「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚著)が持つ出版業界の古い常識を打ち砕くパワー【湯川】

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 ときどき物凄いパワーを持った本に出会うときがある。最近では「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」もそんな本だった。この本が出てからネット業界の人と話をすると、まるでこの本を読んでいることが前提のような話し方に変わっていて驚いたことがある。だれもが「どこまでを無料としどこから収益を得るのか」という明確な戦略を持ってオンライン事業に臨むようになった気がする(一方で、新聞業界は恐らくこの本を読んだことのない人が力を持っているから、今だに有料化に向けて迷走しているのだろう)。この本が出てからというもの、ネット戦略に関する議論がスムーズに進むようになった。「この部分をフリーとし、ここからはフリーミアムにするんです」といった話し方で、こちらの意図が簡単に伝わるようになった。業界の共通認識を一歩前進させるパワーを持つ本だった。

 佐々木俊尚氏著の「電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)」も、そうしたパワーを持つ本の1つになるのだと思う。


 これまで多くの出版関係者と話してきたが、わたしが所属していた新聞業界同様に、古い固定観念から抜け出せない人が散見された。こうした人たちとの議論にはかなりの労力が必要で、往々にして議論は堂々巡りになることが多い。

 しかし佐々木氏のこの本が広く読まれるようになれば、これが業界の新しい共通認識として議論が一気に前に進むようになるのだと思う。この本は、出版業界の今後をぼんやりと見通せている人の考え方を整理し、古い発想から抜け出せない人の固定観念をこっぱ微塵に打ち砕く力を持っていると思う

 この本の内容に関しては、佐々木氏のセミナーに行った「たつを」さんのブログの記事「「電子書籍の衝撃」出版記念講演会に行ってきました」に詳しいので、そちらをご覧いただきたい。

 さてこの電子書籍の問題でわたしが強調したいのは、電子書籍は出版業界を再生させない、ということだ。(関連記事:電子書籍、電子新聞による業界再生は絶対にありえない

 佐々木氏と某シンポジウムのパネルでご一緒する機会があったので、佐々木氏に「電子書籍で業界再生しますか?」と振ってみると、一蹴されたww。「するわけないじゃないですか!」って。企業や業界の再生はまた別問題。経営や組織論の問題だ。

 で、なぜそれを強調したいかというと、業界再生の道具として電子書籍事業に乗り出すと中途半端な取り組みしかできず、結局は電子書籍元年が先送りになってしまうからだ。(関連記事:「日本が2年以内に電子書籍元年を迎えることはない【湯川】」)これまでの出版のあり方より電子書籍のほうが文化の多様性が促進されるということは、佐々木氏の本を読めば明白。文化の多様性のためにも、電子出版事業に本腰を入れていただきたい。だってこれまで出版、新聞業界は、文化の多様性維持を理由に再販制度に頑なに固執してきたのだから。

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