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「電子書籍元年はいつになるのか」という質問を受けることが多くなってきた。質問した人は何をもって「電子書籍元年」と考えるのだろう。その定義次第じゃないだろうか。
もし「本や雑誌になるようなコンテンツがデジタルで出回り始めたとき」という定義なら、われわれは既に電子書籍時代にとうの昔に突入している。ケータイ向け小説や、マンガなどの電子書籍の市場は既に非常に大きなものになっているからだ。
それでも「電子書籍元年はいつになるのか」という質問をしてくる人が多いということは、多くの人にとって「ケータイマンガなどのコンテンツが出回り始めたとき」が「元年」の定義ではないということだ。
ではどういう定義なんだろうか。2つの定義が考えられる。
1つは、文芸書やビジネス本など、いわゆる文章中心の書籍タイプのコンテンツが出始めたとき、もしくは出揃ったとき。この定義で考えると、「電子書籍元年」はもうそこまできているのかもしれない。
これまでは、電子書籍を読むのに適したハード機器が普及していないので、電子書籍コンテンツが増えなかった。また十分な電子書籍コンテンツの十分な品揃えができていないので、余計にハード機器が普及しなかった。今までは、そんな鶏と卵の関係が続いたので、ハードもコンテンツも普及しなかったのだ。
そんな中、ハードとコンテンツを地道に普及させていったのが米Amazon.comである。そして大ブレークの直前まで市場が成長してきたので、Appleがタブレット型パソコンiPadを投入して今度こそ電子書籍時代へと一気に時計の針を進めようとしているのだ。他のハードメーカーはこの時代の波に乗り遅れてはならないと、年内から年明けにかけてタブレット型パソコンを次々と投入してくるだろう。
ハード機器の普及の波は、まだ電子書籍コンテンツが出揃っていない日本にまで押し寄せる。電子書籍コンテンツが出揃ってなくても、YouTubeを見るため、音楽を聞くため、写真を見るため、ウェブを手軽に見るための機器として、iPadを始めとするタブレット機器が普及する可能性は十分にあるからだ。
ハードが普及すれば、電子書籍コンテンツも増えてくるだろう。横並び意識の強い日本企業のことだから、大手出版社が電子書籍コンテンツを大量に用意してくれば、他社も右にならって電子書籍コンテンツを大量に投入してくるかもしれない。
「その時点が電子書籍元年である」ー。そう考える人は多い。しかしそこが本当に電子書籍元年になるのだろうか。
出版業界よりも先にデジタル情報革命の洗礼を受けた音楽業界の例を見てみよう。
音楽ネット配信時代はいつ始まったのだろう。
ネット配信向けに楽曲の幅広い品ぞろえを実現させたのはAppleのiTunesが最初ではない。Universal Music GroupとSonyが組んでDuetというサービスを、EMIとAOL/Time Warner、BMGが組んでMusicNetというサービスをiTunesスタート以前に既に手がけていたのだ。(参考:米wikipedia)だがレコード会社の既存ビジネスを破壊しないような形の値段設定と使い勝手が消費者にあまり受け入れられず、結局あまり普及しなかった。
現在からこうした過去を見渡して、多くの人はiTunesのサービス開始時から本格的な音楽ネット配信時代が始まったと考えるようになっている。DuetやMusicNetがサービスを開始した時点は、音楽ネット配信元年ではなかった。音楽CDを買っていたことを忘れるぐらいにネット音楽配信中心のライフスタイルというものをDuetやMusicNetは実現できなかったわけだ。
時代の変わり目は、音楽CDからネット配信に軸足が移るきっかけとなったiTunesというサービスが出たときだったのだ。それがネット音楽配信元年なわけだ。
同様に、「紙の書籍からデジタル書籍に消費者の軸足が移ろうとするとき」が電子書籍元年、という定義も可能だ。
これが考えられる2つ目の電子書籍元年の定義である。
「業界が自ら電子書籍コンテンツを大量に投入したとき」と「紙の書籍からデジタル書籍に消費者の軸足が移ろうとするとき」の2つの定義。
音楽業界の例を見る限り、未来のわれわれは、後者を電子書籍元年と呼ぶのではないだろうか。定義など人それぞれなので、だれかが今年を電子書籍元年と宣言しても一向に構わないし反論するつもりもないが、少なくとも未来には後者の定義が一般的になるのだと思う。
そうであるならば、紙の書籍事業に悪影響を与えないように電子書籍の価格を設定し使い勝手を限定している間は、多くの人の読書体験が電子書籍中心に移行するわけはない。電子書籍中心のライフスタイルに移行してもらっては実は困るのだから、業界は本気で電子書籍に力を入れないだろう。価格競争することも、使い勝手を改良することも本気で取り組まないだろう。
中途半端な取り組みでは人々のライフスタイルは変わらない。このことは、音楽業界でのレコード会社の前例を見ても明らかだ。
いつになれば、紙を犠牲にしてでも読者が納得するような値段設定と使い勝手を提供する電子書籍が広く出回るようになるのだろうか。
それはまだ分からない。分からないが今年や来年というような近未来ではないと思う。
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