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Googleは、gmailなどのオフィスツールのパッケージ「Google Apps」と連携可能な各種ビジネスツールを販売するアプリ市場を開設したと発表した。
既に50社以上が各種ビジネスツールの提供に名乗りを上げており、まるでパズルのピースを合わせるように、オンライン上でいろいろな機能を組み合わせて自分好みの仕事のツールを作り上げることができるようになるという。
同様の試みは顧客関係管理(CRM)ツール大手のSalesforce.comが早くから手がけている。Google Apps MarketplaceがSalesfore.comと競合するようになるのか、それぞれが得意分野に特化し連携するようになるのだろうか。またビジネス向けソフトはマイクロソフトが長年にわたって圧倒的な強さを誇ってきた領域。Googleはこの領域に本格的に攻め込む考えで、両社の対立関係は一層明確になりそうだ。
Google Appsとは、電子メールのgmail、予定表のGoogle カレンダー、ワープロや表計算のGoogle ドキュメント、ウェブサイト構築のGoogle サイトなどを合わせたサービス。どれも単体で無料で利用できるツールばかりだが、Google Appsとして利用すると独自のドメイン名を使用できる。@gmail.comの代わりに、自分たちのドメイン名を使えるわけだ。
といってもドメイン名を使いたいだけの理由でGoogle Appsを利用する人や企業はそう多くない。Google Appsのユーザーの多くは、企業として有料版を利用している。有料版はストレージの容量やセキュリティ機能が強化されており、企業のコミュニケーションの根幹にかかわるツールだけに企業としてはコストがかかっても安心できるツールを使いたいのだろう。一般的にGoogle Appsといえば、有料版を意味することが多い。
このGoogle Appsにサードパーティのツールを連携させればどうなるのか。まずは、1つのID、パスワードでこれらのツールを利用できる。またデータの連携も可能なようで、VentureBeatの記事によると、AppirioというツールベンダーはSalesforce.comの見込み客に関する情報をメールの中に自動的に取り込めるようなツールを開発済みという。
今回、Appirio以外のベンダーのツールでMarketplaceで販売されるようになるものには以下のようなものがある。
Intuit Online Payroll:中小企業向けの給与、税務ツール。
Manymoon:プロジェクトマネジメントのツール
JIRA Studio:開発者向けツール
こうしたツールを連携させる方法については下のビデオの解説が分かりやすい。
プロジェクトマネジメントのツールをgmailの連絡先、カレンダー、ワープロと連携させたい場合は、Google Apps Marketplaceの検索窓で「プロジェクトマネジメント」と入力し、メール連絡先、カレンダー、Googleドックスのボックスをチェック。それで検索すると、これらのツールと連携可能なプロジェクトマネジメントのツールが表示される。それぞれのプロジェクトマネジメントのツールには、説明文、解説ビデオ、レーティング、レビューが掲載されていて、よさそうなツールを選択。自社のドメイン名を入力し、管理者権限でログインし、データ連携を可能にする。それだけで、メール、カレンダー、ワープロの中の1つの機能のようにプロジェクトマネジメントのツールを利用できるようになる。
このようにいろいろなツールをパズルのピースを合わせるがごとく組み合わせていくようになるというのが、これからのビジネス向けITの主流になると、拙著「次世代マーケティングプラットフォーム」で指摘した。Googleもその流れに乗り、プラットフォームビジネスに本格参入しようというわけだ。
さてこうしたオンライン上でいろいろな機能を提供することをクラウドコンピューティングなどという言葉で表現されることがある。雲のクラウド(cloud)だ。今までのように手元にあるコンピューターにソフトを搭載して使うのではなく、まるで雲の上のコンピューターを使うような感じでネットの向こう側にあるコンピューターにアクセスしてこれまでと同様のオフィス業務を行うという仕組みだ。
最初に書いたようにSalesforce.comも同様のクラウドコンピューティングのプラットフォームを持っているし、Amazon.comもクラウドコンピューティングのサービスを提供している。今回Googleは、クラウドコンピューティングのプラットフォームをさらに強固な枠組みにした。
さてIT業界の巨人が出揃った。今後は、どこかが覇権を握るまで熾烈な戦いが始まるのだろうか。それとも共存共栄を模索するのだろうか。
すこし前にUSの業界関係者に取材したことがある。ちょっと長くなるが、そのときの記事から一部引用してみよう。
英CODA社は14カ国で会計ソフトを販売するソフトメーカーだ。2年前にパッケージソフトの販売からSaaS(Software as a Service)事業に180度転換することを決めた。会計ソフトをパッケージに入った製品として販売するのではなく、月々の料金を払ってインターネット上で利用するサービスとして提供することにしたわけだ。
その際に、自社でデータセンターを持ち、必要なソフトも自社で開発すべきか、それともsalesforce.comのプラットホームを利用すべきかを検討したという。
「結局、salesforce.comを利用することにしました。だって既にあるプラットホームを利用することで開発期間が2年間短縮されますからね」と CODA社のJeremy Roche最高経営責任者(CEO)は言う。会計ソフトの中核部分以外のプログラム、つまり開発ツールから、データベース、モバイル向けシステム、セキュリティツールなどはすべて、salesforce.comのものを利用。そのおかげで実際にスピーディーなサービスインを実現できたという。
クラウドコンピューティングがIT業界の旬なキーワードになっているが、salesforece.comが提供する企業内システムのプラットホームは、まさにそのクラウドコンピューティングの1種である。梅田望夫氏が「ネットの向こう側」と表現した概念を、シリコンバレーのテッキーな人たちは「雲(クラウド)の中」と表現しているわけだ。ソフトウエアやデータを手元のコンピューターに置くのではなく、雲の中のようなネットの向こう側に置くという考え方だ。
クラウドコンピューティングを提供するのはsalesforce.comだけではない。amazon.comもgoogleもクラウドコンピューティングのサービスを提供している。
3社のサービスはどう違うのか。どこがこの新しいコンピューティングの潮流の中で、覇権を握るのだろうか。この問いに対し、Roche氏は次のように答えてくれた。
「Amazon は純粋なクラウドコンピューティングなんです。ただ単にCPUの処理能力だけをレンタルしているような感じ。 salesforce.comのクラウドコンピューティングは、同社が持つセキュリティ機能であったり、トランスアクション機能であったりをそのまま利用できるところが大きな魅力。よりエンタープライズシステム向け、ということです。googleは両社の中間、というイメージでしょうか」とRoche氏は言う。
CODA社は会計ソフトの会社であることから、エンタープライズ向け各種機能を持つsalesforce.comのクラウドコンピューティングが最も利用価値が高いわけだが、CODA社は実はgoogleのクラウドコンピューティングも利用している。「表計算はgoogle spreadsheetsを使って、それとsalesforec.comのプラットホーム上にある会計プログラムに連携させているわけです。こうしたクラウド間の連携プレーは今後より盛んになると思いますね」と同氏は指摘する。
どこかが覇権を握るという形ではなく、プラットフォーム間でも連携が進むのではないだろうか。この辺りの動向も今のところは次世代マーケティングプラットフォームの中で予測した方向に進んでいるように思う。