- 自分が死んだとき何を残したいですか?:MIT 石井裕教授 「未来記憶」【梶原健司】 - 2013-02-26
- 使い途もそれぞれ – 徳島で花開くIT企業のサテライトオフィス事業【本田】 - 2012-12-25
- ガイドブックじゃ物足りない?アジア地域で350以上のユニークな旅行体験ができる「『Voyagin(ボイジン)』」が本日リリース【三橋ゆか里】 - 2012-12-19
[読了時間:3分]
鈴木まなみ
(@rin2tree)
1月23日に第8回「ジオメディアサミット」が開催された。ジオメディアサミットとは、2008年に有志が始めた、位置情報業界を盛り上げるためのフリーカンファレンスである。今回のテーマは「オンライン・トゥー・オフライン(O2O)」。O2Oとは、オンラインの世界がオフラインの行動の意思決定へ影響を与えるようなサービスの総称である。
今回の記事は、前半は議事録的に、後半は私の感じたことという構成になっている。
メイン講演
まず、メイン講演は3本行われた。
①40000店舗、3850万会員基盤によるDBマーケティング
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 藤澤幸生
「店舗を中心とした未来店者・離反顧客の可視化に地図を活用。アライアンスが幅広いので、使っている人ではなく、「未利用者」にアプローチ出来るのが強みである(例:TSUTAYAに来てなくても、ファミマに来ている人にアプローチできる)。様々な活動との接点を高め、データを集め、その先で、行動を予測して時間と場所に対してタイムリーなアプローチ(あなたが今ここにいるなら、これどう?)が出来たらおもしろいな」とのこと。
セルフPOSとRFIDでレンタルのセルフレジ化、タブレットを使った在庫位置検索・電子書籍閲覧・フロアマップ表示など最新ITの先行導入を行った代官山プロジェクトの話も興味深かった。
②ニコトコを中心として二子玉川でのジオサービス
東京急行電鉄株式会社 福島啓吾
ニコトコとは、二子玉川駅周辺を対象にスマホや携帯電話に情報やクーポン、ポイントなどを配信する仕組み。
「街づくり事業者として”街の価値を向上させる”という原点回帰。誰もが参加したいと思う持続可能なLBSを構築・運用することで、二子玉川の街の魅力を向上させたい。そのために、自社だけでなく、他社が使いやすい展開を意識している。多少なインフラ、デジタル・アナログ問わず大きな間口を提供していきたい。自分たちは地域との緊密な関係構築、既存コミュニティとの連携などを調整していくロケーションオーナーとしての取り組みをやっていこうと思っている。」
また、「ニコトコは地域に特化した街回遊支援サービス。現在の会員は2,200人(男:女=3:7)で、ポイントは、1.ガラケーだけで使える間口の広さ、2.デンシティ(密度)を活用した地域との緊密な関係構築、3.セレンディピティを演出する意外性とエンターテインメント性の3つ。ユーザの街中での行動とコンテンツのアクセス履歴などを行動ログとして解析・分析してリコメンドを出し、セレンディピティ演出を実施している。」とのこと。
過去の失敗を現在の実験に反映し、地域との関係構築や間口の広さなどを重要視する姿勢が、現場寄り(マーケットイン的視点)に感じられた。
③NFC利用によるビジネス拡大の可能性
NFCの基本的な説明(Felicaとの違い等)や、世界から注目される理由、そしてビジネスへの可能性について。
鵜飼さんはTechWaveにも寄稿しているので、詳しくは記事の方をお読み下さい。http://techwave.jp/archives/51710768.html
パネルディスカッション:店舗運営者からみたジオメディア
株式会社マイネット・ジャパン 上原仁、株式会社サンゼロミニッツ 谷郷元昭、株式会社FrogApps 中村仁、株式会社nomad 小笠原治、有限会社らしく 佐藤純也、株式会社ゆめみ 君塚賢一 http://www.ustream.tv/recorded/19953489
「店舗運営者からみたジオメディア」というテーマで、店舗運営側を支援していたり、実際に店舗を運営していたりする立場の方によるディスカッション。何気にパネラー全員ジャケットにデニム。立ち上がって力強い挨拶をする上原さんに「た、立つの?」と小笠原さんからツッコミが入るなど、和やかな雰囲気でスタート。
現場オペレーションの重要性
リアル店舗への送客において、常に問題となる現場オペレーションの問題。その重要性について熱く語られた。「店舗向けサービスを作る時は、ユーザ、決済者、そしてお店の決済スキームをいかにシンプルに済ますかが重要。」と、ケイティ(http://katy.jp/)で店舗側の支援をしている上原さん。また、「お店の人に目に見えてフィードバックすると効く。ぐるなびは紙を渡されるので現場の実感が湧く。可視化は重要。」と中村さん。オペレーションの負荷が上がっても、店員さんに効果がわかる形であれば受け入れられるとのこと。
今後の課題についても、「ソーシャルメディアのおかげで、飲食店側はインターネット側にだいぶ寄ってきてくれている。こちら側がもっと飲食店のやり方、運営に寄って行かないといけない。」とネット事業者側のオペレーション理解の重要性を上原さんは強調した。
ソーシャルメディアでの実績
気になる、実績についての言及もあった。「最高で売り上げの2割がソーシャル経由のことも。1割でも大きくて、この1割の上積みで黒字になる店が結構あるはず。」と中村さん。これは、中村さんが経営している飲食店「豚組」の実績値である。一方で小笠原さんは「売上は10坪で200万円/月。10%ぐらいはソーシャル系で+5%はその近隣の方。」と自身が経営している六本木のawabarについて語った。
さらにSNSの重要性に関して中村さんは「お客さんがお店にいないときでも、ごちそうさま&ありがとうというコミュニケーションをとれる。それで常連度が上がる。」と説明した。
来店履歴の可視化についての重要性
また、ジオメディア関係者の多くが思っているであろうことに中村さんが言及した。「チェックインは世の中の人全員がする習慣にはならない。」そして、「チェックインの代替行為を考えた時、写真と思った」とmiil(http://www.ttcbn.net/no_second_life/archives/17653)について話した。続けて「履歴が残ると店の取り組み方が変わってくる。常連さんが見えてくる、常連さん予備軍が見えてくる。となると、店の取り組みが出来てくる。」と、来店履歴可視化の重要性について語った。
また、来店履歴の可視化に関し、紙ベースで実施している「塚田農場(http://blog.bot.vc/2011/11/tukada_farm/)」の例があがった。塚田農場の施策は、店舗側と利用者の双方に「常連」の可視化が出来ている。
ショートプレゼンとライトニングトーク
ショートプレゼンとライトニングトーク(12本)から、気になったものを3つだけ紹介したい。全部はこちらを参照のこと。http://geomediasummit.jp/post/16298614576/8
GPSによるシームレス測位技術”IMES”について
測位衛星技術株式会社 取締役営業部長 石井真
GPSと屋内のシームレス測位を可能にするIMES(Indoor MEssaging System)についての説明。「GPSやWi-Fiは誤差問題が大きいが、IMESは電波の範囲に同じメッセージを出すので、1bitもズレることがない。自治医大で実験中で、ベッド単位の判別も電波強度を絞ると実現した。逆に広いロビーを同じエリアとすることも出来た。」とのこと。
今後、屋内測位は盛り上がると思われるので、IMESは注目の技術である。
#1 ”僕のきた道” 移動ログを全部とっておくとできること
LatLongLab(http://www.ustream.tv/recorded/19954457)
ライフログをローカルで完結しネットワーク上に保存しない。イマ・今日・1年を可視化するサービス。
- イマを可視化(エリアにはいったら通知したり、ラインを超えたら通知など)
- 今日を可視化(移動距離と奇跡の地図、イマのアクティビティをタイムライン表示)
→「例:12:54に神奈川県に入りました/東京ミッドタウンに3時間滞在しました」をテキストの形でタイムラインに表示。 - 1年を可視化(移動履歴の検索、特別な日表示、インフォグラフィックス)
→特別な日(明らかに違う方向に遠くにいった→旅行/すごい高いところに上った→登山)のマーク表示や、東西南北で、一番南に行ったのはここだよ!とか表示出来る。
サービスの内容も面白いのだが、個人的には「位置情報取得の信頼性を確保するのはとても重要なテーマだと思っている。ポジティブなフォードバックがないと、人はポジティブにサービスを使わない。データを使う可能性にすごく惹かれるが、その前提としてユーザが積極的に提供する形をとらないと中長期的には最大化出来ない。」という問題意識を話していた河合さんの言葉がとても印象的だった。
#4 位置情報×プライバシーでSoLoMoの未来変える!
GEOHEX代表 笹田忠靖(http://www.ustream.tv/recorded/19954592)
まずは、SoLoMo(SocialLocalMobile)について。バズワードになっていたり、すごく伸びていたりしているが、まだまだ利用者は少なく、その原因はプライバシーに対する懸念であると説明。SoLoMoサービスは、ソーシャルとロケーションの二つのリテラシーが高くないと本来は厳しいが、リテラリーの低いユーザにも間口が広がっており、理解して使われていないことで問題になる。
現在、自己防衛の手段は、位置情報サービスをon/offにするか、各サービスの位置情報のパーミッションをon/offに設定をするか、いずれも2者択一である。そのことは多くの機会損失をしている。
今回発表された「ZONE」は、位置情報のプライバシー設定に段階的な中間の選択肢が設定が出来るサービスである。そのことによって、リテラシーの低いユーザでも、位置情報サービスを安心して利用出来るようになり、恒常的な位置情報の取得(位置情報の頻度が多くなること)につながる。そしてサービス提供者側としては機会増・トラフィック増につながり、さらには次のサービスの可能性(ジオフェンシング、ジオアラート、安否情報)などが生まれる可能性も作り出す。
私も多くのサービスの位置情報をOFFにしている。精度をあいまいにすることにより、利用するサービスは増えるかもしれない。位置情報に関するプライバシーの問題を解決するサービスは、他にはないのではないだろうか。(業界初?)
店舗の展開範囲とリコメンドの可能性
ここからは個人的に感じたことを書いていこう。今回はテーマが「O2O」ということもあり、リアル店舗とネットとの関係の深い方が多く登壇した。何となくだが、この関係性は店舗展開範囲によって階層化されているようだ。
今回の話の中で、おぼろげな共通項を洗い出してみる。①③にはないのだが、①②、②③には共通項があった気がした。
■共通項
①全国と②エリア
・データ解析→リコメンド(セレンディピティ)
・プラットフォーム→回遊(未利用者の利用)
②エリアと③数店舗
・現場(プレイヤー)視点
・エンゲージ
■「一人当たりの売り上げ」の上げ方
①接触ポイントを増やし、リコメンドによって向上
②エリアプレイヤーとのエンゲージを高め、リコメンドによって向上
③既存顧客を基点にエンゲージを高め、リピートによって向上
データ解析からのリコメンドは、成果が出るまでに時間がかかるため、体力のある会社でしか出来ないと思う。また、リコメンドはただのスパムになってしまう危険があり、そこはデータの解析能力や、リコメンドエンジンの設計など、乗り越えなければいけない壁がたくさんある。
私が求めるリコメンドとは、アマゾンのようなロジックが分かりやすいリコメンドではなく、セレンディピティを感じさせるようなものである。それは位置情報と関連付け、モバイル端末で通知(push表示)するようなリコメンドでもある。そのようなリコメンドは、価値のある情報を提供しないとただのスパムになってしまい、通知設定をOFFにされる危険性がとても高い。
その上で、①と②のリコメンドは「気持ち悪さ」があるが、③にはそれがない気がする。③においてもリコメンドする際にはデータ解析を用いることになるだろうが、同じデータ解析でも、ユーザの受け入れ方が全然違うはずだ。利用者とのエンゲージが作られているため、温度が伴う。心地よいリコメンドのヒントは、③の人たちが一番早く分析・理解していくだろう。
■次のステップ
①ナショナルクライアントからエリアへ(接触ポイント強化)
②デバイス拡張(付加価値向上)
③ゲーミフィケーション(エンゲージ強化)
①は徐々に対象を下に落とし、②③の競合となっていくかもしれないが、②③とはやってること、出来ることは異なる。個人的には、店舗としては③が模索している施策の方向性(エンゲージ強化)に向かうのだと思う。そういった意味でも、③の動向や経験、実績が本質的なものを捉えているようで、一番気になっている。
データ解析からのリコメンド→セレンディピティはとても興味のある分野なので、スパムにならないような、気持ち悪いと思われないようなリコメンドってどんな条件なんだろう?なんて結構考える。私としては、コンテクストに合わせた提案というのもそうだが、その人のテイスト(好み)の理解や、人を感じさせる温度感も必要だと思っている。
テイストグラフの理解という点において、実際にサービスに組み込まれているのはレイティングがその一つだと思うが、5段階評価的レイティングでは好みは表現できないとも思っている。特に日本人は3評価以下をつけない。そのあたりのリコメンドエンジンで先を行っているサービスがあったら教えてほしいな。なんて思う。
また、ジオメディアサミットのustのアーカイブありますので、ご興味ある方は是非見てください。そして、次回は来場してくれるとうれしいです。
http://geomediasummit.jp/post/16383948134/8
<参考情報>
■第8回ジオメディアサミット、無事終了いたしました
http://geomediasummit.jp/post/16383948134/8
■2012/1/23 #gms2012 第8回ジオメディアサミット – Togetter
http://togetter.com/li/246055
■風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る
http://d.hatena.ne.jp/ta26/20120129
2000年からITの世界に入り、 地図、乗換と生活に密着した便利系サイトのプロデューサーと、経営企画や新規事業企画などを担当。 今の興味はSOLOMOCO(Social Local Mobile Commerce)、テイストグラフ、ビッグデータ。
位置情報サービスの企画、コンサルします。連絡先はrin2tree[アットマーク]gmail.comまで。