最新技術を活用し、今までに無い体験ができることは楽しい。私もハッカソンでデモを見ながらいつも驚かされている。一方で、最新技術でなくても、アイデア次第で新しい体験を創り出している人たちもいる。そういう人たちはモノづくりに対してどのようなことを心がけているのだろうか。アナログな絵本の良さを残しながら、スマートフォンを使って絵本の体験を拡張するPLAYFUL BOOKSの開発者 木村幸司氏にハブチンがインタビューした。
アナログな絵本の体験をスマートフォンで拡張する
ハブチンPLAYFUL BOOKSとはどういうプロダクトですか?
木 村はい、PLAYFUL BOOKSは絵本のページを開くと、ストーリーにあわせて音が出たりを室内の灯りの色が変わる「まほうのえほん」です。
ハブチンおぉ、照明が黄色になった!灯りの色が変わるだけで、本当に絵本の世界にいるみたいになるんですね!
木 村はい、他にも絵本をノックすると返答が返ってくるなど、アナログな絵本の体験をスマートフォンで拡張することができます。
ハブチンおもしろいですね!なぜアナログな絵本とスマートフォンを組み合わせたPLAYFUL BOOKSをつくったんですか?別にタブレットで絵本を読んでもいいんじゃないですか?
木 村親が子どもに小さい頃からスマートフォンを使わせることに不安に感じられる方が増えてきています。デジタルネイティブ世代の子どもたちにも、アナログなものの触り心地や、モノ自体の良さを大事にしてほしいという想いからPLAYFUL BOOKSは生まれました。だからあえて画面の部分を見せないようにしています。
ハブチン確かに子どもがスマートフォンで動画ばかり見ているのは、少し抵抗があるかもしれません。
まずは「○○○したら○○○」を考える
ハブチンPLAYFUL BOOKSを開発する上で心がけていることはありますか?
木 村技術ありきではなく、体験ありきで実現方法を考えています。まずは「○○○したら○○○」を考えます。
ハブチン「○○○したら○○○」?
木 村はい、PLAYFUL BOOKSでいえば、「ページをめくったら、照明の色が変わる」とか「絵本をノックしたら、返答が返ってくる」など「○○○したら○○○」を考えます。
ハブチンなるほど。○○○な何かをしたら、○○○な何かが起きるということですね。
木 村前の○○○はなるべく自然にハードルを低くして、後ろの○○○は非日常な体験をつくる。アナログなものの触り心地の良さは残しつつも、デジタルだからこそできる非日常な体験をつくるというか。この落差が大きいほど楽しいと感じます。
ハブチンそうなんですか!確かに前の○○○でハードルをあげてしまうと、次に何が出るか期待してしまいますもんね。
木 村はい、アナログとデジタルのいいとこ取りのようなことをしています。ある程度、体験を考えたら、次は実現方法を考えます。
新しい技術にこだわらずフラットな視点をもつ
ハブチン実現する上で心がけていることはありますか?
木 村実現方法については、古いや新しいは関係なく、フラットに考えています。
ハブチン新しい技術に対するこだわりはないんですね。
木 村忘れ去られそうな過去の技術の中でもすごいものがあります。もちろん体験に適していれば最新技術は積極的に使いますが、フラットに考えることを大切にしています。PLAYFUL BOOKSもほとんどの人が持っているスマホを「センサー」として利用することで、ハードウェアを流通させるハードルや製造コストを下げています。
ハブチンなるほど、そういう背景もあったんですね。日頃モノづくりをするに置いて心がけていることはありますか?
木 村アイデアを実現するための技術については、かなり勉強や研究しています。全ての技術を習得するのは無理なので、いろんなことに興味をもつことを心がけています。伝統工芸でも宇宙工学でも新しい技術にこだわらずフラットな視点で様々な分野のプロと協業していきたいなと思っています。
ハブチン勉強になります。今後PLAYFUL BOOKSはどのような体験を創り出していきたいですか。
木 村「PLAYFUL BOOKSまほうのえほんキット」という自分なりのPLAYFUL BOOKSを作ることができるキットをつくりました。まほうのえほんキットをキッカケにして、絵本作家と音楽家という異なるクリエイターが新しい作品を創るキッカケになればいいなと思っています。また親子も、まほうのえほんキットを創るために、リアルな効果音を採集しに出かけるなど、一緒につくりながらコミュニケーションが増えればいいなと思っています。
ハブチンおぉ〜ワクワクしますね!ありがとうございました!
■魔法のような絵本「PLAYFUL BOOKS」
http://playful-books.com/ja/
体験ありきのプロダクトづくりは、私もプロダクトをつくる上で大切にしていきたい姿勢だ。体験ありきだからこそ、アイデアを実現できる技術を幅広く知るということを心がけていきたい。
大手企業がロボット関連ベンチャーを買収し、世間でもロボットと触れ合える機会が増えた。しかしロボットが家庭の中にどのように入るかはまだまだイメージがつかない。そこで家族がつながる、もっとたのしくなる ロボット「BOCCO」を開発しているユカイ工学の青木俊介代表に、ハブチンが「人とロボットのカンケイ」についてお話を伺った。
人とロボットが会話する世界は訪れるのか。
ハブチン 正直なお話をさせていただくと、人型ロボットが10年後も家にいるとは思えないんです。
青 木 なるほど。それはどうでしてですか?
ハブチン まず人型ロボットがいたら、監視されているようでイヤです。
青 木 確かに。例えばロボットにカメラがついていたとして(例えカメラが作動してなくても)そんなロボットの前で恋人といちゃいちゃするのは、なんか見られている気がしてイヤですよね。
ハブチン 絶対にイヤですね。いちゃいちゃしている途中で会話に入られたら、ロボットをクローゼットに移動させたくなります(笑)
そもそもロボットと会話できたとしても、自分がロボットと会話している世界が想像できないです。たとえば朝、起きて人型ロボットに向かって「おはよう!」と話しかけるかというとたぶんやらないだろうなと。
青 木 人がロボットと会話を楽しむのは幻想に近いんだと思います。そもそも人と会話を楽しむことだって、難しいじゃないですか。知らない女性と2人で会話を盛り上げるなんて相当難しいことですよ。
ハブチン 確かにそれはかなり難しいですね(笑)
青 木 誰とでも会話が盛り上がるロボットなんてムリなんです。だから私たちが開発した「BOCCO」は、人とロボットではなく、人と人のコミュニケーションにロボットを介在させたんです。
「BOCCO」を使えば、親は子どもが帰ってきたことがわかったり、子どもに音声を送ることができたりします。子どもも親に「BOCCO」からメッセージを送ることができます。
ハブチン なるほど。「BOCCO」はロボットというかスマートフォンみたいですね。
スマートフォンの代わりとしてロボットが人の暮らしに入る。
青 木 家でみんな一緒にいるのに、それぞれがそれぞれのスマートフォンを見て会話していないって寂しいじゃないですか。
ハブチン わかります。元々、スマートフォンは人と人を繋げる役割だったはずなのに意外と人と人の関係を分断してしまっているかもしれません。
青 木 だから家族の会話が生まれることを願って「BOCCO」をつくりました。
ハブチン すごく共感します。実際にどういう会話が生まれているんですか?
青 木 私の家の場合、「アンパンマンがテレビでやってるよ」とか他愛もないメッセージを子供が送ってきます。あと夏休み中の留守番の時間が長い時は「冷蔵庫にカレーがあるよ」などの伝言とか。わざわざ電話するまでもないような気軽なメッセージをスマホで聞くことができて、ほっこりしています。
ハブチン それはほっこりですね。他愛もない会話が続いている家族っていいですね。今後は「BOCCO」をどのように展開していきたいですか?
青 木 はい、「BOCCO」を人と人だけでなく、人とモノもつなぐ役割に挑戦していきたいです。今後、家のスマート化が進み、何でもスマートフォンでコントロールできる時代になるでしょう。しかし家電や住宅設備がメーカーごとに違うと、それごとに端末やアプリが増えてしまいます。
ハブチン スマートハウスなのに全然スマートではなさそうですね(笑)
青 木 ある調査によると人がよく使うアプリの数は約8個といわれています。アプリの数が増えてしまうと、結果的に使われなくなってしまう可能性があります。将来的には「BOCCO」ひとつでコントロールできるようにしていきたいです。
ハブチン なるほど。これから「BOCCO」がスマートフォンの代わりになっていきそうですね。
青 木 はい、今後も人と暮らせるロボットのあり方を追求していきたいと思っています。
■家族をつなぐコミュニケーションロボット
http://bocco.me/
スマートフォンやタブレットは僕らの生活を確かに便利にしたけれど、本当に豊かになったかどうかは今回のインタビューで考えされられた。BOCCOのように生活ありきのプロダクト創りを意識していきたい。
2015年11月11日(水)、不動産 IT 事業を展開するオルトリズムは、退店費用を節約したい店舗と、良い物件を早く見つけたい入居希望店舗を直接結ぶ業界初の未解約物件のBtoBプラットフォームサービス「店舗市場」( http://tenpoichiba.jp/ )をローンチした。
出店より退店にお金がかかる?不条理な日本のテナント事情
店舗・オフィスを退去する際、解約予告期間が長すぎることに困った経験があるというテナント入居者は多いのではないだろうか。実際のところ、退去者の多くは「いますぐ出たい」という状況であるにも関わらず、残りの3~6ヶ月分の賃料(解約ペナルティ金)を支払わざるを得ないのが現状だ。また、これとは別に原状回復費用もかかる。この費用も数百万に上りバカにならない。
一方、店舗を借りる側に回ると、立地と賃料のバランスが取れた優良物件がなかなか見つからないという問題がある。なぜならそういった優良物件の多くは、市場に出回る前に抑えられてしまっているからだ。不動産屋で紹介されるのは売れ残り物件が多く、なかなか満足のいく物件に巡り会えず大きな機会損失につながっている。
この双方の不満に着目したのが、株式会社オルトリズムの紙中良太社長だ。紙中社長はAirbnbのようなC2Cプラットフォームを提供することで、退去者と入居希望者とテナントオーナーの三者が全員ハッピーになれるのではないかと考えた。そこで開発したのが本日ローンチした「店舗市場」である。
登録は無料、退店側には20万円のキャッシュバックも
「店舗市場」のしくみはいたってシンプルだ。退店・入店したい企業は、まず店舗市場に会員登録する。登録は無料だが、不動産事業者が紛れ込むのを防ぐために、審査は企業の実在確認も含め厳重に行われる。万一、不動産事業者がここに紛れ込んでしまうと、退店情報が漏れて取引に差し障るケースが出てくるからだ。
会員企業は、一度登録してしまえば退店時にも出店時にもプラットフォームを利用できる。退店希望時には5分で終わる簡易登録システムで物件を登録し、出店希望時にはGoogle Map上で物件情報を感覚的に収集する。
めでたく契約が成立した場合、出店企業は賃料1ヶ月分(賃料が50万円に満たない場合は50万円)のシステム利用料を店舗市場に支払い、退店企業には、店舗市場から20万円をキャッシュバックするしくみだ。
退去企業からすると、退去費用が節約できるだけでなくキャッシュバックも受けられ、しかも登録無料となると登録しない理由がない。ここでこの事業のセンターピンとなる「物件数」を増やし、追って出店希望企業を増やしていくという戦略だ。すでに店舗市場の登録企業は大手飲食企業、大手物販企業をメインに132社あり、2016年2月末時点で260社を目指すという。
いまだ古い商習慣を脱却できない不動産業界。死角はないか?
ここ2~3年、不動産系スタートアップが活況である。非常に大きなお金が動く分野でありながら、なかなかIT化、合理化が進まなかったのは、目に見えぬ圧力によって不動産業界特有の商習慣が覆せなかったことと無関係ではないだろう。しかし、その強固な牙城も大手資本が入ってくることで徐々にではあるが崩れ始めてきた。
店舗市場が提供するサービスは「未解約物件の流通」という、従来のスタートアップがチャレンジしてきた「仲介手数料の無料化」よりさらにもう一段上のチャレンジングなサービスである。成功すれば間違いなく業界の構造を大きく変えるが、果たして死角はないのか。
今後に注目していきたい。