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Yahoo!JAPAN 立ち上げた孫泰蔵 氏、古巣でパズドラとアントレプレヌールを語る【@maskin】


[読了時間: 2分]

 ヤフーとヤフーとMOVIDA JAPANが共同で共同で展開する社内起業家育成制度「スター育成プログラム」が2013年7月9日に発表された。

 ヤフーに所属しながら、MOVIDA JAPANのインキュベーションオフィス「The Startup DOJO」で起業にチャレンジすることができるという画期的なプログラムだ。

 プログラムに参加できるのは、2013年8月に開催するヤフー社内の開発イベント「Hack Day」で選抜された一部の社員。9月1日のプログラム開始を前に「Hack Day Japan 10 プレイベント」が開催され、Yahoo!JAPANを立ち上げた本人であるMOVIDA JAPAN代表 孫泰蔵 氏の特別講演が行われた。

 日本のインターネットの黎明期に立ち上がったYahoo!JAPANの舞台裏と起業家精神についての熱いスピーチを一部要約してお伝えしたい。



孫泰蔵氏 特別講演、「出る杭になろう」

 2年前にMOVIDA JAPANでスタートアップ支援を開始して、つい最近、渋谷で「StartUp Dojo」というスペースを開設しました。

 そこで、スタートアッププロダクトのプロトタイプ作成からベータローンチまでやろうという試みを展開しているんです。

 例えば、起業の先輩に直接話聞けるイベントを毎週開催したり、クラウドの使用の仕方とか、UI/UX、人を集めチームをどうやるか、約款を作るにはどうすればいいかとか、サービスを立ち上げる時の実践的なワークショップを無償でやっています。しかも、おいしいごはんが食べられる。

 そのような展開をする中、ヤフー! 執行役員CMOの村上巨さんとお話をしました。

 ヤフー!の社員の中には、本当はやりたいことがある人がいる、実現できるエンジニアも一杯いる。なのに、日常の業務があってできないという人が多いと思うんです。

 そんな人に、未来のヤフーの主力サービス、つまりLINEやパズドラのようなサービスを実現するために、コラボで画期的なアイディアの立ち上げを目指ざしたらどうか? 私たちも協力しますよ!という話になり「スター育成プログラム」が始まったんです。

 そこでまず、20年前、ヤフー!という会社がどうやって立ち上がったか、私しか見聞きしていないことなどを話しつつ、スタートアップで何かやっていきましょう、ということをお話していきたいと思います。


アントレプレヌールは会社を作ることではない

 まず「アントレプレヌール(Entrepreneur)」という言葉を紹介します。知らない人は覚えていってください。

 アントレプレヌールというのは日本語でいえば「起業家精神」と訳されますが、どういうことかというと「新しいテクノロジーが生まれ、従来できなかったことができるようになった」「規制緩和などで今までできなかったことができるようになった」という新しいチャンスが拓けるようになったという時に、人々が潜在的に「こうなるといいな」「これは困っているな」ということをキャッチしてみつけて「やってみよう!」と実現していくこと行為をアントレプレヌールといいます。

 実は、定義はこれ以上でも以下でもありません。

 よくアントレプレヌールを「会社を作る」とか「独立する」とか思うかもしれませんが、そうじゃないんです。新しい価値を実現する行為そのものをアントレプレヌールというんです。

 なので、それがヤフーの中でできるであれば、やってもいいわけなんですよ。自分がいる組織でどうしてもできない場合、手段として組織を作ることも考えられますが、会社を作ることでなくてもいい。

 特に今回ヤフー!が展開する社内起業家育成制度「スター育成プログラム」は、ヤフー!の資本を入れた外部の会社でやってもいいという画期的なプログラムなので、みなさんアントレプレヌール精神を発揮してもらえればと思います。


Yahoo創業者のJerry YangとDavid Filoの出会い

 さて、それでは僕自身のスタートアップについて話をしたいと思います。

 僕が会社を起こそうとしたきっかけは、この二人、Yahoo創業者のJerry YangとDavid Filoの出会いからはじまったんですね。

 当時僕は大学生、二浪して入学して結構年は食っていたんですが、3年から4年にあがる就職活動の時期、内定ゼロで諦めている中で二人に出会いガビーンとなったんです。

 もともと米Yahoo!がどうやって生まれたかというと、二人は米スターフォード大学のコンピュータサイエンス学科の大学院生だったんですね。当時まだなかったサーチエンジンについて「これ検索できたら便利じゃない?」「やろうやろう」と作り始めたのがきっかけです。

 当時、スタンフォード大学の学生はサーバーを使用できたので、そこで始めようということになりました。Yahoo!という名前もまだありません。

 ウェブサーバーとデータベース、それぞれのサーバーがあったのですが、そのURLが「akebono.stanford.edu」「Konishiki.stanford.edu」という名前でした。二人は日本の相撲ファンだったんですね。

 いよいよサーチエンジンのプロトタイプができて、よっしゃーと友達にURLを周し始めたところ、「これ便利だね!」というシェアの連鎖で拡散していったんですね。

 そんなある日、スタンフォード大学のネットワークシステムがダウンする事件が発生したんですね。ネットワーク管理の先生が調査したところ、全米からAkebonoにアクセスが集中し、ルーターなどがパンクしたわけです。「akebono」サーバーは何なんだ?

 Yahoo!創業者の二人は先生に呼び出されたわけですが、二人は「自由研究で作りました」と答えるものの「学内から出せ」といわれてしまうんです。

 そこで、大学の道をはさんで向こう側に住んでいた David Filo の家にサーバーを設置するんですが、当時回線が非常に効果だったんです。1.5Mbpsが月150万円とかしたんです。今、携帯でも実測で40-50Mbpsでてますが、それくらいだったんです。

 こうなったら普通止めますよね? ところが、二人は「人類のためにやらないとならない」。for Peopleじゃなくて、for Human Beingsといったんです。

 何でですか?と聞いたんですが、彼らはYahoo!を「ニュートンの前に林檎を落とす存在」と言ってのけたんです。

 ニュートンが朝散歩していて、ニュートンの目の前に林檎がポトっと落ちた。それがきっかけで「何故林檎は落ちるんだろう?」という万有引力への思考にきっかけになったんですが、彼らはこういうんです。

「Taizo、もしニュートンの目の前に林檎が落ちなかったら、どうなると思う?」

 って。そうなると、ニュートンは林檎の木を素通りしてしまって何も起らない。いずれ発見することはあるかもしれないが、科学の基礎である物理学が何十年も遅れる可能性もある。もしかすると、電気の発明も遅れる、電気のない時代を送ったことも考えられる。

 当時のインターネットは、軍や学術機関といった限られた用途にしか接続されていないけれども「いずれ全ての人類がネットワークを使用するようになる。人類のあらゆる知識や知恵、英知みたいなものがのってくるだろう。それがパッと検索できないんだとしたら、存在しないと同じ。未来にニュートンのような重要な発見をするような人に情報が適切に提供できないのだとしたら、それは膨大な機会損失ではないか?」というんです。

 彼等は大学のネットワークをダウンさせるほどのインパクトを持つサーチエンジンに市場性を感じたんですね。「僕たちは、えらいことを発見してしまったんだ。これを発展して育てていく義務と責任がある」というんです。25,26歳でそんなことを言った彼等は本当に素晴らしいと思います。

 日本のヤフー!もそういった遺伝子を持っているという自負を持って欲しいと思います。

 Yahoo!は、どうにかやらないといけないと思ったわけです。回線を引くお金もなく、サーバーも非力。サーファーという情報を探してHTMLコードを制作する人らにアルバイト払いたい。そうするにはビジネスモデルを作って、インフラを構築したいと思うようになったんです。彼らは起業したいからといってスタートしたんじゃないんですね。

 それで、彼らはどうしたかというと、スタンフォード大学から数百メートルネットワークケーブルをはわせて、自宅サーバーまで接続したりしたんです。それもすぐにバレてうまくいかず、本格的に収益化のためのビジネスモデルを構築していったのが、Yahoo!なんです。


Yahoo!JAPAN協奏曲

 僕は、それを聞いて感動して「バイトでも下働きでもいいから僕にも手伝わせてください」といったんですが、二人から「じゃ、よろしく」と丸なげされたんです。

 丸なげの意味が全然わかってなかった僕は、(お兄さんの会社)ソフトバンクがあった箱崎にYahoo!JAPAN準備室を設立し、400人くらいの学生を集めて、3か月間データベースを構築するということをやりました。

 その間、自宅に帰ることができなくて、円形のテントを5個くらいおいてそこで生活していました。サービスがローンチしたときの記憶もあまりないんです。

 「これ押したら公開だよ」といっていて、何かワーっとなったような気もしてますが、結局過労で倒れて過ぎ去ってしまったんです。

 自分の会社も、Yahoo!JAPANをやるぞ、というよりは「契約はサークルとしてやっていいですか? え、ダメ。会社やれば」といわれたのが起業の理由です。はっきりいって巻き込まれたという表現がいいと思います。


(米ニューズウィーク誌に取材された当時の写真)


失敗したっていい、バンドのようにスタートアップしよう

 その後、事業を立ち上げたり。海外のサービスを日本に持ち込むなどの仕事をしてきましたが、ここに表示しているロゴの倍くらいの案件があり、ロゴを見るだけでウァーという失敗した例があるんです。累計100億円くらいスッてると思うよ。

 その中で「パズドラ」がヒットした、ガンホーがあるわけです。別に僕が作ったわけではないですが、「とりあえず作ってみる」という良いカルチャーがあるんです。おもしろくなければエンドレスに作りなおす。

 パズドラもたった数人のチームでやっていますが、おもしろくなければ出さない。つい1年半前にやったものが、今では1600万ダウンロードまできた。

 スモールチームでも世界を攻めることができる。インターネット業界始まって以来の恵まれた環境がきたんです。

 だから「バンド」をやるようにスタートアップして欲しいんです。そういう世界なんです。だから世界をひっくり返らせることをやってほしいと思います。

 


スタートアップ5か条

 最後に、実際にスタートアップをやっていくうちで、ゼロから1にするプロセスで、僕なりの5つのアドバイスをお伝えしたいと思います。

1. ビジョンを作れ
僕が考える「ビジョン」というのは目に見えるものという意味です。
「○○のビジネスで年商500億円を目します」というのは目標なんです。ビジョンというのは手書きでも何でもいい「こんなアプリをつくりたい」これでどういう人がどう使われ、どう嬉しいのか具体的な使われた時の象徴的な絵やビデオ、視覚的に訴えるものを先に作るということです。
Appleも二十数年前に「ナレッジナビゲーター」というiPad/iPhoneみたいな映像を作成してブレてないんです。

2. 仲間を探せ
co-Founderとなる人を探してください。シリコンバレーの投資家は、どんなに素晴らしい会社でもチームでも、ワンマンな会社には投資をしないんです。実際、いいプロダクトを持つ会社はいいチームを持っているんです。

スタートアップは人生の目的の一つなんだと思うんです。苦しい時も辛い時も一緒に行動できるのは人生のひとつの成功だと思うんですよ。
大きいチャレンジであるほど仲間は集まるものなんです。
仲間が一番大切なんです。

3. 目標を立てる
いつまでに何を達成するかと定数で立ることです。ユーザー数ではなく、自分たちの努力目標を自分達で計り、努力を計測してほしいと思います。
「目標は行動を促し、成果が行動を持続させる」

4. プロトタイピング
「100の議論より、1つの目にみえるもの」「プロトタイプは英語で作れ」。英語が苦手なら、なおさら。そうすることでユニバーサルなプロダクトになるんです。英語で設計して、日本語に訳せばいいんです。もちろん英語なら全世界に公開できるんですよ。

5. 人に習うな
自分の父は「泰蔵、学校の先生の言うこときくな、嘘つくぞ」という人だったんです。僕は「えー、結構いいこと言うよ」といったりしていましたが、、。意味がよくわかってなかったんですね。
どういうことかというと「自分で工夫しなさい」でした。人に教えてもらって、その通りにやりますではなくて、自分でやってみて、それでダメだったら教えをこうといことをしないと、教えてもらったセオリーから抜けられないんです。
例えば、ラーメン屋なら、普通は「修行しろ」というと思うんですね、けど、教えてもらったらそのラーメンの枠を越えることはできない。僕だったら「まず、豚骨を煮ろ」といいます。いろいろ失敗して工夫していけば、まったくオリジナルのラーメンが作れる可能性がある。
頭がちぎれるほど考える。また作る。

すべてのイノベーティブなプロダクトはそうやって生まれていってるんです。(孫泰蔵 氏)




【関連URL】
・本格的な企業内起業家育成制度「スター育成プログラム」新設 | Yahoo! JAPAN – プレスリリース
http://pr.yahoo.co.jp/release/2013/0709a.html

蛇足:僕はこう思ったッス
「仲間さがし」の話の時、泰蔵さんはいきなり「ワンピース読んだことない人?」と挙手をうながした。僕は、恥かしながら手をあげました。彼は「スタートアップにおける仲間さがしの全てがここに詰まっている」というんです。その夜、電子書籍で20巻まで購入して読み始め、いきなり一巻目で衝撃が脳天まで付き抜けました。
現在、一人でサーバーからコーディングからビジネス設計からイベント運営から編集執筆までやっている。そんなかかえこみの自分がダメなのがよくわかっているんだけど、どう次に進んだらいいのか全然わからなくてドロ沼にはまっていました。ところがワンピースで目からウロコが落ちました。仲間だ。仲間こそ今の自分のすべて。わかっているけど、わかっていなかった。
仲間をさがす冒険に出ないといけないんだということを知った、人生の転換のきっかけとなる貴重な講演でした。
著者プロフィール:TechWave 編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
変化し続ける高エネルギー生命体。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてのIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなどほとんど全てのIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ブログCMSやSNSの啓蒙。ネットエイジ等のベンチャーや大企業内のスタートアップなど多数のプロジェクトに関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップマーケティング・音楽・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」「リーンスタートアップ」執筆中)。@宇都宮ー地方から全国、世界へを体現中。
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