最新技術を活用し、今までに無い体験ができることは楽しい。私もハッカソンでデモを見ながらいつも驚かされている。一方で、最新技術でなくても、アイデア次第で新しい体験を創り出している人たちもいる。そういう人たちはモノづくりに対してどのようなことを心がけているのだろうか。アナログな絵本の良さを残しながら、スマートフォンを使って絵本の体験を拡張するPLAYFUL BOOKSの開発者 木村幸司氏にハブチンがインタビューした。
アナログな絵本の体験をスマートフォンで拡張する
ハブチンPLAYFUL BOOKSとはどういうプロダクトですか?
木 村はい、PLAYFUL BOOKSは絵本のページを開くと、ストーリーにあわせて音が出たりを室内の灯りの色が変わる「まほうのえほん」です。
ハブチンおぉ、照明が黄色になった!灯りの色が変わるだけで、本当に絵本の世界にいるみたいになるんですね!
木 村はい、他にも絵本をノックすると返答が返ってくるなど、アナログな絵本の体験をスマートフォンで拡張することができます。
ハブチンおもしろいですね!なぜアナログな絵本とスマートフォンを組み合わせたPLAYFUL BOOKSをつくったんですか?別にタブレットで絵本を読んでもいいんじゃないですか?
木 村親が子どもに小さい頃からスマートフォンを使わせることに不安に感じられる方が増えてきています。デジタルネイティブ世代の子どもたちにも、アナログなものの触り心地や、モノ自体の良さを大事にしてほしいという想いからPLAYFUL BOOKSは生まれました。だからあえて画面の部分を見せないようにしています。
ハブチン確かに子どもがスマートフォンで動画ばかり見ているのは、少し抵抗があるかもしれません。
まずは「○○○したら○○○」を考える
ハブチンPLAYFUL BOOKSを開発する上で心がけていることはありますか?
木 村技術ありきではなく、体験ありきで実現方法を考えています。まずは「○○○したら○○○」を考えます。
ハブチン「○○○したら○○○」?
木 村はい、PLAYFUL BOOKSでいえば、「ページをめくったら、照明の色が変わる」とか「絵本をノックしたら、返答が返ってくる」など「○○○したら○○○」を考えます。
ハブチンなるほど。○○○な何かをしたら、○○○な何かが起きるということですね。
木 村前の○○○はなるべく自然にハードルを低くして、後ろの○○○は非日常な体験をつくる。アナログなものの触り心地の良さは残しつつも、デジタルだからこそできる非日常な体験をつくるというか。この落差が大きいほど楽しいと感じます。
ハブチンそうなんですか!確かに前の○○○でハードルをあげてしまうと、次に何が出るか期待してしまいますもんね。
木 村はい、アナログとデジタルのいいとこ取りのようなことをしています。ある程度、体験を考えたら、次は実現方法を考えます。
新しい技術にこだわらずフラットな視点をもつ
ハブチン実現する上で心がけていることはありますか?
木 村実現方法については、古いや新しいは関係なく、フラットに考えています。
ハブチン新しい技術に対するこだわりはないんですね。
木 村忘れ去られそうな過去の技術の中でもすごいものがあります。もちろん体験に適していれば最新技術は積極的に使いますが、フラットに考えることを大切にしています。PLAYFUL BOOKSもほとんどの人が持っているスマホを「センサー」として利用することで、ハードウェアを流通させるハードルや製造コストを下げています。
ハブチンなるほど、そういう背景もあったんですね。日頃モノづくりをするに置いて心がけていることはありますか?
木 村アイデアを実現するための技術については、かなり勉強や研究しています。全ての技術を習得するのは無理なので、いろんなことに興味をもつことを心がけています。伝統工芸でも宇宙工学でも新しい技術にこだわらずフラットな視点で様々な分野のプロと協業していきたいなと思っています。
ハブチン勉強になります。今後PLAYFUL BOOKSはどのような体験を創り出していきたいですか。
木 村「PLAYFUL BOOKSまほうのえほんキット」という自分なりのPLAYFUL BOOKSを作ることができるキットをつくりました。まほうのえほんキットをキッカケにして、絵本作家と音楽家という異なるクリエイターが新しい作品を創るキッカケになればいいなと思っています。また親子も、まほうのえほんキットを創るために、リアルな効果音を採集しに出かけるなど、一緒につくりながらコミュニケーションが増えればいいなと思っています。
ハブチンおぉ〜ワクワクしますね!ありがとうございました!
■魔法のような絵本「PLAYFUL BOOKS」
http://playful-books.com/ja/
体験ありきのプロダクトづくりは、私もプロダクトをつくる上で大切にしていきたい姿勢だ。体験ありきだからこそ、アイデアを実現できる技術を幅広く知るということを心がけていきたい。
大手企業がロボット関連ベンチャーを買収し、世間でもロボットと触れ合える機会が増えた。しかしロボットが家庭の中にどのように入るかはまだまだイメージがつかない。そこで家族がつながる、もっとたのしくなる ロボット「BOCCO」を開発しているユカイ工学の青木俊介代表に、ハブチンが「人とロボットのカンケイ」についてお話を伺った。
人とロボットが会話する世界は訪れるのか。
ハブチン 正直なお話をさせていただくと、人型ロボットが10年後も家にいるとは思えないんです。
青 木 なるほど。それはどうでしてですか?
ハブチン まず人型ロボットがいたら、監視されているようでイヤです。
青 木 確かに。例えばロボットにカメラがついていたとして(例えカメラが作動してなくても)そんなロボットの前で恋人といちゃいちゃするのは、なんか見られている気がしてイヤですよね。
ハブチン 絶対にイヤですね。いちゃいちゃしている途中で会話に入られたら、ロボットをクローゼットに移動させたくなります(笑)
そもそもロボットと会話できたとしても、自分がロボットと会話している世界が想像できないです。たとえば朝、起きて人型ロボットに向かって「おはよう!」と話しかけるかというとたぶんやらないだろうなと。
青 木 人がロボットと会話を楽しむのは幻想に近いんだと思います。そもそも人と会話を楽しむことだって、難しいじゃないですか。知らない女性と2人で会話を盛り上げるなんて相当難しいことですよ。
ハブチン 確かにそれはかなり難しいですね(笑)
青 木 誰とでも会話が盛り上がるロボットなんてムリなんです。だから私たちが開発した「BOCCO」は、人とロボットではなく、人と人のコミュニケーションにロボットを介在させたんです。
「BOCCO」を使えば、親は子どもが帰ってきたことがわかったり、子どもに音声を送ることができたりします。子どもも親に「BOCCO」からメッセージを送ることができます。
ハブチン なるほど。「BOCCO」はロボットというかスマートフォンみたいですね。
スマートフォンの代わりとしてロボットが人の暮らしに入る。
青 木 家でみんな一緒にいるのに、それぞれがそれぞれのスマートフォンを見て会話していないって寂しいじゃないですか。
ハブチン わかります。元々、スマートフォンは人と人を繋げる役割だったはずなのに意外と人と人の関係を分断してしまっているかもしれません。
青 木 だから家族の会話が生まれることを願って「BOCCO」をつくりました。
ハブチン すごく共感します。実際にどういう会話が生まれているんですか?
青 木 私の家の場合、「アンパンマンがテレビでやってるよ」とか他愛もないメッセージを子供が送ってきます。あと夏休み中の留守番の時間が長い時は「冷蔵庫にカレーがあるよ」などの伝言とか。わざわざ電話するまでもないような気軽なメッセージをスマホで聞くことができて、ほっこりしています。
ハブチン それはほっこりですね。他愛もない会話が続いている家族っていいですね。今後は「BOCCO」をどのように展開していきたいですか?
青 木 はい、「BOCCO」を人と人だけでなく、人とモノもつなぐ役割に挑戦していきたいです。今後、家のスマート化が進み、何でもスマートフォンでコントロールできる時代になるでしょう。しかし家電や住宅設備がメーカーごとに違うと、それごとに端末やアプリが増えてしまいます。
ハブチン スマートハウスなのに全然スマートではなさそうですね(笑)
青 木 ある調査によると人がよく使うアプリの数は約8個といわれています。アプリの数が増えてしまうと、結果的に使われなくなってしまう可能性があります。将来的には「BOCCO」ひとつでコントロールできるようにしていきたいです。
ハブチン なるほど。これから「BOCCO」がスマートフォンの代わりになっていきそうですね。
青 木 はい、今後も人と暮らせるロボットのあり方を追求していきたいと思っています。
■家族をつなぐコミュニケーションロボット
http://bocco.me/
スマートフォンやタブレットは僕らの生活を確かに便利にしたけれど、本当に豊かになったかどうかは今回のインタビューで考えされられた。BOCCOのように生活ありきのプロダクト創りを意識していきたい。
2015年11月11日(水)、不動産 IT 事業を展開するオルトリズムは、退店費用を節約したい店舗と、良い物件を早く見つけたい入居希望店舗を直接結ぶ業界初の未解約物件のBtoBプラットフォームサービス「店舗市場」( http://tenpoichiba.jp/ )をローンチした。
出店より退店にお金がかかる?不条理な日本のテナント事情
店舗・オフィスを退去する際、解約予告期間が長すぎることに困った経験があるというテナント入居者は多いのではないだろうか。実際のところ、退去者の多くは「いますぐ出たい」という状況であるにも関わらず、残りの3~6ヶ月分の賃料(解約ペナルティ金)を支払わざるを得ないのが現状だ。また、これとは別に原状回復費用もかかる。この費用も数百万に上りバカにならない。
一方、店舗を借りる側に回ると、立地と賃料のバランスが取れた優良物件がなかなか見つからないという問題がある。なぜならそういった優良物件の多くは、市場に出回る前に抑えられてしまっているからだ。不動産屋で紹介されるのは売れ残り物件が多く、なかなか満足のいく物件に巡り会えず大きな機会損失につながっている。
この双方の不満に着目したのが、株式会社オルトリズムの紙中良太社長だ。紙中社長はAirbnbのようなC2Cプラットフォームを提供することで、退去者と入居希望者とテナントオーナーの三者が全員ハッピーになれるのではないかと考えた。そこで開発したのが本日ローンチした「店舗市場」である。
登録は無料、退店側には20万円のキャッシュバックも
「店舗市場」のしくみはいたってシンプルだ。退店・入店したい企業は、まず店舗市場に会員登録する。登録は無料だが、不動産事業者が紛れ込むのを防ぐために、審査は企業の実在確認も含め厳重に行われる。万一、不動産事業者がここに紛れ込んでしまうと、退店情報が漏れて取引に差し障るケースが出てくるからだ。
会員企業は、一度登録してしまえば退店時にも出店時にもプラットフォームを利用できる。退店希望時には5分で終わる簡易登録システムで物件を登録し、出店希望時にはGoogle Map上で物件情報を感覚的に収集する。
めでたく契約が成立した場合、出店企業は賃料1ヶ月分(賃料が50万円に満たない場合は50万円)のシステム利用料を店舗市場に支払い、退店企業には、店舗市場から20万円をキャッシュバックするしくみだ。
退去企業からすると、退去費用が節約できるだけでなくキャッシュバックも受けられ、しかも登録無料となると登録しない理由がない。ここでこの事業のセンターピンとなる「物件数」を増やし、追って出店希望企業を増やしていくという戦略だ。すでに店舗市場の登録企業は大手飲食企業、大手物販企業をメインに132社あり、2016年2月末時点で260社を目指すという。
いまだ古い商習慣を脱却できない不動産業界。死角はないか?
ここ2~3年、不動産系スタートアップが活況である。非常に大きなお金が動く分野でありながら、なかなかIT化、合理化が進まなかったのは、目に見えぬ圧力によって不動産業界特有の商習慣が覆せなかったことと無関係ではないだろう。しかし、その強固な牙城も大手資本が入ってくることで徐々にではあるが崩れ始めてきた。
店舗市場が提供するサービスは「未解約物件の流通」という、従来のスタートアップがチャレンジしてきた「仲介手数料の無料化」よりさらにもう一段上のチャレンジングなサービスである。成功すれば間違いなく業界の構造を大きく変えるが、果たして死角はないのか。
今後に注目していきたい。
買取価格比較サイト「ヒカカク!」等を運営するジラフは2015年10月13日、East VenturesとTLMおよび個人投資家1名、新たにCOOとして参画する柴田雅人氏を引き受け先とする総額4120万円の第三者割当増資を行ったと発表した。増資フェーズはシリーズAで、シードラウンド増資(引き受け先はEast VenturesとTLM、ペロリ有川鴻哉 氏)との総額は資本金ベース(準備金含む)で5435万円。
ジラフは2014年10月29日、一橋大学商学部に在籍中の麻生輝明 氏が立ち上げたスタートアップで、主力サービス「ヒカカク!」は買取商品数7万件以上を掲載、5000件以上の口コミを集めることに成功。創業一周年を目前に、宅配型・リアル店舗双方の買い取り店などとの連携を含めた「買い取り」エコシステム構築に乗り出すべく資金調達を行った。
麻生氏いわく「買取り市場は、自動車を除くと1兆円規模」という。
不要なガジェットを売る時の不安を解消
麻生 氏:「このサービスは、自分の経験から生まれたものなんです。自分で不要なiPadを売却しようと思った時、その手続が面倒くさいというのと、どこに売ったらいいかわからない、よく宣伝されている買い取り店だと安い値段でしか売れない、そんなことに悩んでいる時、友人が “複数の買い取り店で見積をして、比較した上で売る” ということを言っていて、それをウェブサービスとしてやろうと思いました」。
消費者の立場で “購入する” ことを考えると、ECサイトやオークション、フリマ、価格比較サイトなど多数のサービスが直面する。しかし、電子機器など売却が可能なアイテムの、買い取り価格については何も整理されていない現状、ジラフ麻生 氏はこの課題を解決しようと考えた。
麻生 氏:「今の「ヒカカク!」は、買い取り価格を比較するサイトとして運営していますが、うちの大きなポイントは買う側がその商品をいくらで購入するのか、つまりオークションで言えばビッド(Bid)にあたることが事前に行われているところにあります。売り手の側からみれば、売りたい商品がどういった相場観で売れるのかを検索できるようになるわけですね。これは単に売りたい時に売価を参考にできるということに限らず、自分のもっているアイテムがどういった市場価格で推移しているかを可視化できるということだと思っています」。
「中古販売価格が1000円なら買い取り価格は○○円だろう」という間接的な買い取り価格情報はあるが、買い取りにともなう市場は、中古販売店やオークション、EC市場など多様でそれぞれの事業者によって「コスト構造やビジネスモデルに差異があり、一概に比較することは難しい」と麻生氏は言う。
麻生 氏:「オークションでは比較的高い価格で売却できるケースがありますが、実際出品やクレーム対応などの懸念、そして取引のやりとりする際の手間暇はそれなりのボリュームになってしまいます。振り込みタイミングなどもありますね。フリマでも同じような課題があるでしょう。ですから、単に“買取り価格が高い” だけではなく、もう一つ “どの業者さんなら良心的に手間なく売却できるか” といった第二の評価軸をも評価するのが私達のサービスの価値と言えると思います」。
「買取り」経済圏を整地する意味
買取り価格とはいえ、多数のアイテムをバルクで売却しようとする業者向けのサービスとは違う。麻生 氏はあくまで「個人が、ふと不要なアイテムを売たいと思った時に利用してもらえるサービス」を想定しているという。
麻生 氏:「既存の買取り店などもあると思うのですが、ヒカカク!では、あらゆる買取り価格が検索できる、不用品を売ろうとしたときまず始めに思い浮かべるサイトとして認知してもらいたいんです。買取り業者さんとしても、価格を発信する中心的サイトとして活用してもらい、かつ良心的な価格で対応もよければ評価され集客につながるということが定着すればいいと考えています」。
ヒカカク!に掲載される情報は、実店舗の買取り店のみならず、通販型(宅配型)にも対応。「最近は、実店舗が宅配型に対応して全国展開するケースも増えつつあり、一体自分の住んでいる地域の買取り対応店がどれだけあるのかもわかりにくくなっています。そういう意味でも、買取り情報をわかりやすく整理することが私達の価値提供の根幹になっています」(麻生氏)
麻生 氏:「“買取り”を活性化することの最大の壁は、その経済圏を整地化できるかという点。開示することで、集客につながる、プラスの効果があることを理解し参入していただく。中古品販売業者などは、買取り。その壁をどう乗り越えられるかが私達の大きな課題です。
現在ヒカカク!のビジネスモデルは、買取り成立時の手数料収入です。現在の買取り市場は、小型のガジェットが個人経営の店舗が増加しているケースがあり、かつての楽天がそうだったように、小さな個人店舗を支援することで成長したい。ヒカカク!に情報を掲示することが最もコストパフォーマンスもよく、売り手も買い手も集まってくる、そんな状況をリードしていきたいと考えています。」(麻生 氏)。
チームとしての「ジラフ」
現在のジラフは、毎月40%ずつユーザー数が増加し、それにともない買取り成約率も向上しているという。まさに、ユーザー増にともない購買意欲が向上するという構図が成立している状態。2015年7月には、全国1000店舗のiPhone修理業者から、画面割れ修理やバッテリー交換、水没修理などのメニューごとに費用比較を行えるサービス「最安修理ドットコム」もリリースしており、買取り対応商品もガジェット以外にも徐々に拡大する予定。
今後、今回の資金調達により、商品や見込顧客獲得のためのコンテンツを丁寧に作りあげていき、オンラインマーケティングなどを拡大していく計画。買取り価格データベース整理のための独自CMSも構築している状態であり、“買取り”経済圏での先行者としての土台を固めたい考えだ。
二十代半ばのジラフ代表取締役 麻生輝明 氏は、中学生の頃からサービス立ち上げに関わってきた起業ネイティブともいえる世代。淡々としながらも非常に緻密に事業のことを考えている印象だ。
「新船長のように頼りがいがある」。COOに就任した柴田雅人氏がそう語るように、まだ見ぬ市場に乗り出すパイオニアとなるのかもしれない。
個人投資家としてこの増資フェーズに参画した柴田雅人 氏は、グリーを退職してジラフに参画。二人は、2015年6月に開催された「#SVFT Skyaland Venture Fest」で出会い意気投合したという。
柴田氏は、SVFTではTechWaveがコーディネートする「グローバルアプリ博」のエリアの責任者としてご一緒させていただいたが、目くばりが上手で非常に優秀だと感じた次第。そんな彼等があの場で出あい、こうして未来に向け舟をこぎだすということはなんとも感慨深い。
市場を猛スピードで歩く二人の将来に注目したい。
米Appleは2015年9月30日、中国において「Apple Music」および「iTunes Movie」「iBooks」のサービス展開を開始したと発表した。
世界中の人々に喜んでもらえるインタラクティブコンテンツを生み出そうと2000年に設立されたクリエイティブカンパニー、バスキュール。国内外で数々の著名なクリエイティブアワードを受賞し、デジタルプロモーションの領域で常にチャレンジを続けるバスキュールの今後の取り組み、求める人材について取締役の田中謙一郎さん、今年転職して新たに参画したエンジニアの松本雅博さんにハッカソン芸人こと羽渕がインタビューしました。
転職のきっかけは、イベントでの偶然の出会い。
羽渕 まずは、松本さんに転職の経緯についてお伺いします。前職はどのような仕事内容だったのでしょうか?
松本さん ウェブ広告の効果を測定するサービス提供をしていました。いわゆる「BtoB」の仕事です。
エンジニアとして、システムの開発、運用、保守業務を担当していました。
羽渕 どのようなきっかけでイベントに参加されたのでしょうか?
松本さん エンジニアやデザイナーが集まりモノ作りを行うハッカソンというイベントが流行っていることを知ったことがきっかけです。そこで、審査員をしていた弊社の田中と出会いました。
羽渕 バスキュールという会社にはどのようなイメージがありましたか?
松本さん 実はバスキュールのことは全く知らなかったんです。調べてみると、「しずかったー」とか話題のアプリや名前が広く知られているプロダクトの中にバスキュールが開発したものが多くあるということがわかり、これはスゴイなと(笑)。その後、バスキュールのエンジニアやプロデューサーとも話をしてみて、バスキュールの社員が常に新しいことにチャレンジしていることや、志の高さを感じました。納期が短いなかで、「試しに作ってみました」と2週間で新しい仕組みを作ってしまったり。ハッカソンに参加して、みんなで集まってガーっと勢いでモノを作ることの楽しさに触れていたこともあって、バスキュールでなら面白いことができそうだと感じて転職を決めました。
プロジェクトベースで仕事をする時代。いかに「選ばれる人」になるか、が大切。
羽渕 田中さんは、松本さんのどのようなところを評価されたのですか?
田中さん ハッカソンに参加していたから、大丈夫だろうと(笑)。というのも、ハッカソンに参加する人には、自分のスキルを試そうとか、他の環境に目を向けようとする意思をもった方々が多く、そういった志向性をもつ人材は伸びしろも大きいと考えています。
羽渕 松本さんの技術力を高く評価されたと?
田中さん もちろん技術力の評価もあったのですが、ハッカソンという場で「チームが目指すゴールイメージに向けて自身の能力を発揮し、さらにその上を目指していたこと」への評価が高かったですね。実は、バスキュールの組織はスーパーフラットで、役職がなく、マネージャーがいません。プロジェクトに合ったメンバーを集め、プランを考え、提案をし、案件を発生させています。
プロジェクトに参画したスタッフみんなで、ひとつのゴールイメージを共有し、そこにたどり着くルートを協力してみつける。要するにハッカソンのような方法で仕事を進めています。
だから、必要なことは、いかにプロジェクトに「選ばれる人」になるかです。そういった社内体制であったからこそ、松本ならハッカソンでの経験も生かせるので大丈夫だろうと思いました。
羽渕 松本さんは、入社されてバスキュールのこのシステムはどう感じられましたか?
松本さん 会社があまりにフラットな組織なので、私も最初はびっくりしました。でも、組織が一階層なのでトップとの距離が近く、仕事の進行も早い。何か言えばすぐに返ってきますし、コミュニケーションも取りやすいです。
また、私の肩書きは「エンジニア」ですが、企画段階からプロジェクトに参加することができるので、仕事の中でハッカソンをやっているような感じを受けています。
羽渕 そのような会社のなかで仕事をしていて、実際に感じるバスキュールのやりがい、魅力はどのようなことですか?
松本さん 転職して、たくさんの人の目に触れる大きな案件に関わるようになり、プレッシャーとともに大きなやりがいを感じています。常に新しいことに取り組んでいく企業文化がとても魅力的です。
羽渕 今後はどのようなことにチャレンジしていきたいですか?
松本さん これまで以上に「外に」出ていこうと思っています。
先日、社長の朴と社外勉強会について話したところ、「おかしなことはしないと信用しているし、自由にやってくれていいよ」と言っていただきました。
自分が外にでることで、バスキュールのことをもっと知ってもらう機会が増えるし、外に出ていく社員が増えるきっかけになればいいと考えています。
「新しいコミュニケーションとは何か」を提案しつづける。
羽渕 今年5月には、日本テレビとともに『HAROiD(ハロイド)』を設立されたり、PARTYとともに『BAPA』という学校を運営したり、制作会社の枠を超えた活動で注目を集めていらっしゃいますが、今後の取り組みについて教えてください。
田中さん 将来、テレビが「コンテンツを流す装置」になり、テレビがテレビではなくなる時代がくるでしょう。それでも、テレビは家庭内の一番大きな“ネットにつながったディスプレイ”であり続けると思います。ならば、その家庭内最大のディスプレイを使って、未来のコミュニケーションやコンテンツ、サービスを提供していきたいと考えています。『HAROiD』はスマートテレビ時代の「新しいコミュニケーションとは何か」を提案する会社です。
これからの時代に求められるクリエイターとは?
羽渕 最後に、バスキュールが求める人材について教えてください。
田中さん 技術的スキルがあった上で、何かを生み出す能力のある人。実際に、自主性をもって作品やサービスを作り、それを「見えるもの」「動くもの」にして表現することができる人ですね。
社内で「選ばれる人」にならなければいけないですし、そのためには、エッジを立てて「自分はこういうことができる」と常に発信していくことも必要になってくると思います。我々が求めるのは、「外から呼ばれるような人」ともいえますね。
■転職エージェントのパソナキャリア
www.pasonacareer.jp
■パソナキャリアのIT・Web業界の転職特集
www.pasonacareer.jp/it_web.html
1986年、大阪府生まれ。2008年にパソナキャリアカンパニー入社。
パソナキャリアの人材紹介サービス部門にて転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事。現在はパソナテックで、新規事業開発や人材教育を目的としたハッカソンのファシリテーター(司会)として活動している。
アップルの日本法人でデバイスやセグメントマーケットを長年担当した梶原健司 氏が2014年に設立した株式会社チカクが2015年9月14日、初めての製品をお披露目する。その名も「まごチャンネル」。拍子抜けするようなゆるいサービス名だが、入念な調査の末、梶原氏の理念が結実したものといっても過言ではない。
クラウドファンディングMakuakeで同日11時からスタートしたプロジェクトは、目標100万円のところ開始20分程度で8割近くを達成。(追記 その後1時間程度で目標額を達成)大きな注目を集めそうだ。
「LIGブログの勝手に1日編集長ハッカソン」とは
ミッションは、LIGブログ上でバズる記事を作ること。LIGとE2D3.orgが主催する「LIGブログの勝手に1日編集長ハッカソン」が9月12日に開催される。
それに先駆けて9月4日に開催されたオリエンテーションでは、LIG秘伝の「コンテンツ企画術」や、「E2D3の可視化テンプレートの作り方」講座などが行われた。
データだけでは伝わりにくい情報を、テクノロジーとビジュアルで分かりやすく伝える技術として注目されている「E2D3」。この技術を「おもしろ」「わくわく」のために使ってほしいというのが、このハッカソン「LIGブログの勝手に1日編集長ハッカソン」の目的だ。
「おもしろコンテンツ」で大人気を博すLIGとタッグを組み、「コンテンツ企画×データ可視化インフラ」という新しいコンテンツのカタチを生み出そうとしている。
▲E2D3は、Excelのデータをd3.jsというライブラリを使って、プログラムでしか書けないようなグラフを作ることができるビジュアライゼーションツール
9月12日に開催されるハッカソンでは、エンジニア・デザイナー・ライター・カメラマンでチームを組み、E2D3を使って、月間600万PVを誇る「LIGブログ」でバズる記事を作成することがゴールとなる。優秀な作品はLIGブログに正式掲載される。
「今からでも参加してみたい!」という人のために、9月4日に行われたオリエンテーションから、LIG秘伝の「おもしろワクワクするコンテンツ企画術」とE2D3の「可視化テンプレートの作り方」を紹介しよう。
LIG秘伝の「おもしろワクワクするコンテンツ企画術」
まずはLIGを支える3つの事業について、CTOである林優一さんから紹介があった。
1. 【CREATIVE】Web制作の受託や自社コンテンツ制作
1. 【MEDIA RPMOTION】LIGブログを使った広告
1. 【Life is Good】シェアオフィスやゲストハウスなど
▲株式会社LIG CTO 林優一さん
LIGブログは600万PV、230万UU、3.6万いいね!という驚異的な数字を誇る。
9/1にリニューアルしたばかりで、以前に比べてカテゴリも増えており、今後もコンテンツを増強していくという。
今回のハッカソン会場である「いいオフィス」もLIGのシェアオフィス。奥にマンガもあるし、キッチンやWifiなど、設備も充実している。
続いては、LIGの三代目広報を務めたメディアディレクター・ヨシキさんからの「おもしろワクワクするコンテンツの企画術」講座。
▲株式会社LIG メディアディレクター 森川ヨシキさん
意外なことに、LIGブログの構成は「真面目なお役立ち情報」が9割近くで、「どうでもいいネタ情報」は1割だけだという。
だが、世間の印象は、「真面目<面白」。
「マジメな記事より、面白記事のほうが心が動かしたからと考えている。心を動かすためには、ファンになってもらうのが一番」とヨシキさんは言う。
「心が動く」記事はどうしたら作れるのだろうか。LIGは「笑い」を得意とするが、人は、悲しみ、怒り、驚きなどいろんな感情で動く。
「認知されても無関心」というのは避けたいし、プラスの感情で心を動かすほうが理想的だが、マイナスの感情でも記憶に残る。プラスかマイナス、どちらかに触れたほうが、コンテンツとしては有効なのである。
PVを獲るだけなら広告という手段もあるが、目指すのは心に残る物語だ。
普通のことを言い続けても人の心は動かない。だから、普通ではないものを見せてあげなくてはならない。「当たり前のことから何かをズラすことが大切」だとヨシキ氏は言う。
1) メッセージや気づきなどの当たり前からズラす
↓
2) 感動のギャップが生まれる
↓
3) 自分の心が「想定から外れることで心が動く
実際にLIGブログで掲載された「心が動く」事例が紹介された。
【事例1】部下の部屋でビーチ音楽祭を開催したら、大変なことになりました。
▲⇒ブログを読む
部下の部屋に砂を撒き、帰ってきたらミュージシャンが歌いだすというドッキリ企画。「普通の人は、部屋で勝手にビーチ音楽祭を開催されない」というズラし。
【事例2】会社で仕事中に寝ていたらどうなるの?実際にやってみた
▲⇒ブログを読む
就業中に寝てみたらどうなるか、誰もやったことがない企画。やったら怒られるという当たり前のことで、誰もやらないことをあえてやってみることで心を動かす。
【事例3】至高のTシャツ「OUKY」をタイで仕入れて、STORES.jpで販売
▲⇒ブログを読む
タイでTシャツを仕入れようと思わないし、それをネットで販売しようとも思わないが、それを実行したことが心を動かしたのだという。
ちなみに、会場の後ろではその至高のTシャツ「OUKY」が売られていた。
ショップの店長は、なんと入社して3ヶ月で、40日間アメリカ大陸を横断したという野田クラクションべべーさん!帰国後、店長に任命されたのだそう。
店内では、通常2980円のTシャツが2000円で購入できる。この看板はべべさんが4時間かけて作ったそうだ。
ヨシキさんは「世の中の広告の大半は、『低料金』『高品質』『何でも対応』をそれぞれの手法で言ってるだけ。常識をズラせば、心を動かす」と語る。
LIGがブログをやっている理由には、ファンを作るという目的がある。会社には社員がいるが、普通はあまり表に出ないことが多い。
だからLIGは社長以外にも多くの社員を売り出し、「こういうことを考えているんですよ」と伝えていった。人は知っている人からモノを買うと安心できる。社員のファンが増えれば、「知っている人」から買いたくなることにつながるからだという。
最後にヨシキさんは、心を動かす4つのポイントを挙げた。
1. 一目でわかるビジュアルをつくる
2. 一言で伝わるキャッチコピー
3. 世界観をつくる
4. 何かをズラす
一目でおかしなことをしているのがわかる写真など、ビジュアルで目を引き、キャッチコピーで伝えるのはLIGの得意とするところ。
さらにLIGの社員は当然役者ではなく素人なので、演技をしすぎると嘘っぽくなる。そのため、なるべくリアルベースでやることで、リアリティを創り出している。
何かをズラすというのは、ここまで例を挙げてきたように当たり前や普通じゃない組み合わせをすることなどで、実現できる。
E2D3の可視化テンプレートを作ってみる
続いては、E2D3.orgからE2D3の可視化テンプレートの作り方について。
E2D3とは、Excel to D3.jsの略で、オープンソースで公開されているOSSプロジェクト。
GitHubにグラフのコードを投稿(Pull Request)すると、E2D3.orgがMicrosoftのOneDriveで承認し、ユーザーがExcelのアプリからダウンロードできるという仕組みとなっている。
それを取りまとめて管理し、啓蒙しているのがE2D3.orgだ。
* E2D3: Excel to D3.js(http://e2d3.org/ / https://github.com/e2d3/)
▲E2D3エバンジェリスト 壹岐 崇さん
E2D3エバンジェリストの山本優氏は、「データの可視化を作り上げるのはとっても大変。見かけたものを使ってみたいと思ってもノンプログラマには絶対無理。E2D3はデータの中身を書き替えるだけでグラフができるテンプレートを作れるので、ノンプログラマでも使いやすい世界を目指している」と語る。
ハッカソンでは、データ可視化のテンプレートにExcelからデータを流し込めるテンプレートをエンジニアに作ってほしいと呼びかけた。
▲E2D3エバンジェリスト 山本優さん
そのテンプレート開発に必要なものはこちら。
* Node.js vs.12x
まずは、サーバーアプリケーションをインストールする必要がある。ローカルにない場合は、nodebrew(for MacOSX)もしくはnodest(for Windows)を使ってインストールする。
* Git
GitHubですべてのソースが公開されているため、Gitが使える環境が必要となる。
* Google Chrome
Chrome以外に、FireFoxなど、他のブラウザでも可能とのこと。
* Microsoft Excel Online
Microsoftアカウントを作れば無料で使えるので、登録しておこう。
* Atom
Atomでなくても、開発用のテキストは自分の好きなものでOK。
さらに、E2D3コマンドをNPM経由でインストール。
~~~
$ npm install -g e2d3
~~~
E2D3-CONTRIBレポジトリをクローン。
~~~
$ git clone git@github.com:e2d3/e2d3-contrib.git
~~~
詳しい資料は、こちらにアップされているので、参照しよう。
「E2D3で公開されたデータは簡単にブログに貼付けたり、Facebookでシェアすることができるシェア機能があるので活用してほしい」と言い、山本さんはセッションを締めた。
E2D3.orgのプロジェクトリーダーである五十嵐康伸さんからは、グラフ作成のヒントとなる表現でよく割り当てられる情報のまとめや、Date Driven Documentsのサイトなどが紹介された。
▲E2D3プロジェクトリーダー 五十嵐康伸さん
▲E2D3の表現でよく割り当てられる情報
▲左が「Bubbly Gunma」、右が「都道府県の散布図」例
9月12日のハッカソン当日は、アマナイメージズの画像が無料で使えたり(※会員登録が必要)、ドリンクスポンサーの野菜くらぶさんからレタスのクラフトビールがふるまわれたりするとのこと。
jThree開発者の松田さんのWeb3D/VRコンテンツ講座や、LIGのオリエンテーションの再演などもあるそうなので、興味のある方はぜひ参加してみてほしい。
イベントの概要
* 2015年9月12日(土)10:00 – 21:00(9:30 受付開始)
* 参加費:2000円(懇親会費:ピザ・ビール代含む。学生無料)
* 会場:いいオフィス
* 所在地:東京都台東区東上野2-18-7(共同ビル3F)
* イベントの詳細はこちら
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」2015年9月7日掲載記事を、転載しています。
ヒトメディアグループは2015年9月3日、子会社でSkype英会話事業を展開する「ラングリッチ」(Langrich Holdings Pte. Ltd. 拠点シンガポール)が米のオンライン教育ベンチャー「イングリッシュセントラル(English Central)」(拠点マサチューセッツ州アーリントン)と合併することを明らかにした
事業統合により、イングリッシュセントラルのインプット型学習から、ラングリッチが得意とするアウトプット型学習まで、英語学習の一通りの流れを抑えることができるようになる。両者の会員をあわせると系200万人超となり、世界有数の英語学習プラットフォームが誕生することとなる。
[もっと読む…] about ラングリッチが米EnglishCentralと合併、ヒトメディア代表 森田氏がボードメンバーに 【@maskin】
大手企業に勤めているエンジニアの平均勤続年数は約5年と言われている。エンジニアが辞めない組織とはどういう組織なのか。「エンジニアが辞めないようにする」にはどうすればよいのかを、人事、脳科学や統計学などの視点から考えるというセミナーが開催された。その概要をレポートする。
「人が辞めない組織」を人事の視点から考える
リクルートキャリアが提供しているエンジニアの実務力を可視化するサービス「CODE.SCORE」。その「CODE.SCORE」と、アイ・キューが展開している日本最大級のHRネットワーク「日本の人事部」が7月23日、「『辞めない』エンジニアをどう採用するか?~人事、脳科学、統計学の3つの視点から考える~」というタイトルで無料セミナーを開催した。
最初のセッション「『人が辞めない組織』とは何か?」に登壇したのは三幸製菓の人事担当、杉浦二郎氏とクリエイティブディレクターのサカタカツミ氏。「人が辞めない組織」について人事的視点から考察を行った。
三幸製菓は「雪の宿」などあられやおかき、せんべいを製造販売している米菓メーカー。本社は新潟市にある。地方企業でありながら、「おせんべい採用」「ガリ勉採用」「出前全員面接会」などのユニークな採用施策を実施し、全国から人を採用している。
▲杉浦 二郎氏 / 三幸製菓株式会社 人事課長
大学卒業後、証券会社での営業経験を経て2001年に三幸製菓株式会社へ入社。資材調達、総務を経験後、2007年より人事専任として採用・育成・人事制度など、人事業務全般に従事。最近では「おせんべい採用」「ガリ勉採用」「出前全員面接会」といった独特の採用選抜方法が話題となり、テレビ・新聞にも取り上げられるなど、ユニークな採用施策を打ち出している。
一方のサカタ氏は、若手社会人向けのキャリア支援サイトのプロデュースや、就職支援サービスのプロデュースやディレクションなどを数多く手がけている。リクルートキャリアの「CODE.SCORE」をはじめ、「MakersHub」「サンカク」などさまざまなサービスに携わっている。
▲サカタ カツミ氏 / クリエイティブディレクター
就職や転職、キャリア開発などのサービスのプロデュースやディレクションを数多く手がける。ワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』他。エンジニア採用においては連載『なぜ、エンジニアの採用は難しいのか?』をはじめ、寄稿記事や登壇も多数。
そんな二人の掛け合いにより、セッションは進行した。
サカタ氏は「採用した人が辞めることについて」人事は次のように考えているという。
1.採用は人事の責任、退職は現場の責任(人事の迷言)
杉浦氏はこれに対し、「育成の場面で人事が関与できるのではと思うかもしれないが、その時間は少ない。結果、採用後、人事はほとんど関与しない。だから関与している現場サイドの人が何かやらかしたのではと考えてしまう」と語った。
2.エモい責任を感じているポエマー人事は割と多い(人事の感情)
サカタ氏が言う「エモい責任」とは、人事ブログやFacebookなどで退職者が出た際に『この別れを糧にし、成長していかないといけない』といったことを書いている人事が多いことを指す。このようなポエムを書くことについて、杉浦氏は「退職に対して、人事として自分の責任を感じていないからでしょうね」と指摘。サカタ氏も「ポエムを見る限り、人ごとっぽいと感じてしまう」と言う。
3.そうはいっても離職率低い自慢(人事の視座)
この問いかけに対して、杉浦氏は「人材損失の指標を持っていない企業が多いので、離職率を自慢するのでは」と杉浦氏は回答する。
4.採用に関するプレッシャーは半端ない(人事の思惑)
「特に成長フェーズに入っている企業は、採用プレッシャーが大きい。辞めてもいいから採用してほしいと言われる」と杉浦氏は明かす。
「採用できないから事業を縮小してくださいと言えないから」とサカタ氏の問いかけに、杉浦氏は「言えないことも大きな理由かもしれないが、そもそもなんとかなるのではないか、教育的な部分でフォローできるのではないかと思っているから」と分析。
5.育成さえうまくいけば採用は関係ない(人事の本音)
もちろん採用が関係ないわけではなく、「採用してから育成すればいい」という考えでは、ほぼうまくいかないと杉浦氏は言う。
6.人事は辞める理由なんて知りたくない(人事の現実)
「知りたくないというか、結局は本人の性格的や環境的な問題など、どうにもならないことも多いからだ」とした上で、「辞めないことをつぶす施策を考えることは、本質ではない。辞めてしまう人をどうやって採用の段階で落としていくかだ」と杉浦氏は指摘する。サカタ氏も「辞めない人の理由を知るべきで、辞める理由をつぶしていくと、誰も取れなくなってしまう」と同調。
辞めない人を採用するために人事がするべきこと
1.採用した人は辞めないという思い込みをなくす必要がある
2.採用した人はすべて活躍させる仕組みを目指す
3.仕組みを運用した=仕事を全うした気分を捨てる
4.辞める理由をきちんと可視化しておくべき
「人事は採用人数だけを見ていればいいわけではない」とサカタ氏は言う。「経営者の視点をしっかり持つことが必要だ」と続ける。例えば一人辞めたらどのくらい損失が出るのか、ということが即答できるだけの能力がないと難しいというのだ。
「今はできていないが、やらなければならないと感じている。いずれにしてもエモい部分は捨てた方がいい。それは自分自身の仕事のモチベーションにはつながるが、会社の業績に連動しないからだ。そこをどう捨て、経営者視点をしっかり持つことができるか。それが辞めない組織につながると思う」
最後に杉浦氏はこう語り、サカタ氏と杉浦氏によるセッションは終了した。
脳科学の視点から「人が辞めない状態を考える」
続いて行われたのは、脳科学の視点から「人が辞めない状態を考える」というセッション。登壇したのは「CODE.SCORE」データサイエンティストの鹿内学氏だ。鹿内氏は2005年奈良先端科学技術大学院大学で大学院生として認知神経科学(脳科学)の研究を始め、その後、大学・研究機関で研究に従事していた。
▲鹿内 学氏 / 株式会社リクルートキャリア 「CODE.SCORE」データサイエンティスト
大学・研究機関で認知神経科学(いわゆる脳科学)の研究に10年間従事。認知・行動に関わる脳活動データを解析する。リクルートキャリア転職後、働き方を革新するために働くヒトのビッグデータ化に取り組む。「CODE.SCORE」には2015年4月より参画。プロダクト開発に機械学習の新しい視点を導入。博士(理学)。
人間の脳の構造は「周りに覆われているところが大脳新皮質で真ん中(赤い部分)にあるのが線条体」と、鹿内氏は説明する。大脳新皮質とはヒトで発達した脳。
<脳の生理学と認知科学>
一方の線条体は発生学的に古い脳で、報酬や動機付けにかかわる領域がある。つまり「線条体には、報酬の刺激、例えばお金などに関連して活動する領域がある」。
これは脳の報酬「系」と呼ばれている。系とは「システム」の意味。つまり、線条体単独で活動するわけではない。
線条体は、大脳新皮質のさまざまな領域とのネットワークにより、学習や文脈に依存した変化も起こるというわけだ。また、脳の報酬系は、必ずしも報酬量に応じて活動するのではなく、報酬の予測誤差(報酬の予測誤差=人事が与える実際の報酬 - エンジニアが期待する報酬)に応じて活動する。
「エンジニアが期待する報酬と、人事が提供する報酬の関係を考える必要があるのではないか」と鹿内氏。ただし、考えるべきことは、報酬の予測誤差をプラスにすることだけではない。
「やる気」は外発的・社会的・内発的の報酬と動機付けの足し算
それは報酬・動機付けにはいろいろな種類があるからだ。
今回、鹿内氏が挙げたのは次の3つ。
1.外発的報酬・動機付け
2.社会的報酬・動機付け
3.内発的報酬・動機付け
「やる気」について、上記に挙げたような3つの報酬をたたき台にして議論していきたいと語り、サカタ氏と鹿内氏による議論が始まった。
人事が陥りやすいのが「内発的報酬・動機付けを強くすると辞めないと思いがちなこと」とサカタ氏は言う。内発的動機付けに駆動されるタイプの人であったとしても、簡単な仕事ばかりを与えていれば向上心を刺激できずに辞めてしまうだろう。
内発的動機付けにおいても、放ったらかしでよいというわけではなく、組織が積極的に関与しなければいけない。それに付け加えるように、鹿内氏は「一方で、内発的報酬・動機付けは人によって価値観がバラバラなため、計測するのは難しく、本来コントロールするのは非常に難しいだろう」と語る。
また、「当初、外発的報酬・動機付けと内発的報酬・動機付けだけで考えていたが、それだけで考えるのは危険だと思った」とサカタ氏。
「外発的動機付けをフルで与えるのは難しいため、内発的動機付けを発動してそれで埋め合わせようとしてきた。しかし人事がコントロールするのは難しい。そこでもう一つやる気に関わってくるのが、社会的報酬・動機付け。ソーシャルメディアが発達したことにより、可視化しやすい状況が生まれている。この3つを考えて辞めない状態を考える必要がある」とサカタ氏は言う。
最後に議論されたのは、報酬予測誤差の「時間割引」である。「今日の1万円と1年後の1万円では、『いま』の報酬系に与える影響が異なる」からだ。
では、どうすれば人事が、報酬に関わるあれこれをうまく調整できるのか。それには「プログラミングスキルなどの能力や日常の行動・コミュニケーションなど、さまざまなログを長時間とっていくこと。そうすることで、どのような種類の報酬・動機付けに駆動されて行動が起こるのか、報酬を与えるタイミングなどが推定できるようなるだろう。アンケート調査などでは不可能な、無意識的な行動の可視化ができると思われる」と鹿内氏。
脳科学の視点から言えることは、辞めない状態を作るために人事は報酬・動機付けの期待、種類、タイミングを考えることが大事なのだ。
統計学から「エンジニアが辞めない理由を考える」
最後の視点は統計学。「統計学からエンジニアが辞めない理由を考える」というタイトルで、CODE.SCOREデータアナリストの大成弘子氏が登壇した。
▲大成 弘子氏 / 株式会社リクルートキャリア 「CODE.SCORE」データアナリスト
ITエンジニア採用サービス「CodeIQ」に立ち上げから関わる。CODE.SCOREではデータドリブンでプロダクト開発の推進業務を担当。著書に『データサイエンティスト養成読本』他。IT技術書翻訳も手がける。
やる気の因子とは何か。大成氏のセッションはこの問いかけから始まった。
- 基本給
- 給与の上昇
- 賞与勤続年数
- 行動評価
- 職場目標の納得度
- 仕事の割り当ての公平さ
- 仕事上の支援・アドバイス
上記に挙げた因子など、いろいろ考えられる。「人事の統計分析~人事マイクロデータを用いた人材マネジメントの検証」(中島哲夫他編著)によると、やる気と相関が見られる因子は「職場目標の納得度」だったという。従業員が辞めないために重要になるのが、職場目標を正しく設定することというわけだ。
職場目標を正しく設定されているかどうか、測るのは難しい。そこで活用できるのが「CODE.SCOREの主成分分析だ」と大成氏は言う。主成分分析を用いることで、その組織ではどのスキルを重視しているのか、また従業員のスキルはどのようにバランスされているのかが見えてくる。
企業Aと企業Bは同じ試験を受けているのだが、企業AはJavaを強みにしている組織である一方、企業Bはセキュリティとフロントエンドを強みにした組織となっている。
では、山田君というエンジニアが以下のようなスキル特性があるとき、企業Aと企業Bではどちらのほうがスキル環境適応するだろうか。
一見、山田君は「セキュリティに精通している」とあるので、企業Bと合いそうにみえる。しかし、企業Bは「セキュリティとフロントエンドが同時に必要とされる組織」であることを考えると、「フロントエンドは苦手」とする山田君の場合、スキル環境適応が低くなる可能性がある。この場合、山田君にとってスキル環境適応があるのは企業Aとみるほうが良い。
他にも、スキル類似性からどのスキルを持った人材を採用するとよいのかを見ることができる。
「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、似たようなスキルを持った人を採用したほうが環境適応性は高くなる。組織を「強化」したい場合は、その組織が持つスキル特性と似た人を採用すればよい。戦略的に、組織が今、足りていないスキルを「補完」したい場合は、その組織が持っていないスキルを保有する似たようなレベルの人材を採用するという使い方もできる。
「エンジニアが辞めるのはエンジニア個人のスキルが可視化していないから。まずは正しく把握するためにまずは可視化することから始めてほしい。それに活用できるのがCODE.SCOREだ」と大成氏は語り、セッションを締めた。
エンジニアが辞めない環境を作るのは難しい。しかし、今回のセミナーではそのヒントがたくさん挙げられた。辞めない組織を作る第一歩は、CODE.SCOREを試してみることから始まるのかもしれない。
※本記事は「Hack on Air」2015年8月5日掲載記事を、転載しています。