変化が著しく、かつ様々な分野において最先端の取り組みがなされるアメリカ。ここでは、在米30年で、これまで数々の日系企業の米国進出をサポートしてきた、MIW Marketing & Consulting Group,Inc. の代表 岩瀬昌美氏による現地レポートをシリーズでお伝えします。売り場、現場の最前線で何が起きているのかはもちろん、いまなお米国に在住しているからこそ分かる生活者の反応や日本市場との対比なども交えてお届けします。
4回目は、日本でも大きく報道された米・バーニーズ破産、その本当の理由はどこにあるのかについてお伝えします。
破産の理由は消費者のオンラインショッピングへの移行にあらず
バーニーズの破産の話は日本でも記事になりました。バーニーズはチェーンとしては数十店舗とそこまで規模が大きくありませんが、日本では実際の規模よりもブランド認知が大きいように感じます。しかしながらアメリカの、特に西海岸ではひっそりとお店が閉店しています。
「バーニーズの失敗は家賃の高騰」という解説もありますが、と言ってもそれはバーニーズだけの話ではありません。さらに、オンライン戦略を軽んじていたかというと全くそうでは無く、2015年には既にパーソナライゼーションを打ち出したオンライン戦略を着々と進めていました。
では何が今回の破産を招いたのでしょうか? まず挙げられるのが、アメリカの異常なほどの格差社会です。例えば4,892ドルのジャケットを買える人は人口のほんの一握り(アメリカの人口の80%は、国の純資産の7%しか持っていない)。したがって、富裕層の囲い込みの失敗が、バーニーズ破産の一番の理由だと考えます。そしてその富裕層のマジョリティは60代のベビーブーマーのため、オンラインで買い物はしない(できない人が多い)ため、同社が掲げたオンライン戦略が空回りしてしまったのだと思います。
さらにプロダクトに関しても、シャネルやエルメスといったラグジュアリーブランドは顧客担当制のため、新しい商品が入れば店頭に出る前に優良顧客には直接電話が来ます。しかし、いわゆる百貨店であるバーニーズには最新のエルメスのバーキンが入ることはありません。つまり、富裕層にとってはバーニーズの顧客である魅力がないのです。値段が高いにもかかわらず商品構成が30~40代向けで、ターゲットと合っていないと言えます。
バーニーズの失敗から日本の百貨店が学べることは何でしょう? それは、富裕層をターゲットにする場合、オンライン・ビジネスをそれほどまで心配する必要はないということです。5,000ドルのハンドバッグをオンラインで買う人はあまりいません。やはり店舗に足を運んで、しっかりと名前で挨拶され、シャンパンを出してもらう。そうしたトータルエクスペリエンスこそが、富裕層マーケットの顧客囲い込みのベストストラテジーなのです。
まさにそれは百貨店の“外商”というすばらしいジャパンオリジナルのサービスに当てはまります。そこをさらに磨けば、日本の百貨店の未来はまだまだ伸びしろがあると思います。