「LINEが普及した最大の理由は、タイミング」NHN舛田淳氏【湯川】

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 LINEはなぜ成功したのかー。わたしが主宰する少人数勉強会TechWave塾に講師として来てくれたNHN Japanの舛田淳氏に対し、わたしのほうから最初にこの問いをぶつけてみた。「LINEは大成功しているというように報道していただいていますが、まだ成功しているとはわれわれは考えていないんです」と断ったあとで「ここまでユーザー数が伸びた理由を1つ挙げろといわれれば、それはタイミングだと思います」。舛田氏は、淡々とそう語り始めた。


 LINEはなぜ成功したのか。いろいろな人がいろいろな見解を述べている。電話帳連携がよかった。スタンプが、キモかわいいのがよかった。操作性の統一感がよかった。若い女性向けにスマートフォンに特化させたのがよかった・・・。いろいろと理由が言われているものの、LINEの生みの親である舛田氏がどう考えているのかを知りたかった。

 「一番はタイミングだと思います。あのタイミングでリリースしたからこそヒットしたんだと思います。半年リリースするのが早ければ、あまり数字が伸びず『これはだめかな』という気持ちになっていたのかもしれません」。

 LINEのリリースは2011年6月。ガラケーと呼ばれるフィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換える人が急増し、カカオトーク、バイバー、WhatsAppなどのコミュニケーション系のアプリを使う人が増え始めたころだった。一方でPC上でFacebookを使っているアーリーアダプターと呼ばれる人たちもFacebookのモバイルアプリを使い始めていた。

 Facebookは最近モバイルアプリを一から設計し直し操作感を向上させたが、当時はFacebookのモバイルアプリの動作は遅く、一部では「Facebookはモバイルに本気ではないんじゃないか」「PCベースのサービスをモバイルに焼き直すのは、事実上不可能なんじゃないか」などという声も出ていたころだった。その時期にLINEをリリースし、ユーザーをつかむことができた。もし現在の高品質のFacebookアプリと戦わなければならない今のような状況なら、LINEは苦戦していたかもしれない。

 スマホユーザーの急増というパラダイムの変化が起こった。しかも競合は新しいパラダイムへの対応に遅れていた。チャンスの扉が一瞬だけ開いたわけだ。LINEがリリースされたその瞬間に扉が一瞬だけ開き、LINEは扉の外へ飛び出すことに成功した、というわけだ。

 ここで正直に告白すると、わたしは親しい友人たちに対してLINEの成功の理由を「運だ」と説明していた。もちろん、能力もない人がホームランを打つ、という意味の「運」ではない。能力もトップクラス、時代の流れの読み方も完璧という人は、実は少なくない数で存在する。そうした人が世界中には数多く存在する中で、一人だけ、一社だけが抜きに出ることがある。これには能力以外の何かの要素が必用なのだと思う。いわゆる「時の運」というやつだ。わたしはLINEの成功の最大の要因を、この「時の運」だと考えていた。

 舛田氏も、天狗になるのではなく、また反対に変に謙遜するのでもなく、ここまでこれた最大の要因をわたし同様にタイミングであると冷静に判断していることに、わたしは少なからず驚いた。この冷静な判断能力と謙虚さがあるので、LINEはこれからも成長を続けるのだろうとも思った。

 ただタイミングが最大の要素ではあるものの、能力や時流の分析の意味においては、まったくの「運」ではなかった。

 中東などでの急速な伸びなど正確な理由を掴みきれていない状況も一部にはあるが、ほとんどの事象については徹底的に情報収集が行われ社内で議論が行われているようだった。また小さな環境の中で検証を繰り返し、自分たちの仮説を確かめながら進んでいっているようだった。

 結局、舛田氏を囲んで15人が2時間以上にわたって質問攻めにしたのだが、どの問いに関しても舛田氏は明確な見解を持っていた。サービスのいろいろな側面に対して社内で徹底的に議論されているようで、舛田氏の解答には一切の躊躇がなかった。勉強会のあと15人の塾生に感想を聞いてみると、「ここまで徹底して考え抜かれたサービスだとは思わなかった」という反応が一番多かった。中には「完璧な状況分析。後付けで都合のいいように説明しているだけではないかと勘ぐりたくなるくらい」という意見もあった。

 完璧に状況を判断し、それに迅速に対応できる組織であったからこそ、チャンスの扉が一瞬だけ開いたタイミングに一気に外の世界へ飛び出すことができたのだろう。

 世界を変えることができるかもしれないという切符を手にしたNHN Japan。「ちょっとした判断ミスで切符を失うかもしれないとどきどきしています」と舛田氏。これはほかのNHNの人たちと話していても同じように考えている人が多い。恐らくこれがNHNの社内の空気なのだろう。思い上がりは一切なく、自分たちに与えられた千載一遇のチャンスに身が引き締まる思いなのかもしれない。

 シリコンバレーのモノマネではなく、日本発のネットサービスが世界で利用され、世界のライフスタイルを変えるー。LINEもそうだし、ソーシャルゲームもそうだが、日本のネット業界の10年来の夢が今まさに花開こうとしている。業界関係者にとって非常にワクワクする時代が始まった。

蛇足:オレはこう思う

 最近、ネット企業の経営者と話をしていて、本当にタイミングがすべてなんだと思うようになってきた。

 今まではシリコンバレーでヒットしたビジネスモデルを真似るだけで成功した。いわゆるタイムマシン経営が有効だったわけだ。だが今は成果を上げ始めたビジネスモデルは一瞬にして世界中のスタートアップに真似されてしまう。もはやビジネスのアイデアに競争優位性はない。

 この時代における競争優位性は、タイミングを逃がさないで迅速に動ける機動力と、いざというときに何をすべきかを知るための情報収集力と分析力なんだと思う。

 機動力、分析力を持った上でタイミングをつかむことこそが、世界で戦うために不可欠な時代になってきたのだと思う。そして日本のネット企業は世界で戦えるー。それを証明してくれたのがLINEであり、グリー、モバゲーなどのソーシャルゲームである。

 世界で成功しているところはどこも、サービスリリース時にうまくチャンスの窓が開いて外に飛び出せたところか、チャンスの窓が開くことをじっと待っていたところである。
 
 流れ星に向けて願い事を心の中でつぶやけるのは、流れ星があれば願い事を言おうと決めて星空を見上げた人だけ。流れ星を見てから、願い事を言おうと決めても間に合わない。

 そのために最先端の情報収集力と分析力を身につける必要があるのだと思う。

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