iPhone新OS発表の陰に見えるAppleの真の狙い【湯川】

tsuruaki

14年前

今回のiPhone OS 4.0の発表ではマルチタスキング機能の追加など、ユーザー向けの発表に注目が集まった。Appleもユーザー向けにフォーカスした発表をしていたわけだが、実は発表の陰にAppleの重大な意図が隠されている。パソコン上ではGoogleに覇権を握られたが、ユーザーのネット利用はモバイル機器に移行しようとしている。新しく幕が開くモバイルコンピューティングの時代に、AppleはGoogleから覇権を奪取しようとしているのだ。その最初の一歩が、今回発表されたモバイル広告プラットフォームのiAdと、ソーシャルゲームの「ゲームセンター」機能だ。あまり注目されないこの２つの発表こそが、IT業界にとっても最も重要な発表だといえる。

　PCというプラットフォーム上では、検索という領域の覇権を握ったGoogleが圧倒的な強さを誇った。何かを購入したいという消費者は、ネット上のクチコミなどの情報を調べるため、まず商品を検索する。その際にGoogleが関連する広告を表示する。購入の意図を持っている人に関連する広告を表示するのだから、効果が高い。この仕組みを完成させたことで、Googleは世界一のネット企業、世界一の広告会社になったわけだ。

　ところがモバイル機器上では、検索が最も人気のある行為ではない。三橋さんの記事「Tech Wave : iPhone OS 4.0の新機能を一覧で。モバイル広告の”iAd”の詳細も明らかに【三橋ゆか里】」によると、今回の発表でAppleのスティーブ・ジョブズ氏は次のように語っている。

“iAd”は、開発者がフリーのアプリをフリーのままにするための収入モデル。ユーザは検索ではなくアプリで時間を過ごしている。ユーザのアプリ利用時間の平均は1日約30分。広告を3分に1回だせば、1日10広告。1千万台のiPhoneがあれば、1日10億インプレッションになる。これからはアプリ内広告がくる。iAdはアップルが広告の販売およびホスティングを行い、開発者のマージンは60%。

　モバイル機器上では、デスクトップのように検索がすべてではない。ユーザーはモバイル機器上ではすべての時間をアプリ上で過ごしている。ネット上のデータも、一般的な検索ではなくアプリを通じて入手するようになっている。モバイル機器上では、検索エンジンがもはや情報の「関所」ではない。Googleの神通力も通じない。ジョブズ氏はそう考えているのではないだろうか。

　もちろんGoogleもこの時代の変化には十分に気づいている。気づいているからこそ、モバイル広告のadmobを買収しようとしている。ところが独禁法の関係でこの買収に米政府が「待った」を掛けた状態。最終的に米政府に承認されるとしても政府がGoogleの前進を阻んでいる間に、AppleがiPhoneという最強のプラットフォームを通じて広告会社として一気に躍進する可能性がある。

　もう１つの発表である「ゲームセンター」は、Facebook対抗策だ。わたしは、Facebookのようなソーシャルメディアを「公民館」に例えることができると思っている。これまでのインターネットは「巨大な図書館」だった。なので司書の役割をするGoogleが覇権を握った。しかしソーシャルメディアの普及でネットは今、「巨大な公民館」になろうとしている。

　町や村が公民館を建てても、それだけでは住民は集まらない。そこで公民館に将棋や碁を備えることで住民に集まってもらうとする。将棋や碁を通じて住民間の親睦を図るわけだ。ソーシャルメディア上でソーシャルゲームに人気が集まるのは、ソーシャルゲームが公民館の将棋の役割を果たしているからだろう。ソーシャルゲームはソーシャルメディア上で成長するが、ソーシャルメディア自体もソーシャルゲームのおかげで成長する。ソーシャルメディアにとってソーシャルゲームは不可欠な存在になっている。Facebookの強さを支えているのは、ソーシャルゲームだったりする。

　ソーシャルゲームは巨大な市場になろうとしている。その市場でも中心的なプレーヤーになる。それがAppleの狙いである。

　Appleが、モバイル広告とソーシャルゲームという最も成長が期待されている領域に本格的に参入した。これがIT業界、広告業界にとって、今回の発表の最も重要なポイントである。

　【お知らせ】４月９日、１０日に北京で開催中の2010 China Social Game Summitを取材しています。帰国後に記事を書きたいと思いますので、お楽しみに。