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Collision 2018イベントレポート
あのWeb Summitの北米版、2万5千人を集めるテクノロジーイベント「Collision」が2018年4月30日から5月3日にかけて米・ニューオリンズで開催されました。
スタートアップや企業のイノベーションをリードするエクゼクティブが集結するこのイベントですが、日本からの参加は極めて少ない状態(昨年は1名、今年は6名。)TechWaveでは昨年に引き続き特派員を派遣し、ここでしか読めない特別レポートをお届けします! (Collision 2018レポート一覧)
ウォルマートとRedditに学ぶ。今CTOに求められる“デザイン力”
CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)というとIT周りを見ている人、というイメージが強いのではないでしょうか。ウェブデザイン、ユーザーエクスペリエンスにテクノロジーは不可欠ですが、ただ単に機能を装備すればよいというものではなくなっています。CTOに求められるスキルは多様化するなかで、どのようなアプローチが必要かウォルマートと世界最大級のコミュニティ情報サイトRedditのCTOが語りました。
リア・ハンター(以下、リア):数年前、”Rise of the DEO: Leadership by Design”という本が流行ってデザイン力への注目が集まっているけれど、CTOとしてどうやってその任務を果たそうとしているの?
クリス・スロウ(以下、クリス):自分達だけで解決しようとしないことかな。僕たちはRedditという素晴らしいコミュニティがある。僕は、何か新しいものを開発したらそのコミュニティでフィードバッグをもらい、それを開発に活かしている。
ジェレミー・キング(以下、ジェレミー):ひとつのグループで解決しないことだね。例えばウェブサイトやアプリは、実に多くのチームが関わっている。プロダクト開発チームややマーケティングチームなど。最初の段階からチームで動いていることが大事。
リア: redditではユーザーエクスやペリエンス担当者を最近始めて雇ったと聞いたけど、どう?
クリス:僕たちはまだまだ企業規模としては小さい会社だから、あまり細部だけを担当するというようなことはあまりしない。だけどUXデザイナーにインタビューしてみたらどうだろう?という話になって。話してみて必要ないと思ったら雇わないつもりだったんだ。だけど話しているうちに、僕たちには見えていないことを学んで。
“顧客に意見を聞く”ことが良いデザインへの近道
リア:これまでのユーザーリサーチの中で学んだことって何?
ジェレミー:多くの企業が意外とやっていないことは、開発段階で顧客と向き合わないということ。僕たちは実際にストアにいって顧客に反応を聞いて、プロダクトをテストしている。それをデザインチームと持ち帰って開発に活かす。強いデザインマネージャーがいると躊躇しそうになるけれどそこに負けずにカスタマーファーストでいることがとても大切。
クリス:僕も同意。ユーザーに聞くこと。まずβ版をリリースして、何人かのユーザーで試す。そうするとフィードバックがもらえるからそれをもとに開発に修正を加えている。ユーザーが本当に何を欲しがっているかは実際やってみないとわからないことが多い。ユーザーに主導権を握らせることで見えることもある。
クリス:もう一つ学んだことは、最大の難関は自分達が数年前に開発したプロダクトだったりするということ。常に過去の自分達のプロダクトとの闘いが繰り広げられている。これが一番難しい。例えば、新しいUIについてロイヤルユーザーと新規ユーザーに意見を聞いたところ、新規ユーザーは気に入っていても、ロイヤルユーザーからは『なんでこんなにホワイトスペースが多いんだ!』とクレームが入ったなんてことも。
ジェレミー:僕たちは、実に80,000もの商品を取り扱っている。パーソナライゼーション、ローカリゼーション、インスピレーション。。。これらを実現して顧客のニーズに100%正確に応えることはとても難しい。最新のマシーンラーニングをバックエンドで走らせても上手くいかないこともある。生身の人間の知見も必要。例えばマーケチームのアイディアが上手くいった例。ウェブサイトの写真を商品単体のものでなく、生活や使用感を連想させるものにしたところ商品が多く売れたなど。
リア:色んな取り組みをしているけれど、デザインや機能を変更したときってどうやってKPIを定めているの?
ジェレミー: ウォルマートでは、カートに商品が入るまでの80~100秒のアクティビティを計測しているんだ。ストアでの購入とオンラインの購入数を比べたり、スピードを比べたり。人々の生活をより便利にするという観点から考えると、カートまでの動作はなるべく少なく、でも商品は多くということを実現できなければいけないから。
クリス:僕らの目標はどれだけ時間つぶしできるかがKPIかな(笑)ユーザーにはコミュニティで発言したりするアクティブなユーザーもいれば、ただ1つか2つのトップニュースを見てそれで終わりの人もいる。それぞれのユーザーのニーズに合わせたKPI設定が必要。
マシーンラーニングにも限界がある。人の感覚も大事
リア:最後にユーザーエクスペリエンスについて。トイレットペーパーを買ったユーザーがそれ以降ずっと違うブランドのトイレットペーパーのレコメンドがあってうんざりするとか、そういう話があるけれど、パーソナライゼーションとローカリゼーションについてどう考えている?
ジェレミー:パーソナライゼーションはトリッキーなんだよね。例えば、靴を買った後に靴のレコメンドを出さないなど、そういう細かいところは意外と難しい。日々の購入履歴から何がその人にあうか、という点に焦点を当てるようにしている。
クリス:マシーンラーニングで完全にインサイトはつかめない。所々人の力を借りて、ストーリーマップを作るようにしている。
ジェレミー:そうなんだよね。ウェブサイトの行動だけ見ていても、クリック数や滞在時間が多いから靴下を買いたいのか、それともソファを買いに来ているのかという本質はなかなかつかみにくい。顧客が何を求めているのかつかむのは至難の業。そいういう意味では、ローカリゼーションが大きなヒントになる。天気やスポーツの試合情報などその地域の外的要因と合わせて人々の行動を予測するようなカスタマイズも必要。
【関連URL】
・[公式] Collision Conf
・[記事] Collisionの歩き方 ー ニューオーリンズ発テックイベント特別レポート番外編
・[記事] TechWaveが世界最大級のテクノロジーカンファレンス 『ウェブサミット』の日本公式パートナーとして始動
蛇足: 特派員より
テクノロジーがコモディティ化するに伴い、人間力が求められているように感じます。世界トップのCTOが『マシーンラーニングでは完全にインサイトはわからない』と言い切っているのが印象的でした。(テクノロジーが今までわからなかったことを可視化するのに有意なことは確かですが。)このような流れは日本にもそのうちやってくるのでしょうね。