日本の文化がヨーロッパ人の一部には深く浸透し、自発的に日本のコンテンツでビジネスをし、日本人に雇用までもたらそうとしている企業があるという事実は衝撃的でした。
どうして日本のマンガ、アニメが好きなのかを3人に聞いてみました。「僕らが小学生の頃、フランスのあるTVチャンネルで毎週1回、日本のTVアニメをまとめて放送する時間があったんだ。たぶん、TV局がたくさん買い付けてあったアニメを一気に流したという事情だと思うけど、年代が微妙に違う人気アニメを同時に見られるすごい番組になっていた。あのお蔭で、僕らは日本のアニメファンになったと思うよ。」なるほど。クール・ジャパンも世界各地で若い世代の心をつかむことができれば、将来への布石になるということですね。ただ、そのためには海外へ持っていく作品、コンテンツの質が良いことが前提です。
TSUME-Artは日本の版元からラインセンスを取り、ビジネスをしています。はじめはヨーロッパ域内の権利だけだったのが、最近はグローバルの権利をもらえるケースも出てきたそうです。彼らの作品が日本で流通する日もそう遠くないのかもしれません。
ちなみに社名のTSUMEは、日本語の「爪」。フランス語に「爪痕、掻き傷」という意味の「griffe」という単語があり、ブランドのロゴや書画などの落款という意味もあるそうです。自分たちの作品の品質やアート性へのプライドと日本への「愛」が感じられる社名です。