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【シリコンバレー】BenesseシリコンバレーオフィスによるワークショップがThe Tech Museum of Innovationにて開かれた。子供が作品を他者に見せることで、創造性に自信をつけることがねらいだ。Benesse社員に取材した。(2014年3月15日)
折り紙×LED×コマ撮り、自分だけの作品
サンノゼにあるThe Tech Museum of Innovationにて小学生向けのワークショップ、STEAM Dojoが2014年3月15日に開かれた。同館とBenesseが共催する本ワークショップ、まず折り紙でキューブを作り、LEDを入れる。
複数のキューブを作った後、様々な配置を試しながらコマ撮りし、最後に自分だけのストーリー映像を作る。
動画はYouTubeに公開され、最後に皆の前でタイトルとともに発表される。
ワークショップの様子、参加者の声はこの動画により一目で分かるようにまとめられている。
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動画撮影:谷内(Benesse)
(前記事に詳細あり)
前記事ではThe Tech Museum of Innovationの意図である”Inspire Creative Confidence”についてPrinda Wanakule館員に聞いた。今回は、本ワークショップを考案し2013年9月から実施しているBenesse社員二人に「シリコンバレーにてワークショップをする意図」「そもそも何故クリエイティビティを伸ばすのか」などを取材した。
まずは、教育事業本部デジタル戦略推進部の後藤義雄氏のインタビューを紹介する。
なぜシリコンバレーなのか―世界展開をみすえて
Bensesseは、STEAM Dojoにより子供に何を学んで欲しいのか。
STEAM Dojoを開催する後藤義雄氏は(株)ベネッセコーポレーション・シリコンバレーオフィスにて働いている。現地の小学校に子供が通っており、現場の教育も肌で感じている後藤氏にシリコンバレーで活動する理由を取材した。
-STEAM Dojoを始めたのはなぜですか?
子供・親の話を聞くためです。学校で何が困っているのか、理科工作にニーズはあるのかなどを聞くのが目的です。
―なぜシリコンバレーでワークショップをするのですか?
シリコンバレーがとてもグローバルな場所だからです。よく言われるのが、ここに住んでいる人の半分が外国人なんです。本日のワークショップでは、白人もアジア系も南米系も色々な人がいました。グローバル教育を進めるにあたり、ここはとても良いヒアリングの場所になります。
-これからどうしていきたいですか?
本ワークショップを通して、理科工作のニーズがあることが分かりました。これからは、STEAM教育に関連した教材開発・教科書のサービスを作っていきたいです。
-では教材を得た子供にどうなって欲しいですか?
その子にあったよい学びを提供したいです。その子がよく生きるためです。そして、Benesseのことを好きになってほしい。最後には、会長がよく言う「世界で一番ファンとシンパの多い会社」にするのがゴールです。
今、教育のあり方が変わっています。一人一人に合った学びができるようにしたい。学校ではしなかったことを伸ばしていきたいです。
算数などの学校で学べることも大切ですが、The Tech Museum of Innovationの活動のように理科工作をしたりCreativityを伸ばしたり、学校ではしないことに興味が増すとよいと思います。
(インタビュー、終わり)
(左はBenesseの松村隆史氏。参加者二人に挟まれて、記者。)
ワークショップのコンテンツに込められた意図―のめりこむ瞬間を学びに
では、ワークショップのコンテンツの意図は何か? なぜ動画を使うのか、なぜYouTubeに公開するのか? コンテンツに込められた意図を、後藤氏とともにシリコンバレーで働く谷内正裕氏に聞いた。コンテンツには、谷内氏の学びに関する個人的体験が大きく関わっている。
-谷内さん個人への質問です。なぜ教育に興味があるのですか?
SFC(慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス)に入ってインターネットの基盤技術の研究をしようと思っていました。その内に、自分のしていることが世の中の目にいつになったら触れるのだろうと疑問に思いました。そこで、自分のしていることがその場で活かされることを試したくなりました。
大学2年の時に、ミシシッピ州の学校とテレビ会議をつないで授業をするので手伝わないかと言われ、中学校に行きました。それで教育に関心をもちました。
-なぜ教育に関心を持ったのですか?
なにか面白いと思ってのめりこむ様子がすごく好きでした。これだ、と思ってぐっとのめりこむその瞬間があるじゃないですか、その瞬間をもっとたくさん作りたいと思いました。それを実現するためなら苦にせず学びます、これが本当に見たい学びだなと思ったんです。
ミシシッピ州の学校とのテレビ会議は、英語授業の一環でした。英語って、中学3年生くらいにはあきている生徒も多いんです。けれど、テレビ会議を通じて1999年くらいの時期にアメリカの子どもたちとしゃべることができて、さらに反応まで返ってくると、急に英語を学びたいと思うんですね。その瞬間を見て、これは何か支援しなくてはならない、しかもそこでテクノロジーが何かサポートできるはずだと思いました。
-英語自体を学ぶのではなく、何か面白いことが外にプラスしてあるから、そのプラスを得るための手段として英語を学ぶのですね。なので、のめりこみたくなるものを作るのに関心を感じたのですね。
えぇ。今までは日本の英語教育に疑問を思いながらもそこまで関心を持っていなかった。けれど、そこを変えないと子どもたちが本当にしゃべりたい内容を話せないのだと思って、英語教育関係の方向に走り始めていました。
映像もそうです。私が大学院の時に作ったシステムは、自分の撮ってきた映像をぱっと世の中にシェアして、他の人の撮った映像と混ぜあわせて映像作品を作るプラットフォームです。
例えば、日本とアメリカの子どもたちがカメラをもって歩きまわって、瞬時にシェアをして、日本とアメリカの映像を混ぜあわせる。それをベースにすれば、言語が話せなくても伝えあうことができます。映像が「自分の視点をそのまま相手に共有できるメディア」だからです。そのために、映像を簡単に切り貼りできるツール”Partage”を作りました。
メッセージを伝えるための手段は、色々な手段があると思います。映像を作って、内容をもっと伝えたいと思った時に英語を学び始めるかもしれない。
-コアにあるのがこれを伝えたいという思いで、そのための手段は色々ある。気持ちを伝える手段として、英語しか見えない人は手段が義務になってしまう。けれど動画という手段を知っていれば、メッセージを伝えられるということですね。
-映像やコーディングなどを手段に、ぐっとのめりこむ瞬間を作るのが目標とのことでした。現在、谷内さんの目標は達成されていますか?
していないと思います。例えば社会科で調べてこいと言っても、グーグルで一番上の記事をコピーする人がいる。しかし問題なのは、生徒が興味のないものを与えていることではないか? 彼らは本当のリサーチ能力や問題解決能力を実は持っていると思うんですよ。
例えば、ゲームを買うために、月何円貯めればいいか、お年玉でいくらもらえるかを考慮して計算する。あるいはアイドルについて教えてくれというと、自分が一番知っているのだとアピールしたいくらいに、ネット・雑誌から色んなことを調べてきて自分なりに意見を言う。このようにその人にあった「のめりこみたいテーマ」があるはず。それを、勉強でないから、と止められてしまってはいないでしょうか。けれど、興味をもつ瞬間はたくさんあるのではないでしょうか?
誰にでもあるはずの興味をもつ瞬間を、もっと学びにつなげたいです。それが目標です。
-では、興味を学びにつなげるという目標を達成するための、これからのステップを教えて下さい。
キーフレーズはPassion “to” learnです。”to”としたのは二つの意味があります。From Passion to Learn (情熱から学びへ)とPassionate about Learning(学ぶ情熱)をかけています。
例えば子供が絵を描くことを考えてみましょう。まずは親に「こんなのできた」と見せます、つまり認めてくれる人です。次に兄弟に、そして友達にと広めていきます。この段階になると、友人の作ったものを見てよいな、と思うようになります。次に学校に入ると自分の意見を話さなければならない場面が出てきます。自分のものを見せることで、自分の話す内容に価値があるんだと気づくことができ、更に自信を得られます。
更に成長すると、SNSなどオンラインコミュニティに入ります。すると、例えば自分は絵が得意でコーディングはできない、けれど他の人はコーディングが得意だけれど絵は描けないと分かる。一緒に連携すればその時に、新しいものができる。すると、個人の中に戻ってきて、自分は絵を描くことが得意だったのかもしれないと気づくことができる。そして自分の力を活かせるようにもっともっと勉強しようと思う。そして周りの人からも認められる。最終的にはそれが自分の中のスキルとなり、社会の中で自分の得意なものが何か見えてくるので、もっと学ぼうと思う(Passionからlearnへ、かつlearnするPassion)。そして最後には、社会に貢献できるスキルを得ていくのです。
-自分の好きなことをするのに自信をもつのが大切なのですね。
そうです。どれだけ小さい頃から自分で作ったものを周りの人にシェアし、認めてもらえる体験を積めるか、だと思うんですよね。
自信を持つ一番スタートになる子供の時、いかに自らのアイディアを認められるかが大切です。それが自信になり、社会への貢献につながります。
(インタビュー、終わり)
取材協力
・後藤義雄
東京大学大学院理学系研究科卒業。2007年未踏ソフトウェア創造事業。現在(株)ベネッセコーポレーション・シリコンバレーオフィス勤務。学習サービスのデジタル化を推進し、学習履歴の分析や学習者に個別最適化された学びを提供するサービス開発を行っている。
・谷内正裕
慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。同大学非常勤講師、研究員を経て、現在(株)ベネッセコーポレーション・シリコンバレーオフィス勤務。学習者自身による学びのデザインを支援するテクノロジーに関心を持ち、産学連携を通じた新しい学びと学び方の研究開発に取り組む。
こだわりを、外に開いていく。自分のこだわりを、相手に認めてもらえるかが大切だと思う。
ここでは、谷内氏の話がワークショップの内容とどう関わっているのかを解釈する。他者に見せ、アイディアが認められることで自信がつくこと。これはThe Tech Museum of Innovationの目的である”Inspire Creative Confidence”につながる。
”Inspire”するためには二つの側面が大切ではないか。一つは自分がこだわりたくなるほど熱中できること、それだけ面白いコンテンツが必要だ。Light Cubeとコマ撮りは、子供たちがのめりこめる格好の材料だった。二つ目は他者から自分のこだわりが認められること。認められることで、相手のこだわりを見ようという心も生まれ、こだわりが認め合えるようになる。ワークショップにて自分の動画がYouTubeに公開され、最後に皆の前で作品が上映されることが対応している。実際に、公開に喜ぶ子供がいた。
例えば、参加者のZoeは「ダディ, 私の作品がYouTubeにのるんだって?」と大はしゃぎしていた。さらに「今日の経験が、私を映画監督にさせようと思わせたわ」との発言からは、彼女が自分のこだわりに自信を持ったことが分かる。
こだわりは、そのままでは自分の中だけで閉じている。親に見せたり、YouTubeに公開して他者に見てもらうことで自分のアイディアが認められる機会ができると思う。これが谷内氏の言う「自分のものを見せることで、自分の話す内容に価値があるんだと気づくことができ、更に自信を得られ」るということだ。その自信が、自分のアイディアを更に磨こうという学びにつながる。
作品を外に見せ、自分のこだわりを外に開き、自信を得る過程が、この90分のワークショップにきゅっとつまっているのだ。