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Skype創業者であるニクラス・ゼンストローム氏がCEOを務めるベンチャーキャピタル「Atomico」は2012年9月25日、“ 起業家精神の喚起” を目的としたセミナー「ATOMICO Open Office in Tokyo 2012」を日本で初めて開催した。
ロンドンに本社を構えるAtomico社は、サンパウロ(ブラジル)・北京(中国)・イスタンブール(トルコ)に支社があり、スカイプジャパンのジェネラルマネージャーを務めた岩田真一氏 (写真) を日本代表として2012年6月に日本支社を設立。日本企業のグローバル展開を後押しする投資育成事業を展開するという。
セミナーは、ゼンストローム氏自身の起業と成功体験を基にした内容に始まり、「グローバリゼーション」というテーマで楽天 三木谷社長と「日本はどこに向うべきか」についてのディスカッション。そして、Atomicoが2006年設立以降に投資した企業とのディスカッションとして、フラッシュセール型でデザイナー製品を販売するFabのファウンダー兼CEO ジェイソン・ゴールドバック氏、同じくファウンダー兼Chief Design Officer ブラッドフォード・シェルハマー氏、 世界10億ダウンロードを突破したアプリ「アングリーバード」を展開するROVIOのChief Marketing Officer ピーター・ヴェスターバッカ氏、DeNA創業者の一人でロンドンに渡ってQuipperを立ち上げた渡辺雅之氏、gengoのCEO ロバート・ラング氏らが登壇した。
豪華な登壇陣に、会場となった東京・港区の六本木ヒルズアカデミーには500名が殺到。熱気に包まれる中で世界に求められる日本人起業家の理想像がぼんやりと見えてきた。
「テクノロジーイノベーションが重要」スカイプ創業者 ニコラス・ゼンストローム氏
kobo Touch (ブラック) |
Atomico CEO ニクラス・ゼンストローム氏は、ポータルサイトeveryday.comのCEO、get2netのジェネラルマネージャーを経て、ヨーロッパにおける通信事業大手のTele2に入社。その後の2001年PtoPソフトウェア「KaZaa」を共同創業している。
KaZaaは、著作権等の観点で多数の問題を抱え2002年には売却。その後、KaZaaの技術の一部を活用したIP電話ソフトとしてスカイプを開発。2005年にeBayに31億ドルで買収されるなどするが、5年で登録ユーザー3億900万人以上、2008年第一四半期に1億3000万ドルの収益を上げた。スカイプは2011年にマイクロソフトに85億ドルで買収されている。
ゼンストローム氏は言う「沢山の失敗をしたが、それを経験すればするほど、成功を求めてさらに貪欲になる。大きなリスクを取って夢にかける。それが起業家精神です」と。
トークセッション「Atomico の活動と起業家精神」
そんなニクラス・ゼンストローム氏が、日本人起業家に期待するのはなぜか。そんなテーマのトークセッションが行われTechCrunch Japan 編集長 西田隆一氏がモデレーターを務めた。
「インターネットの普及によりマーケットは確実に世界目線になっている」と説明。その中で日本に期待できる点はあるのかという疑問に対し「これまで、世界で認められた製品があるわけで、日本にポテンシャルがあるのは実証済み。
この10年、日本が停滞した原因は何かというと、それはイノベーションが起こらなかったからだと私は思います。しかし、「日本を変えたい」と思う人は多く、の力を強い。彼らはいずれグローバルで活躍するというのは、自然な発想だと思うのです。
それにはまず、海外に出るかどうかを含め、まず製品をきちんと機能させることが大切です。製品をコピーしようとする事業者は必ず出てきますが、技術的にイノベーティブな製品を機能させてから展開すれば、それは国際競争力にもつながるのです。それを実証する地域として、イノベーションに前向きな日本市場は魅力的です。
日本はモバイル決済など色々な分野でイノベーション分野のリーディングマーケットです。スカイプが日本で成功したように、日本はテクノロジーイノベーションを育む環境があるのです」(ニクラス・ゼンストローム氏)。
パネルディスカッション1「グローバリゼーション」
次のセッションは、ニクラス・ゼンストローム氏と三木谷楽天社長による「グローバリゼーション」を起業をテーマにしたディスカッション。
「経営スタイルとイノベーションが大切とは思っていたけど、始めから楽天というモデルを考えていなかった」という三木谷社長。「当時はIT革命というキーワードで考えていたものの、現在のような形になるとは思っていませんでした。1997年当時も世界に出ることは考えていたけれども用意周到ではなかったが、トヨタの奥田さんから、何で日本ばっかりやってるんだという話を受け、無理矢理でもやろうという気持にななりました。
楽天は、日本で2000年に株式公開したあと、トラベルやクレジットカードなど40くらいのビジネスをやっている。楽天エコシステムの基盤になるのはEC。現在は、種まきの期間で、点と点とむすび線にするための準備中をしている段階です。
その中で英語化戦略はとても重要。これをやったことで、これまで国内ばかり見ていた役員や社員が世界を相手にビジネスを考えるようになりグローバルな会社に変わることができた。世間が言うように大変な状態ではあるのには違いないが、話せなかった役員もしっかりと議論できるようになり、確実に会社は変わっているわけです。
さて、起業についてですが、楽天創業からこれまでを振り返ると、起業で最も大切なのはしっかりとしたビジネスオポチュニティ(目的)を考えることだと思います。根本的な価値創造の源泉はなにか、プロダクトに愛情を持てるかが重要。難しいことや大変なことを乗りこえて、24時間働くことが大切です」(楽天 三木谷社長)
三木谷社長の考えに呼応するように「誰かになるのではなく、自分らしく起業してください。起業家になるということは、白い紙に絵が描けるかということ。自分が周りに何をあたえられるかを考える。そして24時間働く。周りの人と愛するプロダクトを追求することが大切なんです。一つのことにに固執するのではなく、直感を信じること」と起業家にエールを送る。
かつ、ニクラス氏は、プロダクトを開発してグローバル展開する心構えについて熱弁。
「シングルプロダクトに絞り世界で一番の商品を作り世界で展開するというのはひとつのやり方です。
私の生まれたスウェーデンは人口が900万人しかません。そこで展開しても限度がある。私達が考えていたのは、シングルプロダクトで “一つの成功” を納めることが大切だということです。小さな市場でもそれは可能。もちろん、日本でも可能です。まずは、そこで一つの成功を納め、そのシングルプロダクトで色々な市場にいくことが重要だと思います。
スカイプの場合、どうやってグローバルに展開したかという話をします。スカイプのビジネスモデルはフリーミニアムなので、まずはプロダクトを公開しました。国際展開には言語の壁が必ずありますが、ユーザーが勝手に翻訳できるようなシステムを提供したことで、スカイプを使いたいユーザーが自ら自国語に翻訳し使い始めました。
私達がやったのは、ユーザーの動向を世界地図で確認するということです。つまり、市場を開拓するというよりは、ユーザーが自ら使っている場所で、よりシェアを伸ばすという施策を展開していったわけです。ただ、一つのことに固執しないで頂きたい、野心を持って次のことを考え続けるということが大切です。
そんな中で、日本は本当に成功した市場です。日本国民のイノベーションに対する高い感度をきっけけに、パートナーシップを時間をかけて成功させていった。つまり、イノベーションがあるプロダクトで “一つの成功” を納めることができる土壌があるのです。
それともう一つ、若い方々は海外で学んでください。現地の人とコミュニケーションはとても大切ですから」。
パネルディスカッション2「Atomico 投資先企業が考える日本市場とグローバリゼーション」
最後は、Atomicoが投資をする企業による起業とグローバル展開についてのディスカッション。パネリスト(左から):ROVIO Chief Marketing Officer ピーター・ヴェスターバッカ氏、Fab ファウンダー 兼 Chief Design Officer ブラッドフォード・シェルハマー氏、Fab ファウンダー 兼 CEO ジェイソン・ゴールドバック氏、Quipper CEO渡辺雅之氏 、gengo CEO ロバート・ラング氏と超豪華。
日本は「すばらしい市場。キャラクタービジネスのハリウッド」と評するのは、ROVIO Chief Marketing Officer ピーター・ヴェスターバッカ氏。世界No1のブランドである「アングリーバード」(キャラクターは彼がモチーフとなっているので似てる)の生みの親。北米時間の9月27日(木曜日)に新作アプリ「BAD PIGGIES」をリリースする。
Fab ファウンダー 兼 Chief Design Officer ブラッドフォード・シェルハマー氏。Fabは北米でスタートし、8か月前にヨーロッパに進出、日本もこれから始めると表明した上で「日本に根づく、職人の技による伝統工芸の機能性がある美しさに関心を持っている。
デザインに特化した我々にとって魅力的な地域」と評価。
DeNAの創業者の一人であり、現在はイギリス・ロンドンに渡り事業を展開するQuipper CEO渡辺雅之氏 は「日本は教育熱心でモバイルも強いネットワークがある。マーケティングコストが半分で展開できるいわばブルーオーシャンと言える地域で、消費者との関係性を維持することが可能。ヨーロッパなどでは長期間に渡り関係を続けるのは難しい」と日本市場の特異性について言及した。
締めくくりは「起業とは? グローバルに展開とは?」という質問に対するメッセージ。
日本とシリコンバレーに拠点を持つgengo CEO ロバート・ラング氏は「仕事をするのが人生」と説明。「シリコンバレーは日に5つはイベントがあり、ほとんど全ての人が起業しているだろ?という意識を持つようになる。そこに飛び出ていっていいっものか、慎重に考えて行動して欲しい」。
Qupper 渡辺氏は「ビジネスを組みあげていくのは、どこでやっても同じ。ビザの問題のケアは必要。
世界で展開したいのを海外で始めたのは世界。毎日が大冒険。たださまざまな国の人と会議をしているだけど、世界での可能性が考えられるようになる」と言い、ROVIO ピーター・ヴェスターバッカ氏は「野心」と「やっていることを愛している」かどうか、だと言う。
ニクラス氏は「ひたすら努力し続けること。待ち続けること、忍耐=成熟や発展、企業が成熟する。好きな人と働く、自分が一番得意とするのものみつける、1年やってだめなら別のことをやる、そのうち得意分野をみつけるという形でもいい。まきこむ力、一人でできることはたかがしれている、無い部分を保管するアライアンスをつくる」と説明する。
Fab ファウンダー 兼 CEO ジェイソン・ゴールドバック氏は人気のブログ「起業家の57の秘訣」から「できるだけ長時間、家で仕事しろ」という発想について説明。「何かを考えつくさなくてはならない時、自分の家でじっくり取り組む必要がある。人が行きかうオフィスでは、やることが増え過ぎてそれはできない。集中することが良いプロダクトを作り上げるのに必要」と説明した。
2時間という短い時間に、世界中の起業家スピリッツが集約されたようなイベント。全ての世界的起業家が感じていたのは「儲けろ」ではなく、人とサービスを愛し、着実に成長しろというメッセージだった。
【関連URL】
・Atomico Open Office in Tokyo 2012
https://jpevent.atomico.com/
素晴らしい講演の中、とても残念だったのは「注目する日本のサービス」という質問で誰も1つも出てこなかった点。僕自身「日本ITの世界における存在感はマイナス20」などといつも表現しているが、お世辞の一つも出なかったことに落胆した。しかし、彼らが言うように「人とサービスを愛し、着実な成長」を求めるスタートアップがどれだけいるかと言われるとグウの音も出ないのが現実。だからといっていきなり伝統工芸に立ち返るのも無謀だが、彼らが言うように日本の先人は世界で認められるプロダクトを生み出してきたわけで、もう一度自分たちの足元を見すえる必要があるのかもしれないと思った。自戒を込めて。
夢を叶える技術者。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。道具としてIT/ネットを追求し、日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ネットエイジ等で複数のスタートアップに関与。関心空間、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演。活動タグは創出・スタートアップ・マーケティング・音楽・表現・ミディアム・子ども・グローカル・共感 (現在、書籍「共感資本主義」執筆中)。書籍情報・ 詳しいプロフィールはこちら