- 雨を降らせる機械からiPhone電脳メガネまで「自分が欲しいから作った」Mashup Awardめっちゃ楽しい12作品【鈴木まなみ】 - 2013-11-19
- スマホアプリは大手有利の時代【湯川】 - 2013-07-05
- そしてMacBook Airは僕にとっての神マシンとなった【湯川鶴章】 - 2013-06-14
[読了時間:4分]
人間は「つながり」を持てるのは150人までという説がある。この説を唱えているのは英国の文化人類学者ロビン・ダンバー(Robin Dunbar)教授。同教授の名前を取ってこの数字はダンバ・ナンバー(ダンバー数)と呼ばれる。ダンバー数とは「それぞれと安定した関係を維持できる個体数の認知的上限」と定義されているが、Robin Dunbar教授自身の説明によると、信頼と責任を持って接する人たち、過去に個人的な関係を持ったことのある人たちの数、ということらしい。
同教授が「深い付き合いの輪は150人が限度」という学説を唱えるようになったのは、猿の研究がきっかけになった。猿はグループで行動する。社会的動物だ。主に毛じらみを取り合うことで、社会的に触れ合う。同教授は、猿のグループのサイズと、毛じらみを取る時間、脳の大きさについて調べてみることにした。
というのは、これまでに社会生活を送る動物の脳が大きいことが分かっていたからだ。実は、ほとんどの動物は集団生活をしない。集団で生活するのは、哺乳類、特に霊長類に限られていて、そのほかの動物にとって社会生活と呼べそうなのは、メスとオスが対になることぐらい。鳥類は大別すると、生涯を通じて一羽のオスと一羽のメスが添い遂げる鳥、1シーズン限定でオス、メスが一対になる鳥、相手にこだわらない鳥、の3つのグループが存在する。そして脳の大きさは、生涯を通じて一対で生活する鳥の脳が最も発達している。このことから、長い時間に渡って親しい関係を維持するのには高度な脳の処理能力が必要なのかもしれない、ということが分かる。
そこで38種類の猿の仲間を調べみた。そうすると、この3つの要素に相関関係があったという。毛じらみを取る時間が長く、一緒に生活するグループが大きな猿の種類ほど、脳が大きいのだという。
集団生活をするのには、頭脳を使わないといけないのではないか。集団生活をすることで頭脳が発達するのではないか。同教授はそう考えた。反対に脳の大きさから集団生活のグループの大きさを逆算できるのではないか。そう考えたダンバー教授は、この猿のデータを人間に当てはめてみた。人類の平均的な脳の大きさからすると、グループの大きさは約150人ということになった。
実際に人間は、150人のグループで生活をともにするのだろうか。現代でも主に狩猟生活をする部族の調べたところ、グループの規模は150人前後のところが明らかに多かった。先進国でも、アンケート調査した。「互いに友人、知人と認識し合っている人は何人くらいいますか」と聞いたところ、これも約150人だった。
歴史的な資料も調べた。
11世紀の英国で最初の国勢調査らしきものが行われている。調査は1085年12月に始められ翌年1086年8月に初版が完成した。Domesday Bookと呼ばれる書物で、1万3418の集落の調査だ。それを同教授が調べたところ、集落の平均的な大きさはやはり150人前後だった。
産業革命以降は、150人の集団生活が最も生産性の高い生き方ではなくなった。人々は都市部に出て工場で働くようになった。人々の人生の中で居住地を何度か変えるようになった。地元とから離れた大学へ生き、故郷から離れた場所で就職する。就職後も転勤したり、結婚を機に別の場所で住むこともある。
一生のうちに出会う人間が150人どころかその100倍、1000倍、1万倍にもなるかもしれない現代の都市型ライフスタイルの中で、より豊かな人間関係を持つにはどうすべきなのだろうか。
人間の脳がさらに拡大すればいいのだろうが、人間が進化するには少なくとも数百万年が必要とみられるので、それは無理。そこでダンバー教授はFacebookのような仕組みが、150人を超える数の人間との関係を維持するのに役に立つのではないか、というところに関心を抱いているという。
わたし自身も、Facebookやmixiのようにリアルソーシャルグラフに軸足を置いたSNSが人間関係をどのように変化させるのかということに非常に興味を持っている。人間の脳の記憶の一部をSNSが代替してくれて、懐かしい友人との再会の前に過去の出来事をおさらいすることができるようになるだろうし、日常の細切れの時間の中でも自分の状況をつぶやいたり友人のつぶやきを読んだりすることでより多くの友人とつながれるということはあるだろう。「久しぶりに会っても久しぶり感がない」ー。ブログやTwitterをやっている人の間でよく耳にするフレーズだ。
特にFacebookは遠くに住む友人、昔の友人とのつながりを復活させてくれる。その効用があることは事実だ。わたしは大学は米国だったのだが、卒業後帰国し学生時代の友人たちとバラバラになってしまった。ところがFacebookを通じて旧友が友達申請してくれた。また海外留学の経験のある人から同様の話を何度か聞いたことがある。
Facebookなどの仕組みを通じて離れた場所にいる友人、昔は中のよかった友人などとの関係性を保ち、脳の認識の限界である150人までに意味のある人間関係を増やすことで豊かな人生を送れるのかもしれない。
一方で、自分の過去をリセットできなくなるということもある。「この街を捨てイチからやり直す」ということは難しくなる。過去の行為はネット上に刻まれたまま消し去ることができなくるなるだろう。
またオンライン上だけで友人関係を一定以上に深化させることは難しいのではないかと思う。ダンバー教授もスキンシップの重要性を指摘する。どんな言葉よりもスキンシップで伝えることのできるメッセージのほうが力を持つというのだ。「肌に触れるという行為を代替できる何かが情報技術の発達で可能になれば、それはものすごいブレークスルーだと思う。それが可能になるまで、人は実際に会わない限り深い関係を持つことはできない」と同教授は語っている。
リアルソーシャルグラフに軸を置いたSNSは、われわれの社会をどのように変化させていくのだろうか。ご意見お待ちしています。
(参考資料:ダンバー教授のインタービュー動画 http://www.guardian.co.uk/technology/2010/mar/14/my-bright-idea-robin-dunbar)