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クリス・アンダーソンの近著MAKERS―21世紀の産業革命が始まるが話題になっている。また3Dプリンター関連のニュースを目にすることも増えてきた。工作機械の低価格化が進み、だれもが手軽に工作機械を使えるようになれば、どんな変化が社会に訪れるのだろうか。
実はこの変化を予測するのは、ウェブの進化をウォッチしてきた人にとって、それほど難しいことではない。
人間は、①自分が作り出すものの中に自分らしさを表現すること②その表現を他人から評価されること③自分が作ったものを通じて他人とつながること、に至上の喜びを得る、とカール・マルクスが言っているそうだが、その通りだと思う。
なので世界中で非常に多くの人が、ソーシャルメディアで自分を表現し、評価され、つながることを楽しんできた。文章で表現したい人はブログ、音楽・映像で表現したい人はニコニコ動画やYouTube、もっと気軽に表現したい人はFacebookというように。
そして工作機械という自己表現のツールの低価格化が進み、どんどん使い勝手がよくなっていけば、当然、人々はモノづくりを通じて自己表現し、評価を喜び、つながりを楽しむようになるのだろう。
作られたモノは、ブログ記事のように言語に限定されることはない。世界中のだれでもが評価できる。なので影響力はブログを超える。優れたアイデアは自由に世界中を飛び回り、YouTubeやニコニコ動画上のN次創作のような行為が、ハードのモノづくりの領域にも見られるようになるのだと思う。そういう意味で、これから起ころうとしている社会変化は、ウェブが起こした社会変化をはるかに上回るのだと思う。
21世紀はそういう時代になる。その方向性の中で、コミュニティの再定義が起こるのだろう。先進国のモノづくりコミュニティと途上国のモノづくりコミュニティがつながって、アイデアを出しあうこともあるだろう。地方都市のコミュニティが、モノづくり、リサイクル、リペアを通じて、つながりを深めていくということにもなるだろう。個人が主役の時代、個人が自分で自分のものを作る時代。個人が仲間とモノづくりを楽しむ時代。それが最終的な方向なのだろう。
その方向性の中で、ベンチャー企業が大企業のこれまでのやり方に対し挑戦するようになる。これも、これまでウェブで起こってきたことと同じ。
ただこれまでのウェブはPCというハードの制約があって、影響を与えることのできる業界が限定されていた。主に音楽、ニュース、出版、ゲームなどのデジタルコンテンツの業界だけだった。それがモバイル機器というハードが登場したおかげで、リアル店舗のあり方にまで影響を与えようとしている。「O2O(オー・ツー・オー、オンラインからオフラインへの送客)」というキーワードがここにきて脚光を浴びているのは、スマートフォンの急速な普及があるからだ。つまりインターネットの影響力は、ハード機器の制限を受けてきたわけだ。
工作機械の低価格化、使い勝手の改良は、より多くの種類のハード機器の登場を意味する。新しいハード機器はネットにつながり、あらゆる業界の現状のサービスより、安価で使い勝手のいい方法を提案してくるようになる。
その1つの例がsquare。iPhoneに簡単なハード器具を取り付けるだけで、iPhoneがクレジットカード決済端末に変身する。この小さなハード機器squareが、世界中のクレジットカード業界に激震を走らせているわけだ。
ハードによる制限を打ち破り、ネットの本来の影響力を全開にする。それがMakers革命の本質の1つでもある。その結果、デジタルコンテンツ、リアル店舗以外の領域にも、ネットの影響力が押し寄せることだろう。
こうした未来がいつ来るのか。そのタイムラインを予想することがビジネスマンにとって非常に重要なことだ。多くのベンチャー企業は、タイミングが早すぎて失敗する。機が熟するのを待って、機が熟したタイミングで一気に勝負をかける。勝利するには、今も昔もこれしかない。では現状の技術革新はどこまで進んでいて、いつどの程度のことが可能になるのか。それを知るために最適なのが、Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ と、FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 の2冊。
Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ のほうは、最初に刊行されたのが2006年。7年以上たってもまったく輝きを失っていない。名著だと思う。
とはいうものの7年たてば社会は相当に変化する。未来がより明らかになってきた。それを知るのに最適なのがFabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」。コミュニティに関する考察が非常にすばらしいと思う。