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前回、前々回の記事に引き続きダニエル・ピンク氏が10年以上前に書いたフリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるかをベースに、これからの日本社会の方向性を探りたい。今回の記事では、会社という組織について考えてみたい。
フリーエージェント社会が到来すれば、企業はどうなっていくのだろうか。
ダニエル・ピンク氏は、規模の経済のメリットを受けることのできる大企業はますます拡大し、それ以外の企業はダウンサイジングを続け、フリーエージェントや零細企業が急増する、と予測している。「新しい経済には、多くの象と無数のネズミだけになり、中間の動物の数はどんどん少なくなる」というような表現を使っている。
どのようなメカニズムで、大企業とフリーエージェントの2極化が進むのだろうか。ダニエル・ピンクは、企業内のトランスアクションコストと、外部とのトランスアクションコストを比較し、企業内トランスアクションコストが低ければ企業は従業員をより多く雇用し、外部とのトランスアクションコストが低ければ従業員を減らしてアウトソーシングするようになる、と説明している。
この法則性は以前から事実だったのだが、インターネット関連技術の急速な進歩で企業の形態も急速に変化せざるを得なくなっているのだという。
社内のやりとりがイントラネットや社内SNSなどの仕組みの進歩で低コスト化が進む。規模の経済のメリットを受けることができるような大きな企業には社内ネットワークを駆使してより低コストで多くの人をマネージできるようになるので組織としてより大きくなろうという力が働く。社内ネットワークで規模の経済のメリットを受けることのできない中規模の企業は、外部のフリーエージェントととのやりとりがインターネット関連技術の進歩でますます低コストになる。なので、組織的には小さくなろうという力が働く。そういう理屈だ。
「フリーエージェント社会の到来」によると、1994年から1999年にかけて米国の大手50社のうち6社が合併で姿を消した。またこの期間中にこの大手50社が手がけた吸収合併は4000件以上にもなるという。
さてこの2極化のメカニズムは、日本社会にも当てはまるのだろうか。
正直私には分からない。当てはまるかどうか分からないほど、日本経済は今後縮小していくと思うからだ。
現代ビジネスの人口8000万人、うち3000万人が老人の国になるニッポン 客がいない! 商売が成り立たない!という記事によると、日本の人口は2010年の1億2806万人をピークに急激に減少し、2060年には8647万人にまで落ち込む。1年ごとに新潟市レベルの巨大都市が消えていく人口激減時代に入ったわけだ。大きな戦争も疫病もない状態での人口減少としては人類初の経験だそうだ。単純に市場は4分の3に縮むわけで、GDPが4割も縮小する見通しだ。鉄道、コンビニ、デパート、食品、銀行、マスコミ、学校、病院、不動産業などが「存続の危機」に陥るのだという。
それに加えて価値観が大きく変わり始めた。「評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている」の著者、岡田斗司夫氏によると、経済拡大主義、科学万能主義の考え方が過去のものとなり、人々の物欲が低下し貨幣に頼らない世の中になっていくのだという。
ただでさえ、人口激減で経済が縮小するというのに、「派手な消費はイケてない」という価値観の普及というダブルパンチで、経済はますます縮小する。
そこにダニエル・ピンク氏が指摘するようなメカニズムが作用すれば、さらに企業の縮小が加速するのかもしれない。
しかし経済縮小が大きな潮流として間違いないものだとしても、果たして大企業以外の企業は消滅するのだろうか。日本人のほとんどがフリーエージェントとして独立するようになるのだろうか。
ダニエル・ピンク氏の予測は外れた?
ダニエル・ピンク氏の考えるようなメカニズムが長期傾向だとしても、中短期的には会社という形態は残るような気がする。なぜなら1つには、インターネット関連のコミュニケーション技術は今後も進化し続けるだろうが、現状においてはオフラインとオンラインのコミュニケーションの間には歴然とした差があるからだ。
手短に伝えたい情報がある場合ならメールなどのオンラインコミュニケーションでも十分かもしれない。だが、ブレインストーミングなどの自由な発想を交換し合うような会議や、相手の本音を探りたい場合は、オンラインよりもオフラインのほうがうまくいく。相手が発信する言葉やテキストよりも、細かな仕草や表情のほうが重要な意味を持つことがあるからだ。
なので、インターネットが普及すれば田舎に住みながら都会とネットを通じて仕事ができるようになると言われたものも、実際に実践している人はほんの少数。直接顔を合わせて一緒に仕事ができる環境を求めてシリコンバレーのような場所に世界中から人が集まるというのが現状だ。
やはり物理的に同じ部屋の中で会話するというリアルコミュニケーションを、ネットを通じたコミュニケーションはなかなか超えられない。なので会社のように人が集まる組織の価値はまだしばらくは続くのではないかと思う。
また世の中には、会社を辞めてフリーになるというリスクを取るのが好きではない人もいる。いやほとんどの人は安定を望むのではないだろうか。また好きな仕事に熱中できることはすばらしいが、仕事はベーシックインカムを得るための手段で、残りの時間に趣味に生きるという生き方があってもいいと思う。だれもがフリーエージェントとして荒波に一人で船を出さなければならない、ということでもない。
ダニエル・ピンク氏が「社会は大企業とフリーエージェントが中心になる」と予言してから、10年。米国でもまだ中規模の会社は数多く残っている。会社というものの存在はまだまだ求められている、と言ってもいいんじゃないだろうか。
最近では米国でもこのダニエル・ピンクの予言に対して反論が述べられるようになってきた。2009年に出版されたThe Future Arrived Yesterday: The Rise of the Protean Corporation and What It Means for Youという本の中で著者のMichael Malone氏は次のように述べている。
多くの人の人にとって在宅勤務でフリーエージェントとしてジプシーのように1つの仕事から次の仕事へと転々とする生き方が理想である、とつい最近まで考えられていた。しかし次第に明らかになってきたのは、こうした生き方はごく少数の人しか求めていない、ということだ。世の中には、いろいろな生き方がある。一生パートとして働きたい人もいるし、普通に企業に勤めたい人もいる。1つの会社で勤めあげたい人もいるんだ。よって生産性を高め、知的資本を最大化し、従業員の士気を高めたいのであれば、企業はやみくもにアウトソーシングに走るべきではない。それは悪い結果を生むだけだ。
ではどのような企業の形態を取るべきか。この本の中では、新しい企業の形態をギリシア神話の変幻自在な海神プロテウスから取ってProtean Corporation(プロティーン・コーポレション)と呼んでいる。その形状を自由自在に変化させることができる、という意味だ。
変幻自在といっても基本的な組織形状は存在する。それは企業哲学を貫く少人数のコアのチーム「Core」と、その哲学に沿って日々の業務を遂行するリーダーの集団「Inner Ring」、さらにそのInner Ringの指示で動く「Cloud」の3層からなるという。この3層の形状は維持されるものの、それぞれの層にはパートタイマー、正社員、派遣社員、フリーランサー、フリーエージェントなど、いろいろな人たちが、そのときどきで加わっては離れていく・・・。そんな企業の形が今後主流になっていく、という主張だ。
日本でも従来型大企業の多くはこれまで通りの組織形態を維持しているが、IT系企業の幾つかは、こうした変幻自在企業の形態を既に取り始めているように思う。
前回の記事で、フリーエージェントには雇用形態面の定義と、精神面での定義の2つがあるのではないかと述べた。会社に勤めているかどうかという定義と、気持ちの上で会社に縛られていないかどうかという定義だ。ダニエル・ピンク氏は、統計結果を集計するために、データを集めやすい雇用形態面の定義を採用した。しかしその定義に基づくフリーエージェントの時代は到来しなかった。これまでのところ予測は外れた、と言える。
一方で精神面のフリーエージェントは増えている。会社に従属しない生き方は今後も増え続け、社会を大きく変化させていくのだと思う。今後日本経済が急速に縮小し、企業が精神的なセーフティーネットになりえなくなったとき、ますます多くの人が精神的なフリーエージェントになっていくことだろう。
そして彼らは会社の形態を変えていくのだと思う。会社に依存するだけの社員だけでは会社は回らない。会社に必要なのは「いつでも辞める覚悟はあるが、この会社で働くことで自分と会社の可能性を最大化したい」と考えるような精神的フリーエージェントだと思う。会社にも、精神的フリーエージェントを雇用できるだけの器の大きさが必要とされる。そうでない企業は、人口激減時代に生き残ることはできないだろう。
お知らせ
ダニエル・ピンク氏が10年前に書いた「フリーエージェント社会の到来」を読み直すことで、日本の今後に思いを馳せるというシリーズです。過去記事は以下の通り。
ノマドになりたい人が増えた今だからこそ「フリーエージェント社会の到来」を読み返してみる【湯川】
ノマドにとっての会社に代わる組織とは 「フリーエージェント社会の到来」【湯川】
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